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共創するサーキュラーエコノミーNo.4

植物由来プラスチックの開発って、どこまで進んでいるの?

2021/05/12

電通グループを中心とする7社が協働して、企業のサーキュラーエコノミー(循環型経済)構築を支援する「SDGsビジネスソリューション」(リリースはこちら)。前回に続き、本プログラムに参画している電通テックの取り組みを紹介します。

SDGsビジネスソリューション

電通テックは顧客企業のプロモーション課題に応じた各種ソリューションを提供し、プロダクト開発を手掛けています。「SDGsビジネスソリューション」では、プロダクト開発で培った知見やネットワークを生かし、環境に配慮した素材の開発・提案などを行っています。

今回は、同社が開発し、販売を始めた植物由来(バイオマス)プラスチック「PLANEO™️」(4月19日配信のリリースはこちら)の話を交えながら、企業のサーキュラーエコノミー構築にどのように貢献できるのかを伝えます。

「PLANEO™」プロジェクトリーダーの倉澤博行氏、同社のプロダクト開発部で新素材開発の最前線に立つ虎渡(とらと)慎吾氏、グループ各社やステークホルダーとの連携を取る津田まや氏に話を聞きました。

電通テック
(左から)電通テックの虎渡慎吾氏、津田まや氏、倉澤博行氏。グループ各社と連携して「SDGsビジネスソリューション」を推進している。

今、注目のバイオプラスチック「PLA」の汎用性を高めたい

──前回は、ビール醸造で発生する大麦の搾りかすからバイオプラスチック素材をつくる話を伺いました。世界で環境対応やSDGsの動きが加速する中、今どんな素材が注目されているのでしょうか?

倉澤:世界中でさまざまなバイオプラスチックの開発が進んでいますが、現在、最も生産量が多く注目されている素材の一つとして、「PLA(polylactic acid、ポリ乳酸)」が挙げられます。これは100%植物由来で生成されるプラスチックで生分解性(※1)もあることから、環境対応素材として高く評価されています。主に北米やアジアで広く量産・流通していて、2019年の世界生産量は約29万トンで、数年以内には倍増する見込みです。

※1 生分解性:一般的に微生物などの働きにより、一定の条件下において分解され自然界へと循環する性質。


虎渡:PLAはサトウキビやトウモロコシなどから生成されます。これらの植物には多糖という成分が含まれているのですが、じつは多糖も石油も基本的な分子構造は同じ。化学式ではCとHとOで構成されます。植物から多糖を抽出し、熱を加えたり、構造を少し組み替えて化学合成を行ったりすると、プラスチックの機能を持つ素材になります。

しかもPLAは、使用後にコンポストや土中などの湿度・温度が適度な環境下で加水分解が進み、最終的には微生物のはたらきによって数カ月でCO2と水に分解される生分解性を持ち合わせています。PLAはすでに商業利用が広まっていて、使い捨てのプラカップやカトラリー、持ち帰り用の弁当容器、ごみ袋などに利用されています。

倉澤:とはいえ、PLAにも課題があります。耐熱性が低くてホットドリンクなどの容器に使えないことに加え、若干黄色みがかっています。なにより一番の課題は、流動性の低さです。樹脂がさらっと流れないので、金型に流し込んで成形するときに時間がかかり、生産効率が悪いのです。

虎渡:私たちは、PLAのこれらの課題が解決できれば、もっと汎用性が高まるのではないかと考えました。そこで、大麦の搾りかすからバイオプラスチック素材を一緒につくった事業革新パートナーズ(※2)に協力を依頼して、二人三脚でPLAの改質に取り組むことにしました。

※2 事業革新パートナーズ:バイオプラスチック新材料の研究開発・製造を行うベンチャー企業。樹木の主要構成成分であるヘミセルロースを使ったバイオプラスチックの開発に世界で初めて成功した実績を持つ。

PLAを改質して耐熱性と生産性を向上

──PLAの改良ポイントを教えてください。その後、新たなバイオプラスチックの開発に成功したそうですね。 

虎渡:私たちはPLAの課題を解決するためにさまざまなアプローチを考え、添加材を使用する方向に絞りました。しかし、どんな添加剤でもいいわけではありません。「植物由来100%+生分解される」というPLAならではの特長は失わせたくない。そこで着目したのが、主に木材から抽出される多糖の「ヘミセルロース」という素材でした。

ヘミセルロースは、それ単独でもバイオプラスチックをつくることができるほど、環境対応素材として優れています。特にPLAが課題とする耐熱性・流動性においてPLAより圧倒的に高い物性を有していました。

開発のポイントは、PLAにどれくらいヘミセルロースを添加するかということです。PLAの持つよい物性に影響を出さない範囲で、課題となる物性のみをピンポイントで狙いました。できるだけ使用量を抑えながらPLAの物性を高める試験を繰り返し、電通テック独自の新素材をつくりあげていきました。

こうして出来上がった改質PLA「PLANEO™️(プラネオ)」は、素材単体として試験環境下における耐熱性・流動性が共に飛躍的に向上しました。今は製品になったときの物性値(※3)を調べています。

※3 物性値:物質が持っている性質を、ある尺度に基づいて数値で示したもの。


PLANEO™️
倉澤:「PLANEO™️」は、すでに量産のフェーズに入っていて、プラスチック製品を多く製造している中国や東南アジアのメーカーが興味を示しています。今後は国内企業にも、「PLANEO™️」の特長をアピールしていきたいですね。

アイデア力とネットワークで、企業のSDGs達成への取り組みを支援する

──新しい環境対応素材をつくる取り組みの他に、今後、企業にはどんなことを働きかけていきたいですか?

倉澤:環境対応の動きが加速する中で、多くの企業が「何かアクションを起こさなければいけない」と考えています。でも一方では、「何から始めればいいのか分からない」という悩みも抱えている。環境対応やSDGsへ取り組む上での課題は企業によって異なりますが、電通テックは「SDGsビジネスソリューション」に参画している各社と連携して、川上から川下までの全ての領域でサポートしていきたいと考えています。

津田:私は普段、プロダクト開発でさまざまな企業の案件に関わる機会が多いのですが、「植物由来のプラスチックは環境によさそうだけど具体的に何がいいのか分からない」とおっしゃる方も少なくありません。例えば用途やどんな製品が作れるかという話だけでなく、どのようにCO2を削減しているかという仕組みや、使用後の廃棄や生分解性の条件についてなど、植物由来プラスチックの正しい知識を丁寧に伝えていくのも私たちの役割だと思っています。

──バイオプラスチックの今後の広がりを考えたとき、まずはノベルティー領域から導入というのが一つの流れになるのでしょうか?

倉澤:バイオプラスチックは、市場に出回る資材や包材に使用するケースと、ノベルティーや販促物などに使うケースの二つの方向があります。これまで電通テックが手掛けてきたモデルを見ると、キャンペーンなどのノベルティーから始めるのが企業にとって導入しやすいのではないでしょうか。大量生産する製品の素材を置き換えるより、ワンショットのキャンペーンの方がトライアルしやすい。そういった事例を積み重ねていくことで、世の中にもさらに環境対応素材が浸透していくといいと思います。また、販促物を環境に優しい素材で作ると、クライアントのCSRにも紐づき、企業のプロモーションとして生かせる面もあります。

津田:「脱プラ」という言葉の認知度はとても高い状態ですが、石油由来のプラスチックはコストの面や耐久性、またリサイクルでの活用なども可能な優れた素材です。限られたキャンペーン予算の中で植物由来プラスチックなどの環境対応素材が採用されるにはまだハードルが高いという側面も無視できません。そういった部分の解消を目指すべく、「PLANEO™️」の開発では、生産効率のアップにより、製品化した際のコストを抑えることを目指してきました。ノベルティーの分野に環境対応素材が参入する一助になればと思っています。

また、「PLANEO™️」の開発においては、ネーミングやロゴマークといった部分も社内のクリエイティブチームと共同で考案しました。素材としての販売がスタートとなりますが、多くの企業に利用していただけるとうれしいです。

──「SDGsビジネスソリューション」において、電通テックはどのような役割を担っていくのでしょう?

倉澤:アイデア力とネットワークが、電通テックの強みの一つだと考えています。当社にはプロモーション分野、そしてプロダクト領域においても、強みを持つメンバーがたくさんいます。「SDGsビジネスソリューション」では、素材の開発・製造を中心に幅広く販売促進に関わっていけます。

その強みを生かして、例えばプロモーションの一環として景品キャンペーンの企画をするなら、素材選定から景品提供後の回収やリサイクルスキームまでを組み込んだ提案を、ソリューションとして提供していきたい。そして、大麦の搾りかすからプラスチック素材をつくったり、PLAを改質したりしてきたように、アイデア力を生かして、今後も素材開発・提案を行っていきたいと考えています。

ネットワークについては、素材調達という点でも強みがあります。PLAも、世界で環境対応素材が求められ需要が高まる中、供給が追い付かず入手しづらいという問題があります。それでも私たちがPLAを入手できるのは、当社を含む電通グループが、「PLANEO™️」の売り先になるような企業とつながりがあるからです。研究・開発をするだけでなく、出来上がった素材を具体的にどういう企業に提案したいかというところまで想定することができます。

津田:企業とのリレーションという点では、「SDGsビジネスソリューション」で提供できる素材やソリューションのメニュー化を進めています。SDGsの課題解決に関連した提案をスムーズに行えるツールを開発することも、電通テックの大きな役割。植物由来のプラスチックやリサイクル素材を使ってみたいとか、ロングライフに興味があるなど、企業の目的に合わせた素材やソリューションを提案できるような仕組みづくりを進めています。

倉澤:以前、ある企業から「電通テックはインテグレーターだね」と言われたことがあります。私たちはファブレス(工場を持たない会社)なので、川下起点で新しい素材の組み合わせを考える「マテリアル・インテグレーター」のようなイメージで、従来の素材メーカーとは違った視点から貢献できればと考えています。販促キャンペーンのように企業がワンショットでトライしやすいところから上手に環境対応素材を提案・導入し、普及させていきたいですね。