SDGsの達成に向けて、サステナビリティー広告に求められることは?
2021/03/17
2030年の目標達成に向けて、SDGsへの関心が高まる昨今。自社の取り組みや考え方を社外に発信する広告の役割も重視されつつあります。
この記事では、昨年の広告電通賞から創設された「SDGs特別賞」の選考委員長・金田晃一氏が、企業がSDGsへの取り組みや社会との向き合い方を広告する意義や現状、賞の選考ポイントなどを語ります。
SDGs時代の広告の役割は、人々に参加を促すこと
企業がSDGsに取り組む際には、主に三つのアプローチが重要だと考えています。
①自社の「製品・サービス」を通じて、SDGsで提示されている社会課題を解決すること。
②研究、開発、輸送、調達、製造、マーケティング、販売、廃棄など全ての事業活動において環境破壊をしないように、そして、地域住民、自社やサプライヤーの社員、消費者への人権侵害や法令違反など、自らが社会課題を生み出さない、あるいは深刻化させないように「事業プロセス」を見直し、改善すること。
③企業市民として、社会課題解決に向けて活動するNGO/NPO、社会起業家、地域の人々を、寄付、寄贈、社員ボランティア、経費負担などによる「社会貢献活動」で応援すること。
SDGsの採択を機に、これら「製品・サービス」「事業プロセス」「社会貢献活動」に加え、自社の考え方や社会との向き合い方である「ミッション(企業理念)/パーパス(存在目的)」を対象とした広告が増えました。また、必ずしも自社の行為や考え方に限らず、「SDGs自体」や、「SDGsのキー・メッセージ」を訴求対象とした広告も見られるようになりました。
私はそういった広告を「サステナビリティー広告」と呼んでいます。今回、選考委員長を務めたSDGs特別賞の新設は、「サステナビリティー広告」を日本社会、特に日本企業に広く知らしめる意義深いアクションだと感じています。
受賞作は、当事者が社会課題を世間に伝える広告だった
SDGs特別賞は、アートディレクター、会計士、NGO/NPO代表、社会起業家など、異なる専門性を持った総勢10人が選考委員を担当。「アイデア」「SDGsへの思い」「誠実さ」という選考基準を踏まえつつ、各自の視点で作品を評価しました(SDGs特別賞の詳細はこちら)。
その結果、東海テレビ放送のテレビ広告「見えない障害と生きる。」が受賞しました。社会的にあまり認知されておらず、見えづらい発達障害をテーマに、当事者が置かれている状況を世間に知らせるため、ドキュメンタリー方式で制作された広告です。
第73回広告電通賞 SDGs特別賞
東海テレビ放送「見えない障害と生きる。」
https://www.youtube.com/watch?v=hFppNU0ONQo
この作品は、複数の選考委員から高い評価を受けました。まずは「アイデア」面。当事者にしか分からない課題を当事者が語るというアプローチ。とてもチャレンジングであったと思いますが、選考委員の心にストレートなインパクトを与えました。
発達障害という難しいテーマを取り上げながら、複数の当事者それぞれが日常生活で感じる異なるタイプの課題を語ることで「多様性」が、また、問題解決の糸口は「連携」という形で表現されていました。「多様性」と「連携」はSDGsにおいて重要なテーマであり、「SDGsへの思い」が感じられました。
さらに、東海テレビ放送は、ここ数年、異なる社会課題を継続的に取り上げ、広告を制作しています。社会課題に向き合う「誠実さ」が評価されました。
「サステナビリティー広告」の輪郭
東海テレビ放送の広告を含め、最終選考に残った広告には「災害対応」「人種の多様性」「人と自然の共生」「差別といじめ」「テクノロジーの活用」など、さまざまな社会課題が提示されていました。それらの作品への各選考委員からの評価ポイントをいくつか紹介します。
また、一部の層に疎外感を与えてしまいかねない広告を、逆の意味で注視したという意見もありました。SDGsは、「誰一人取り残さない」ことが前提です。通常の広告はある一定のターゲット層に届けばよいという面がありますが、「サステナビリティー広告」においては、その意向が出過ぎてしまうとSDGsの趣旨から外れてしまいます。
同様に、社会課題の描き方がきれい過ぎる場合も、違和感を与えかねません。この場合の“きれいさ”とは、登場する人物や環境のビジュアル的な美しさと、ストーリーの予定調和という二重の意味があります。現実の社会課題には、ある種の“ざらつき感”が伴うもの。そこが表現できていないと、空々しさを与えかねません。もちろん、広告の手法として、意図的に、その違和感を狙いにいくことはあるでしょうが、このあたりは「サステナビリティー広告」の論点の一つかもしれません。
人々を一旦謙虚にさせる広告
私が個人的に注目したのは、「広告に触れた人々を一旦謙虚にさせる力があるか」という点です。日常の中で人はそれぞれ自分自身の価値観を大切にしながら生活していますが、その思いが強く出過ぎると、自分の考え方以外は間違っていて受け入れ難い、と思い込んでしまうことがあります。
そんなときに良質な「サステナビリティー広告」に触れ、異なる視点や解決方法、すなわち多様性に気づけば、「もう少し広く豊かに考えてみよう」、あるいは「これまでとは違う社会課題の解決に向けたアプローチを試してみよう」と思うでしょう。
いくら企業、政府、NGO/NPO、そしてそこに属する個人が力を持っていても、その力が干渉し合ってしまうと、持続可能な社会づくりにはつながりません。しかし、「サステナビリティー広告」によって、これまでの自分にとって思考の外にあったものへの理解が深まると、考え方や行動に変化が起きるのではないでしょうか。他者の考えに“乗っかる”のも良し、他者と補完的に組むのも良し、といった柔軟さを身につけることができれば、それはSDGsの達成に向けた大きな力となります。おのおのが一旦謙虚になることが、その後の共感や連携の足場をつくるのです。
SDGsは、共感や連携なくして達成できません。異なるセクター、そして私たち一人一人が一緒になって課題解決に動く「コレクティブ・アクション」が重要です。社会課題の本質を知る、課題同士の関係性を学ぶ、その上で、一旦謙虚になって行動する……。それぞれの局面に大きな影響を与える「サステナビリティー広告」が持つ可能性に期待しています。
社会価値に照準を合わせ、自社らしさをどう見せるかが制作のコツ
「サステナビリティー広告」も広告である以上、広告主の企業の強みを活かした内容であること、広告主にメリットをもたらす内容になっていることは外せないポイントです。必要なのは社会価値と企業価値の創造です。
例えば、自社の製品・サービスが持続可能な社会に貢献するものであれば、それを商品広告として取り上げることで、売り上げにつながる可能性が高まるため、社会価値と企業価値の創造につながります。また、SDGsの認知を高める啓発広告を打つアプローチは、レピュテーション向上を目指したコーポレート・ブランディングにつながるでしょう。
これによって優秀な人材をリクルーティングできたり、広告を見た自社社員のモチベーションが高まったり、新たなパートナーが見つかったりするなどの効果も期待できます。
ただし、広告で取り扱う社会課題と広告主である企業との関連性は大切で、この関連が薄い場合、人々に、取ってつけたような違和感を与えてしまうこともあります。
今年もSDGs特別賞の募集を行いますが、社会課題を通じて、自社の優位性や“らしさ”をどう見せるかは、これから「サステナビリティー広告」を企画する企業にとって重要な着目点となるのではないでしょうか。
これまで企業は、まず、自社の「顧客価値」と「企業価値」の創出にフォーカスして活動してきました。しかし今後は、最初から「社会価値」の創出に照準を合わせた上で、そこから「顧客価値」や自社のミッション/パーパスと重なる部分を見つけることで「企業価値」につなげていくという発想が必要になってきます。広告制作も然りです。
2020年は日本の「サステナビリティー広告元年」。これからも、SDGs特別賞の選考プロセスで、「社会価値」、特に「社会の持続可能性向上」という価値の創出から発想する数多くの「サステナビリティー広告」に出合い、謙虚になる瞬間を楽しみたいと思います。