サステナブル時代をつくる、「連携」のヒント─Sustainable d Actions─No.2
「カーボンニュートラル」は、企業価値向上の起爆剤になる
2021/10/15
国内外で関心が高まっている「カーボンニュートラル(温室効果ガス・CO2排出実質ゼロ)」の実現に向けて、各企業での取り組みが加速しています。
2021年8月24日、電通ジャパンネットワーク サステナビリティ推進オフィスと電通Team SDGsは、「カーボンニュートラル最前線ウェビナー 企業に迫るカーボンニュートラル対応の危機とビジネスチャンス」を開催しました。本連載では2回にわたって、ウェビナーの内容をレポートします。
今回は東京大学未来ビジョン研究センターの高村ゆかり教授による基調講演と、電通Team SDGsの竹嶋理恵氏、林祐氏によるトークセッションの内容をレポートします。
「2050年カーボンニュートラル」に向かうビジネス
最初に登壇したのは、気候変動とエネルギーに関する法政策などを研究している東京大学の高村ゆかり教授。カーボンニュートラルをめぐる世界的な潮流と国内の政策、金融市場の動向をもとに、今後企業に求められる対応を次のように解説しました。
世界の気温は19世紀と比べて、2011〜2020年に、すでに1.09℃も上昇し、この数十年で温室効果ガスの大幅な排出削減ができなければ、今世紀中に2℃を優に超える気温上昇が起こる可能性もあります。地球温暖化は大気や海洋、雪氷圏、生物圏に急速な変化を及ぼし、異常気象の頻度や強度にも大きな影響を与えます。
このような背景から、世界ではカーボンニュートラル(脱炭素社会)実現に向けた動きが活発になっています。2℃を十分に下回る水準に世界の気温上昇を抑える、1.5℃までに抑えるよう努力する=今世紀後半の脱炭素社会の実現、をめざす長期目標を明示した2015年のパリ協定のもとで、1.5℃までに気温上昇を抑える目標に相当する「2050年カーボンニュートラル」を目標に掲げる国は120カ国以上に及びます。日本も2020年に「2050年カーボンニュートラル」目標を宣言しました。世界的なカーボンニュートラルの潮流を受けて、国内でも2050年までにカーボンニュートラルを目標とする企業が増えています。
高村氏は、企業がカーボンニュートラルに動く理由について、気候変動が事業に悪影響やリスクを及ぼす可能性があることはもちろん、「金融市場やサプライチェーン全体で脱炭素化やCO2排出削減が求められるようになり、気候変動への対応が企業価値を左右する重要な要素になりつつある」と述べました。実際に金融機関・投資家が企業に気候変動リスクの情報開示を働きかけ、場合によっては議決権を行使することも起きています。
「国内でも、2050年までに投融資先ポートフォリオの温室効果ガス(GHG)排出量を実質ゼロにすることを表明している金融機関があり、この流れは今後も加速していくことが予想されます」(高村氏)
このように、企業や金融市場の動きは国内外のカーボンニュートラルをめざす政策からも大きな影響を受けていることが分かります。高村氏は、日本のGHG排出量の約85%がエネルギー起源であることから、今後は、エネルギー効率のさらなる改善とともに、「再生可能エネルギーの最大限導入」により力点が置かれるようになると予測。住宅・建築物のゼロエミッション化やガソリン車の新規販売停止なども強化される可能性があると言います。
さらに、日本の強みである技術力を発揮できるような新技術の社会実証・社会実装のための制度・ルール・インフラの整備を進める政策が必要であること、企業の温室効果ガスの排出削減をファイナンスで支援する「サステナブル・ファイナンス」の政策動向にも注目すべきとのことです。
最後に高村氏は、今起きている変化の中で企業に求められることを下記のようにまとめました。
「気候変動への対応だけでなく、サーキュラーエコノミーや生物多様性に対する投資家たちの関心は非常に高まっています。カーボンニュートラルをはじめとするサステナブルな製品・サービスをつくることは、取引先や投資家からの評価を高めることに直結するのです。そして、一つの企業がつくる製品・サービスが、他の多くの企業を支えていることを考えると、カーボンニュートラルに取り組むことが取引先のお客さまの企業価値を高めることにもつながると考えることができるでしょう」
「電通カーボンニュートラル生活者調査」からのヒント
続いて登壇したのは、電通Team SDGsでプロジェクトリーダーを務める竹嶋理恵氏と、同チームでSDGsコンサルタントを務める林祐氏。生活者のカーボンニュートラルへの意識や取り組んでいる企業イメージを明らかにする定点調査「電通カーボンニュートラル生活者調査」の結果から、今後企業が取り組むべき施策のヒントを導き出します。
はじめにカーボンニュートラルという言葉の認知状況についてのヒアリング結果では、半数以上の人が聞いたことがあると回答。年代別に見ると、年齢が上がるにつれて認知度も上がる一方で、10代の認知度も高いことが分かりました。林氏は「SDGsの認知度を調査した際も、グラフは同じようなカーブを描いていました。10代の若者はサステナブルへの感度が高い傾向にあることが分かります」と解説しました。
続いて、カーボンニュートラルの成長が期待できると政府が発表している重点14分野に対する取り組みの認知度調査では、「再生可能エネルギーの主力電源化」「自動車の脱炭素化・蓄電池技術の実現」「資源循環型社会の実現」の3分野の認知度は比較的高かったものの、他の分野の取り組みはまだ生活者にあまり知られていないことが分かりました。
さらに、世界の取り組みについてのヒアリングでは、どの分野でも「世界のほうが積極的に取り組んでいる」という認識が多数との結果に。竹嶋氏は、「取り組みの中身を詳しく見ると、日本企業のほうが進んでいる分野もあるように感じます。しかし、一般の生活者は世界のほうが進んでいるというイメージを抱いているため、世界に比べて日本企業がどうなのかをしっかりと伝えていく必要があると思います」と実情とのギャップについても解説しました。
同調査ではさまざまな産業から合計40社の企業をピックアップし、各企業のカーボンニュートラルへの取り組みに対する認知度と期待度を調べています。この結果を業界別にマッピングすると、業界ごとの現在地が見えてくると、両氏は言います。
「例えば自動車業界は、カーボンニュートラルへの取り組みの認知度も期待度も比較的高い傾向にあります。これは、各企業の取り組みも、業界としての取り組みも、カーボンニュートラルとの結びつきを理解しやすいことが要因として考えられます」と林氏。逆に不動産業界や建設・住宅業界は、各企業も業界としてのイメージもカーボンニュートラルとして結びつきにくいため、認知度・期待度共に低い傾向にあるとのことです。この結果から、業界ごとに取り組むべき施策のヒントが見えてくることを解説しました。
①認知度大・期待度大(自動車業界)
カーボンニュートラルをけん引していく業界。業界の垣根を超えた取り組みや、海外に向けた情報発信が求められる。
②認知度小・期待度大(輸送業界、電気機器・機械業界、エネルギー業界)
感度の高い人には伝わっているため、今後はより多くの生活者に認知を広げる活動に注力する。その際、分かりやすく生活者の暮らしに結びつけることがポイント。
③認知度大・期待度小(食品業界、小売業界)
生活者との接点だけでなく、バックグラウンドも含めたチェーン全体でのカーボンニュートラル化を推進する必要がある。同時に、顧客体験でカーボンニュートラルを実感できるような取り組みや情報発信もカギに。
④認知度小・期待度小(不動産業界、建設・住宅業界、通信業界)
業界のカーボンニュートラルへの取り組みが、生活者の暮らしにどう関係するのか、何をもたらすのかを説明することが不可欠。
竹嶋氏は「すでに多くの企業がカーボンニュートラルに取り組み、徐々に生活者の認知も高まりつつあります。今後より理解や共感を高めていくためには、業界の特徴や自社の特性に合わせてコミュニケーション戦略を立てることが大切です」と見解を示しました。
最後に紹介があったのは、カーボンニュートラルに取り組む企業への意識に関する調査結果。生活者はカーボンニュートラルに取り組む企業を「応援したい」「信頼できる」と考えるだけでなく、「長期にわたって利用したい」「商品・サービスを購入したい・利用したい」と考える割合が半数以上いることが明らかになりました。
「カーボンニュートラルへの取り組みは、実利やエンゲージメントに関わる重要なものだと捉えることができるのです」と林氏は述べて締めくくりました。
今回紹介した基調講演とトークセッションを通して、企業はカーボンニュートラルに取り組むことで、投資家や取引先といったステークホルダーからの評価を高め、商品・売上の拡大や顧客ロイヤルティも向上させる可能性があることが分かりました。カーボンニュートラルへの迅速かつ積極的な対応が求められる一方で、この変化は大きなビジネスチャンスであると捉えることもできそうです。
次回は、カーボンニュートラル社会の実現と企業の成長を両立していくために企業が取り組むべきことについて、実際の事例を交えながら展開されたウェビナーについてレポートします!