デジタル広告の新潮流。「コンテクスチュアル広告」でブランディング!No.2
サッポロビールに学ぶ!顧客の文脈に“置いてくる”ターゲティングとは
2021/11/15
Cookieフリー時代に向け、デジタル広告の新潮流である「コンテクスチュアル広告」(※1)の可能性を探る本連載。
コンテクスチュアル広告のトップランナー・GumGum Japanの取り組みをもとに、その画期性と有用性を解説した前回に続き、今回は具体的な企業事例からコンテクスチュアル広告の魅力に迫ります。
サッポロビールの福吉敬氏をゲストに迎え、GumGum Japanの松本亮氏、電通デジタルの廣田理也子氏が語り合いました。
※1 コンテクスチュアル広告
文脈(コンテキスト)解析によりブランドとマッチしたメディア・コンテンツ上に掲出され、そのブランドと相性の良い生活者にリーチできる運用型広告。(別名:コンテキスト広告/コンテンツ連動型広告)
<目次>
▼「企業都合の広告」から、「お客さまの文脈に寄り添う広告」へのシフト
▼コンテクスチュアル広告のKPI設計は「顧客起点」がカギになる
▼コンテクスチュアル広告のクリエイティブは、「おもてなし」の精神がポイントに
「企業都合の広告」から、「お客さまの文脈に寄り添う広告」へのシフト
松本:福吉さんはサッポロビールでコンテンツコミュニケーションを多く手掛ける中で、かなり早い段階から「文脈を意識した施策」に取り組まれてきていますね。近年ある種のバズワードとして独り歩きしつつあるコンテクスト(文脈)という言葉を、どのように認識していますか?
福吉:文脈はいろんなことを内包しているので、単純に解釈するのは難しいのですが、アフィニティー(興味関心)・モーメント(瞬間)・ジェネレーション(世代)の組み合わせで構成されると考えています。
そもそも、一人一人の興味関心は異なりますし、同じ人でも朝と夜、月曜と金曜で気分は変わり、世代間での文脈の差異もあります。昨今は働き方や育児の仕方、休日の過ごし方も多様化し、消費者の興味・思考も多種多様になっていると感じます。こうした「多様な文脈」に寄り添うことが今の時代の広告に求められているのではないでしょうか。
廣田:私も同感です。同じ性別・年代でも同じ商品やライフスタイルに憧れを抱くという時代ではないですし、「Right time、Right message、Right place」で広告を出すといった“文脈作り”のニーズが高まってきていると感じます。
松本:現代人は選択肢が大量に増えたからこそ、「自分にとって文脈を感じられない情報」はノイズと捉えてすぐにシャットダウンする傾向にある、ということは私も感じます。従来のマス広告のように「情報を発信する側の都合」だけではなく、「情報を受け取る側の文脈」を捉える必要性が高まっているんですね。
福吉:スマホが普及するよりも前、企業視点で都合のよい文脈を作るような広告が強く機能していた頃は、娯楽の種類も、お客さまが日々接する情報量もそこまで多くありませんでした。
ビールを例に挙げると、かつては消費者が選ぶ銘柄がある程度決まっていて、デモグラ的に「30代男性であればこう!」という型にはめるやり方で、リーチ勝負のマスコミュニケーションが機能していました。しかし、もう時代は変わっています。スマホの普及であらゆる生活スタイルが変わり、デモグラのような画一的なことだけでは通用しなくなってきています。
自分が今見たくて見ているコンテンツと全然関係のない広告が文脈を無視して出てくるという状況がありますが、そういう従来のやり方では、お客さまに“愛される広告”は作れないと思っています。
松本:なるほど。“愛される広告”を作るために、サッポロビールではどのようなことを心がけているのでしょうか?
福吉:それは“お客さまの幸せ”を第一に考えることです。お客さまが何を求めているのか?どんなことに興味関心を持ち、幸せを感じるのか?を起点に、広告を発信する側が、お客さま一人一人の“文脈”に合わせていく。つまり、「企業が伝えたいこと」を前提にターゲティングやクラスタリングをするのではなく、顧客のペルソナを理解し、そこにある個人個人の文脈に対して、何を伝えられるのかを考えることです。
コンテクスチュアル広告のKPI設計は「顧客起点」がカギになる
松本:その点は全く同感です。私たちの扱うコンテクスチュアル広告は「ポストクッキー時代の運用型広告の代用品」と捉えられがちですが、本来の役割は必ずしもそうではなく、その顧客にとって適切なモーメントに適切なクリエイティブを掲出することで、ブランドリフトするためのものでした。
しかし、GumGumが広告主企業に実施した調査によると、全体施策を考える時は「ブランドやサービスに好意を持たせる」ことを最重要視し、デジタルを考える時は「顧客獲得効率を意識した施策展開」を最も重視する傾向にあることが分かっています。
松本:全体設計はしっかり「顧客起点」でスタートできているのに、なぜかデジタルになった途端に「企業都合の視点」になりがちということですね。この点について、電通デジタルで普段GumGumのセールスサポートをしていらっしゃる廣田さんはどう思われますか?
廣田:松本さんのおっしゃる通り、特に日本は今でも「デジタル広告はパフォーマンスを重視する」という傾向がまだ強いと感じます。GumGumの本拠地であるアメリカの担当者に話を伺ってみると、アメリカでは各媒体におけるパフォーマンスよりも、「施策全体としてのKPI達成度」を重視し、そのKPIも「ブランドの価値向上に寄与したか」に力点が置かれています。
もちろん、アメリカと日本では広告費の規模感やカルチャーの違いはあります。しかし日本でも、Eコマースでのコンバージョンなど直接的なユーザーの行動にはつながらなくても、例えば「スーパーにいる時に、以前閲覧したサッポロビールのコンテクスチュアル広告をふと思い出してビールを手に取る」といったように、「店頭購買に寄与するデジタル広告」の可能性を、もっと実証していく必要があると考えています。
松本:なるほど、欧米ではパフォーマンスに偏らず、デジタルも含めてブランドリフトに貢献できているかという品質に重きを置く傾向にありますよね。福吉さんから見て、広告主側の視点ではどうですか?
福吉:私たちも、たとえその場ですぐにコンバージョンに直結しなくても、ターゲットの文脈に深く入り込んでブランドの印象を残せることに、コンテクスチュアル広告ならではの大きな価値があると思っています。
ターゲット不在でも、ただプロダクトのUSP(Unique Selling Proposition:自社やブランドが持つ独自の強み)を打ち出すだけで従来型の広告は作れます。「麦芽増量」とか「コク」とか、単純に「うまい」とか。もちろん、USPの訴求はこれからも大切なものですが、「うまいだけでは選ばれにくい世の中」になりつつあるのが現実で、「このうまい商品は、あなたのもの」まで伝える必要があるんです。そこで重要なのが文脈という考え方です。
松本:そう考えると、コンテクスチュアル広告の成否はどのように「評価」していくのが適切なんでしょうか?
福吉:顧客起点で考えて、コンテクスチュアル広告によって「お客さまとブランドの距離がどう近くなったか」「お客さまにとってのブランドとの出会いの入り口をどう作れたか」を測ることです。
コンテクスチュアル広告を見たお客さまが、「将来的にファン化できているかどうか」「ブランドサイトに訪問しているかどうか」といった評価軸ですね。
その上で「その広告でどんなことを狙って、それが達成されたかどうか」をKPIに設定します。例えば「ブランドサイトのコンテンツを5000人に読了してもらうこと」を目標にするなら、インプレッション数と離脱率から逆算して明確なゴール指標を作れます。
そして、先ほど廣田さんのスーパーのお話にあったように、ブランドサイトへの訪問率などをもっと「アトリビューション」の観点で計測したりすること。つまり、瞬間的な反応だけでなく中長期的な視点で計測していくことが、今後はますます重要になるのではないでしょうか。
コンテクスチュアル広告のクリエイティブは、「おもてなし」の精神がポイントに
松本:ここまで、コンテクスチュアル広告の評価指標について教えていただきましたが、広告における「文脈」という考え方を重視してきた福吉さんから、広告表現の作り方についてもアドバイスを頂けますでしょうか?
福吉:私は“置いてくる”という言葉をよく使うのですが、「こんな商品です」といった直接的な表現よりも、“文脈の中に商品を置いてくる”ような表現が望ましいです。
例えば、「土用の丑(うし)の日は、鰻(うなぎ)と一緒にヱビスビールを!」というコンテンツではなく、「土用の丑の日の起源を知っていますか?」というコンテンツでお客さまの興味関心に応えながら、おいしそうな鰻の写真の端っこに、さりげなくヱビスビールが置いてある。これにより、土用の丑の日が来た時に「鰻とセットでヱビスビールを飲みたい」という気持ちを醸成させることを狙うのです。
また、先ほど挙げたアトリビューションを計測するためには広告からブランドサイトに遷移していただくのが理想ですが、そのブランドサイトの表現も、コンテンツの文脈やストーリー、雰囲気も含めて整合性を持たせることが重要です。
松本:今のお話を伺っていて、「おもてなし」という言葉が浮かびました。まさに高級旅館のように、入り口(広告)から出口(ブランドサイトや店舗での購入体験)まで、統一感のあるメッセージを届けられるように緻密に設計されているのですね。
福吉:それは私たちサッポロビールが“嗜好品”を取り扱う企業だからかもしれません。生きていくための必需品ではなく、人生を豊かにする楽しみや娯楽をお届けする。だからこそ、「おもてなし」の精神でお客さまの気持ちに寄り添うことが大切だと思っています。
松本:大変分かりやすい事例をありがとうございました。最後にお二人がコンテクスチュアル広告に期待することや要望を教えてください。
福吉:私たちはお客さまがどこにいるのか、何が好きなのか、データを分析しながら常に考え続けています。そこから導き出された“文脈”に対して、自然に溶け込むことができるコンテンツには非常に大きな可能性があると感じています。
今は「関心を持って接触した記事やコンテンツに対して、その場で適切な広告が掲出される」という仕組みですが、今後はもう一歩踏み込んで、例えば「時間帯」とか「位置情報」などでコンテンツやクリエイティブの出し分けができるとうれしいですね。
イチ消費者としても、例えば北海道旅行中にグルメサイトを閲覧している時に、最初から「北海道のグルメ情報」が出たり、ヱビスビールが好きなら「北海道でヱビスが飲める店」がさりげなく出てきたりしてくれたら最高だと思うので(笑)。これはID情報がなくてもできることなので、Cookieフリー時代にもマッチした施策になると思います。
廣田:私自身がそうなのですが、最近は動画やビジュアルで情報収集する方が増えています。現在は動きのあるディスプレー広告が中心ですが、もっと動画サイトや、ネットラジオのような音声の領域でもコンテクスチュアル広告ができると世界が広がりそうだなと期待しています。
松本:皆さんの思いを熱く受け止めて開発を進めてまいります!本日はありがとうございました!
<調査概要>
プライバシーやインターネット広告に対する意識を調査
1. 業界関係者向け調査
・調査主体:GumGum
・調査実施機関:シードプランニング
・調査実施期間:2021年6月24日〜7月15日
・調査手法:インターネット調査
・対象者条件:広告主または広告会社
(広告代理店・メディアレップ)
・サンプルサイズ:200名
2. 生活者向け調査
・調査主体:GumGum
・調査実施機関:インテージ
・調査実施時期:2021年7月16日~7月18日
・調査手法:インターネット調査
・対象者条件:20~59歳男女
・サンプルサイズ:n=1073