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サステナブル時代をつくる、「連携」のヒント─Sustainable d Actions─No.6

企業がサーキュラーエコノミーに取り組むべき4つの動機

2022/02/04

2021年11月9・10日、電通ジャパンネットワーク サステナビリティ推進オフィスと電通TeamSDGsは、オンラインセミナー「サーキュラーエコノミーを実現する新たな連携とビジネスの可能性」を開催しました。

サーキュラーエコノミーの実現に向けて、さまざまな企業・自治体が共同で実施した実証実験や事例などをもとに、今後の連携やビジネスの可能性を紹介した本ウェビナー。ウェブ電通報では3回にわたってその内容をダイジェストで紹介します。2回目は、「サーキュラーエコノミーの全容と世界の最前線」と題した基調講演をリポートします。

前回の記事はこちら
「サーキュラーエコノミー」で、消費や社会はどう変わる?


スピーカーとして、サーキュラーエコノミー・ジャパン代表理事の中石和良氏が登壇し、サーキュラーエコノミーの全体像や世界の動き、国内外の各産業の最新事例について講演しました。本稿ではその中から、企業がサーキュラーエコノミーに取り組む際に目指すべき方向性について一部をピックアップしてお伝えします。

Sustainable d Actions


 

サーキュラーエコノミーの3大原則とは?

現在、約79億人の世界人口は、2050年に約100億人に達すると国連は推計しています。世界銀行は、人口増などにより、2050年に約34億トンもの年間廃棄物が生じると推計(現在は約20億トン)しています。

すでに気候変動や資源枯渇を中心に地球規模でさまざまな影響が起きており、このままでは人類が安全で健康に暮らせない世界になってしまうことは明らかです。このような危機感から、世界は持続可能な社会の実現に向けて動き始めています。

ウェビナーの冒頭、中石氏は持続可能な世界を実現するために4つの目標があることを示しました。

①Planetary Boundaries(プラネタリー・バウンダリー)
地球の持続可能性に関わる要素を「気候変動」「成層圏オゾンの破壊」など、9つに分類し、それぞれの現在のレベルを「安定領域」「危険領域」「壊滅的領域」の3つに設定。相互関係を考慮しながら、各要素が安定領域にとどまることを目指す。

②Decoupling(切り離す)
経済成長と資源使用量の増加を切り離し、経済成長による人間の幸福を追求しながら、同時に資源の枯渇や環境負荷を低減することを目指す。

③2030 Agenda SDGs
2030年までに持続可能でより良い社会を目指す国際目標。17のゴール、169のターゲットから構成される。

④Paris Agreement(パリ協定)
気候変動問題に関する国際的な枠組み。人類最大の解決すべき課題としてカーボンニュートラルの実現を目指す。

この4つのゴールに向けて、いち早く支援を始めたのが投資・金融業界だと中石氏は述べます。実際にESG投資額は年々増加しており、2020年には3883兆円と世界全体の投資額の36%を占めるようになりました。こうした背景から、世界では政府や投資家、企業が中心となって4つの持続可能性ゴールの実現に向かっています。その実現の手段として注目されているのが、サーキュラーエコノミーです。

資源を採取し、製品を作って使用し、破棄して処分する「大量生産、大量消費、大量廃棄」というこれまでの「リニア(直線型)エコノミー」や、廃棄物をできるだけ減らそうとする「3Rエコノミー」とは異なり、「サーキュラーエコノミー」は、最初から破棄物や汚染を生み出さないように設計する経済システムです。

中石氏はサーキュラーエコノミーを理解する上で重要な下記の3原則を紹介しました。

①廃棄物・汚染・無駄を生み出さない設計
(人・環境への悪影響、経済の無駄、格差・人権など社会問題を含む)
②製品と原材料を使い続ける
③自然システムを再生する

「この3つの原則を常に念頭に置きながら、ビジネスモデルや事業のビジョンを設定していただきたい」と企業への期待を伝えました。

ビジネスモデルに固執せず、コンセプト設計から始めよう

企業がサーキュラーエコノミーに取り組む際、必ずと言っていいほど次の「5つのビジネスモデル」が参照されると中石氏。

・循環型原材料・素材供給
・シェアリングプラットフォーム
・サービスとしての製品
・製品寿命の延長
・資源回収とリサイクル

同氏は「これらにとらわれすぎると、間違ったビジネスモデルを構築してしまう可能性があるので、あまり固執しないでください」と注意を促しました。その理由として、上記5つのビジネスモデルは単独ではサーキュラーエコノミーが成り立たないことを述べ、企業や分野間の連携でライフサイクル全体を構築するビジネスモデルをつくらなければならないことを強調。まずサーキュラーエコノミーのコンセプトで設計されたプロダクトが必要で、それがあって初めてシェアリングプラットフォームや資源回収とリサイクルといったビジネスモデルが成り立つと解説しました。

特にサーキュラーエコノミーコンセプトによる製品は、リニア型の「プロダクトを作って売り切るという手法」ではメリットがないため、PaaS(Product as a Service:製品のサービス化)モデルを構築することが非常に重要だと述べました。

なお、サーキュラーエコノミーのビジネスモデルを構築する上でのポイントとして、中石氏は「直線型のバリューチェーンからバリューリサイクルという循環型への発想の転換」や「競合も含めた他企業・他分野・他領域との連携」などを挙げています。

また中石氏は、「頭をフラットに切り替えて、持続可能性ゴールを達成することは“果たして目的なのか?”ということを考えていただきたい」と提起。SDGsや気候変動緩和、生物多様性回復、廃棄物管理といった取り組みは、国や企業の目的・目標として捉えられがちですが、本来の目的は「人類のウェルビーイング。幸せと健康」だと自身の論を述べました。

「目的と手段が逆になってしまっているケースが多いのですが、目的は人類の健康と幸せであり(Why)、その手段として4つの持続可能性ゴール(What)が存在します。さらに持続可能性ゴールを実現する手段(How)としてサーキュラーエコノミーがあるのです」

企業がサーキュラーエコノミーに取り組むべき4つの動機

では、企業としてはなぜサーキュラーエコノミーを事業戦略に取り入れる必要があるのでしょうか?中石氏は4つの動機を挙げて解説しました。

①リスク回避
資源価格の高騰や資源自体の供給不安定といったリスク、気候変動や持続可能な社会に向けて取り組まない国に対する規制やカーボンプライシング、コロナ禍でも顕在化したグローバルなサプライチェーンリスク、投資家や顧客の喪失リスク。これらを回避する手段としてサーキュラーエコノミーに取り組む必要があります。

②ブランド強化
サーキュラーエコノミーに取り組むことで、投資家や金融機関、顧客や消費者からのポジティブな評価が得られることに加えて、従業員からの期待も高まり、優秀な人材の確保にもつながります。

③コストダウン
サーキュラーエコノミー=コストアップという捉え方をする企業も多いのですが、実はグローバル有力企業はサプライチェーン最適化や資源・エネルギー使用の効率化、廃棄物コスト削減など、トータルでコストダウンに結びつくという発想で取り組んでいます。

④収益創出・成長戦略
サーキュラーエコノミーで新たな収益源や新規事業モデルをつくり、新市場/顧客の獲得や事業ポートフォリオ拡大を目指します。そのためには、サーキュラーエコノミーを単純に「資源を循環させて廃棄物を出さない経済」と捉えるのではなく、「人類が永続的に繁栄し次世代のウェルビーイングを実現するための、経済社会システムの変革」と再定義することが重要です。

なお、欧州やアメリカ、中国などの海外諸国では国と企業が連携してサーキュラーエコノミーへの転換を目指していますが、日本ではサーキュラーエコノミーは政策化されず、企業の自主的な取り組みを促進するソフトロー的アプローチを取っています。

中石氏は「サステナブル・ファイナンス促進に向けて、経済産業省や環境省、金融庁がしっかりとしたガイドラインを打ち出し始めています」と話し、現時点でのグローバルなカーボンニュートラル環境を網羅した内容であることを評価。こうしたガイドラインを参照しながら、カーボンニュートラルのリスクを回避するとともにチャンスを捉え、企業戦略に取り入れてくことの重要性を伝えました。

次回は、電通グループと企業が共創した3つのプロジェクトについて、トークセッションの模様をリポートします。

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