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企業や産業全体の変革をドライブする「突破考」No.1

突破考#1 業界最大イベント「東京ゲームショウ」 オンライン化の舞台裏

2021/08/16

企業や産業全体の変革をドライブする「突破考」は、どのように生まれ、どんな未来をもたらすのか? 知られざるストーリーに迫り、明日のビジネスへの糧を見つけるオリジナル番組『突破考』。

第1回となる今回は、世界規模の市場でもあるゲーム産業をテーマに、業界最大のイベント「東京ゲームショウ」にスポットをあて、ディスカッションします。

モデレーターは、佐々木紀彦(NewsPicks NewSchool 校長)、ゲストMCとして須藤憲司氏(Kaizen Platform 代表取締役)を迎え、東京ゲームショウの主催者であるCESA(一般社団法人コンピュータエンターテインメント協会)理事・イベント委員会委員長 辻󠄀本春弘氏と、アマゾンジャパン合同会社の川本洋子氏、株式会社電通の永山昌美氏、石川剛氏が登場。

コロナ禍により開催が危ぶまれた2020年の東京ゲームショウでは、いかにしてピンチを乗り越えたのか、その顧客体験設計の秘密に迫ります。

※本記事はNewspicksからの転載記事です。

オンラインに活路を見出した東京ゲームショウ

業界最大のイベント「東京ゲームショウ」にスポットをあてたディスカッションの様子①

佐々木:近年ではeスポーツの台頭もあり、ますます盛り上がっているゲーム産業ですが、須藤さんはどのようにご覧になっていますか?

須藤:ネットワークに繋がったこともそうですが、テクノロジーによって楽しみ方が大きく広がっている産業ですよね。その一方で、海外を中心に展開されているeスポーツの勢いを、これから国内でどういうふうに考えていくのがいいのか興味深いです。

須藤憲司氏。Kaizen Platform 代表取締役
須藤憲司氏。Kaizen Platform 代表取締役

佐々木:そうですね。そこでカギを握るのが毎年開催されている「東京ゲームショウ」です。まずはこれがどのようなイベントなのか、イベント委員長でもある辻󠄀本さんからご説明いただいてもいいでしょうか。

辻󠄀本:東京ゲームショウは国内最大のゲームイベントであり、アメリカの「E3」、ドイツの「gamescom」と並ぶ世界三大ゲームショウのひとつです。

毎年9月に開催しており、様々なコンテンツやサービスがお披露目される、ゲーム業界の重要な発信の場となっています。近年では出展社の過半数を海外企業を占め、業界内のマッチングの場として機能しているのも特徴ですね。

辻本春弘氏。一般社団法人コンピュータエンターテインメント協会(CESA)理事。イベント委員会委員長・株式会社カプコン代表取締役社長 最高執行責任者(COO)
辻本春弘氏。コンピュータエンターテインメント協会(CESA)理事。イベント委員会委員長・カプコン代表取締役社長 最高執行責任者(COO)

須藤:私も足を運んだことがありますが、ものすごい人出で驚きました。注目度の高さを感じます。

佐々木:そんな東京ゲームショウが、現状抱えている課題は何でしょうか。

辻󠄀本:国内においては少子高齢化の影響が避けられず、ゲーム人口をどう維持していくかが喫緊の課題です。そこで重要なのは海外展開で、そのために東京ゲームショウがどのような企画を提供できるかが大切だと思います。

佐々木:ところが昨年はコロナ禍に見舞われ、イベントシーンは苦境に立たされました。東京ゲームショウはどのように対応しましたか。

辻󠄀本:多くのリアルイベントが中止に追い込まれる中、ゲーム領域の貴重な発信の機会を止めないために、我々はイベントの決行を早期に決断しました。

とはいえ、感染症対策の観点からやはりリアルイベントは難しいということで、フルオンラインでの開催に切り替えた経緯があります。

佐々木:なるほど。しかし、ひとつのイベントを全面的にオンライン化するというのは、限られた時間の中で決して容易ではなかったでしょうね。

石川:そうですね。これまでリアルイベントに参加していたユーザーの皆さんが、東京ゲームショウにどのようなことを求めていて、そのうちの何がオンラインに適しているのか、まっさらの状態から考えなければなりませんでした。

永山昌美氏。株式会社電通 アクティベーションビジネスセンター/石川剛氏。株式会社電通 ビジネスプロデュース局
永山昌美氏。電通 アクティベーションビジネスセンター/石川剛氏。電通 ビジネスプロデュース局

辻󠄀本:初めての試みですし、やはり当初は不安しかなかったですよ。オンラインでどこまで顧客満足度を維持できるのか。また、予算を確保するためには、オンラインでどこまで売上、収益を維持できるかという問題もありました。

須藤:リアルとオンラインでは、ユーザー側からするとどうしても価値が変わりますから、どのような体験設定をするかが重要ですよね。

ただ、成功している事例を見れば、距離を問わずオポチュニティが広がっているのも事実ですから、やり方次第でこの先を見据えた好機にもなり得ると思います。

電通×Amazonのコラボでライブコマースを実現

佐々木:問題はまさに、そうした課題をどう突破するかです。

辻󠄀本:そもそも従来の東京ゲームショウは、毎年26万人を動員していましたが、これは会場である幕張メッセの収容人数のMAX値なんです。

定められたキャパシティを超えて、広く海外にまでアピールするために、コンテンツの配信というのは以前から仕掛けていました。むしろ、今回オンラインになった利点をフルに活用すべきであると考えました。

永山:距離の問題がなくなることで、ライト層にアピールするチャンスは広がりますから、必ずしもネガティブに捉える必要はありません。ただ、そのためには会場に足を運ばずとも提供できる体験を用意することが求められました。

佐々木:そこで、最初の「突破考」です。

”Gameful”という新しい価値

石川:まずご提案させていただいたのは、「Gameful」というテーマです。これはゲーム領域と他産業との掛け算により、現実を大きく変えられるゲームの力を体験によって感じていただくイベントにしよう、というコンセプトを表しています。

永山:もともとコロナが蔓延する以前から、「Gameful Tomorrows.(ゲームにできること、ぜんぶやろう。)」というキャッチコピーを用意していたんです。期せずしてこうした状況になり、よりその思いは強いものになりました。

佐々木:しかし、十分な時間のない状況での突然の路線変更は、決して容易ではなかったはず。そこを切り開いた、2つ目の「突破考」は何でしょう?

TGS 2020 ONLINEのサテライト会場としてTGS Amazon 特設会場企画プロデュース

永山:サテライト会場として、TGS Amazon特設会場を設けたことです。東京ゲームショウの重要なコンテンツの一つとして物販がありますが、これをオンラインでストレスなく運用するには、Amazonの力を借りるのがベストであると考えました。

川本 私たちは以前から、いかにお客様に最高の購買体験をしていただくかを考え、試行錯誤しています。今回こうして東京ゲームショウにお声掛けいただいたのは、産業界全体に貢献するチャンスでした。

川本洋子氏。アマゾンジャパン合同会社 エンターテインメントメディア事業本部 音楽・映像・ソフトウェア・ビデオゲーム 統括部長
川本洋子氏。アマゾンジャパン エンターテインメントメディア事業本部
音楽・映像・ソフトウェア・ビデオゲーム 統括部長

須藤:Amazonと組むというのは素晴らしいアイデアですよね。実際に会場で物販の長い行列を経験している身としては、これがオンライン化されるのは大きいと感じます。

佐々木:その際、電通からAmazonに対して具体的にどのような提案を行ったのでしょうか?

永山:たとえば新作ゲームの情報を見ながらショッピングができるような、一気通貫した購買フローが作れないかということですね。実際にライブ配信を観ながら、そこで見た商品を購入できる機能などは実装されています。

石川:オンラインの課題の一つに、リアルイベントで得られていたセレンディピティ(偶然の出会い)をどう表現するかという問題がありました。しかしその点も、Amazonのレコメンド機能などによって解消されたのはよかったですね。

佐々木:ある種、異色なタッグとも言えますが、電通とAmazon、双方の強みが生かされることで、より利便性の高い顧客体験が提供されたということですね。川本さんとしても、この機会を通してあらためて感じるAmazonの強みというのがあったのでは?

川本:そうですね。ライブコマースを通じて、コンテンツと購買をシームレスに繋ぐことができたのは、一つの成果だと感じています。

2021年以降の東京ゲームショウはどうなるのか

業界最大のイベント「東京ゲームショウ」にスポットをあてたディスカッションの様子②

辻󠄀本:こうした取り組みで2020年の東京ゲームショウを実現させたことで、ユーザーの皆さんからも感謝のコメントを多数いただきました。また、会場に行かなくてもいいという、オンラインの利便性を再認識する良い機会でもあったと思います。

佐々木:すると、今年以降はどうするのでしょう? 今後はずっとオンラインで開催することになるのでしょうか。

石川:少なくともオンラインをなくすことはありません。その一方で、ライブ感や熱量、あるいはセレンディピティの点ではやはりリアルイベントにはかなわないので、今後はリアルとオンラインを併用するハイブリッドな形での開催に移行することになるでしょう。

佐々木:なるほど。ビジネス面ではいかがでしょうか。

辻󠄀本:ゲームの物販に関して言えば、オンラインになったことで物としての原価が発生せず、なおかつ買い逃しを防ぐことができるのは大きなメリットでした。売上の面でも、業界全体として良い結果に繋がったと思います。

今後はこの2020年の経験をもって、東京ゲームショウをさらに進化させていかなければなりません。

須藤:今回のケースで特筆すべきは、リアルでやっていることをそのままオンラインに持っていくのではなく、しっかりとコンセプトを拡張している点ですよね。求められていること、必要なことを抽出し、オンラインならではの形に落とし込んだ。だからこそ高い支持が得られたわけです。

佐々木:その通りですね。では最後に、ここまでのお話を踏まえ、今後どのような顧客体験を提供していくか、皆さんに具体的なアイデアをキーワードでお聞きしたいと思います。

業界最大のイベント「東京ゲームショウ」にスポットをあてたディスカッションの様子③

辻󠄀本:私は「インタラクティブ(双方向)」です。

ゲームはもともと双方向性の高いものですが、デジタル化によってユーザーとメーカーの距離はいっそう縮まりました。そこから得られる情報は多いはずで、たとえばどの国でどのタイトルがどのくらい遊ばれているかというデータまで細かく知ることができます。今後はそれによっていかに商品やサービスをアップデートしていけるか、でしょう。

川本:私は「エンターテインメント」です。

テクノロジーの進化により、エンターテインメントコンテンツ全般との接し方は大きく変化しています。ゲームでも音楽でも、お客様それぞれの環境や気分に合わせて、その都度求める楽しみ方が手軽にできる体験提供が必要ではないでしょうか。

永山:私は「エンゲージメント」です。

今後、リアルとオンラインを併用していく中で、お客様にはより満足度の高い体験を、そして各企業にとってはそれがより高度なマーケティングの機会になるよう、設計していければ理想的ですね。

石川:私は来年以降のイベントは、「アップシフト」がカギだと考えています。

ハイブリッドな手法でイベントを開催する際、イベント自体が進化し、拡張していくことが求められます。そのために、こうして東京ゲームショウの大きなシフトチェンジに携わることができた経験を、我々としても積極的に発信していきたいと思います。

佐々木:皆さん、ありがとうございました。今回の「突破考」体験を通して、これからのイベントシーンがどのように発展していくのか、楽しみに見守りたいと思います。

 

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