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サステナブル時代をつくる、「連携」のヒント─Sustainable d Actions─No.5

「サーキュラーエコノミー」で、消費や社会はどう変わる?

2022/02/01

2021年11月9・10日、電通ジャパンネットワーク サステナビリティ推進オフィスと電通TeamSDGs主催のオンラインセミナー「サーキュラーエコノミーを実現する新たな連携とビジネスの可能性」が開催されました。

サーキュラーエコノミーの実現に向けて、さまざまな企業・自治体が共同で実施した実証実験や事例をもとに、今後の連携やビジネスの可能性を紹介した本ウェビナー。ウェブ電通報では3回にわたってその内容をダイジェストで紹介します。初回は、サーキュラーエコノミーに取り組む企業のトップを中心に5人のスピーカーが、「サーキュラーエコノミーで日本を変える!」というテーマでセッションした、2日目の基調講演の模様をリポートします。

サーキュラーエコノミーウェビナー
(左から)モデレーターの飯田香織氏(NHK報道局 専任部長)、永田暁彦氏(ユーグレナ 取締役代表執行役員CEO)、澤田道隆氏(花王 取締役会長)、中台澄之氏(ナカダイ 代表取締役)、加藤佑氏(ハーチ 代表取締役)、竹嶋理恵氏(電通 TeamSDGs プロジェクトリーダー)

サーキュラーエコノミーに取り組む3社の実例

冒頭、サーキュラーエコノミーの実現に向けて先進的な活動を行う花王、ユーグレナ、ナカダイの事例紹介がありました。

花王は、洗剤などのプラスチック製の詰め替え容器のリサイクルを促進すべく、ライバル企業であるライオンと異例のタッグを組んだことで大きな話題となりました。2020年から東京都墨田区のイトーヨーカドーでスタートした実証実験では、使用済みの詰め替え容器をリサイクルボックスで回収。開始8カ月で計画の2倍となるフィルム容器5200枚の回収に成功しました。回収した容器は製品に再利用するだけでなく、再生ブロックなどにも活用し、地域のコミュニティや子どもたちと一緒にゴミを資源に変える社会の実現を目指しています。

ユーグレナ社は微細藻類ユーグレナ(和名ミドリムシ)の無限の可能性に着目したバイオベンチャー。微細藻類ユーグレナには、光合成により二酸化炭素を吸収して成長するほか、バイオ燃料の原料となる油脂の面積あたりの生産量が高く、環境負荷の低減に寄与する可能性があります。同社は2005年に世界初となる食用ユーグレナの屋外大量培養に成功したほか、日本初のバイオ燃料の製造実証プラントも建設し、近年は微細藻類ユーグレナの成分からプラスチックを開発する研究にも着手。バイオ燃料はすでに国内のバスやフェリー、飛行機などで使用実績があり、サーキュラーエコノミーの社会実装を加速させる気鋭のベンチャーとして注目を集めています。

ナカダイは群馬県前橋市を拠点とする産業廃棄物処理会社。国内における廃棄物のリサイクル率が53%程度なのに対し、同社では廃棄物の構造や素材を知り尽くしたスタッフが丁寧に素材を分解・分類することで99%という脅威のリサイクル率を誇っています。近年はブックオフとの協業でゴミの新しい利用方法を提案するショップを展開。子ども向けのワークショップも開催し、ゴミを資源に変える社会を目指しています。

今回は3社のトップに加えて、サーキュラーエコノミーに特化したデジタルメディアを運営するハーチ代表の加藤氏、電通TeamSDGsのプロジェクトリーダーを務める竹嶋氏の5人で、サーキュラーエコノミーの実現に向けた課題やアイデアについて議論しました。

サーキュラーエコノミー浸透度が低い日本。そのポテンシャルとは?

サーキュラーエコノミーを実現するためには、企業だけでなく生活者の意識変容や協力も欠かせません。電通と電通総研が実施した「サステナブル・ライフスタイル意識調査2021」(調査概要は末尾記載)で、日本でサーキュラーエコノミーという言葉を聞いたことがあると答えた人は全体の21.2%、内容を理解していると答えた人は全体の8.4%でした(中国は26.4%/64.4%、アメリカは20.2%/20.0%)。

サステナブル・ライフスタイル意識調査2021

竹嶋氏は「SDGsをはじめ環境関連のルールや法規制は欧米を中心に決まることが多いので、どうしても後追いになっている部分はあります」と前置きしつつも、「一方で、認知は他国に比べて低い日本ですが、サーキュラーエコノミーの考え方に共感する、今後自分の生活に取り入れたいと考える人は多いという調査結果も出ています。生活者に受け入れられる土壌はあるでしょう」と述べました。

一方、加藤氏は「自分の体感値よりは高い数字だと感じました。サーキュラーエコノミーを聞いたことがある人も含めると全体の3割ぐらいで、単純に人口換算すると4000万人ぐらいになりますよね?例えば、サーキュラーエコノミーが進んでいるといわれるオランダの人口は1700万人程度なので、すでに日本には4000万人のマーケットがある、とポジティブに捉えることもできます」と、市場規模自体の大きさに言及。「循環という概念自体、日本が古くから培ってきた文化やマインドにマッチしていると思うので、今後もまだまだ伸びる可能性があるでしょう」と期待を込めました。

循環にかかるコストは、未来への投資と捉えることもできる

続いて、サーキュラーエコノミーのための価格転嫁を生活者はどのぐらい許容できるのか?というテーマで議論。電通が2021年に実施した「第2回カーボンニュートラルに関する生活者調査」では、6割以上の人たちが「501円以上負担できる」と答えました。この結果について竹嶋氏は、「SDGsネーティブと呼ばれる10〜20代のほうが1000〜3000円といった高い金額でも許容する傾向にある」と解説。一方、全体としては高年齢層のほうが容認する人の割合が多く、「おそらくマスメディアを通して環境やサーキュラーエコノミーの話題に接触する機会が多いことが大きな要因の一つだと思います」と見解を述べました。

澤田氏は、自社の洗剤で洗濯にかかるエネルギーを低減できることをしっかりと訴求したところ、その商品を選ぶ人が増えてきていることから、「生活者の方々のエシカル(消費)に対する意識が高まってきている」と感じるといいます。

加藤氏も重ねて「僕の周りも、多少高くても環境に良いものを選択する人たちが増えている印象があります。企業にとっても、今はまだ旧来の直線型の経済のほうが合理的に感じるかもしれませんが、カーボンプライシングなどをはじめとする法規制が進むことは間違いないので、長期的に見るとサーキュラーエコノミーの合理性が担保されると思います」、とサーキュラーエコノミーに移行するメリットを指摘。

中台氏も「循環には当然コストがかかるのですが、それを単なるコストと捉えるか投資と捉えるかで意味合いは大きく変わります。例えば、サステナビリティへの意識が高い若い世代が10年後のメインターゲットになると考えると、あらゆるコストを未来への投資に変えることができるでしょう」と、加藤氏の意見に同調しました。

一方、永田氏は「価格転嫁」という言葉ではなく「フェアバリュー=誰かを搾取していない価格」という言葉を広めるべきだと提言。「日本で安い価格が成り立つ背景には、地球環境への負荷や児童労働など、何かしらの搾取が発生しているという事実をまずはみんなが受け入れるべきだと思っています」、と自身の見解を伝えました。

澤田氏も「洗剤や紙おむつなどの日用消費財ひとつとっても、欧米では日本と同じ品質の商品が倍以上の値段で売られているケースが多々あります。そうなると、例えば循環や再生にかかるコストを5〜10円価格に上乗せしても、全体としての値上がり率は日本よりも少ないわけです。生活者の意識が変わりつつある今こそ、このような海外とのギャップをもう一度見直すタイミングがきていると思います」と述べました。

こうした意見に対して、竹嶋氏は「そこは企業の皆さまも一番気になっていらっしゃるところだと思いますので、生活者の意識がどのように変わっているのかを国内外含めて常にチェックするとともに、皆さんと一緒に意識や行動をどのように変えていけるかを考えていきたいと思います」と答えました。

日本社会が変わるための5つの提言

基調講演の最後には、登壇者それぞれが日本を変えるために今最も必要なことをワンフレーズで表しました。

●澤田氏の提言「本気と継続/協働と連携」
サーキュラーエコノミーは環境価値と経済価値を両立させる必要があるため、生半可な覚悟では実現できません。本気で取り組み、諦めずに継続することが非常に重要なんです。そして、その「本気と継続」を支えるのが「協働と連携」です。当社もライバル企業と一緒に取り組むことで感じていますが、協働して支え合いながら本気でやり続けることで、社会を変えていくことができると思っています。

●永田氏の提言「企業選択」
企業選択というと、生活者がモノやサービスを選ぶという意味をイメージされると思いますが、今すでに日本中で活躍している方々ができる最大の企業選択は、転職だと思っています。これからの時代、サステナビリティに対して真摯(しんし)に向き合わない会社で働くことのリスクは高いですし、優秀な人ほどサーキュラーエコノミーやサステナビリティを正しく追っています。会社の根本的価値は人にあると私は信じているので、サーキュラーエコノミーに取り組む企業に人材が集まることで、ひいては生活者のアクションも変えていけると思います。

●中台氏の提言「消費を楽しむ!」
僕らは日々、廃棄物を受け取っているので、モノの残念な捨てられ方を見るたびに、自分が使った後のことを考えずに商品選択をしているのではないかと感じるところがあります。自分の商品選択でCO2がどれだけ削減できるのか、どこまでゴミにならずに済むのか、社会をどのくらい変えられるのかが分かると、消費がもっと楽しくなると思うんです。ゴミを出さないように我慢するだけじゃなくて、楽しめるような商品を選んで買うことが僕は大事だと思っています。

●加藤氏の提言「江戸時代」
日本の歴史をひもといてみると、実は、江戸時代も含めて古くから循環型の暮らしを続けてきたんですよね。例えば、1枚の布を無駄なく使い切る着物は、世界のファッション業界で注目されているサーキュラーデザインそのものです。こうした江戸時代のエッセンスに学び、現代ならではのテクノロジーなどを組み合わせて社会に実装することで、日本独自のサーキュラーエコノミーがつくれると思っています。

●竹嶋氏の提言「許容できる社会づくり」
SDGsやサーキュラーエコノミーは中長期かつ険しい道のりなので、企業も生活者も時には失敗もしながら試行錯誤していく必要があるのではないでしょうか。失敗を否定するのではなく、相手へのやさしさやリスペクトとともに失敗もお互いに許容して、理解しあうことで、本来の大きな志や目的を共有しながら、社会全体がポジティブに進んでいくための雰囲気づくりをしていけるといいなと思っています。

次回は、「サーキュラーエコノミーの全容と世界の最前線」と題した一日目の基調講演をリポート。企業がサーキュラーエコノミーに取り組む際に目指すべき方向性についてお伝えします。
 

【調査概要】
タイトル:「サステナブル・ライフスタイル意識調査2021」 
調査手法:インターネット調査 
実施主体:株式会社電通、電通総研 
調査時期:2021年7月8日~20日 
対象国:12カ国(日本、ドイツ、イギリス、アメリカ、中国、インド 、インドネシア、マレーシア、フィリピン、シンガポール、タイ、ベトナム)
サンプル数:4,800人
対象条件:18~69歳男女500人、ASEAN 6カ国は18~44歳男女300人
日本500人、ドイツ500人、イギリス500人、アメリカ500人、中国500人、インド500人、
インドネシア300人、マレーシア300人、フィリピン300人、シンガポール300人、
タイ300人、ベトナム300人
 
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