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ウェルネス1万人調査から読み解くヘルスケアキーワードNo.2

2021/05/26

ヘルスケア市場活性化のヒント満載!?20代男性の「ゼロ→プラス」な健康意識

ヘルスケア領域の新潮流を専門家との対談でひもとく本企画。「予防医療」をテーマにした第1回に続き、今回フォーカスするのは、「20代男性のヘルスケア意識」。健康は年をとるにつれて気にかけるようになるものだと思いがちですが、「ウェルネス1万人調査」の結果を見ると、近年は20代男性のヘルスケアに対するポジティブな意識・行動が目立っています。

その背景には、どんな外的影響や価値観の変化があるのでしょうか?そして、20代男性の健康意識・行動から浮かび上がる、新たなヘルスケア潮流とは?

健康医療ジャーナリストの西沢邦浩氏をゲストに迎え、電通ヘルスケアチームの瀧澤菜穂氏が話を聞きました。

※ウェルネス1万人調査とは:生活者の健康意識と行動からヘルスケアインサイトを把握し、生活者視点で見た市場ニーズ/トレンドを明らかにすることを目的とした大規模定量調査。2007年に開始し、20~60代男女1万人を対象に毎年実施。


西沢氏と瀧澤氏

20代男性に顕著な、「健康アクティブ層」と「健康無関心層」の二極化

瀧澤:「ウェルネス1万人調査2020」では、健康意識・行動項目をもとにクラスター分析を行っています。7つのクラスターに分類したうち、健康意識・行動が最も多岐にわたる「健康アクティブ層」は20代男性全体の26.5%に及び、全性年代の健康アクティブ層(16.9%)に比べて約10%も高い構成比となっています。

一方で、健康を全く気にしない「健康無関心層」も29.7%と、全性年代の構成比15.8%に比べて約14%も高く、二極化が顕著に表れています。西沢さんはこの調査結果についてどう思われますか? 

西沢:20代男性の健康意識・行動がここまではっきりと二極化していることは非常に興味深い傾向だと思う半面、危機感も覚えました 。

健康クラスター構成図

瀧澤:具体的な意識項目で目立ったものだと、「常に健康を意識した生活を送っている」「栄養素や食品・運動など健康に関する知識は人並み以上だと思う」という項目に20代男性の30%以上が「あてはまる」と答えていて30~50代男性よりも高い割合です。行動項目では、「トクホ商品を定期的に摂取している」と答える割合は、20代男性で25%と、他の性年代と比べて最も高いスコアであることも明らかになりました。

20代男性のポジティブな健康意識
20代男性の健康行動

西沢:トクホ商品は生活習慣病や更年期に伴う不調が気になる世代がメインターゲットのはずなのに、利用実態にはギャップがあるかもしれないということですね。

瀧澤:一般的に20代男性は医学的には健康な人の方が多いことを考えると、「マイナス(病気/不調)→ゼロ(治す)」ではなく「ゼロ→プラス(より心地よい状態)」の健康意識が生まれているといえるのではないでしょうか。二極化しているとはいえ、20代男性に健康に関心が高い人が一定割合いることについて、西沢さんはどのようにお考えでしょうか?

西沢:20代男性が自分たちの親をどう捉えているかが、一つの手がかりになりそうです。彼らの親世代、特に50~60代前後の男性には若いうちから健康に気を遣ってきたという人はさほど多くないのではないかと思います。さらに、バブルが崩壊したあとの出口が見えない低成長時代を手探りで進んできた人たちです。そして今、老後に不安感を持って高齢期に近づきつつある。そのような親の姿を間近で見てきた子どもが、「自分の身は自分で守らねばならない」と危機感を抱くのは当然の流れだと思います。

瀧澤:確かにお酒の飲み方や喫煙など、親世代が良しとしていた生活習慣や価値観が、子世代には逆に捉えられている事例も目立ちますよね。

西沢:もう一つの側面として、デジタルネイティブ世代以降のコミュニティー形成も関係しているのではないかと思います。20代の人たちはバーチャルを介して複数のコミュニティーに所属することが当たり前で、それぞれの場所で自分をどう見せるか、どのように表現するかを自然に意識しています。

また、コミュニティーの性質も変化しています。例えば、私たち50~60代前後の世代が若い頃はギラギラしたコミュニティーが多かったのに対し、彼らのコミュニティーの多くはジェンダーフリーでフラットな価値観が推奨され、心地よい関係性が求められます。その中の一要素として、清潔感やヘルシーさも重視されているのではないでしょうか。

雑誌の「モテ男の条件」といった気恥ずかしい特集を読み漁っていた親世代の価値観とは全く異なりますよね(笑)。ちょっと前に流行った、草食系という言葉がありますが、若い人に「好きな食べ物は何?」と聞くと、奇をてらうでもなく真面目に「サラダが好き」と答える人も少なくありません。

瀧澤:サラダ好きな男性はもはやマイナーではないですよね。パワーサラダという進化も見られますし、いまや男女問わず受け入れられています。

西沢:20代男性の健康意識が高まっていることは非常に素晴らしい傾向だと思いますが、正反対の無関心層が30%近くもいることが気がかりです。

瀧澤:そうですよね。無関心層の深掘りはつい後回しにしがちでしたが、彼らのインサイトにもこの市場の新しい在り方に関する重要なヒントが隠されている気がします。

西沢:バーチャルを介してコミュニティーを広げていく人がいる一方で、心地よい関係性を築けなくて孤立してしまう人もいます。リアルな接点が制限されるコロナ禍では、なおさらですよね。こうした関係性の多寡も健康意識の二極化につながっているのかもしれません。

若者の健康と切り離せない「美容意識」も新フェーズへ!?

瀧澤:コミュニティーの中での自分の見せ方という視点が出ましたが、20代男性の美容意識もここ数年で上昇しています。

20代男性の美容意識

西沢:基礎化粧品の使用にとどまらず、ファンデーションで上手に肌荒れを隠す人や、永久脱毛をする男性も増えてきました。お父さん世代をターゲットにした加齢臭用コスメを買っているのは、体臭に敏感な若者が多いという話を聞いたこともあります。裏まではとっていませんが(笑)。

瀧澤:清潔感や美しさという点で、男性向け・女性向けという区別をする必要がない場面も増えるかもしれません。例えば、スキンケア商品において、肌の性質が男女で異なるので、その点での区別が必要な場合はあると思いますが、少なくとも男性に使ってほしいという目的で「男性向けスキンケアブランド」と掲げる必要性が薄まってくるのでは、と思います。ニュートラルなブランドイメージの商品は、自然に男女ともに使われていきそうです。

西沢:かつての韓流ブームで中性的な美貌を持つ男性が圧倒的人気を得たときは驚きもありましたが、いまや「きれいな男子」は韓国やアジアだけにとどまらず、グローバル規模で支持されています。

瀧澤:そのような変化に伴ってメンズコスメ市場はまだ伸びる傾向にありますし、そのニーズも現在進行形で細分化しています。

西沢:男性のメイクに対する抵抗も今後ますます薄れていくかもしれません。いまの20代は自分の写真を当たり前のように美しく加工します。そう考えると、リアルな身体をバーチャルの“盛れている好きな自分”に近づけるための健康・美容にもニーズがありそうですね。

ヘルスケア市場の牽引役を期待したい!20代男性の健康行動が及ぼす影響

瀧澤:20代男性の健康・美容意識に刺激されて、同年代の女性や40代以上の男女の健康・美容意識が鼓舞される可能性もありそうです。

西沢:非常に面白い流れだと思います。20代男性を起点に女性の意識も変わり、もしかすると彼らの親世代の男性の意識すらも変革できるかもしれません。これまでに20代男性がヘルスケア市場で主役になったことはありませんから、もし彼らが市場の牽引役になったら、これは業界にとっての革命かも。

瀧澤:若い人たちが率先して健康に気を遣うことで、例えば生活習慣病にかかる人を減らせたら、日本の医療費への負荷を下げることにも貢献できますよね。

西沢:生活習慣病は発症してから治すのは至難の業ですから、まだ症状の出ていない若い頃から気をつけることが本質的に必要なんですよね。

老化に関しても、健康に気を遣う人とそうでない人で老化のペースに大きな差異が生じることが海外の研究で明らかになっています。最も生物学的な老化度が低い10人と、最も老化度が高い10人の45歳時の顔写真を合成して比較している研究があるんですが、びっくりするほど見た目が違いますし、ほかの老化指標や体内年齢にも大きな差があるんです。

他の研究では、3000種類近い血液中のタンパク質を分析した結果、肉体的な老化は一定の速度ではなく変則的に進むことがわかり、老化スピードが34歳と60歳、78歳の3つのポイントで速くなるとしています。そう考えると、30代に健康管理をサボると、大きなツケがたまる可能性があるのです。

参考文献:
Nat Aging. 2021 Mar;1(3):295-308
Nat Med. 2019 Dec;25(12):1843-1850.


瀧澤:とても面白い研究結果です。「見た目」にも言及したこのような科学的な情報であれば、20代でもスムーズに自分ゴト化でき行動変容につながると思います。そして、それは若年層だけでなくヘルスケア市場全体を変えることにつながりそうですよね。

西沢:はい、健康意識が高い20代男性はいわば“宝物”です。彼らが健康市場のリーダーになれば、日本は大きく変わると本気で思います。

瀧澤:20代男性に特徴的に表れ始めた若年層の健康意識・行動のポジティブな傾向をしっかり捉え、他の世代へのアプローチにも活かしていきたいです。

最後に、ヘルスケア領域で西沢さんが注目しているトピックがあれば教えていただけますか?

西沢:老化に伴う疾患の発症を抑制する方法が細胞レベルから解明されつつあることですかね。中でも今、ホットなのがNMN(ニコチンアミド・モノヌクレオチド)という成分です。老化抑制、糖尿病改善、アルツハイマー予防、卵巣機能向上などの効果が期待されるとして研究が進められており、健康関連業界向け専門紙でも2021年上半期の人気素材予想で第2位に入るほど注目を集めています。

アメリカや中国ではすでにNMNサプリメントがセレブや高所得層の間で流行し、日本でも若手の経営者層などに支持が広まりつつあります。含有成分や販売方法が怪しい製品も増えているのですが、品質が高いサプリは月額3〜5万円ほどかかります。健康維持のためのサプリに毎月5万円も投資する若手が増えているのは、「ゼロ→プラス」のヘルスケアの可能性を象徴する事例かもしれません。

瀧澤:今後どのように浸透していくのかが気になります。本日はありがとうございました!


【第2回の対談を終えて】
20代男性の「ゼロ→プラス」な健康意識に着目した背景には、科学的な正しさ、真面目な発想だけに凝り固まらないよう、生活者の自由でアクティブで、ヘルスケア領域であっても時に非論理的な動きもする「気持ち」の側面ももっと汲み取るきっかけにしたいと考えたからです。この層のインサイトを深掘りすることで、20代男性自体をターゲットとしたビジネスの可能性に加え、他のターゲットや市場全体にとってもヒントとなる要素を探っていきたいと思っています。

今回取り上げた若い世代は、オンライン健康相談やパーソナライズされたヘルスケア商品などの次世代ヘルスケアビジネスにも親和性の高いターゲットです。そんな視点も交えながら、次回は「パーソナルヘルスデータ活用によるビジネスの展望」について対談します。

【調査概要】
調査名:「第14回ウェルネス1万人調査2020」
実施時期:2020年11月
調査手法:インターネット調査
調査対象:全国20~60代の男女(10000サンプル) 
※性年代、地域構成比を人口構成比(8区分)に合わせて回収
調査会社:電通マクロミルインサイト


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