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企業や産業全体の変革をドライブする「突破考」No.2

突破考#2 新たなビジネス変革【BX・ビジネストランスフォーメーション】とは?

2021/08/16

企業や産業全体の変革をドライブする「突破考」は、どのように生まれ、どんな未来をもたらすのか? 知られざるストーリーに迫り、明日のビジネスへの糧を見つけるオリジナル番組『突破考』。

今回は、「企業・社会の変革」をドライブするために、この5月に資本業務提携を結んだ電通グループとドリームインキュベータ社のアプローチを深堀りします。

モデレーターは佐々木紀彦(NewsPicks NewSchool 校長)。ゲストMCは早稲田ビジネススクールの入山章栄氏。そして電通の佐野傑氏、ドリームインキュベータの代表取締役社長である三宅孝之氏を迎え、両社の提携で生まれるBX(ビジネスの変革)の可能性に迫ります。

※本記事はNewspicksからの転載記事です。

両社の提携で新たに生まれる価値とは

佐々木:2020年11月にNewsPicksに掲載されて話題となった1つの記事があります。

タイトルは「【電通】我々は、もはや広告会社ではない」。電通の事業領域の幅広さ、そしてそれを生かして企業の成長にどう貢献していくのかという内容でした。この記事を読んで、入山さんはどのような感想をお持ちになりましたか?

入山 章栄 早稲田大学ビジネススクール教授

入山電通が単なる広告会社ではないことは理解していたつもりです。しかし、記事を読んであらためて認識させられたのは、今や広告やマーケティングといったドメインで事業を区切っている時代ではない、ということですよね。

ありとあらゆる領域にまたがって顧客企業について考えなければならず、その中で電通という企業もまた、大きく変わりつつあるのだと感じました。

佐々木:おっしゃる通りだと思います。この記事から半年が経った今、具体的にどのような取り組みが進んでいるのかを、今日はお聞きしたいと思います。佐野さんはあの記事についてどう感じていますか。

佐野傑。株式会社電通 執行役員
佐野傑。電通 執行役員

佐野:我々は顧客企業の領域拡張に合わせて、自らの領域をAX(Advertising Transformation)、BX(Business Transformation)、CX(Customer Experience Transformation)、DX(Digital Transformation)、と再定義しています。

ああいった形で記事にしていただいたおかげで、電通社内の人間もあらためてそれを認識する良い機会になったのではないでしょうか。

入山:一般的に理解されているのはDXだけだと思うんですが、他のA~Cはどういう意味なんですか?

佐野:簡単に言いますと、AXは我々が長らく関わってきたアドバタイジングの世界をより高度化すること。BXは企業や事業そのものを変革していくこと。そしてCXはお客さま(生活者)の体験を変革して高度化してくことです。

顧客企業の持続的な成長に向けて

佐野:成長の「S字カーブ」を例に考えていただきたいのですが、あるイノベーションが起きて成長をみせ、一定の段階で成長が鈍化すると、またもう一度、変革=イノベーションを生み出し、次のカーブを起こしていく必要があるわけです。

我々はその「変革」と「成長」の両方をお手伝いし、伴走していきたいと考えています

入山:この図で言うと、AX/CX/DXがくるくる回るということ(緑部分)が「成長」、つまりビジネスが回るということ。ただそれだけでは、どこかでアタマ打ちになってしまう。そこで事業全体の「変革」(青部分)も電通がサポートしていくという仕組みになっているんですね。

佐々木:では、その中で、今日は特にBXの部分をお伺いするために、この5月に電通グループと資本業務提携を結んだばかりの、ドリームインキュベータの社長・三宅孝之さんにも来ていただきました。

三宅さん、ドリームインキュベータの事業領域について、簡単に教えていただけますか

三宅孝之。株式会社ドリームインキュベータ代表取締役社長COO
三宅孝之。ドリームインキュベータ代表取締役社長COO

三宅:ドリームインキュベータはコンサルティング会社でありながら、業務改善やコスト削減といったオーソドックスなコンサルティングをやらない不思議な会社です(笑)。

では何をやっているのかというと、我々は「ビジネスプロデュース」と言っているのですが、大手企業に特化して、1000億円、3000億円、あるいは1兆円という規模の新規事業を創造する部分にコミットしています。

こうした規模で事業創造を行なう場合、重要なのは戦略よりもその手前の構想なんです。つまり、「世の中はこうあるべきだ」とか「業界の構造をこう変えなければならない」といった個社の枠を超えた発想の部分ですね。そのために仲間を増やし、必要に応じて政策やルールの変更を働きかけ、産業そのものを創っていこうというやり方です。

たとえば、日本では絶対に普及しないと言われていたLED照明を、メーカーや経産省と話しながら制度や補助金の在り方などを変えていくことで広めたり、というようなことをやってきました。

DIのビジネスプロデュースの特徴

佐野:面白いですよね。電通の場合はこれまで、ひとつひとつの企業、個社と向き合ってベストを追求するスタンスでしたから、産業全体を変えようというスケールの大きさは興味深いものがあります。

一方で、我々もまた、自社を「Integrated Growth Partner」と規定しており、企業の成長を通して社会全体を良くしていきたいという理念を持っています。まさにこの点がドリームインキュベータさんと合致しているんですよ。

三宅:正直、電通グループとの提携が決まった時は社外を中心に驚きの声が多かったです。しかしいざ協業してみると、他社が改善、改善ばかりなのに対して、トップライン重視の「成長志向」という部分で、非常にカルチャーが近いことを実感しています。

佐野:DNAが似ているんですよね。互いに何事も最後までやりきる粘り強さも持っている。すでに何度も打ち合わせを重ねていますが、毎度話が尽きなくて何時間でも話していられるんですよ(笑)。

入山:めちゃくちゃ相思相愛じゃないですか。まあ、付き合い始めたばかりの頃というのは、そういうものかもしれませんが(笑)。

社会課題への取り組みをどう事業化するか

この5月に資本業務提携を結んだ電通グループとドリームインキュベータ社のディスカッションの様子①

佐々木:では、電通グループとドリームインキュベータのタッグで、どのような価値が生まれるのか。今回最もお伺いしたいのはまさにこの点になります。

佐野:ドリームインキュベータさんは、産業や社会という視点が非常に強いのですが、企業でいうとR&D(研究開発)がとても強い企業なんです。

一方の我々は、市場および生活者視点から機会を発見し、需要を創造するようなことをやってきました。こうした特性がぶつかり合うことで、新たな価値を作り出したり、市場/産業を創造したりすることに繋がるのではないかと考えています。

顧客の成長を通じて、日本経済と社会の持続的成長にコミットする

入山:経営学にストラクチャル・ホール理論というのがあるのですが、これはクラスタとクラスタの間のハブの部分にいる人や企業が、最も価値を生み出すという考え方です。

両社の提携はまさにこれで、おそらく日本中のシーズ(ドリームインキュベータ)とニーズ(電通)の間をブリッジできるハブになり得るし、そこで新しい価値創造を目指すってことですよね。

佐野:見事な解説をありがとうございます!

この5月に資本業務提携を結んだ電通グループとドリームインキュベータ社のディスカッションの様子②

三宅:実際、僕らの話を聞いた電通さんから、いろんなアイデアが次々に出てくるので驚いています。そして、それを聞いた僕らのほうにも新たな視点が生まれ、構想がどんどん進化していくんです。

入山:価値創造とはイノベーションであり、イノベーションとは組み合わせなのだと僕は考えています。既存の物であっても、意外な物が繋がり合うことで、新たな知見やアイデアが生まれるというのは、経済学者のヨーゼフ・シュンペーターが80年以上も前から指摘していることです。

シーズサイドのドリームインキュベータとニーズサイドの電通は、それぞれまだお互いが認知していない構想・知見をたくさん持っているはずで、今後は現時点でまだ想定すらしていないような発想や「新しい言葉」がたくさん生まれるのではないかと期待してしまいますね。

佐々木:ちなみに2社自身で市場を生み出すんでしょうか? それとも他企業とも組んで?

佐野:もちろん、さまざまな企業様と一緒に取り組みたいと考えています。どんな市場も、ビジネスにならなければ持続せず、コストで終わってしまいます。

たとえばサステナビリティ、脱炭素の領域などでも、きちんとビジネスになり、企業にも、生活者にも喜んでもらえる事業なり市場が創造できることが理想ですよね。

この5月に資本業務提携を結んだ電通グループとドリームインキュベータ社のディスカッションの様子③

入山:社会課題への取り組みは非常に重要ですが、それをどうお金にするかが問題です。

三宅:仰る通りで、我々もずっとテーマにしているのは、「社会課題を解決し続けるような仕組みを作る」ことです。

実際いろいろなことをやってきているのですが、ポイントは、これまで見逃されてきた価値をちゃんと認識させて、それにお金を払うというビジネスモデルをどれだけ作れるかです。

今後、具体的にやっていきたいことの一つとして、サステナビリティに通じるビジネスプロデュースを考えています。

たとえば二酸化炭素の吸収源などのトピックスがあります。CCS(排出されるCO2を回収し貯留する技術)などの技術もありますが、インパクトが大きいのは森林、具体的には木を植え替えることでCO2の吸収量を高めることです。

そういった取り組みをどう価値化し、世の中にどう広めてビジネスにするかということを、電通さんと一緒にやっていきたいと思っています。

入山:具体で聞くとすごいですね。

佐々木:ヒントが見えてきますね。ちなみにこだわる必要はないかもしれないのですが、今回、日本企業同士が組むことには、どういった意味がありますか?

佐野:そうですね、我々はともに日本オリジンの会社なので、日本企業の皆様と、日本社会や日本の生活者のみなさんが幸せになってくために、志を持ってやっていきたいなと思っています。

三宅:日本は、技術を含めて、本当にすばらしいものを持っていると思います。コロナワクチンも、決めるまでは遅くても、決めてしまえばものすごいスピードで動く。世界はもっと日本の企業を使うべきだと感じますね。

入山:僕はこの先10年でまた大きな変革が起きると思っています。デジタル化の波に数年内に自動翻訳が加わり、これまで言語で守られてきた日本のサービス産業が打撃を受けるのではないかと。

入山 章栄 早稲田大学ビジネススクール教授②

入山:そんな中で、「日本のサービス産業」である電通やドリームインキュベータが出せる価値が何かというと、パッションとか人脈とか、一緒に物事を構想していくといった、言語だけじゃないソフトスキルの部分ですよね。

それって簡単にデジタルだと突破されないもので、多分この両社とも強い部分なのではないかと思って期待しています。

「妄想力と実現力」で変革をもたらす

佐々木:最後に佐野さんと三宅さんに、これからどのような成長と変革をもたらしたいか、キーワードでお聞きしましょう。佐野さんからお願いします。

この5月に資本業務提携を結んだ電通グループとドリームインキュベータ社のディスカッションの様子④

佐野:私は「非連続」です。先ほどお話した「S字カーブ」の成長ですね。日本企業は非連続の成長、つまりイノベーションが苦手とされていますが、そこをお手伝いできないかと考えています。非連続を続けることで、持続的な成長に繋げられればいいですね。

三宅:私は「南米スタイルのサッカー」です。これは「パ・リーグのバッティングスタイル」と置き換えてもいいのですが、何回も全力でシュートを打つ、あるいは全力でバットを振るような思い切ったことが出来るような世の中にしたいです。

日本はなかなか枠を超えたチャレンジが出来ないと言われますが、誰もが全力で、かつ、何度でもチャレンジできる社会をつくり、そのチャレンジの先にあるBX、事業創造を推進していきたいと思っています。

佐々木:そんなお2人のキーワードを踏まえて、最後に入山さんに総括していただきましょう。

入山:この両社の組み合わせから感じられるのは、「妄想力と実現力」に尽きます。突拍子もない妄想に聞こえるようなアイデアが、今の日本に最も欠けているものだと思います。

構想というのは妄想や夢から始まります。でも、その先にはそれを実現、実行する力がものすごく必要で、妄想はあるけどその実行力で力尽きる会社も多いわけじゃないですか。

実現力も併せ持つこの2社が、これからどんな面白いことを仕掛けていくのか、楽しみにしています。

佐々木:そうですね。今後も折りに触れ、様々な事業の進捗をお聞きしていければと思います。今日はBXについて興味深いお話を伺うことができました。皆さん、本日はありがとうございました。

番組視聴はこちらから。

電通の事業変革についてはこちらをご覧ください。