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共創するサーキュラーエコノミーNo.3

ビールの搾りかすからプラスチックができる!?~脱プラと素材開発とSDGs

2021/03/08

電通グループを中心とする7社が協働して、企業のサーキュラーエコノミー(循環型経済)構築への取り組みを支援する「SDGsビジネスソリューション」(リリースはこちら)。

電通テック

今回は、プログラムに参画している電通テックの取り組みを紹介。電通テックは、顧客企業のプロモーション課題に応じた各種ソリューションを提供し、プロダクト開発も手掛けています。  

今、世界中で「脱プラ」の動きが加速しています。石油由来プラスチックの削減に貢献する素材として注目を集めているのが、植物素材。トウモロコシやサトウキビなど、さまざまな植物を原料にしたプラスチックが生まれています。

そんな中、電通テックが注目したのは、ビールづくりで出る「大麦残渣(おおむぎざんさ)」(大麦の搾りかす)でした。なぜ大麦に着目したのか、大麦残渣のプラスチックとはどんなものか?旗振り役を務めた電通テックの虎渡(とらと)慎吾氏と、開発パートナーである事業革新パートナーズ(※)の茄子川仁社長に話を聞きました。

※事業革新パートナーズ:バイオプラスチック新材料の研究開発・製造を行うベンチャー企業。樹木の主要構成成分であるヘミセルロースを使ったバイオプラスチックの開発に世界で初めて成功した実績を持つ。


SDGsビジネスソリューション

広告やプロモーションの世界でも、「環境対応素材」が求められている!

─まずは脱プラや脱炭素を取り巻く社会の動きについてお聞かせください。レジ袋の有料化や管首相の脱炭素宣言で、世の中の関心が高まっていることは間違いないと思うのですが、企業の動きや現状はどうなのでしょうか?

虎渡:広告主をはじめとする企業も、確実に環境への関心度合いが変化してきていると思います。私たち電通テックは、電通グループ唯一のプロモーション会社として、オンラインとオフラインを問わず、マーケティング戦略からエグゼキューションまでを行っています。その一環としてノベルティーグッズなどの制作をしていますが、2019年の後半ごろから、「環境対応素材を使ってほしい」とお客さまに言われることが増えてきました。

例えば「石油由来ではない素材でコップをつくってほしい」「環境対応素材を使ってイベントの各種資材を制作してほしい」といったオーダーがどんどん入るようになりました。そういった需要の高さを感じたことが、素材開発へと一歩踏み込むきっかけになりました。

案件レベルではなく企業レベルで、「環境に配慮したものでなければ調達してはならない」というガイドラインを持つケースも少なくありません。今では、飲料、流通、生命保険をはじめ、ほとんどの当社取引先企業で、環境対応素材の使用が推奨されていると感じます。

茄子川:こうした動きは、今後、ますます加速するといわれています。きっかけは、アメリカの大統領がトランプ氏からバイデン氏に変わったこと。政権が変わり、経済や環境に対する方針が180度切り替わって、一度脱退したパリ協定にも再加入することを表明しました。これによって世界的に、環境対応商品の開発を急ぐ流れが起きています。

世界の中で、特に環境への取り組みが進んでいるのがヨーロッパです。ヨーロッパには、もともと家庭内で生ごみを堆肥化させるコンポストという文化が根付いており、脱プラ、脱炭素への理解が広がりやすい背景がありました。生活者にとって、植物由来の材料が使われた商品を選んで買うことは、もはや当たり前のこと。ですから企業も当然の責任として環境対応素材を開発し、商品に使用しています。

虎渡:ヨーロッパでは、税制面でも環境対応素材が優遇されているようですね。

茄子川:はい。意識の面でも制度の面でも、日本よりも10年ぐらい先を行っていると思います。それはつまり、日本が10年も遅れているということ。世界の波を受け、日本の社会や企業も、遅まきながらやっと「本腰を入れねば」という局面に立ったのだと思います。

ビール工場で毎日大量に発生する「大麦残渣」

─次に、今回のプロジェクトについてお聞かせください。電通テックと事業革新パートナーズが協働で、大麦残渣から植物由来のプラスチック素材をつくる実証実験を行ったとのこと。どのようなきっかけで、大麦残渣に注目されたのでしょうか?

虎渡:冒頭で述べた通り、近年、私たちの事業で、「環境対応素材の使用」が求められることが多くなってきました。それで、植物由来のプラスチック素材について情報集めや勉強をするようになり、「植物由来のプラスチックをつくるには、“糖”が重要である」という知識を持っていたのです。

「糖が多く含まれた植物で可能性があるものってなんだろう」、そう考えたときに、パッと思いついたのが、プロモーションの仕事でお世話になっている飲料メーカーでした。以前、大麦を絞った後のかすはほんのり甘いと聞いたことを思い出し、「もしかしたら、ビールの製造工程で出る大量の大麦の搾りかすって、可能性があるんじゃないかな……?」、そう思って茄子川社長に話してみたら、「それ、いいですね!」となって。協働プロジェクトとして進めてみよう、となりました。

茄子川:われわれが扱うヘミセルロースという植物由来のプラスチック素材は、これまで、杉や竹などの樹木から取っていたんですよね。大麦というのは、まったく思いつきませんでした。しかも、ビールの搾りかすというかたちで大量に発生している。これを使うことができれば、大変エコでサーキュラーな取り組みになります。虎渡さんの発想に気づきをもらい、まさに目からうろこが落ちるような気持ちでした。

さらに、虎渡さんがツテのある飲料メーカー数社に対して、当社の技術や大麦残渣の可能性をプレゼンテーションしてくださり、実証実験に協力してもよいという企業を見つけてくださったんですよね。

虎渡:一緒にクラフトビールの会社に大麦残渣をもらいに行って、ビールを飲みながらいろいろ話しましたよね(笑)。

茄子川:そうそう。お互いほろ酔いで、ヘミセルロースの活用法や今後の可能性について話し合いました(笑)。

当社は、ヘミセルロースを原料とするバイオプラスチック開発の技術を持つ世界で唯一の会社です。この技術を、より広範に、サーキュラーに活用する道筋が新たにひとつ見いだせた。それがとてもうれしく、熱い気持ちになったことを覚えています。

SDGsビジネスソリューション
醸造過程で出た大麦残渣は、口に含むとほんのり甘い味がする。

樹木や大麦から取れる「ヘミセルロース」ってなに?

─事業革新パートナーズが扱うバイオプラスチック素材、ヘミセルロースについて教えてください。そもそもなぜ、植物に含まれる糖がプラスチックになるのでしょうか?よく聞くセルロースとヘミセルロースはどう違うのですか?

茄子川:植物には、加工しやすく、熱に強く、食べ物にもなる、多糖という成分が含まれています。これを抽出し、熱を加えたり、引っ張ったり、構造を少し組み替えて化学合成を行ったりすると、プラスチックの機能を持つ素材になるのです。ちなみに多糖は、化学式でいうところのCとHとOでできています。実はプラスチックも、石油原料・植物原料を問わずCとHとOで構成されています。基本的な分子構造が同じなので、糖からプラスチックができるのです。

植物由来のプラスチック素材としてよく知られているセルロースは、強度が高く、とても硬いところが特徴で、建材などにも使われています。しかし流動性がなく加工がしにくいというデメリットがある。一方のヘミセルロースは、強度は低いものの、分子の結びつきが弱く流動性があるため加工しやすいメリットを持っています。しかしヘミセルロースは単独での研究開発が進まず、世界的に未利用な資源として放置されています。

ヘミセルロースにセルロースを加えれば、コップなど、ある程度の強度が必要なプラスチック製品をつくることも可能です。セルロースとヘミセルロースは、互いを補完し合うことができる素材です。

虎渡:今回のプロジェクトでは、大麦からヘミセルロースを抽出するプロセスをイチからつくっていただきました。ヘミセルロースをバイオマスプラスチックに精製する技術は、事業革新パートナーズ独自のものですが、そのヘミセルロース自体を大麦から抽出したことに意義や意味があると思っています。世界中で植物からこれを取り出し素材にすることができる企業や団体は他にありません。ですから、前例のないことを試行錯誤しなければならなかった。大変なご苦労があったのではないかと思います。

茄子川:そうですね。抽出するプロセスでは、温度、水量、圧力などを変えては検証を繰り返し、最適な数値を探ってシミュレーションを重ねていきました。まるで砂漠から砂金を探し出すような、本当に気が遠くなりそうな作業で……。それだけに、実際にプロセスが完成したときはうれしかった。非常に大きな手応えを感じました。

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大麦残渣は優秀な原料。バイオマス発電に活用される可能性もある!

─大麦残渣を活用したバイオプラスチックの可能性や、今後の展望について教えてください。

虎渡:今後は、大麦残渣から何キロのバイオプラスチックができるかを検証し、少しでも収率(一定量の残渣から生まれるバイオプラスチックの割合)を増やしていきたいと考えています。収率が上がるほど事業化やマネタイズがしやすいだけでなく、なにより多くの企業が採用しやすくなると思います。そうすると、本当の意味でサーキュラーな仕組みとして、一気に広まり機能し始めると思うんですよね。現在の収率は70%。これを1%でも2%でも高めるのが目下の目標です。

茄子川:70%というのは、杉や竹といった樹木から抽出するよりも高い数値です。大麦残渣は、とても優秀な原料といってよいでしょう。また、将来的に、ヘミセルロースは、バイオマス発電のエネルギー源になる可能性も秘めています。実現できれば、より広い範囲でのCO2の削減効果が期待できる。企業はもちろん、社会、地球への貢献度も大きくなります。

虎渡:そう、大麦残渣、そしてヘミセルロースは、とても将来性の高い環境対応素材なんですよね。今後も本格的な活用や事業化を念頭に置きつつ研究を進めていく予定です。

そして、私たち電通テックは、ものづくりで得た知見や企業とのつながりをベースにして、大麦残渣だけでなくさまざまなバイオ原料を活用した環境対応素材の研究開発をコーディネートしていきたいと思っています。

次回は、別の素材を使った植物由来のプラスチック開発の最新事例を紹介します。