「新聞広告の効果測定」はここまで可能に!日経と電通の挑戦
2021/08/25
2018年から「新聞広告IoT宣言」を掲げ、新聞広告のDX(デジタルトランスフォーメーション)を推進している日本経済新聞社(以下、日経)。
その取り組みの一つが、電子版の有料会員もしくは新聞を日経ID決済で購読している方であれば日経の紙面をそのままPC、タブレット、スマホで閲覧できるサービス「紙面ビューアー」です。
この紙面ビューアーを広告主の観点から見ると、従来は難しかった「デジタル広告と同水準のログベースでの新聞広告の効果測定」が可能になったのが大きなポイントです。
今回は、効果測定のさらなる高度化を図るべく日経と電通が実施したPoC(Proof of Concept:概念実証)を紹介しつつ、DX時代における新聞広告の役割と可能性について、日本経済新聞社の村山亘氏と電通の木川浩が語り合います。
<目次>
▼BtoB向けシリーズ広告で効果測定。ターゲット読者の“粒度”にこだわったPoC
▼月間アクティブユーザー31万人。電子版とは異なる「紙面ビューアー」の価値
▼新聞の価値に「データ」を付加!新しいマーケティング手法に挑む
BtoB向けシリーズ広告で効果測定。ターゲット読者の“粒度”にこだわったPoC
木川:今年、日経と電通で「日本経済新聞紙面ビューアー」を用いた新聞広告効果測定の共同PoCを実施しました。
実施期間は約2カ月間で、ソフトバンク法人事業統括部のDX支援サービスに関連
するシリーズ広告を4本、日経紙面に掲載しました。これらの広告について「紙面ビューアー」でユーザーの閲覧行動を子細に分析したわけですが、今回特にこだわったのがターゲットの“粒度”です。
保険業界向け、運輸業界向けといったように、いずれもターゲットが異なる広告ですが、掲載した内容に対して、「どのような業界・会社規模・役職・職種の読者が広告に注目したのか」を、可能な限り精緻に検証しました。
木川:分析の結果、同じフォーマットで展開したシリーズ広告でも、その訴求内容によって、特に注目してくれる読者のビジネス属性が大きく異なることが明らかになりました。ログベースの分析なので、検証に要する期間も従来のアスキング調査より圧倒的に短く、クライアントからも高く評価していただきました。新聞広告効果測定の新しい可能性を大いに開拓できたと思っています。
村山:もともと日経では、紙面ビューアーを使った新聞広告の効果測定は2018年から続けてきています。この3年間で掲載した全広告の膨大なデータを分析することで、いろいろなことが見えてきました。一方で、これらのデータをもっと有効活用する、一歩進んだ取り組みにチャレンジしたいと思い、今回の電通とのPoCが実現しました。
木川:PoCの結果、クライアントであるソフトバンクからは特に2つの視点で評価を頂けましたね。1つは、先ほど申し上げたターゲットの粒度。例えば、ソフトバンクの「オンライン商談ツール」の導入事例を紹介した広告では、特に営業職の女性が熱心に広告を読んでくれたことが分かりました。セグメントごとに反応する広告の違いが顕著に表れ、こんなにはっきりと数字に出るのかと私たちも率直に驚きました。
もう一つが、広告の閲覧時間です。例えば運輸業界におけるDX導入事例を紹介した広告では、「運輸関係の仕事に就いている読者の4人に1人が、10秒以上広告をじっくり閲覧した」といったことが明らかになりました。「広告を届けたい人にちゃんと届いていることが分かって安心した」という、うれしいコメントも頂きました。
村山:私たちが保有するデータの価値を、電通の力も借りて客観的に評価していただけたことで、紙面ビューアーのポテンシャルの大きさを再認識できました。
木川:近年はBtoB領域のマーケティングニーズが急増し、さらにターゲットを細分化して緻密にマーケティング活動を行う企業も増えています。量・質ともに日本最大級のビジネスパーソンのデータといっても過言ではない「日経ID」データは、まさしくそういったクライアントに新たなマーケティング価値を提供できる可能性を秘めていると思います。
村山:新聞に限らず、マス媒体はどうしても読者数など「全体のボリューム感」で捉えられがちですが、今回のPoCでは、さまざまな属性が集まって集合体を成していることを改めて認識できたと思います。
月間アクティブユーザー31万人。電子版とは異なる「紙面ビューアー」の価値
木川:ここからはあらためまして、紙面ビューアーというサービスについてうかがいます。立ち上げの背景にはどのような課題感があったのでしょうか?
村山:日経は2018年に、デジタルの技術を活用してアナログな紙の新聞広告に新しい価値を付加する「新聞広告 IoT宣言」を掲げました。その背景にあったのは新聞社としての危機意識です。
これだけテクノロジーの発展が目覚ましい中で、新聞はいまだにオンラインに接続できないスタンドアローンなメディアであり、世の中の新聞広告に対するイメージも低下していました。「新聞のリブランディング」が必要だったのです。
私たちは紙の新聞の価値を信じていますが、一方で、時代に合わせた情報の提供方法や効果測定などの広告手法の追求は不可欠であり、電子版とは異なるアプローチで、「新聞」の改革を推進することになりました。その取り組みの一つが紙面ビューアーです。
木川:社内で「紙面ビューアーをリリースしよう」ということになった経緯は?
村山:2010年に日経電子版をスタートして以来、数多くの会員に電子版を有料購読していただいていますが、電子版の会員から「従来のように、紙面のレイアウトで読みたい」というご要望が多くありました。そこで、電子版の有料会員(と新聞を日経ID決済で購読している方)のみが閲覧できる紙面ビューアーを公開し、パソコンやスマホ、タブレットでも「紙面レイアウトの記事」を閲覧できるようにしました。
木川:紙面ビューアーの機能と、アクティブユーザー数を教えてください。
村山:紙面ビューアーの月間アクティブユーザー数は約31万人です。電子版有料会員が約81万人ですから、そのうち約38%の会員が紙面ビューアーを利用していることになります(2021年7月時点)。
木川:31万人ってかなり多いですよね。電子版ではなく、伝統ある新聞メディアの紙面がこれだけデジタルデバイス上で読まれているのは驚きです。今後もユーザー数は増えていくとお考えですか?
村山:ユーザー数は右肩上がりで伸びていますし、紙から紙面ビューアーに移行する会員も多くいらっしゃいます。ただ、こちらから意識的に紙面ビューアーのユーザー数を増やすことは考えていません。紙で読みたい方、パソコンで電子版を読みたい方、アプリで電子版を読みたい方、そして紙面ビューアーで読みたい方と、読者の好みに応じて選択肢を提供することが大事だと思っています。
木川:紙の新聞と比べた場合、紙面ビューアーの広告ならではの大きな特徴として、「紙面ビューアーリンク」と「広告の効果測定」が挙げられるかと思います。広告自体は紙の新聞と同じレイアウトでも、クリックやタップすることで企業のランディングページに遷移できます。そして効果測定ですが、「特定の広告に、どんなユーザーが、どのくらい目を止めたのか」が分かります。特に後者の効果測定は画期的な機能ですよね。
村山:日本経済新聞社グループのウェブメディア共通の「日経ID」というものがありまして、電子版の有料会員も必ず日経IDを持っています。この日経IDと紙面ビューアーによるログ解析で、新聞広告の効果を数値化しています。
具体的には、広告の閲覧者を「性別・年代」「職種・役職」「世帯年収」などで分類し、広告の表示回数や表示時間などから、「どんな人に、どれくらい、どのように見られたか」までを可視化できるようにしました。そして今回のPoCは、データ分析に長けた電通の協力で、さらに粒度を高められないか、という試みでしたね。
新聞の価値に「データ」を付加!新しいマーケティング手法に挑む
木川:私のようなメディアプランナー視点で見ると、「デジタルで、紙の新聞の価値をできる限り忠実に再現している」ことに紙面ビューアーの可能性を感じます。
TVerやradikoと違い、「新聞の電子版」と「従来の紙の新聞」では、フォーマットも広告形態も全く異なります。そのため、「電子版の広告効果分析で得た知見を、紙の新聞のマーケティングに還元できない」という課題がありました。これが、新聞の広告効果測定が、他のマスメディアと比較して大きく出遅れてしまった原因だと捉えています。
村山:同感です。従来型の新聞レイアウトには一定のニーズや価値があったものの、「読者の閲覧状況や広告効果を数値化できない」という課題が常につきまとっており、それは「電子版」では解決できないことでした。紙面ビューアーで新聞レイアウトの価値にデータを付加できるようになり、ようやくクライアントの要望に応えていくきっかけが見つかったと思っています。
木川:その点では私たち広告会社も、長い歴史の中で培ってきた「15段広告」に代表される、新聞広告クリエイティブ“ならではの価値”をより進化させていきたいと考えています。
今は、クリエイティブも感覚的な良しあしだけでなく、データによる裏付けが求められる時代。例えば、紙面ビューアーから得られるデータを基にして、日本経済新聞社のマーケターと当社のクリエイターが一緒に広告を作るような座組を試してみるのも面白いかもしれません。
村山:いろいろなチャレンジができそうですよね。近年は新聞単体で完結するキャンペーンよりも、テレビやデジタルなど、各メディアと連動した施策が主流です。今後はクライアントの要望に応じて、他メディアとの相乗効果や、どういうタイミングで新聞広告を打つと効果的なのかといった、「メディアプランニングの最適化」も研究し、発展させていきたいです。
木川:日経の「日経ID」というファーストパーティーデータと、電通独自の生活者データベース「People Driven DMP」が連携することで、より精緻なマーケティング施策が打ち出せる可能性も大いにあります。
村山:将来的に、一緒にやれたらいいですね。私たちとしては、時流的に特異な存在になりつつある新聞というメディアをポジティブに捉え、新聞にしかできない手法を進化させていきたいと思っています。
木川:ビジネスパーソンの心を動かすマーケティング手法を開発し、それをクライアントや読者に還元していきましょう。今後ともよろしくお願いいたします!