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ウェルネス1万人調査から読み解くヘルスケアキーワードNo.1

2021/03/19

「健康でいたいけどガマンは嫌」。「予防」に向かわせるためのモチベーションデザインとは?

医療費の高騰、超高齢社会といった課題を抱える中、その重要性の認識が高まる「ヘルスケア」領域。しかし、病気の治療とは違い「医学的には健康な人が、将来の健康のためにさらに何かに取り組むこと」(=予防)は、案外、難しいのではないでしょうか。「健康のために人を動かすモチベーションは何なのか?」を、新型コロナウイルスの感染拡大という経験を経た今だからこそ、改めて考えてみたいと思います。

ヘルスケア専門家との対談でお送りする本企画の第1回のテーマは「予防医療」。開業医として予防医療に先進的に取り組む満尾クリニックの満尾正先生をゲストに迎え、電通ヘルスケアチームの瀧澤菜穂が話を聞きました。電通が2007年から年1回実施している「ウェルネス1万人調査2020」の結果を引用しながらお送りします。

※ウェルネス1万人調査とは:生活者の健康意識と行動からヘルスケアインサイトを把握し、生活者視点で見た市場ニーズ/トレンドを明らかすることを目的とした大規模定量調査。2007年に開始し、20~60代男女1万人を対象に毎年実施。


満尾先生と瀧澤氏

健康に対する本音。「健康に良いことでも、無理をしてまでしたくない」

瀧澤:新型コロナウイルスの感染拡大は、私たちに「予防」の重要性を再確認させてくれました。この経験は、病気にならないようにする、自分の体は自分で管理するという意識づけにつながったと思います。

今まさに注目度の高い予防医療が専門の満尾先生は、以前、救急救命医療をしていたと伺いました。予防医療にシフトした理由を聞かせてください。

満尾:救命救急センターには、体表面積の90%に及ぶやけど、脳梗塞、心筋梗塞、事故といった方が運び込まれてきます。元気に歩いて帰れる人は1割に満たないような現場でした。

一度救急車で搬送されてきた患者さんの多くは元の健康な状態には戻らないという現実を目の当たりにする中で、私たちは「病気にならない選択」にもっと自覚的であるべきだと痛感したんです。

40代の前半に3年半、救命救急士を再教育する機関に教員として勤め、その後、アメリカのハーバード大学で栄養学を勉強し、予防医療の道に進みました。

瀧澤:「病気になってからでは遅い」ということを救急救命の現場でリアルに感じておられたのですね。

満尾:はい、まさにその通りです。病気にかかった方は「突然体調が悪くなった」「突然悪い検査結果が出た」と感じているのではないでしょうか。しかし、人の健康状態というのは、昨日と今日を比べても明らかに変わるということはなく、病気に向かっている場合は緩やかな下降線をたどっていきます。

病気にかかったとき、本人の感覚と実際
病気にかかったとき、本人の感覚としては左だが、実際は右の図のようにゆるやかに悪化していく。

ですから、体が病気に向かっていても気づきにくいんです。私のクリニックで受診できるアンチエイジングの人間ドックは、「昨日と今日の分かりにくい違いを客観的に見る」ことを目的に、一般的なドックにはない検査項目も備えています。

予防医療とは、検査を受けて体に不調が出る前に生活習慣の改善をしたり、病気の早期発見・治療をしたりすることをいいます。病気の悪化防止や再発防止を図ることも予防医療の領域です。

満尾クリニックにおけるAAA検査

瀧澤:「予防」が大切だ、という認識が高まっているのは事実なのですが、実は、「ウェルネス1万人調査」では、「健康に良いことでも、無理やりなことやガマンを強いることはしない」という回答が60.6%にも上りました。

健康に対する本音

また、例えば、調査実施時期に最もホットトピックであった「免疫力」についても、悩んでいると答えた7.9%のうち「現在は何も対策していない」という方が45.6%。「今後、予防や改善に取り組まない」という方は19.7%もいました。この結果からも、頭では「健康でいたい」と思っていても、無理してまで頑張りたくない、何をしたらよいか具体的に分からない、という人が一定数いるのでは、と推察されます。

満尾:そんなものなのかもしれません。人間は、目先のおいしいもの、楽しいものに流されがちですよね。健康を失って初めて気が付いたりするものです。若くて体調が絶好調のとき、健康にいいからといってラジオ体操を始める人は少ないですよね(笑)。無理してまで頑張りたくないというのは、頑張る理由がないからです。理由がないのにやってもしょうがない……という本音はあると思います。健康な方ほど動機付けの難しさがありますね。

健康行動の変容には「モチベーションデザイン」が肝になる

瀧澤:満尾先生のクリニックに自発的に来られる患者さんは、どのような目的を持っているでしょうか?

満尾:「人間ドックは受けたけど、どうも体調がすっきりしない」「さらに詳しく自分のコンディションを知りたい」といって来院される方が多いです。

30代以上の方が多く、男女半々くらいです。30代ぐらいの若い方は、事業で成功し、健康でいることがトップの座を維持するために必要と考えて来院しています。過去に大病をしていて、もう同じ思いをしたくないという年配の方もいらっしゃいます。

全体に経営者の方が多く、会社で経営マネジメントをするように、自分の健康も客観的にマネジメントする、という発想を持っているのでしょう。皆さん、健康の価値をよく理解されていて、「健康は黙っていてもやってこない」ことをご存じの聡明な方たちだと思います。

瀧澤:仕事面へのモチベーションが来院につながっている方もいるのですね。

満尾:はい、そのような方たちのモチベーションには2パターンあって、「昔と比べて記憶力も決断力も衰えて元気が出ない。マイナスになった分のパフォーマンスを上げたい」という方もいれば、「今よりさらにパフォーマンスを上げたい」という方もおられます。いずれにも共通するのは“パフォーマンスを上げたい”というモチベーションですね。

瀧澤:先生のクリニックに来院する方々は、予防医療に対する高い意識、知識、行動力を持っている方だと思います。一方で、私はヘルスケア領域のプロジェクトを進める中で、「こんな行動をとると、健康面でこんな良いことがある」と正確に伝えたとしても、それだけで人を動かすには限界がある、とも感じています。

実は、聞けば「ヘルスケアに興味ある、実践したい」と答えても、真相心理ではそこまで真摯に健康へ取り組みたいと思っていない人もいるという不都合な真実がありそうなのです。そこで今、仮説として試してみたいのは、「健康になることだけを目的にせず、その先にある価値をモチベーションにできないか」ということです。

健康を目的としないモチベーションの図

満尾:「健康になることだけを目的にしない価値の創造」というのは、素晴らしいアイデアだと思います。自分の健康のためだけでは動けない人はいっぱいいるので。「健康になろう!」といわれるより、「なんのための健康か?」をはっきりさせることが必要なのでしょうね。

瀧澤:はい、「始めるきっかけ」や「続けるモチベーション」のデザインを一工夫することで、より広くアプローチできるのでは、と考えています。例えば、食品会社にアートイベントに協賛していただき、そのキャンペーンアプリを活用して健康行動に誘導するといった形が、具体的な事例イメージです。

ヘルシーレシピで料理をつくり、その写真をアプリに投稿してポイントをためていくと、そのポイント数に応じて自分の応援するアーティストの展示ブースが大きくなっていく。そしてその結果、好きな画家が有名になる、といった仕組みをつくっておく。生活者にとっては「自分が好きなアーティストを応援する」というメリットがモチベーションなのですが、実は「体調がよくなる」という健康の面でもメリットを享受している、という構造です。

生活者が最初に意識するメリットは健康面のものではないけれど、実は無理なく健康行動(ヘルシーレシピで料理)を始める・続けるきかっけになっている。「健康」とは遠いモチベーションを契機に、「健康」について考える・行動するチャンスをつくっていきたいんですよね。

健康を目的としないモチベーション具体例

「食べたいものを我慢した」「糖分や塩分を抑制するための料理をつくった」という窮屈な思い出ではなく、楽しい体験の中に健康行動を置くことができないかと日々考えています。単純に「ヘルスケア商品のクーポン」といった実質的なことではなく、享受するメリットが、例えばアートやスポーツといった自分の趣味やライフスタイルの中にあることもポイントなのかな、と思います。

満尾:そうですね、40年医者をやっていて分かったのが、驚くことに、この世には「健康になりたい」と思っていない人も存在するということです。「誰もが健康になりたいわけではない」ことを認識する必要があると思います。このキャンペーンのような方法なら、自分の健康に興味が低い人にも行動変容を促すことができるかもしれませんね。

瀧澤:矛盾するようですが、健康行動を取る人にとってのメリットがヘルスケアの視点から遠い方が、健康に興味の低い層も取り込める、という側面がありそうです。

「土」をいじる人の方が長生きする?

瀧澤:最後に、ヘルスケア領域において今、先生が注目されているトピックはありますか。

満尾:私は今、「土」に着目しています。土1グラム中には最大で1兆個ともいわれる無数の細菌が存在している。土ぼこりの中にはウイルスの切れ端も混ざっていて、毎日そういうものを吸い込んだり吐き出したりしながら体は免疫の勉強をしているんです。アンチエイジングの世界では、土をいじる人の方が長生きするといわれているんですよ。細菌のバランスが良い土壌で育った食材をとること、土に触れることのどちらも大切です。

瀧澤:「土」に着目するという発想は全く持ち得ていなかったので、とても興味深いです。本日は、貴重なお話をありがとうございました。


【第1回の対談を終えて】
満尾先生も臨床の現場で、「健康になる」ことを目的としていない患者さんに出会っている。そのことが意外で驚きました。健康ブームを安直に捉えて「大多数は健康に興味がある、健康になりたいんだ」と決めつけてしまわないこと、モチベーションについて個々のケースごとに丁寧に考えることの重要性を実感しました。

次回は、視点を変えて、「20代の若者のヘルスケア」について考察します。


【調査概要】
調査名:「第14回ウェルネス1万人調査2020」
実施時期:2020年11月
調査手法:インターネット調査
調査対象:全国20~60代の男女(10000サンプル) 
※性年代、地域構成比を人口構成比(8区分)に合わせて回収
調査会社:電通マクロミルインサイト
 
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