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フェムテックのトレンドから学ぶ、Z世代のセルフケアとは?

2021/04/27

「一条の光の中」 Photo by 中村正樹
「一条の光の中」 Photo by 中村正樹

女性の健康をテクノロジーで解決するフェムテックが、欧米だけでなく、日本・アジアでもますます注目を集めています。

SDGs17の目標の5つ目にある「ジェンダー平等と女性支援」を後押しするものとして、キャリアと子育てを両立するサポートから、メンタルヘルス、ホルモンバランス、そしてセクシャルヘルスまで、女性の心身の健康問題を解決するテクノロジーが登場しています。そしてアプリ管理などデジタルサービスにとどまらず、商品開発そのものまでを変化させています。

また新型コロナウイルス感染症の流行による生活変化も、フェムテック市場を拡張させるきっかけとなりました。今回は、未来の消費を担うZ世代の視点からフェムテックのトレンドをお伝えします。

<目次>
フェムテックとは?
Z世代とフェムテック。関心の高い3つの領域
 ①月経〜妊娠・産後ケア
 ②セクシャルウェルネス
 ③メンタルヘルス
よりオープンな社会へ。Z世代の価値観とニーズ 


 

フェムテックとは?

フェムテックとは、Female Technologyの略で、別名Women’s Health Techとも言われており、女性の心身の健康ニーズに取り組む幅広いテクノロジーの総称です。デジタルデバイスでないサービスや商品の場合には、「フェムケア」と呼ばれることもあります。

フェムテック関連企業数は2012年から増え始め、2017年時点では50社程度でしたが、2020年には484社まで急増。その市場規模は、2025年には500億ドル規模になるとも言われています(※1)。例えば、Appleも月経周期トラッキング機能をApple Watchに搭載したことで注目を集めました。

※1
出典:Frost Sullivan Femtech—Time for a Digital Revolution in the Women’s Health Market


女性の健康問題といってもその種類は幅広く、

  • PERIOD HEALTH /月経
  • WELLNESS /ヘルスケア全般
  • SEXUAL WELLNESS /セクシャルウェルネス
  • FERTILITY SOLUTIONS /妊孕(にんよう)性・不妊
  • PREGNANCY & MOTHER CARE /妊娠・産後ケア
  • MENOPAUSE /更年期
  • MENTAL HEALTH /メンタルヘルス

など多岐にわたります。

2014年、IT業界を席巻する2社FacebookとAppleは、福利厚生のひとつとして従業員の卵子凍結費用を負担することを発表しました。アメリカでも、高学歴が多いSTEP業界で働く母親のうち43%がキャリアから脱落すると言われ、仕事と子育ての両立は大きな社会課題となっています(※2)。女性が経済的地位を維持し、キャリアと出産の両立を選択できる環境を提供することは、企業のアピールポイントとなります。若い世代を中心に注目が集まり、雇用へも大きな影響を与えています。

※2
出典:The changing career trajectories of new parentsin STEM , New York University


今後、女性の活躍人口を増やすためにも、これまで個人の問題として抱えてきた女性の健康問題を、所属するコミュニティーや社会でサポートしていく仕組みが必要だと認識され始めているのです。

経営者やマネジメント層、パートナー、友人、家族、同僚などが、女性でなくても、女性特有の状態とニーズを理解し、サポートすることが求められています。

Z世代とフェムテック。関心の高い3つの領域

Z世代とは、1995年ごろ以降に生まれ、リーマンショック以降の不安定な社会で育った世代です。ソーシャルメディアを駆使して失敗を回避しながら、将来のための自分磨きにも高い関心を持つと言われています。

身体的にも精神的にも成長過程にあるZ世代は、不安や悩みをSNSなどのオンライン上で相談し、不安を解消する傾向があります。コロナ禍の到来で、その傾向は広がり、健康や性に関する不安や悩みも、SNS上のコミュニティーや投稿を参考にするケースが増加しました。

ここでは、特にZ世代の関心が高いフェムテックの3つの領域を紹介します。

①月経〜妊娠・産後ケア

フェムテックといえばまず出てくるのは、月経や妊娠・出産に付随する問題を解決するための商品やサービスです。日本でも先日ファッションブランドの「GU」から吸水ショーツが発売されました。

アメリカの生理用ナプキンのサブスクサービス「Cora」は、購入すると、インドなどの少女達に生理用品が寄付される仕組み。生理用品が買えず休学・退学せざるを得ない少女たちをサポートすることができます。生理用品で、貧困地域の少女の自立を支援することができるというブランドコンセプトは、社会貢献に生きがいを感じるZ世代に強く響いています。

他にもアメリカでは、吸収経血量を確認できるBluetoothタンポンや、より正確な基礎体温を測定する膣内体温計、生理痛・PMS(月経前症候群)を軽減するお菓子のサブスクサービス、CBD(※3)使用の商品、妊娠検査キットもロックダウンで産婦人科へ通うことが困難になったことで需要が高まりました。

※3=CBD
ヘンプやマリファナ由来の成分カンナビジオール。自律神経や女性ホルモンを調整する働きがあるとされ、生理痛やPMS(月経前症候群)を和らげる効果がある。


またパーソナライズ・サービスとして、産後の女性が栄養士に母乳を送って、必要な栄養素などを診断してもらう食生活のアドバイスサービス「Lactation Lab」や「My Milk Labs」も登場しています。

②セクシャルウェルネス

「ME TIME!」「Self Pleasure(セルフプレジャー)」「Sexual Communication(セクシャルコミュニケーション)」は、自分自身を大切にする過ごし方や、性行為の同意などを含んだパートナーとのコミュニケーションのあり方を指します。日本ではオープンにされにくい女性のセックス・ライフの話題も、セクシャルウェルネスとして注目されています。

2020年、イタリアやスペインでは、セックストイの売り上げが急増し、ニュージーランドではロックダウン後に遠距離カップルでも使える商品や女性向けマッサージ器をはじめとする製品の売り上げが3倍近く増加しました(※4)。2025年までにセクシャルウェルネス市場は400億ドル規模に成長するとも言われています(※5)。インフルエンサーによるSNS投稿でも、以下のような情報が、知っておくべき知識として広くシェアされています。

※4
出典:The Guardian, Sex toy sales triple during New Zealand's coronavirus lockdown, 9Apr2020
 
※5
出典:ReserchandMarkets, Sexual Wellness Market - Global Outlook and Forecast 2020-2025, Jul2020

 

  • パートナーとのコミュニケーションの取り方(ロックダウン中のデートや性生活の送り方)
  • 自分を楽しませる、Self Pleasureの考え方や、正しい知識の提供

「関心はあるが、なかなか話せる相手がいない」分野だったものが、対面でのコミュニケーションが減った分、SNSを通じてやりとりされるようになりました。また、Clubhouseなどのコミュニティーの流行も相まって、なんでも相談できるオンラインの場が増えてきています。

女性の快感を導き出すテクニックを紹介する「OMGYes」は、専門家によって行われた2000人の女性に対する大規模リサーチにもとづき、性について正しい知識を学ぶ動画を配信しています。世界的な女優であり女性の活躍を牽引するエマ・ワトソンも学校では教えられない性の実態について学べる場の必要性を唱えています。

③メンタルヘルス

世界で約10億人が抱えているメンタルヘルスの問題は、多くが10代から始まっていると言われています。世界経済フォーラムが公表するグローバルリスク報告書でも、世界経済リスクとして、“若者の社会への幻滅感”というキーワードが取り上げられました。労働力の減少による経済損失はもちろん、メンタルヘルスが経済のシステムや政策、運用にまで影響を及ぼす可能性も示唆されています。

コロナ禍以前から問題視されていたZ世代のFOMO(フォーモ)(※6)も、オンラインコミュニケーションが増加し、ますます深刻化しています。

※6=FOMO
 the Fear Of Missing Outの略。自分が居ない間に他人が有益な体験をしているかもしれない、と言う不安に襲われることを指す。


自分と似た趣味思想をもつユーザーをフォローする結果、特定の意見を正しいと思い込んでしまう「デジタル・エコーチェンバー」や、ネット上の行動履歴に合わせユーザーの好みにあう情報が優先的に表示され、偏った情報しか見えなくなる「フィルターバブル」も懸念されています。

昨年ボディー石鹸を販売するLUSHは、YouTuberやインフルエンサーを中心に、メンタルヘルスキャンペーンDDD(Digital Detox Day)を開催しました。デジタル機器を一切オフにして健康と向き合う日を設定し、50カ国以上の60億人にリーチする結果となりました。

イギリスではメンタルヘルスの問題を深刻に捉え、「孤独は1日たばこを15本吸うのと同じくらい、健康に害を与える」と指摘し、「孤独担当大臣」というポストも設立されました。人に隠れて精神科医にかかる対処法ではなく、語り合い、感情をよりオープンにしていくべきとして、接触制限と景気悪化で孤立している若者へも政府として対策を講じています。

メンタルヘルスを解決するフェムテックとしては、陣痛をやわらげるVRセラピーや、パートナー男性もふくめて妊娠中・産後うつの早期発見に取り組むアプリ「Moment Health」があります。また、呼吸管理から自律神経にアプローチすることでストレスに対処するウェアラブル商品「iBreve」や、催眠療法からアプローチしたメンタルケアアプリ「Clementine」などが登場しています。

よりオープンな社会へ。Z世代の価値観とニーズ

Z世代は、あふれる情報の中で自分と社会の関係に常に意識を向けており、健康や性についても、さまざまな価値観や考え方を持ち合わせています。生理痛・PMSの改善法やSelf Pleasureの方法がSNS上で並ぶようになった背景には、もっとオープンにしたいというZ世代の価値観やニーズが映し出されているのではないでしょうか。

対面のコミュニケーションでは話題にしにくい、女性ならではの健康や性の問題をテクノロジーで解決する重要性が増しています。フェムテックが解決する問題は社会問題です。長引く在宅生活で問題が深刻化している可能性を考慮することが、次世代を担うZ世代への援護にもつながります。進化するフェムテック商品やサービスは、ジェンダーを超え、多様な人々の理解と働き方、そして人類の命のサイクルにもつながっているのです。


電通では、事業共創拠点engawa KYOTOのプロジェクト「Femtech and Beyond」として、クリエイティブチームと事業開発チームとが一体となり、フェムテック市場自体の意識向上のためのイベントや、新規事業・製品・サービス開発などの活動をしています。プロジェクトに関するお問い合わせは、info@femtechandbeyond.comまで。