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すべてはパリパリのために!気象データを活用した、「チョコモナカジャンボ」のマーケティング戦略

2021/10/11

パリパリとしたモナカ皮の香ばしさ、まろやかなバニラアイスと板チョコのコク。森永製菓のロングセラーアイス「チョコモナカジャンボ」は、2020年に“20年連続の売り上げ伸長”を達成しました。

「すべてはパリパリのために!」というスローガンのもと、森永製菓が作りたてのおいしさを届けるために注力したのが、気象データをフル活用した「鮮度マーケティング」。今回は、同社の「鮮度マーケティング」に迫ったウェビナーをレポートします。

※本記事は、「新時代のサプライチェーン×マーケティングが進む方向とは~チョコモナカジャンボの鮮度マーケティングと気象データ活用の最新事例~」と題し、日本気象協会が2021年8月30日に開催したウェビナーを、ウェブ電通報編集部の視点で記事化しました。


ウレビヨリ

 

パリパリの食感を生かすため、“作りだめ”をしない

森永製菓の「チョコモナカ」が誕生したのは、今から約半世紀前の1972年。その後、幾度か容量変更などのリニューアルを行い、1980年には「チョコモナカデラックス」、1996年に「チョコモナカジャンボ」と改名。そして2020年度には、“20年連続の売り上げ伸長”を達成した。ここまで売り上げを伸ばせた大きな要因は、2000年頃から「鮮度」を重視したことだと、同社の冷菓マーケティング部の村田あづさ氏は強調する。

チョコモナカジャンボ
チョコモナカジャンボ

「モナカアイスは時間の経過や保管状態によって、アイスの水分がモナカ皮に移り、食感が損なわれてしまいます。モナカ皮のパリッとした状態を長期間維持するというのは、かなり難しい課題でした。しかし、社員は、出来たてに近いパリパリッとした食感のおいしさをお客様に提供できれば、『チョコモナカジャンボ』はもっと売れるはずだという確信を持っていました。そこで、『鮮度』にフォーカスしたマーケティングをスタートしたのです。

中間流通在庫をギリギリまで圧縮した状態を維持し、製造から短期間で『チョコモナカジャンボ』を流通させます。それを実現させるための、緻密な製造計画と製造体制の構築に取り組んできました。通常、アイスは、夏場の大きな需要に対応すべく数カ月前から作りだめをして在庫を積み増ししておきます。しかし、『チョコモナカジャンボ』は一切作りだめをせずに、夏に突入していきます。業界の常識では考えられない大きなリスクを取っているわけです」(村田氏)

この「鮮度マーケティング」を加速させたのが、気象データを活用した需要予測だと村田氏は言う。では気象データは、現在どのように企業のマーケティングに利用されているのだろうか?次のパートでは日本気象協会の話を紹介したい。

高精度化する気象データを企業のマーケティングに活用する動きが加速

「各企業様は、冷夏、猛暑、暖冬、厳冬といった天候の状況により、商品の売り上げや来客数に影響を受けます。欠品による機会ロス、作り過ぎによる廃棄ロスといった課題の解決にお役立ていただけるのが、気象データを使った需要予測です」

こう話すのは、日本気象協会シニアアナリストの小越久美氏。気象レーダーの観測が30分に一度だった20年前と比べ、今では誰もが分刻みの雨雲レーダーを見られるほどに気象データの精度は上がったと話す。「スーパーコンピュータの導入などにより、気象データの観測が充実して、天気予報の予測精度はこの15年間で30%も向上したといわれています。そして、高精度な気象予測を使った高精度な需要予測というのが、近年可能になってきています」(小越氏)

同協会は、高精度な気象データを活用し、商品需要予測サービスを展開。多くの企業がこのサービスを利用している。「私たちは、世界各国の気象データを収集し、独自技術で気象予測を高精度化し、各種予測モデルの開発を行っています。また、各商品のPOS(販売)データを企業様からいただき、エリアごとに商品が売れる気象条件を分析して、その結果を提供する取り組みも進めています」(小越氏)

同協会では、独自に市場の横断的な分析なども実施。例えば、さまざまな商材について、週平均気温が1度上昇すると何%売り上げが変化するかなどをカテゴリごとに調査している。「2020年8月下旬では、最も気温の反応が高いのが日焼け止めクリームで、気温が1度変化すると10%売り上げが変化します。続いて、氷菓、制汗剤、スポーツドリンク、ラクトアイス、美容・健康ドリンクなどが気温の変化の影響を大きく受けます」と、小越氏はデータを交えて説明した。

近年、各企業で進むDX(デジタルトランスフォーメーション)の実現には、「攻め」と「守り」のデータ活用が必要不可欠だと話すのは同協会の社会・防災事業部 気象デジタルサービス課eco×ロジプロジェクトリーダーの中野俊夫氏。

「攻めのデータ活用では顧客理解を深化させお客さまに寄り添い、守りのデータ活用ではサプライチェーンのデジタル化により無理・ムラ・無駄を低減します。さらに、企業間でデータを共有することによって1社では解決できない課題を社会全体で解決できる。私たちは、現在複数の企業と共にさまざまな課題解決に取り組んでいます」

気象データを「鮮度マーケティング」に活用

日本気象協会の高精度の気象データは、「チョコモナカジャンボ」の「鮮度マーケティング」にも大いに活用されている。森永製菓は、日本気象協会との取り組みを2017年にスタート。同社の物流部の新谷秀夫氏は、鮮度マーケティングの向上を目指すためには3つのポイントがあると話した。

「1つ目は『気象予測』。日本気象協会様による正確な気象情報で、ゴールデンウィークや最盛期の状況の把握に活用しています。2つ目が『全国の需要予測』。気象予測に基づき立案いただいた全国ベースの需要予測を月単位の計画などに活用しています。3つ目は『エリア別の需要予測』。全国各地の気象予測に基づいた週単位の需要予測を提供いただき、偏在の抑制に活用しています」

さらに、販売計画の作成の際は、14日先、3カ月先、6カ月先といった、短期・中長期の需要予測が用いられる。月単位での計画に役立てるほか、ゴールデンウィークや最盛期に向けた商品の販売計画の作成などに活用するという。これらの需要予測に加え、肝となるのが小まめな予測修正と情報共有だ。

「2018年6月の梅雨明けが早まった際は、日本気象協会様から需要予測の修正が入りました。予測の修正を受け、7月上旬から中旬に緊急増産を行い、私どもの想定以上の商品需要に対して安定した供給が叶いました。もう一つは2020年7月、2年連続で梅雨明けが遅くなってしまった際も、事前の情報共有により、7月の中旬から下旬にかけて減産を段階的に行ったことで不必要な在庫を持たずに済みました」

気象データによるテレビCMの出稿量の最適化が、売り上げに貢献

「チョコモナカジャンボ」の売り上げ増を実現できたのは、気象予測を元にテレビCMの出稿量を最適化できたことも大きいという。

実は、気象データをマーケティングに活用する動きは、広告領域にも広がっている。電通は日本気象協会の気象データを生かし、広告マーケティングの高度化を実現するフレームワーク「Weather Enhanced Marketing(以下、WEM)」を2018年に立ち上げた。

電通のデータ・テクノロジーセンター コンテンツデータ部長の櫻木裕之氏は、WEMにおいて、3つのソリューションを紹介した。

1つ目は、「ウレビヨリ」。これは、気象要因で生活者の需要が左右される約160品目の購買データと気象データを独自手法で解析し、需要の変化を指数化し、予測する。季節商材のシーズン開始・終了の時期や、キャンペーン期間中の需要の高まりを捉えることで、広告出稿をはじめさまざまなマーケティング施策の意思決定に活用できるという(リリースはこちら)。

2つ目は、「RICH FLOW(リッチフロー)」。気象データなどを元に、AIを活用して、異なるニーズを持った複数クライアントのテレビスポットの広告枠を最適に組み替え、効果的な広告出稿を実現する(リリースはこちら)。

3つ目は、「Multi Impact Switcher2.0(マルチインパクトスイッチャー2.0)」。気象要因などの需要変化に応じてデジタル広告の配信オン・オフや素材の差し替えを制御する。

ウレビヨリ

「複雑多様化するクライアントの課題に対し、需要予測の価値をマーケティング全体において最適の視点で活用できるソリューション開発を今後も推進したい」と櫻木氏は述べた。

森永製菓は、「ウレビヨリ」と「RICH FLOW」という、電通が開発した2つのソリューションを活用することで、日別に需要を予測しテレビCM出稿量を調整。最適なタイミングで広告を打つことで、「チョコモナカジャンボ」を食べたいという生活者の気持ちを高めた。

気象データをフル活用した「鮮度マーケティング」により、2020年7、8月の「チョコモナカジャンボ」の売上(出荷ベース)は、対前年比で107.8%の増加(前年同月比では、7月102.4%、8月112.7%)となった。

気候変動が大きい昨今。マーケティングにおける気象データの価値は今後、ますます高まっていくに違いない。ウェビナーを通して、気象データ活用の新たな可能性を感じることができた。