9.12 WEリーグ開幕
2021/09/11
日本で「女子サッカー選手」という職業がついに誕生!
9月12日に開幕する日本初の女子プロサッカーリーグ「WEリーグ」。WE(みんな)は、サッカーというものを通じて、社会におけるさまざまなカタチのWomen Empowermentの実現を目指している。このリーグについて、岡島喜久子チェアとマーケティング部マネージャーとしてリーグを支える中倉あかね氏に話を聞いた。
──お二人ともサッカーをされていたそうですが、なぜ、サッカーを選ばれたんですか?
岡島:やって面白い、見ていて面白いスポーツだからです。私がサッカーをやり始めた当時は、「三菱ダイヤモンドサッカー」というテレビ番組があって、ヨーロッパなどのサッカーを放映していたんですよ。で、スポーツとしてこんなに面白いものはないというほど、サッカーにすごく魅力を感じました。私は、もともと運動神経がよかったので、男子の中でサッカーをしていても、別に違和感はなかったんです。蹴れない、走れないという感じはなかったので、サッカーをやっていたというところがあります。
中倉:みんなの応援を背負って戦う選手がかっこいい!最初に親に連れていってもらったJリーグの試合でサポーターの熱気とか、その応援の声を背負って戦う選手がすごくかっこよく見えて、そのとき男女の境目がなくて、「わたしもああなりたい!」「サッカー始めたい!」と思いました。
中倉:もし、最初の試合で見たのが「女子サッカー選手」だったとしたら、本当に自分の将来の夢として捉えて、ずっとサッカーを続けたかもしれません。私は高校生になって「サッカー選手」というのが職業として現実的じゃなかったというのが正直あるんですね。そういう意味でWEリーグができて私みたいに途中であきらめちゃう子じゃなくて、最後まで職業としての「サッカー選手」を目指す女の子たちが増えるといいなと思っています。
──サッカーをするにあたって、どんな苦労がありましたか?
中倉:中学校では女子一人で、試合も出られなかったですし、たまに練習試合に出たりすると、「あそこのサイド女子だから狙え」と相手のチームの監督から言われたり、悔しい思いもしました。女子一人なので更衣室もなくて、服の中で服を着替えるというのをやっていて、なぜやめようと思わなかったかというと、純粋にサッカーが好きでサッカー選手がかっこいい、ああなりたいという気持ちがあったからだと思います。
高校では、たまたま女子サッカー部があって。ちょうど、2011年でなでしこジャパンが優勝して、女子サッカーの認知やサッカー部が増えていった時期だったんです。トップが強くなることで、普及の裾野拡大に与える影響を肌で感じましたね。私は、高校以降競技そのものからは遠ざかりましたが、だからこそ、サッカーにたくさんの女の子が触れたり、プレーできる環境づくりをしたいと思っています。
岡島:一番初めに壁にぶつかったと感じたのは、1977年にアジアサッカー連盟主催の国際大会に出場したときでした。台湾で行われたその大会にFCジンナンという単独チームで参加したのですが、その当時、女子はいないものとされていたので、サッカー協会には登録がなかったんです。
日本を代表していたのに、胸に日の丸をつけることができず、袖につけて出場しました。シンガポールやタイなどは代表チームがあるのに、日本にはなぜ代表チームがないんだろう。これがきっかけになり、台湾から帰って、女子の日本代表チームをつくろうと思いました。台湾の試合から2年後、私が大学2年生のときに、日本女子サッカー連盟をつくりました。
もちろん、私一人でつくったわけではありません。その当時、三菱重工が女子チームをもっていたので、三菱重工にお力添えいただいて、三菱を中心に女子サッカー連盟が誕生し、私がその初代理事メンバーになったのです。初年度の1979年は、女子チームの登録が51チームで900人ちょっとの規模でした。
他に苦労したことでいうと、グラウンドがありませんでした。河川敷で着替えるところもありません。泥がついたまま電車に乗って帰るか、3人でバスタオルを持ってもらってその中で順番に着替えるということをしていました。
「ジェンダー平等」「女性活躍」「みんなが主人公」を実現するリーグへ
──WEリーグは日本初の女子プロサッカーリーグですが、どんなリーグか教えていただけますか?
岡島:今まで「なでしこリーグ」というアマチュアのリーグが30年ほどありました。その中で、プロ契約をしているのが十数人。あとは、アマチュアとして仕事をしながら、サッカーをやっていくカタチでした。それが、今年からは250名のWEリーガーが生まれて、「女子サッカー選手」という仕事ができるようになりました。
スポーツリーグとしての特長は、社会的な意義をはっきり打ち出しているところです。Jリーグが始まるときも、スポーツを文化にするという意義を持っていたんですが、WEリーグの場合は、「ジェンダー平等」「女性活躍」を目指しています。
中倉:WEリーグは、女子サッカーがスポーツを通じて、夢や生き方の多様性にあふれ一人一人が輝く社会の実現、発展に貢献するという理念を掲げています。WomenをEmpowermentする、WomenがEmpowermentされるリーグでありながらも、女性やWEリーグから社会へ矢印を向けて、社会全体をポジティブな方向へ回していこうという気持ちを込めてつくったリーグ名および理念です。この社会的意義をサッカーリーグ、サッカー事業としてだけではなく、社会的な側面も含めて両輪で回していくことが大切だと思っています。
──具体的なアクション、活動について今どういう計画をされていますか?
岡島:まずクラブの参入基準として、スタッフの50%を女性にすることを定めています。さらに、役員、取締役など意思決定をする人にかならず女性を1名入れる。監督、コーチもかならず1人女性を入れることも参入基準に含めています。試合会場には、託児所を作るなど女性目線を入れています。
さらに、WEリーグには理念推進部という部が事務局にあって、クラブには理念推進担当をつくってもらっています。11クラブでリーグ戦を戦いますから、1クラブは必ずお休みになります。その1クラブは、理念推進活動ということで、地域のコミュニティとまず話をして、課題を見つけたり、始めは小学生や中学生にサッカーを教えるなど、選手が中心となって活動していきます。
また、WEリーガークレドというものを選手とともにつくりました。選手の言葉で、行動規範を定めています。初めは、「一人の女の子のためにプレーをする」と言っていたんですが、選手がミーティングを繰り返すうちに、一人の子供や女の子だけじゃないよね、大人もいるし、男性や男の子もいるよねということで、「みんなが主人公になるためにプレーする」になりました。議論を繰り返す中で選手の意識もどんどん進化しています。SNSの発信を見てもわかるように、そういった結果がもう出ていると思います。
みんなで、コレクティブインパクトを生みたい
──岡島チェアのお話にあるアクションを通して、どんなムーブメントをつくりたいですか?
中倉:「WE ACTION」という名称で社会活動を行っていくんですが、クラブ・選手が行う理念推進活動「WE ACTION DAY」の他に、パートナー企業の各社のみなさんと社会課題を把握し、何ができるかを考える「WE ACTION MEETING」という活動を予定しています。選手、クラブ、WEリーグ、パートナーがインクルーシブに横に手を取り合って、輪を広げていくような社会的パワーをつくっていくプラットフォームになることをWEリーグとしては目指しています。
──サッカーの魅力って、ずばりなんでしょうか?
中倉:ボールが1個あれば始められます。ルールも比較的簡単なので、初めての人でも観戦しやすいですよね。世界を見渡したときに競技人口が多いというのも魅力の一つだと思います。
岡島:プレーする面でいいますと、足でボールを扱うというのはサッカー以外ではあまりやらないですよね。やっているうちにどんどんできるようになっていくんですね。そして、足でボールを蹴ることは非常に気持ちいいことです。
もう一つは、サッカーの戦術的なところです。将棋みたいに、「次の次」の一手を考えてパスをします。この選手にパスをすればセンタリングをあげやすいなど自分のプレーがどう流れをつくるかを頭で考えながら、(監督に言われてやるのではなく)自分で考えて判断していくんです。これがサッカーの大きな魅力だと思います。
──開幕に向けて、楽しみにしていること、注目していることは?
岡島:一つは、外国人選手です。9月12日に7名をお披露目します。リーグとして世界一を目指すには、海外からトップ選手に来てほしいです。名前のすごく知れた選手はまだですが、その国の代表レベルの選手は来ます。ここは、今までの「なでしこリーグ」とは少し違うところだと思います。
もう一つは、パートナーとの取り組みです。Yogiboさんがタイトルパートナーなんですが、Yogiboクッションを選手のすぐ横に置いて、砂かぶりならぬ、「芝かぶりシート」をノエビアスタジアム神戸の開幕戦の試合から始めます。
それから、センサリールームというものを作ります。発達障がいのあるお子さんで、例えば知らない人の中に入ると怖い、光や大きな音に反応してしまい大声を出してしまう。そういったファミリーにもサッカーを楽しんでいただくために、ノエビアスタジアム神戸の防音設備のある部屋に2ファミリーずつ招待して、Yogiboのクッションシートに座ってゆったり試合を見てもらう取り組みを始めます。試合が始まると一旦サッカーが中心になるのですが、各クラブの理念推進活動もとても楽しみにしています。
パートナー企業とのさまざまなコラボも
中倉:今回、X-girlさんがオフィシャルサプライヤーとして7クラブにユニフォームを提供していますが、今までサッカーに興味がなかった方でもファッションを通じての情報発信など違う情報の届け方もあるので、そこも注目していただきたいです。そして、やはり開幕するとサッカーリーグのパフォーマンスも見どころです。選手のポジティブなパワーをWEリーグとしてみなさんにとどけることができたらと思っています。
──スポーツの力を、どのように伝えていきたいですか?
岡島:サッカーの面では、サッカーをする女の子を増やしたい。それには、選手が目の前でプレーする姿を見てほしいというのはもちろんあります。スタジアムまで来ていただくために、サッカースクールや理念推進活動などを通じて、選手と接する機会をクラブとつくっていきたいと思っています。
選手の面では、引退後の道筋をちゃんとつくってあげたいと思っています。例えば、C級ライセンスを選手のうちに取るために、JFAの方から講師を派遣して、どこにも行く必要がなくC級ライセンスを取得できるカタチをつくっています。このような仕組みがあれば、選手時代にB級を取り、引退してすぐにA級を取得することで「なでしこリーグ」で監督ができるようになります。
また、女子サッカーをやろうという国が増えてきました。女子サッカーの先進国である日本に指導者の派遣要請がすごく多くきていると聞いています。引退した選手には、数年アジアの国に行って指導者としてサッカーを普及させ、アジアの国のサッカーを強くしてほしいと考えています。選手にとっても、全く違う国で数年生活するのもすごくいい経験だと思うので、道筋を整えているところです。
女性が、一生サッカーとともに生きられる道を
──WEリーグの未来に向けて一言、お願いします。
岡島:女性にいっぱいスタジアムに来てほしいと思っています。アメリカだとファミリーが一番多いんですね。だから、歓声が高い声なんですよ。「なでしこリーグ」の試合を見に行くと、まだまだ30〜60代の男性がほとんどなので、歓声の声がすごく低いんです。
もっと高い声の応援も増えていくように、女性、子供、ファミリーがたくさんいるスタジアムの雰囲気をつくっていきたいと思っています。そのためには、サッカー以外のコンテンツがスタジアムにあるのも大切です。例えば、食べ物や服、お子さんが楽しめるイベントなどがあるスタジアムにしていきたいと思っています。
中倉:30年、50年、100年、WEリーグが続いていくことを常に目指し考えるリーグにならないと、女の子たちが目指したいと思えるリーグになれないと思っています。スポーツリーグでありながら、WE(Women Empowerment)リーグという名前を持っていますよね。
「Women Empowerment」は、「女性活躍」と訳されることが多いですが、私は「女性活躍」という言葉がしっくり来ていないんです。ジェンダー平等もそもそも女子とか男子とかじゃなくて、一人一人の個人を見ようよということをWEリーグでは伝えたいなと思っています。「Women Empowerment」の日本語訳が「女性活躍」にならない社会になる。そもそもなんで「WE」という名前にしたんだっけ、と社会から思われるくらいに、日本が変わっていく未来をWEリーグとしては目指していきたいと思っています。