ネット系メディアに強いニーズ!コロナ禍で「再発見」されたメディアも
2021/03/31
電通メディアイノベーションラボ編「情報メディア白書2021」(ダイヤモンド社刊)の巻頭特集の内容を一部紹介する本連載。前回は、MCR/ex調査(※1)の2020年上期・東京50km圏データから、コロナ禍により自宅で過ごす時間が増えた2020年6月に自宅で各メディアを利用する機会が大幅に増えた様子をお伝えしました。
コロナ禍という特殊な状況におけるメディア接触行動からは、今後のメディアとオーディエンスの関係について何らかの示唆を得ることができそうです。ここでは自宅における可処分時間がメディア利用に影響を及ぼすという前提に基づき、起床在宅率の前年からの伸び幅を基準とし、各メディアの利用率の伸び幅を比較してみました。
※1=MCR/ex調査
ビデオリサーチ社が特定の1週間に行う日記式調査。生活者の行動を基本的な生活行動、メディア接触等の視点から、曜日別に時間軸に沿って最小15分単位で捕捉する。
早朝を除く全時間帯で起床在宅率は増加
メディアの利用ニーズや利用機会は1日を通して変化します。そこで、1日を5つの時間帯に分類し、各時間帯における行動を見ていくことにしましょう。
図表1は個人全体(12~69歳)の2020年の起床在宅率(週平均)が、前年と比べてどの程度変化したかを表しています。起床在宅率は早朝(6~8時台)を除くと、全ての時間帯において前年を大幅に上回ります。最も伸び幅が大きい12~14時台の2020年の起床在宅率は56.1%で、前年の約1.6倍です。
【図表1】起床在宅率(週平均/12~69歳)
通勤・通学の必要がなくなり、起床時刻は後ろ倒しに
なお、早朝の起床在宅率が前年を下回った背景として、起床時刻が全体的にやや遅くなったことが挙げられます。図表2は個人全体(12~69歳)の朝6~8時台にかけて寝ていた人の比率(週平均)を示しています。
【図表2】朝6~8時台にかけて寝ていた人の比率(週平均/12~69歳)
ネット系メディアの高いポテンシャルが顕著に
各時間帯における起床在宅率の前年からの伸び幅を基準とした場合に、各メディアの利用率の伸び幅は一日を通してどのような推移を示すのでしょうか。一般論として、起床在宅率の伸び幅を上回る利用増を示すメディアには、オーディエンス側の強いニーズがあり、将来的にも当該メディアが積極的に利用されるポテンシャルがあると言えそうです(※2)。
※2
以降の展開は、起床在宅率の伸び幅と各メディアの利用率の伸び幅の対比に基づくものです。各メディアの前年からの利用率の伸び幅が基準となる起床在宅率の伸び幅を超えないとしても、メディア単体の利用率の伸びそのものや、そのメディアの発展性を否定するものではない点に特に留意する必要があります。
最も顕著な伸びを示すのはネット系メディアです。図表3は基準となる起床在宅の増加率を1とした場合の、個人全体(12~69歳)の自宅におけるネット系メディアの利用率(週平均)の伸び幅を表します。インターネット(ウェブ閲覧など)、ネット動画、SNSのいずれもが全時間帯において基準となる起床在宅率の伸び率を上回ります。
【図表3】起床在宅を基準とするネット系メディアの伸び幅(週平均/12~69歳)
すでに見たように早朝帯(6~8時台)のみ起床在宅率の伸び幅は前年を若干下回っていることを考慮する必要はあります。しかし、概ね一日を通してネット系メディアへのニーズは非常に大きく、特にネット動画に対する強いニーズがあることが分かります。私たちの生活に浸透しているネット系メディアですが、コロナ禍により自宅で過ごす時間が増える中で特に積極的に利用されている様子がうかがえます。
生活の中で「再発見」されるメディア
最後に、ネット以外のメディアのうち特徴的な傾向を示すメディアの様子を紹介します。図表4は同じように起床在宅率を基準に置いた場合のラジオの利用率の伸び幅を示しています。週平均では12~14時台を除く全時間帯において基準を上回ります。在宅時間が増える中でradikoなどのラジオの配信サービスを含め、ラジオの利用が大幅に伸びたと考えられます。
【図表4】起床在宅を基準とするラジオの伸び幅(週平均/12~69歳)
新聞は特定のターゲットと時間帯において利用を伸ばしています。特に土日の朝は若年層の利用率の伸びは基準を上回りました。この状況は、新聞購読世帯において今まで新聞に接する機会がなかった若年層が、新聞を手に取るようになった様子を反映しているのかもしれません。
テレビはもともと利用率が高く、概ね前年より利用率が伸びているものの、全体傾向としては基準を上回る伸び幅ではありません。しかしターゲット別に見ると、例えば週平均では早朝に男性30代・60代と女性10代、夜間には男性20代、女性30代の伸び幅が基準を上回ります。こうしたことから、在宅状況やニーズに合致する番組編成などの条件が整えば、特定の時間帯において若年層のさらなる関与を得る機会がありそうです。
メディアに対するニーズやメディアとの向き合い方は一人一人異なります。コロナ禍という特殊な状況で見えたのは、ニーズを満たすメディアに対しての人々の積極的な関与です。生活シーンの中でラジオや新聞などがいわば「再発見」される形で前年より盛んに利用されていた様子からも、変化する生活者のニーズに応えるメディアには今後さらに積極的に利用されるポテンシャルがあると考えることができるでしょう。