新任社長の必須科目「メディアトレーニング」のススメ。「Withコロナ」時代に効果的なメッセージの伝え方
2021/04/12
新型コロナウイルスの感染対策を講じながらの生活に、2度目の春がやってきました。ワクチン接種も始まり、また違う日常生活に向けた足音も聞こえつつある2021年。株主総会シーズンのピークを前に、新社長の就任発表も増えています。
「先行き不透明」という表現が依然としてぴったりとくる状況下で、トップとしてステークホルダーに何を伝えていくべきか。コロナという「危機」においては、トップの発信はより重要性を増し、注目度も高まります。トップの発信力が、企業の先行きそのものを左右すると言っても過言ではありません。
そこで、この記事では、「Withコロナ」「Afterコロナ」に求められるトップの発信と、より効果的に伝えるトレーニングの重要性をお伝えします。
「足元」を見つめなおし、自分の言葉で発信を
在宅勤務やオンライン会議の増加で、残念ながら直接人と会って話す時間は少なくなりました。企業のコミュニケーション活動においても、オンライン化が進んでいますが、トップの発信力が重要であることは今後も変わりません。むしろ、オンライン化で時間や場所の制約がなくなることで、発信機会は増えていく可能性が高いでしょう。
メディアはトップならではの見方、考えに関心を持ちます。業界の未来をどのように見通しているのか、その中で、自社はどのようなビジネスを考えているのかを、自らの言葉で伝えることは、組織そのものの将来性を語ることにつながるからです。
また、社内に対しても、トップが発するメッセージは、組織をまとめる源泉です。内閣府の調査(※)によると、昨年12月時点で、東京都23区におけるテレワーク実施率は約4割。日々、コロナ関連のニュースが流れ、在宅の時間が長くなっている現状においては、従業員は「社員として」よりも「生活者として」の意識が強くなっています。
※出典:第2回 新型コロナウイルス感染症の影響下における 生活意識・行動の変化に関する調査(内閣府)
従業員と会社をどうつなげ、「一体感」を創出していくかが今後の企業の課題と言えます。その伝えるべき内容の一つには、自分たちの企業が果たすべき社会的役割、社会での存在意義を示していくことがあるのではないでしょうか。「目標」を明確にし、方向性を共有することが重要です。
企業の社会的役割を伝えていく際には、自分の言葉であることがカギとなります。
感染拡大を防止するための施策をどのように伝えていくか。同じ内容も、誰が伝えたか、何を言ったかによって評価が分かれてしまうこともあります。
新型コロナウイルスに不安を感じる社会においては、強いリーダーシップが求められますが、決して「きつい言葉」が必要というわけではありません。「丁寧さ」「思いやる気持ち」が出ていた方が受け入れられる傾向もあります。
原稿を作り込み、キレイな表現で演出したスピーチよりも、トップ自らが考えた表現を大切にしてください。組織の足元を見つめ直し、今後を考え抜いた言葉であれば、受け入れられ、理解されるでしょう。そして、その言葉をより効果的に伝えるために効果的なトレーニングもあります。
重要性が増す「メディアトレーニング」とは?
コミュニケーション能力向上に効果的なトレーニングは多々ありますが、中でもメディアに対する対応を訓練する「メディアトレーニング」を導入する企業は、年々増えている印象です。以前は、リスクマネジメントの一環として緊急事態における「記者会見トレーニング」を実施する企業が大半でした。
自社に緊急事態が発生し、トップとして社会に対して謝罪と説明を行わなければならないときに、いかに分かりやすく、真摯に伝えられるか。企業の命運を分けうる場面でのふるまいに対して事前にシミュレーションをしておきたい、というのは至極当たり前のことかもしれません。
企業広報戦略研究所(電通PR内)が2020年に行った企業広報力調査(国内の上場企業対象、2020年5~8月実施)では回答企業(474社)のうち、約2割が「継続的に模擬緊急記者会見を実施している」と回答しました。
しかし、トップがメディアを通して、社会へ発信していく場面は「謝罪会見」だけではありません。社長就任時のインタビューや経営計画の発表会見など、企業としての将来性、未来を語る場面でメディアやステークホルダーへの発信を意識して行うことは重要です。
最近では、前向きな場面を想定した「インタビュートレーニング」についても関心が高まりつつあります。先述の企業広報力調査では「トップのプレゼンテーション力・表現力を強化するためのトレーニングを実施している」としたのは約7%。記者会見トレーニングと比較すると数字は低いものの、「まずはどちらをやるべきか悩む」「社長就任前の取材経験から苦手意識を持っている」などなど、企業の方からの問い合わせ件数は着実に伸びています。
本番さながらの雰囲気で“模擬取材”。インタビュートレーニングのポイント
トレーニングにおいて、重要なのは「場面設定」です。例えばインタビュートレーニングを実施する場合は、どういう想定(どういう媒体から、何の取材目的で取材に来るのか)で行うか、から準備を始めます。
実際に多いのは、社長就任時を想定したものです。新社長としての抱負、自社の強み、課題、今後について語る内容は、報道を通して自社の従業員へのメッセージにもなるからです。従業員、株主などのステークホルダーに向けて、メディアを通してどのように発信すれば、企業にとってプラスになるのか、がポイントとなります。
トレーニングでは、実際に模擬の記者がトレーニング対象者に取材をし、その様子をカメラで撮影します。模擬の記者は、元記者やPR業界で長くメディア対応を経験したコンサルタントが行うケースがどこの会社でも多いようで、本番さながらの雰囲気で“模擬取材”を受けることが可能です。
そして映像を再生しながら、「発言内容が分かりやすいか」「しっかりと自社のことを伝えきれているか」「身振り、手振りなどを効果的に使えているか」などを議論していくのが一般的な流れです。“模擬取材”がどのような報道になるのか、という“記事”を作成する場合も多いようです。
トレーニングのオンライン化も増加
また、オンライン化の波はトレーニングにも押し寄せてきており、当社でもこの一年間は対面よりもオンラインで行うことが増えました。実際の場面においても、オンライン記者会見やインタビューが当たり前になっています。
対面でもオンラインでも気を付けるべきことには共通部分が多いですが、オンラインでは、画面への映り方、間の取り方などにちょっとした工夫が必要です。
「取材を受けるだけなのにトレーニングなんて……」と躊躇する方もいるかもしれませんが、トレーニングで自身の姿を客観的に見るだけでもその後の意識が変わってくることは間違いありません。
トップの発信力が企業の今後を左右する時代です。発信力向上のため、トレーニングを受ける企業は今後ますます増えていくと予想しています。