約37兆円の「かくれ資産」を動かす!リユースで地球課題の解決に挑むバイセル(前編)
2021/11/08
本連載では、スタートアップ企業の起業家、経営者、投資家、CMOなどが、会社や事業の成長過程で直面した課題をどのように乗り越えたのか、スタートアップ支援を行なっている電通社員との対談形式でお届けします。
記念すべき第1回のゲストは、リユース業界で急成長を遂げるBuySell Technologies(以下、バイセル)代表取締役社長兼CEOの岩田匡平氏。バイセルがどのような戦略で市場を開拓し、どのような壁を越えてきたのか。ビジネス・プロデューサーの高塚文彰がインタビューを行いました。
東証マザーズ上場、リユース市場を席巻するスタートアップ
高塚:はじめに、バイセルの事業について改めてお話しいただけますか?
岩田:当社は総合リユースサービス「バイセル」などの運営を手掛けるリユースカンパニーです。基本的には店舗を持たずにインターネット中心に集客し、専門の査定スタッフがお客さまのご自宅に訪問するサービスを提供しています。2001年に創業し、2019年東証マザーズ上場を果たしました。特に着物の買取実績では日本最大級の規模を誇ります。
高塚:おっしゃるとおり、バイセルは着物のイメージが強いのですが、他社との違いはどんなところにあるのでしょうか?
岩田:当社のユニークネスは、大きく3つあると考えています。
一つ目が「何を扱うのか」。リユース事業では、どの品目を強く打ち出すのかが重要です。バイセルの場合、「着物・切手・古銭」など大量に所有されていて、なかなか店舗まで持ち出しにくいものを積極的に買取しています。
続いて、「ターゲット」。幅広い層を対象にしているサービスが多い中、当社はシニア層にフォーカスしたマーケティングを行なっています。
最後に「チャネル戦略」。店舗、段ボール配送、CtoCなどさまざまな手段がありますが、私たちは直接ご自宅に出張するという、従来の買取サービスではなかなか手が届かなかった「ラストワンマイル」に注力しているのが特徴です。
高塚:リユース業界では「手広く」という戦略を取る企業が強い中、御社はかなり絞り込んだ戦略を選択している点が強みだと感じました。
日本全国に眠る「かくれ資産」を、必要とする人につなぐ
高塚:バイセルの戦略について、もう少し深掘りしたいのですが、まずはリユース市場全体の状況を教えていただけますか?
岩田:リユース市場はグローバル規模で伸びています。人口減少に伴ってGDPが下がっている中、一過性のものではなく右肩上がりで堅調に成長し続けています。今、こういう業界ってあまりないんですよね。
高塚:リユース市場が成長している背景にはどのような要因があるのでしょうか?
岩田:日本でも高度経済成長期から「新品志向」が根強く続いていましたが、SDGsの潮流を受けて、生活者の価値観が「所有」から「使用」に移行し始めています。近年注目を集めている「ESG投資」の「E」も環境(Environment)ですよね。社会(Social)よりもさらに大きな概念として、地球規模で環境を良くしていこうという動きが加速しています。今あるものを大切に使うことはもちろん、不要なものは必要としている人へ渡す、「つなぐ」という概念が世の中に浸透しつつあることは間違いありません。
高塚:なるほど、リユース市場は新しい社会の価値観にフィットし、人口減少と関係なく成長し続けるポテンシャルを備えているということですね。
岩田:そうです。市場規模自体が大きく、成長性もある。一方で、リユース市場は参入障壁が低いので、国内でも数多くのプレイヤーがひしめく群雄割拠の状態でした。例えば、これが特定のトッププレイヤーのいる業界であればスタートアップがどうあがいても勝てないわけですが、リユース市場は突出したプレイヤーがまだいない。そこにチャンスを見出し、世の中に新しい価値を創出できると考えたのです。
高塚:非常に面白い視点ですね。バイセルはリユース事業を通して日本社会にどんな変化をもたらそうと考えているのでしょうか?
岩田:「かくれ資産」の2次流通マーケットへの還元です。国内リユース市場は2022年に約3兆円(※1)に到達すると言われていますが、一般家庭に眠る不用品、すなわち「かくれ資産」の推計は約37兆円(※2)にも達するという報告があります。日々、お客さまのご自宅を訪問している私たちからすると、もっとたくさんあるはずだと確信しているのですが(笑)。
要するに、日本の国土全体に使われていないものが溢れているということ。これらを必要とする人のもとへ届けられたら最高ですよね。新しいものを作らなくていいし、そのために工場を動かす必要もなければ、古いものを捨てて焼却する必要もありません。「かくれ資産」を動かすことで、地球が抱えているさまざまな問題を解決できると考えています。
※1 参考:リサイクル通信
※2 参考:みんなのかくれ資産調査委員会
ホスピタリティとコンプライアンスを最大化し、「かくれ資産」を引き出す
高塚:今お話しいただいたことは、まさしく御社のミッションである「人を超え、時を超え、たいせつなものをつなぐ架け橋となる。」に通じる考え方だと思います。このミッションを実現するために、バイセルはどのような工夫をされているのでしょうか?
岩田:「かくれ資産」の定義は、「1年以上利用されていない不用品の資産価値」です。これってつまり、その人にとっては存在自体を忘れているものや、価値に気付いていないものなんです。持っていることを忘れていたり、価値を感じていないものを、わざわざ自分から売ろうとは思わないですよね?
そこでバイセルは、査定のお申し込み時から着物や切手以外にも査定可能な商材を「こんなものが眠っていませんか?」と、こちらから働きかける。そうすることで、通常はマーケットに出てこない「かくれ資産」を動かすことができるのです。
高塚:先ほど、リユース市場は参入障壁が低いというお話がありましたが、バイセルのビジネスモデルを真似する競合も多いのではないでしょうか?
岩田:おっしゃるとおりです。「かくれ資産」を掘り起こす出張買取事業には大きな可能性があります。しかし、出張買取で人を家に入れていただくことや、思い出のある品を売っていただくことなど、買取のハードルも非常に高いわけです。それを全国で展開していく点に、ビジネスの「秘伝のたれ」があります。
高塚:その「秘伝のたれ」を是非、教えていただけないでしょうか?(笑)
岩田:すみません、「秘伝」と言いつつ公表していることなのですが(笑)。方法はシンプルで、とにかくホスピタリティやコンプライアンスを最大限高めて、お客さまとの信頼関係を築くことに尽きます。
目先の利益を追わない。ずるをしない。顧客満足度を最優先させる。至極当たり前のことなのですが、実際に全スタッフに高次元で浸透させるのは意外と難しいんですよね。「顧客満足度を最優先させる」と口で言うのは簡単ですが、顧客満足の追求には必ずコストがかかるので、株式会社でやり抜くのは大変なんです。
高塚:確かに規模が大きくなればなるほど、そのあたりのコントロールが難しくなりそうですね。
岩田:そうですね。マーケティング観点から見ても、規模は重要なポイントです。例えば、地域密着型のリセールサービスなら、ポスティングだけで宣伝すれば広告宣伝コストはそんなにかかりません。でも全国規模に広げるとなると、広告宣伝コストが膨大になるので、1回の訪問あたりの成果を上げないと採算が合わなくなります。
高塚:やはり市場の捉え方と、それに対する戦略が非常に秀逸ですよね。岩田さんは2016年に取締役としてバイセルに参画し、2017年にCEOに就任されましたが、当時から秀逸なビジネスモデルが確立されていたのでしょうか?
岩田:事業ポテンシャルの高さは最初から確信していました。でも、マーケティングや組織エンゲージメントなど、ここに至るまでにはいろいろな壁がありまして……
岩田CEO就任後、バイセルはどのような課題と向き合い、どう乗り越えて現在の規模に急成長を遂げたのでしょうか?グロースの核心に迫る後編をお楽しみに!