サステナブル時代をつくる、「連携」のヒント─Sustainable d Actions─No.3
大手企業3社に学ぶ、カーボンニュートラルへの取り組み方
2021/11/19
国内外で関心が高まっている「カーボンニュートラル」の実現に向けて、各企業での取り組みが加速しています。
2021年8月24日、電通ジャパンネットワーク サステナビリティ推進オフィスと電通TeamSDGsは、「カーボンニュートラルビジネスウェビナー 企業に迫るカーボンニュートラル対応の危機とビジネスチャンス」を開催しました。
今回は、ウェビナーの中から、カーボンニュートラル対応に積極的に取り組んでいる企業の事例紹介をレポートします。小売業界からイオン、不動産業界から東急不動産、金融業界から三井住友フィナンシャルグループをゲストに迎え、東京大学未来ビジョン研究センターの高村ゆかり教授がコメンテーターを務めました。
イオン:商品・サービスを通じて、生活者の価値観を変えていく
■イオンの取り組み(一例)
・2018年に「脱炭素ビジョン2050」を発表。店舗のCO2などの排出総量ゼロを、2040年を目途に達成、2030年までにCO2など排出量35%削減(2010年比)を掲げる。
・グループで前年度(2018年度)比約3%減を実現。2010年度と比べると約10%減となる。・太陽光発電導入は2019年時点で累計1040店舗、7.4万kWhに。
・2025年までにイオンモールの100%再エネ(再生可能エネルギー)化、2030年までに中小型モールも含めて100%再エネ化を目指す。
・FIT(※1)終了世帯から余剰電力を買い取り、中部エリアでは年間再エネ調達量1600万kWhを実現。
・EV車を活用して各家庭の再エネを買い取り、店舗への利用や災害時の電力に充てる。
※1 FIT(Feed-in Tariff):再生可能エネルギーの固定価格買取制度。再生可能エネルギーで発電した電気を、国が決めた価格で買い取るよう、電力会社に義務づけた制度。FIT終了とは、10年の買取期間が過ぎてFITの適用が終了してしまうこと。
最初に登壇したのは、イオンの三宅香氏。基本理念に「平和」を掲げるイオンでは、環境保全なくして平和は成し得ないという思いから、長きにわたって環境やサステナブルへの取り組みに注力しています。
もともと2008年に「低炭素社会」を掲げていたイオンですが、近年の自然災害が事業に与える影響の大きさから、「私たちが率先して気候変動に対応しなければ、事業を継続できない可能性がある」という考えに至り、2018年に「脱炭素社会」の実現に舵を切りました。
イオンは、企業活動に影響を与える気候変動関連リスクを開示する国際機関「気候関連財務情報開示タスクフォース(TCFD)」にも、いち早く賛同しています。三宅氏は「実際にやってみると、自社の気候変動リスクを洗い出せるだけでなく、リスクを回避する施策までを真剣に考える機会が得られます。結果として、投資家の方々にも評価いただけますし、商品部など社内へのコミュニケーションにも活用できます」とTCFD賛同のメリットを説きました。また、脱炭素化の発表に対する反響も大きく、今まで接点がなかった企業から声をかけられるようになったそうです。
一方、脱炭素化は小売側だけでなく、サプライヤーや生活者とも一緒に取り組む必要があります。三宅氏は、「サプライヤーと生活者の間に立つ小売業の私たちが、双方とコミュニケーションを取り、思いをつなぐ重要な役割を担っていると感じます。特に日々、店舗に足を運んでくださるお客さまの意識や暮らしをどう変えられるかが非常に重要なポイント。私たちのコンセプトや理念をお伝えするにはどんな商品やサービスが必要なのか、もっと考えて工夫していきたいと思います」と、今後取り組みたいことを語りました。
コメンテーターの東京大学未来ビジョン研究センターの高村ゆかり教授は、「商品やサービスを通じて、生活者の価値観や社会を変えていくという発想は大変面白いですね。新しいビジネスチャンスにもなり得ると考えると、小売業にとっては、とてもやりがいのある取り組みではないでしょうか」と、同業種にとっての意義にふれて、感想を述べました。
東急不動産:2025年に自社の100%再エネ化 、もしくはRE100実現を宣言!
■東急不動産の取り組み(一例)
・2025年に自社のカーボンマイナス(※2)、2030年にサプライチェーンも含めたCO2排出量46.2%削減、2050年に排出ネットゼロを掲げる。
・2016年再エネ事業へ本格参入。全国67事業、定格容量1,197MW、41.3万世帯の電力使用量相当へと規模拡大(2021年6月末時点)
・北海道松前町と「再エネによる地域活性化」に関する協定を締結し、自社の風力発電所の電気を活用して、将来的に松前町で消費される電力の100%再エネ化を目指す。
・不動産業初のRE100(企業が自らの事業の使用電力を100%再エネで賄うことを目指す国際的なイニシアティブ)加盟を宣言。2025年度までに事業活動で消費する電力の100%再エネ化を掲げる。
・CO2削減の推進に向けた意識向上およびESG評価向上を目指し、社内炭素税の導入を検討。
・地域と再エネの共生による脱炭素社会を目指す業界団体「一般社団法人再生可能エネルギー地域活性協会(FOURE)」を設立。
※2 カーボンマイナス:自社のCO2排出量<再エネ創出などによる削減貢献量。
続いて登壇したのは、東急不動産の池内敬氏。東急不動産は「WE ARE GREEN」のスローガンのもと、全社的に環境経営に取り組んでいます。同社は宅地開発の技術や、地域と一緒に事業に取り組むノウハウを生かして、2016年に再生可能エネルギー事業に本格参入しました。その結果、テナントも含めた自社の電力は再エネで供給できる算段が立ったことから、RE100の目標を2050年から2025年に前倒しするという大きな決断をしました。
「再エネ事業者として一番先にやらなくてどうする、という社長の強い思いと、もともと社会貢献に積極的な社風もあいまって、早期の100%再エネ化に踏み切ることにしました」と池内氏。この発表は大きな話題となり、近年はテナントをはじめとする取引先企業からの再エネに関する問い合わせもかなり増えているようです。
同時に、自社だけでやれることは限られているという考えから、地域企業と連携して脱炭素化社会の実現を目指す団体「FOURE」を設立。「まだ立ち上がったばかりの団体ですが、地域とwin-winな関係を築きながら脱炭素を推進するためのさまざまなアイデアを出し合い、施策を検討しています」と池内氏は述べました。
続けて、「例えば、スマートシティ化に向けて公共の場にデータを取得するセンサを設置するためには、周辺の住民の方や事業者、行政と対話して取り組みを理解していただかなければなりません。先進的な取り組みは地域の理解なくして実現できませんから、当社が区画整理や都市開発事業で培ったノウハウを生かしながら、今後も提案や対話を続けていきたいと思っています」と語りました。
高村氏は、「脱炭素化社会に向けて、不動産業界の役割は非常に大きいと考えています。なぜなら、カーボンニュートラルは生活者一人一人の意識や行動を変えることが重要で、その変容を大きく左右する要素の一つが、私たちが住んでいる空間のデザインとマネジメントだからです。特に東急不動産には地域のステークホルダーと共創する経験と知識が豊富にあります。ぜひ地域と連携して、“心地良い脱炭素の住空間”を生み出していただきたいと思います」と、同社への期待を伝えました。
三井住友フィナンシャルグループ:丁寧な対話とサポートで、投融資先のGHG排出把握・削減へと共に取り組む
■三井住友フィナンシャルグループの取り組み(一例)
・2023年に投融資ポートフォリオにおけるGHG排出量(※3)の中長期目標開示、2030年の自社グループGHG排出量ネットゼロ、2050年の投融資ポートフォリオにおけるGHG排出量カネットゼロ実現を掲げる。
・グループCxOとして、グループCSuO(Chief Sustainability Officer)を設置し、経営管理体制の高度化を推進。
・気候変動をトップリスクの一つと捉え、顧客のGHG排出量の把握/開示を目指す。
・2030年までにサステナブルファイナンス実行額を30兆円に設定。
※3 GHG(Greenhouse Gas)排出量:二酸化炭素やメタンなどの温室効果ガスの排出量。
最後に登壇したのは、三井住友フィナンシャルグループの竹田達哉氏。グローバル規模の金融業界ではパリ協定採択以降、気候変動を金融市場のリスクと捉える議論が活発に進められてきました。ここ数年でEUを中心とした気候変動関連政策が次々と生まれ、近年その動きはさらに加速しています。
三井住友フィナンシャルグループはグループとしてのCO2排出削減はもちろんのこと、金融監督当局と産業界の間に立ちながらトランジション(脱炭素化に向けた移行、およびそのためのファイナンス)を進める立場として、投融資先のGHG排出の把握と中長期目標設定、リスク管理の強化、脱炭素化ビジネス推進を一体で進める役割を担っています。
その中でも注目すべきは、グリーンファイナンスを含むサステナブルファイナンス実行額の上方修正です。もともと2020年に同グループはグリーンファイナンス実行額10兆円を目標に掲げていましたが、グローバル規模での需要が大きく、1年間で実行額は2.7兆円に到達したそうです。「特にサステナビリティに関するお客さまからの問い合わせは昨年比7〜9倍と、市況の変化が顕著に表れています。世の中の潮目が変化したと捉え、よりアグレッシブにサステナブルファイナンスを実行していくことを決めました」と竹田氏。
一方、「一大プロジェクトになる」と竹田氏が述べたのが、投融資先のGHG排出量の管理・削減です。投融資先企業の規模や業態はさまざまで、サプライチェーンの仕組みや商品ライフサイクルもそれぞれ異なります。「それぞれのお客さまに適した対応が必要であり、その意味ではわれわれ行員のスキルの変革も求められます。例えば、財務状況だけでなく環境問題も含めた非財務情報の観点から対話をできるかどうかもポイントになるでしょう」と竹田氏。
そして、「決して金融機関の都合だけで進めるのではなく、カーボンニュートラルの世界を作るために一緒に変わっていく必要があります。そのお手伝いをさせていただくために、GHG排出量を把握するツールも開発して、できるだけ負担をかけずに進めていきたいと考えています」と語りました。
もう一つの論点として、トランジションの難しさをどう乗り越えるかという課題があります。トランジションには技術革新への投資を伴うケースが多く、将来的に商品が生み出せればキャッシュフローに変わりますが、研究開発だけだとキャッシュアウトが続いてしまうので、投資としては厳しい側面があります。「不確実性が伴うトランジションは、間接金融のリスク・リターンだけでは難しいので、公的なファイナンスと組み合わせてサポートするなど、リスクを分散する仕組みが必要だと考えています」と、国や公的機関のサポートの重要性について言及しました。
高村氏は、「三井住友フィナンシャルグループが取り組んでいる投融資先企業のGHG排出量把握や情報開示に関するサポートは、結果的に企業の戦略強化につながり、中長期的な企業体力を高める大切な取り組みだと考えています。特にサプライチェーン全体での排出削減が社会的に求められている状況を踏まえると、大企業だけでなく中小企業もサポートする金融機関の役割は大きいでしょう。
また、最後に課題として挙げていただいたように、新しい技術開発など不確実性を伴うトランジションへのファイナンスは高いリスクを伴う可能性もあります。こうしたリスクを、国や社会がどう分担するのか、その仕組みを作ることの重要性をメッセージとしていただいたと感じています」と感想を述べました。
自社はもちろん、取引先やお客さまのカーボンニュートラル支援にもチャンスあり
三者三様の先進的な取り組みを知ることができた今回のウェビナー。最後の総括として、高村氏のコメントを紹介します。
「いずれも日本で先陣を切ってカーボンニュートラル対応をされている企業ですが、さらに近年の社会動向を受けて取り組みをより強化されている点が印象的でした。また、ただ単に自社の排出を減らすだけでなく、取引先やお客さまのカーボンニュートラルも支援していくという考え方が、3社に共通していてとても興味深く聞いていました」
また、これからカーボンニュートラルに取り組みたいと考えている企業へのアドバイスをこう話しました。
「まずは自社のビジネスにカーボンニュートラル対応を組み込む、これが最初の一歩として重要だと思います。その際、気候変動に対してどういうリスクとビジネスチャンスがあるのか、中長期的な視点で考えることが必然的に求められますので、改めて自社のビジネスと経営課題をチェックする良い機会になると思います。それから、自社だけでなくお客さまもカーボンニュートラルの課題を抱えている可能性が高いため、お客さまに対して自社のビジネスでどのような対応ができるかもポイントです。そこにも大きなビジネスチャンスがあるのではないでしょうか」
ウェビナーを終えて……
今後日本全体で取り組んでいかなくてはいけない「カーボンニュートラル」について、高村先生をはじめご登壇の企業のみなさまそれぞれの立場から貴重なお話を伺うことができました。調査結果からみてもわかるように「カーボンニュートラル」への取り組みについては現時点でも消費者からも賛同の声が多いですが、それぞれの企業の取り組みとなると消費者にとってはなかなかわかりづらく、まだあまり理解されていないのが現状かもしれません。
カーボンニュートラルの実現に向けては企業努力や取り組みについて、きちんとその目的や目指すところ、それが社会や消費者にとってどんな貢献をするのかという価値についてわかりやすく伝えて、理解を得ることで、社会や消費者の意識や行動も共に変わっていくことが必要なのだと思います。今回のウェビナーがこれからみなさまがカーボンニュートラルに取り組まれるにあたって何かのヒントになれば幸いです。
電通グループでは今後も企業やメディアのみなさまと連携して、日本全体で取り組んでいくべきテーマに対してこのような形で定期的に情報共有やディスカッションの場を作っていきたいと考えています。状況はめまぐるしく変わっていくと思いますので、消費者や世の中の動きを捉えつつ、電通グループとしても貢献していきたいと考えています。
電通TeamSDGs 竹嶋理恵