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サステナブル時代をつくる、「連携」のヒント─Sustainable d Actions─No.1

紙コップが野菜に!?北九州市発、コレクティブインパクト

2021/09/27

サステナブルな社会の実現に向けて、電通グループが持つ課題解決能力を自分たち自身の変革、そして社会のために発揮する取り組み「Sustainable d Actions」。「d」は、dentsuとdiversity(ダイバーシティ)、そしてdynamic(ダイナミック)の意味が込められています。

本連載では、さまざまな「Sustainable d Actions」を紹介していきます。

初回は、北九州市が本拠地のJリーグサッカークラブ「ギラヴァンツ北九州」と企業、自治体などが連携したコレクティブインパクト(※1)の事例を紹介。スタジアムで使用された紙コップを堆肥化し、その堆肥で野菜を育てる実証実験(リリースはこちら)を、電通でSDGsやサーキュラーエコノミーの施策に取り組む堀田峰布子氏がレポートします。

※1 コレクティブインパクト:多様な企業・自治体との連携。

 

 

15の企業と団体、自治体が連携。「まるごと分解できる紙コップ」を堆肥化し、野菜づくりに役立てる

実証実験は、「ギラヴァンツ北九州」が2021年8月22日(日)、28日(土)に開催したイベント「ギラヴァンツサマーフェスティバル2021」にて行われました(※2)。

このプロジェクトは、三菱ケミカルとNTTビジネスソリューションズ、ウエルクリエイトがタッグを組んだところからスタート。電通、ギラヴァンツ北九州……と参加企業が増え、最終的には15もの多様な企業や団体がそれぞれの得意分野を連携させることで実現しました。

※2 イベントは新型コロナウイルス感染対策をしっかりと行い、来場人数を制限して開催されました。

 

Sustainable d Actions
三菱ケミカルが開発した生分解性プラスチックを使用した紙コップを、ギラヴァンツ北九州のイベントで提供。回収した使用済み紙コップを、NTTビジネスソリューションズとウエルクリエイトが「食品残渣発酵分解装置(フォースターズ)」で食品残渣物などと一緒に堆肥化。その後、堆肥の一部を地元の高校で野菜の栽培に活用し、収穫された野菜をスタジアムで販売する。このサッカースタジアムを起点とした地域食品資源循環型システムの実証実験には、他にも、飲料メーカーや自治体など、15の企業・団体が参加している。


通常の紙コップは内側に石油由来の非生分解性プラスチック「ポリエチレン」がコーティングされていますが、今回の実証実験では、三菱ケミカルが開発した生分解性プラスチック「バイオPBS (※3)」が使われた紙コップが製作され、スタジアムの売店などで使用されました。この紙コップは、飲み物の汚れや食品残渣(さ)も含め、まるごと堆肥化することができます。

スタジアムでは紙コップを回収するボックスが各所に設置され、今回の取り組みの概要と回収のお願いがスクリーンで呼びかけられました。イベントに集まった幅広い年代の地域住民やファンが試合や催しものを楽しみながら、この取り組みに参加しました。

※3 バイオPBS(生分解性樹脂BioPBS™:BioPBS™は、三菱ケミカルが開発、基本特許を有する植物由来の生分解性樹脂。自然界の微生物によって水と二酸化炭素に分解されるため、自然環境への負荷が少ないのが特長。また、他の生分解性樹脂に比べ、低温ヒートシール性・耐熱性・柔軟性などで優れた性能を有する。紙コップの内側のラミネート材料にBioPBS™を用いることで、紙コップ全体がコンポスト設備や土壌で分解可能となる。

 

Sustainable d Actions

紙コップは2日間合計で約3600個回収され、翌日には北九州市のリサイクルセンターに送られました。ここには、NTTビジネスソリューションズとウエルクリエイトが共同で提供する食品残渣発酵分解装置「フォースターズ」があります。

Sustainable d Actions
食品残渣発酵分解装置「フォースターズ」(右)で、紙コップが堆肥化される。

 
Sustainable d Actions
投入された紙コップは、サーべリックス(微生物由来の堆肥化促進剤)の力で、4日後には分解され、目視では跡形もなくなります。その後、2次、3次発酵と進み、約2カ月後には堆肥となり、北九州市の福岡県立行橋高等学校が栽培している野菜づくりに使われます。そして、来年の春には野菜が収穫され、スタジアムで販売される予定です。使用済み紙コップが堆肥となり、野菜を育てる。地域の中で循環するSDGsの取り組みが始まっています。

スポーツ・地域・企業が一体となって生まれる新しい循環

北九州市は環境モデル都市としてさまざまなSDGsに取り組んでいます。その北九州市で地域と密着しながら、SDGs達成のために独自の活動も積極的に行っている、ギラヴァンツ北九州。印象的だったのが、今回の実証実験は「特別」ではなく、「当たり前」に行っているSDGs活動の一環である、と担当者が発言されていたことです。

サッカーチームでありながら、なぜ「当たり前」にSDGsに取り組むのか、なぜ、今回の実証実験に参画したのか。その理由を深掘りすると、スポーツ・地域・企業が一体となって取り組むことで見えてくる新たな循環の可能性が見えてきました。

ここからは、ギラヴァンツ北九州代表取締役社長・玉井行人氏へのインタビューから、その可能性をひもといていきます。

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ギラヴァンツ北九州代表取締役社長・玉井行人氏。

 “地域性を理解して、地域から本当の意味で必要とされるクラブとなる”

──なぜ、サッカーチームでありながら、いろいろなSDGs活動に取り組むのでしょうか。

強いチームをつくるだけでなく、地域に愛されるクラブに成長することを目標として掲げています。地域に愛されるためには、地域特性を理解して北九州という地域の人々が営んできたものを現代に置き換えて、共に成長していくことが重要です。

この街はかつての深刻な公害を克服して環境モデル都市になりました。そんな地域だからこそ、自分たちが率先してやらなければという思いで、2019年からさまざまなSDGs達成のための取り組みを行っています。

“スポーツ×地域×企業は幅広い世代の生活者を取り込んだ、新たな循環を生み出す”

──これまでの取り組みに比べて、今回、進化したポイントはどこですか?

私たちがなぜ、地域の中で率先してSDGs活動をやるべきなのか、それは、スポーツが子どもからお年寄りまで幅広い世代を抱えているからなんです。今回の実証実験は、この幅広い世代を取り込んだ循環になっていたことが、これまでの取り組みにはない進歩でした。

スタジアムに来場した子どもたちや家族、大人がこの紙コップで飲み物を飲み、飲み終わって堆肥になって、高校生にわたり、野菜が栽培される。そしてまた食べ物として子どもから大人まで集まるスタジアムに戻ってくる。地域の中でくるくると回るサイクルの中でさまざまな世代を取り込んでいくことができる。そういう循環ができる取り組みになっています。

また、ギラヴァンツ北九州は、三菱化成黒崎サッカー部が前身ということで、今回の三菱ケミカルさんとの取り組みは、我々にとってルーツへの回帰であり、ヘリテージでもあるというところも感慨深く感じています。地域・スポーツ・企業の源流が関わりあってまた新しい未来が生まれていく。このストーリーがとても意義深いと思っています。

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左から、三菱ケミカルの小林哲也氏、ギラヴァンツ北九州の玉井行人氏、NTTビジネスソリューションズの宮奥健人氏、ウエルクリエイトの中原信子氏、電通の堀田峰布子氏。

全国の地域へ。広がる「地域食品循環システム」

インタビューを通して、同じ社会課題解決を目指す多様なプレイヤーが、異なる強みを持ちつつ連携し取り組むこと、幅広い世代の生活者を取り込みながら循環させていくことで、これまでにない成果へとつながるポテンシャルが生まれることを、改めて感じました。

今回の実証実験で行った循環型システムも、数多くの企業や学校などの協力で形成されて、円滑に社会課題解決に取り組むことを可能にする「コレクティブインパクト」となりました。このシステムは、他の地域やスポーツはもちろんのこと、エンターテインメントやイベントでも応用できそうです。

実際、「自分たちのところでも展開ができないか」と、他の自治体やスポーツ団体、さまざまなイベント主催者から問い合わせが来ています。ギラヴァンツ北九州の今後の取り組みや、新たな「コレクティブインパクト」に、大いに期待を感じました。

電通グループはスポーツ、エンターテインメント、イベント、マーケティングなどの分野で蓄積した、さまざまな企業や自治体、団体、学校などとの連携およびその効果的拡大を可能にするノウハウを持っています。今後は、今回の実証実験で得られた成果に基づき、三菱ケミカル及びNTTビジネスソリューションズと共に、サーキュラーエコノミーの実現に貢献する、さらなる展開や、新たなソリューションの開発を進めていきます。 

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