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シニアの、ありたき姿とは?No.1

人生100年時代の大学!? LRCとは

2021/12/10

シニアのあり方とは?

「人生100年」といわれ始めて久しい。織田信長が「人間、五十年」と吟じて舞ったことを考えれば、なんだかちょっと申し訳ない気持ちすらする。

本連載の監修者である高橋氏と組む筆者は現在、53歳。自分では、シニアとヤングの真ん中くらいにいるつもりだが、編集部では、もはや古参。若い編集者にいわせれば、いやいや53歳は立派なシニアだよ、ということになるだろう。

何歳からがシニアなのかという議論はさておき、魅力的なシニアにはなっていきたいものである。そこに欠かせないのは「経験」と「学び」ではないかと筆者は思う。これまでのことと、これからのこと。特に後者に関して「もうこれ以上、学ぶことなど何もない」と諦めた瞬間に、人は一気に年老いてしまうような気がしてならない。これが、53歳の編集者としての本音だ。

この連載では、そんなシニアの本音に迫りつつ、人生100年といわれるこの時代のシニアのあり方について、迫っていこうと思う。

文責:ウェブ電通報編集部


LRCロゴ

「シニアのための大学」とは、「複線的な人生」へのチケットである。

早稲田大学が2022年の4月に立ち上げるLife Redesign College(以下、LRC)について、早稲田大学 社会人教育事業室 室長 守口氏はこう語る。「これまでは、直線的な人生だったんだと思うんです。一流の大学に入って、一流の会社に勤めて、それなりに出世をして定年を迎えて、あとは悠々自適な老後を送る、といったような。成功のパターンが、ひとつだったんです。だれもが、そのパターンを目指していた。でも、この時代、そんな直線的な人生ではない。価値観も多様化しているし、選択肢は無数にある。そうした「複線的な人生」に応えるのが、LRCの役割だと思うのです」

学びといわれると、若者のためのもの、そしてたとえば社会人になるための「手段」であるかのように思ってしまいがちだが、そうではない。社会人が学んでもいいし、シニアが学んでもいい。そこでシニアのための学校。これは、当たり前のようでいて新しい話だ。

守口氏いわく、LRCのポイントは、大きく三つだという。「ライフリデザイン」「多様な能力を生かすカリキュラム「コミュニティづくり」だ。今まで何をしてきたのか?これから何をやりたいのか?という人生の再設計。多様な才能や経験を、社会にどう生かしていくのか。そして、後進への伝承も含め、それをどう発信していくべきなのか。どうやって、そのための仲間をつくっていくべきなのか。

守口剛氏:早稲田大学 社会人教育事業室長 早稲田大学政治経済学部卒業、東京工業大学博士課程理工学研究科経営工学専攻修了、博士(工学)。立教大学などを経て、2005年より早稲田大学商学学術院教授、2018年より社会人教育事業室長を兼務。専門はマーケティング。
守口剛氏:早稲田大学 社会人教育事業室長
早稲田大学政治経済学部卒業、東京工業大学博士課程理工学研究科経営工学専攻修了、博士(工学)。立教大学などを経て、2005年より早稲田大学商学学術院教授、2018年より社会人教育事業室長を兼務。専門はマーケティング。

シニアの未来に、広告会社はいかにコミットしていくのか?

「もう数年前ですが、電通のクリエイティビティ・ネットワークをより社会のために、たとえ新領域であったとしても生かせないかという命題がありました」と電通BXCC田中健太氏は回想する。

「といっても企画のきっかけは極めて個人的なものでした。祖母との暮らしが長かった自分にとってシニアの生活感はとてもリアルであり、特に定年後のシニアの人生については社会的な設計に大いなる空白を感じていました。一方で、定年までの人生にはおおむね充実した社会的な設計が存在します。およそ40年間の社会人生活の手前には大学などの教育機関があり、そこで得られる知識やコミュニティは社会人生活の支えになっている。この対照的な構造から、人生100年時代には40年間にもなりえる定年後のシニア生活に対しても、同様に知識・コミュニティをもたらす教育機関が社会インフラとして必要ではないかと発想しました」

そこで2019年の夏、早稲田大学に相談を持ちかけたところ、時を同じくして早稲田大学の社会人教育事業室においても同様の課題意識をもって教育プログラムを検討していることがわかり、それから毎週のように協議を重ねてきた、という。

電通 田中健太氏:電通BXCC/Future Creative Center クリエイティブ・プランナー。 東京大学卒業後、総合商社を経て電通入社。 サービスデザイン・コンサルティングなど事業領域からブランディング・コピーライティング・映像制作など表現領域まで広義のクリエイティブ分野を横断的に活動。受賞歴に、文化庁メディア芸術祭 審査委員会推薦作品、ACC、ADFEST、Young Spikes 日本代表など。制作歴に、緑黄色社会『Mela!』『結証』MVクリエイティブディレクションなど。
電通 田中健太氏:電通BXCC/Future Creative Center
クリエイティブ・プランナー。
東京大学卒業後、総合商社を経て電通入社。
サービスデザイン・コンサルティングなど事業領域からブランディング・コピーライティング・映像制作など表現領域まで広義のクリエイティブ分野を横断的に活動。受賞歴に、文化庁メディア芸術祭 審査委員会推薦作品、ACC、ADFEST、Young Spikes 日本代表など。制作歴に、緑黄色社会『Mela!』『結証』MVクリエイティブディレクションなど。

電通のシニア・ビジネス・プロジェクトマネージャー兼プロデューサーの立場にある平賀氏はこう語る。「自分がやりたかったのは、シニアに“実”を作りだすこと。“実”感、“実”践、“実”業……。定年を迎え、社会人生活がリアルの世界の全てだった世代が、定年を迎えても“実”を感じる世界をつくり出すこと。電通が主体となってコーディネートする『Communication (表現・伝承)』領域の科目においては、人生で蓄積したスキルや知識、経験を後世に伝承することを主軸に置いています。自分のやってきたことが定年後でも必要とされる“実”感、それらを“実”践することで、“実”業にもなっていく、そんなアカデミックだけでない“実”を提供する場、LRCがそういった場所になればという思いで今後も早稲田大学に協力していくつもりです」

早稲田大学

シニア・ビジネス・プロジェクトについて、いわゆる広告領域とは異なるように見えるが、その辺りはどうなのか。田中氏は言う。「業種としては確かに新領域です。一方で『企画』という根底には通ずるものがあります。また社会との接点においてはデザイン・コピーなど表現領域の知見は素直に生きてきます」「新規事業ではプロセスや分業が確立されていないため、企画者はクリエイティブディレクションからプロジェクトマネジメントまで広範な業務を過程で負うことになりますが、その分純度の高い全体像に帰結しやすいと考えています。仲間も徐々に増えるなど、社内外の素晴らしい関係者に恵まれ進んでいるプロジェクトであり、この場を借りて感謝申し上げます」

平賀真樹氏:コニック・ソリューション支援室 トヨタ・コニック・プロ株式会社出向。 1995年神戸大学卒業後、電通入社。シニア・ビジネス・プロデューサー。 主に営業部門において国内及び海外で自動車関連ブランドを担当。個別キャンペーンの中に一過性のキャンペーンに留まらない今後のマーケティングやサービスのフレームとなる様々な施策を企画し実施。キャンペーンプロデューサーから脱却しビジネスプロデューサーとして、プランニングからプロデュースまで幅広い領域を担当。
平賀真樹氏:コニック・ソリューション支援室 トヨタ・コニック・プロ株式会社出向。 1995年神戸大学卒業後、電通入社。シニア・ビジネス・プロデューサー。 主に営業部門において国内及び海外で自動車関連ブランドを担当。個別キャンペーンの中に一過性のキャンペーンに留まらない今後のマーケティングやサービスのフレームとなる様々な施策を企画し実施。キャンペーンプロデューサーから脱却しビジネスプロデューサーとして、プランニングからプロデュースまで幅広い領域を担当。

シニアの未来。その可能性とは?

田中氏はこう述べる。「もちろん個人差は大きいのですが75歳前後までは気力・体力が充実している傾向があり、まずは定年からそれまでの期間が充実した未来を構想しています。これまでの社会では、シニアの引退は同時にその人が持つ知見の社会的喪失を意味していましたが、そのように極端な崖を作らず、知識や経験さらには物語も含めた伝承が伝え手・受け手の双方に利のある形で成立するようCommunication(表現・伝承)のカリキュラムは構成します」

平賀氏は言う。「そのためには、企業との連携も大事。通常は企業に人材を送り出すのが大学です。ここでは企業が大学に人材を送り、また大学がさらに人材を企業に送り出す。社会で培った経験の生かし方を大学で学び、それを社会で生かす。そのような好循環、エコシステムを早稲田大学とともに作り出す。そのくらいでなければ、電通がこのプロジェクトに参画している意味がないですから」

守口氏は、LRCの将来ビジョンについて、こう語る。「まずは、50人の定員からスタートしていますが、次年度以降はその数を増やしていきたい。現在は、就学を期間1年と設定していますが、修了すればそれっきりということではなく、コミュニティをつくるという意味からも、修了者がLRCおよび早稲田大学とつながり続けることができる仕組みをつくりたい。そして、そのつながりは大学内だけで完結するのではなく、社会と共に育んでいくものであってほしい。電通がそうであったように、同じ課題意識を持つさまざまな業態の企業や団体とも連携を深めていきたい」

早稲田大学 大隈像

最後に田中氏が、こう言い添えた。「LRCのロゴデザインには少なからずアンチテーゼの側面があります。シニアはこうあるべき、という社会的な規定が強すぎるとかねてから感じていました。例えば、デザインで申しますとやさしいパステルカラーに「いきいき」や「らくらく」などの言葉が付されるようなもの。これらのデザインが適する場合もありますが、とはいえ弱者前提のデザインがあまりに支配的です。大なり小なりシニアの自己認識に外部環境が影響してしまう部分はあると思います。そこで今回はあえて蛍光の印象すらあるビビッドな黄色に、ボールドなフォントを採用し、従来のシニアのトーンを逸脱しました。ささやかながらRedesignの思想を込めています」

早稲田大学「Life Redesign College」については、こちら

電通からのインフォメーションは、こちら

本記事の作成にあたっては、電通 第2統合ソリューション局 高橋一樹氏に監修を依頼しました。


【編集後記】

最後に「かっこいいシニア、とはズバリどういう人ですか?」という質問を投げかけてみた。守口先生は「イキイキしてる、ということでしょう」と言う。

さらには、「イキイキとしている、ということは、今の自分に自信がある、ということ。その自信はどこからくるのか。肩書きとか地位とかではない。ご自身の経験や能力による、現時点のありのままの自分が社会とつながっていることで、ああ、私の存在価値はこれなんだな、という気持ちになれる」

田中氏は「遅すぎる学びはない。というキャッチフレーズに込めた思想でもあるのですが、まだピークではないという姿勢はシニアになるほどすごみに直結する印象です」。「余生がなくなっていくといいですね。働く/働かないという行動の話ではなく、『余ってしまった人生』と認識される期間を少なくしていきたいです」と言う。

シニアといわれると、心身ともに老いぼれた「弱者」か、あるいはとてつもない権力と財力を蓄えた「強者」か、みたいなイメージだが、どちらも人として「ありたい姿」ではない。

一度の人生、最期までカッコよくありたいではないか。そのためには、何が必要なのか。これは、なかなか深いテーマだ。