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「国境炭素税」がもたらすビジネスチャンスとは?

2022/01/13

昨年、電通ジャパンネットワーク サステナビリティ推進オフィスと電通Team SDGsは、「欧州が進める国境炭素税 世界の潮流と求められる企業の対応」と題したウェビナーを開催しました。

国内外で関心が高まっている「カーボンニュートラル(温室効果ガス・CO2排出実質ゼロ)」の実現に向けて、EUでは2026年から「炭素国境調整メカニズム」(CBAM)、いわゆる「国境炭素税」を導入することを発表しています。

本ウェビナーでは、国境炭素税がもたらす産業界への影響とビジネスチャンスについて、有識者を交えて考えました。

登壇したのは、東京大学未来ビジョン研究センターの高村ゆかり教授と、電通Team SDGsの竹嶋理恵氏。両者のトークセッションを中心にお届けします。

過去のウェビナーレポートはこちら
「カーボンニュートラル」は、企業価値向上の起爆剤になる
大手企業3社に学ぶ、カーボンニュートラルへの取り組み方

 

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世界のビジネスに大きな影響を与えかねない「国境炭素税」とは?

今、世界ではカーボンニュートラル実現に向けた動きが活発になっています。2050年に温室効果ガス・CO2排出実質ゼロを目標に掲げる国は140カ国以上(2021年末現在)とEUに及び、日本も2020年に「2050年カーボンニュートラル」目標を宣言しました。このような潮流を受けて、国内でも2050年までにカーボンニュートラルを目標とする企業が増えています。

さらに各国では2030年目標の引き上げや関連政策の策定などにも注力し、EUは2021年7月に一連の気候・エネルギー関連法を改正する「Fit for 55」を公表しました。さまざまな新法令案の中でも特に産業界に大きな影響をもたらすと考えられているのが、2023年からの試行期間を経て2026年にスタートする予定の「炭素国境調整メカニズム」(CBAM)です。

これは、鉄鋼、セメント、アルミニウム、肥料、電力の5分野で、EU域外からの輸入品を取り扱うEU域内の事業者に対して、同じ物を域内で製造した場合にEUで支払いが求められる炭素価格に応じた価格の支払いを義務付けるというもの。輸入者は輸入品の量とその炭素排出量を申告し、輸入品の排出量に相当する分の「CBAM証書」を購入することで炭素価格を支払わなければなりません。

日本のメディアでは「国境炭素税」と呼ばれているこの制度。東京大学教授の高村氏は「現状、日本の産業に及ぼす直接的な影響は相対的に小さいと考えられます。しかし、EUでは引き続き対象製品の拡大の可能性を検討することとしており、また、日本国外の生産拠点で製造した製品をEU域内に輸出する際の影響や、EU域内の生産拠点で鉄鋼などの対象製品を輸入して製品を製造している場合の影響などもありえます。今後の動向を引き続き注視する必要があります」と述べています。

製造過程の排出量把握が欠かせない時代に

では、国境炭素税は今後の産業界にどのような影響を与え、そこにはどのようなリスクとビジネスチャンスがあるのでしょうか?ここからは、高村氏と電通Team SDGsの竹嶋理恵氏によるトークセッションの様子をお届けします。

竹嶋:はじめに、そもそもなぜEUは国境炭素税を導入しようと考えたのか、その背景を教えていただけますか?

高村:2030年目標の引き上げが密接に関係しています。これまでの「1990年比で少なくとも40%削減」目標を、「少なくとも55%削減」に大きく引き上げたことで、排出削減対策を強化せざるを得ない状況があるのです。一方、国際競争にさらされている欧州の企業にとっては、EU域内だけではなく、域外での対策も強化してくれないと競争上不利になってしまいます。

竹嶋:なるほど、気候変動対応という大義だけでなく、欧州の産業をきちんと守ろうとする意図もあるわけですね。こうしたEUの動きに対して、アメリカはどうなっているのでしょうか?

高村:アメリカでも国境炭素税のような措置は2000年代から議論され、提案されていましたが、なかなか国内の対策の水準が引き上がらなかったこともあって、導入に至る動きは多くありませんでした。しかし、2021年1月に誕生したバイデン政権のもとで「2005年比50〜52%削減」という大きな目標が掲げられたために、国境炭素税に関する関心があらためて高くなっています。

竹嶋:そのような欧米の動きと比べると、日本はかなり遅れてしまっている印象があります。

高村:これまで日本では、炭素に価格を付けるという議論はなされてきましたが、具体的な措置の検討はなかなか進んでいませんでした。しかし、2020年に発表した「2050年カーボンニュートラルに伴うグリーン成長戦略」では、「産業の競争力強化やイノベーション、投資促進につながるよう、成長に資する炭素の価格付けについてはちゅうちょなく取り組む」という方向性が示されています。

私が課題に感じているのは、例えばエネルギーに関連して相応の金額を支払っていると感じている企業も少なくないと思うのですが、国外からは「日本は炭素価格をあまり払っていない」と見られていることです。支払いが必ずしも炭素比例になっておらず、“炭素に対する価格”として十分に見える化できていない点に問題があるのではないでしょうか。

竹嶋:つまり、事業や製品について炭素の価格をどう見える化するか、その前提として、排出量の測定や可視化が大きなキーポイントになるわけですね。

高村:はい。国境炭素税では、製品の製造過程でどれだけ炭素を排出しているのかを報告して支払額が決まるわけですから、まずは自社が製造している製品の排出量をしっかりと把握することがこれまで以上に重要になると思います。

特に今後、鉄鋼、セメント、アルミニウム、肥料、電力の5分野から対象が拡大する可能性も考えると、「Scope3(※)」といわれるサプライチェーンにおける排出量も把握することが本当に大切になるでしょう。

※事業活動に関する温室効果ガス排出量を算定する際、Scope1、Scope2、Scope3と分けて算定される。Scope1/事業者自らによる温室効果ガスの直接排出(燃料の燃焼、工業プロセス)。Scope2 /他社から供給された電気、熱・蒸気の使用に伴う間接排出。Scope3 / Scope1、Scope2以外の間接排出(事業者の活動に関連する他社の排出)。


 

国境炭素税は各業界にビジネスチャンスをもたらす

竹嶋:今後、国境炭素税が導入されていく中で、日本企業が向き合うべきリスクについて教えていただけますか?

高村:現在対象となっている5分野に関しては、日本からEUに直接輸出している量はゼロかそれほど多くありません。ただ、海外に生産拠点を置いてEUへ輸出されているケースもあると思いますので、そうした場合も含めて事業への影響、リスクを評価することが必要になると思います。特に対象5分野については2023年から排出量の推計・報告が始まるので、いち早く対応を進めなければなりません。

竹嶋:なるほど、対象5分野以外の業界はどのようなリスクを想定すべきでしょうか?

高村:欧州議会は一貫して、できるだけ多くの産品を国境炭素税の対象にすべきだといっています。国境炭素税の気候変動対策としての制度の趣旨=EUに輸入される製品に伴う域外の排出量を削減するという趣旨からすると、サプライチェーン排出量が大きい分野、例えば、自動車、電気・電子製品は対象候補になりやすい分野だと思います。

竹嶋:一方で、国境炭素税をビジネスチャンスと捉えるならば、どのようなことが考えられますか?

高村:国境炭素税が導入されると、製造過程での排出量を減らした製品が市場から評価され、コスト競争力を持つようになるのは間違いありません。それに伴い、各業界のカーボンニュートラルへの取り組みを支援するビジネスが拡大すると思います。例えば、製造に必要なエネルギーを低炭素・脱炭素で提供できるエネルギー事業ですとか、製造プロセスや輸送も含めたロジスティクス分野における排出を減らすことができる設備・装置など、脱炭素の要請にソリューションを提供できる製品や事業にも大きなニーズが生まれるでしょう。

竹嶋:低炭素・脱炭素を実現できる施設へのニーズが生まれると考えると、不動産や、企業を誘致する自治体にもチャンスが広がりそうですね。

高村:おっしゃるとおりです。製造プロセスも含めてサプライチェーン全体でどうやって排出量を減らすのかが問われています。ある飲料メーカーさんは、脱炭素対応の工場を新設したほうが製造プロセス全体の排出量を下げられると判断し、思い切って製造施設を新設しました。

竹嶋:リスクばかりではなく、ビジネスチャンスにも目を向けることが大切なんですね。

高村:おそらく今後、Scope3のサプライチェーン排出量をどう把握するかが企業の悩みどころになってくると思います。例えば、デジタル技術や情報システムを活用して企業の負荷を和らげることができるのであれば、排出量の把握・推計をサポートする製品やサービスなどはIT業界にとっても大きなビジネスチャンスですよね。

竹嶋:国境炭素税がさまざまな業界に関係するトピックだということがよく分かりました。これから企業が特に注視すべき動向はありますか?

高村:EUはもちろん、アメリカなども含めて国境炭素税に関わる政策の動向を注視することが大事だと思います。繰り返しになりますが、Scope3の排出量をどう管理するかが今後の課題になります。また、排出量だけでなく労働者の人権や社会的配慮の観点から自社のサプライチェーンを把握し、適切に管理することがより強く求められるようになるでしょう。

竹嶋:ありがとうございます。最後に大きな質問になってしまいますが、今後日本全体で国境炭素税に対してどのような動きをとることが求められますか?

高村:サプライチェーン排出量の把握は大企業だけの課題ではありません。サプライチェーンを支える中小企業も含めて、しっかりと排出量が把握できて削減につながる仕組みを作らなければいけません。国として、そういった取り組みを支援する制度・環境を整備する必要があると思います。

それから、先ほど申し上げたように、日本の今の制度は炭素の価格が外から見えにくい制度になっています。これは生活者にとっても、排出量が少ない製品を選ぶ際の支障になっています。製品から排出される量を誰もが分かりやすく把握・認識できるような仕組みを作るべきだと思います。

竹嶋:国の制度も含めて、企業単体ではなくサプライチェーン全体で力を合わせて対応していかないといけないということですね。本日はありがとうございました。

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