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経営戦略としての「人事」No.2

いま、「人事」にとって必要なこととは?

2021/10/18

経営戦略としての「人事」

ご自身のキャリアをベースに、企業のあるべき姿、形を提言しつづける八木洋介氏。八木氏が説くテーマを、一言で表すなら「人事改革」だ。人事改革なくして、企業の持続的成長などあり得ない。「人材こそが、わが社の宝である」と多くの企業は言う。しかしながら、その宝を「持ち腐れ」させてはいないだろうか?記事化にあたっては、八木氏ウェビナー(※)を聴講し、独自のインタビューも試みた。

老いも、若きも、男も、女も、他国の人々も。さまざまな個性が、ひとつの企業に集う。そのことの意味、そのことの楽しさ、そこから生み出される未来というものを、八木氏が顧問を務めるサイコム・ブレインズの取り組みからひもといてみたい。私たち一人ひとりは、ただ単に企業という「箱」に押し込められた「道具」ではないという思いを込めて。

文責:ウェブ電通報編集部

(※)サイコム・ブレインズによる「八木洋介氏と考える、これからの会社をリードする人事に必要な学び~ポスト・パンデミックの世界で勝つ~」と題されたウェビナー。詳細は、こちら


タイトル1

前回の取材を踏まえて、八木氏にこんな質問をしてみた。「日本企業には、さまざまな問題点があると思うのですが、これまでのいわゆる『みんなで、頑張っていこうよ』といった『なあなあ体質』といったもののルーツは、どこにあるとお考えですか?例えば、島国であるとか、農耕民族であるとか」

八木氏からの回答は、シンプルだ。「一言で言ってしまえば、戦後レジュームの呪縛、でしょうね。そこから抜け出さないかぎり、なにも変わらないと思います。島国ということでいうなら、イギリスだって、ニュージーランドだって、島国です。農耕民族だから、狩猟民族と比べて、なあなあな体質になる?そんなわけないでしょう?世界中のほとんどの国で、農業は営まれています。農耕民族だからという理由で、戦略的人事改革ができないということにはなりません」

八木洋介氏: people first 代表取締役(前LIXILグループ執行役副社長) サイコム・ブレインズ顧問 1980年京都大学経済学部卒業後、日本鋼管株式会社に入社。96年National Steelに出向し、CEOを補佐。99年にGEに入社し、複数のビジネスで人事責任者などを歴任。2012年にLIXILグループ 執行役副社長に就任。Grohe, American Standard, Permasteelisaの取締役を歴任。17年 people firstを設立して、代表取締役。TBSホールディングス 社外取締役、GEヘルスケア・ジャパン 監査役。その他複数の会社の顧問に就任。著書に『戦略人事のビジョン』。
八木洋介氏:
people first 代表取締役(前LIXILグループ執行役副社長)
サイコム・ブレインズ顧問
1980年京都大学経済学部卒業後、日本鋼管株式会社に入社。96年National Steelに出向し、CEOを補佐。99年にGEに入社し、複数のビジネスで人事責任者などを歴任。2012年にLIXILグループ 執行役副社長に就任。Grohe, American Standard, Permasteelisaの取締役を歴任。17年 people firstを設立して、代表取締役。TBSホールディングス 社外取締役、GEヘルスケア・ジャパン 監査役。その他複数の会社の顧問に就任。著書に『戦略人事のビジョン』。

タイトル2
前回からの引用になるが、八木氏によれば、年功序列・終身雇用・企業内組合の、いわゆる「三種の神器」への依存体質こそが、諸悪の根源なのだという。「これらはいずれも、戦後の日本経済、日本企業を立て直す上で、一部の大企業では有効に働いていた。なぜか?理由は簡単です。1ドル360円の時代ですよ。それだけ、日本人の労働力は、国際的に見て軽んじられていたんです」

能力が低いわけでは、決してない。むしろ、高いといっていい。それだけの優秀な労働力を企業として確保していくためには、どうするか?例えば年功序列、例えば終身雇用。それを保障するかわりに、安い賃金で働いてください、ということだ。「そうしたメソッドが、成功体験として日本の企業にはいまだに刷り込まれている。この、1ドル100円の時代に、ですよ。能力を持った人間が、ひとつの企業に一生縛られる必要など、まったくないんです。自分を高く買ってくれる企業であれば、大リーグだろうが、スペインのクラブチームだろうが、どんどん出て行って活躍できるわけですから」

タイトル3

そうなると、あるべき「成果評価」とはなにか?ということが、当然、気になってくる。「簡単なことです。会社の目的と個人の目的を一致させること。その上で、会社が目的を達成するために貢献した人材、将来、貢献してくれるであろう人材に、光をあてるということだと思います」

地道な努力が日の目をみる、という表現がよく使われるが、そこには「たまたま運がよくて、なんだか社内でチヤホヤされる存在になった」といったニュアンスも同時に含んでいる。

「そうではないんです。会社と違う目的に向かってスタンドプレーをされても、意味はないですよね?それを必要としている会社で活躍してください、というだけの話。で、ここでひとつ、問題があるんです」

分かった。その目的をきちんと提示している会社が、驚くほど少ないということだ。「まずは、会社としてのビジョンをきちんと示すことが必要。社員とのエンゲージメントというものは、そこで初めて生まれるんです」。

八木氏によれば、社員の自立を妨げているものの一つが「キャリアを自分では決められない」ということなのだという。研修などでキャリア自立を促したとしても、社員が「これをやりたい」と言った時、それをまともに受け止める仕組みをほとんどの会社が持っていない。社員と組織が互いに選び選ばれる緊張感のあるキャリア形成とは何なのか?

「社員の自立と、会社がそれを上手く活用する仕掛けを持つことはセットなんです。組織がめざすもの(Purpose、ビジョンやバリュー)を明確にして、それに社員が共感する時に、『自分が頑張ることが組織にとってもプラスになる』という状態、つまりエンゲージメントが生まれます。キャリア形成や異動を通じてエンゲージメントを高め、業績を上げることが重要です」

コロナ禍のリモートワークで、優秀な社員の自立が促進した。今こそ、自立した社員を活用して、企業としての業績をあげるべきタイミングなのではないか。環境変化の時こそ、人事としてあるべき姿を考え、実践するチャンスなのだから。そう、八木氏は指摘する。そうしたメッセージを、真摯に受け止めたい。

サイコム・ブレインズによる講座は、こちら。

CCBP育成講座
~個のキャリアを支援し組織を強くする変革リーダーを育成する~

次世代戦略人事リーダー育成講座

■講師コメント(酒井章氏)

新型コロナによって起こったことは「キャリア・ショック」と呼ばれています。働き方をめぐるさまざまな環境変化に加え、在宅を余儀なくされたことで、多くの人がこれまでの、そしてこれからの人生や働き方を深く考えたのではないでしょうか。誰もが自分のキャリアに不安を持ついま、キャリア支援を行う人の役割がますます重要性を増しています。本講座は、このようなニーズに対応し、他の講座には見られないような多彩な講師陣からの豊富で多角的なインプットに加え、職種も世代も多様な参加者との刺激的な切磋琢磨(せっさたくま)によって、これからのキャリア支援職に必要とされるマインドとスキルをアップデートすることができます。

■講師コメント(山口周氏)

これまでの「正解」も「定石」も通用しなくなったいま、人に求められる要件も劇的に変化しました。それは、問題を自ら発見できる「意味」のある人です。一方、仕事に対するやりがいでは世界でも最低ランクに位置づけるなど、日本人の働き方は異常な状態に陥っています。そして、新型コロナという未曽有の事態の到来によって、潜在的に起こっていたこのような問題があらわになりました。いまこそ、企業における最大の資源である人財を生かすキャリア支援職の皆さんの出番ではないでしょうか。こうした問題意識に基づいて立ち上げられた本講座の理念に賛同し、講師として参加させていただきます。これからの働き方やキャリアをより良くする志を持った皆さんとディスカッションさせていただくのを楽しみにしております。


本記事の作成にあたっては、八木洋介氏に筆を入れていただくとともに、電通OB酒井章氏(クリエイティブ・ジャーニー 代表/電通アルムナイ・ネットワークマネージャー)に監修を依頼しました。

酒井章氏が代表を務めるクリエイティブ・ジャーニーのHPは、こちら

酒井章氏:
電通に入社後、コピーライター、営業(自動車担当)、マーケティングプロモーション部門を経て2004年よりシンガポール(アジア統括オフィス)に駐在。11年帰任後はグローバル部門を経て人事局、キャリア・デザイン局でキャリア開発施策を担当。19年3月定年退職後、4月に起業。

酒井章氏と電通キャリア・デザイン局(当時)大門氏によるアルムナビでの対談記事は、こちら