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なぜか元気な会社のヒミツseason2No.15

「地上資源」には、夢がある

2022/01/21

「オリジナリティ」を持つ“元気な会社”のヒミツを、電通「カンパニーデザイン」チームが探りにゆく本連載。第15回は、リサイクルという概念そのものを一新することで社会を変えていくことへチャレンジし続ける「日本環境設計」。そのユニークかつ揺るぎない経営哲学に迫ります。


衣類・繊維くずに目を向けても、世界では毎年9,200万トン、日本でも年間およそ147万トンが生まれていて、これらの多くが焼却もしくは埋め立てられている。あまりの数字にその量を実感することはできない。もったいないなあ、とは思いつつも、でもしょせんゴミなんでしょ、という諦めもどこかにある。

リサイクルという言葉や精神は、ある程度、世の中に浸透した。でも、自分を含めて多くの人が、リサイクルという行為をモノを捨てることへの「贖罪(しょくざい)」、あるいはゴミを生かすという「偽善」の意味で使っているのではないか。なんだか申し訳ないなあ、という気持ち。せめてもの罪滅ぼしに、リサイクルに回そうというような。決して前向きな気持ちではない。

日本環境設計の岩元会長は、ゴミも含め、この世のリサイクル可能なものすべてを「地上資源」と表現する。斬新だ。罪をつぐないながら、地下から資源を掘り起こすのではない。目の前に資源があるのだから、それを活用しましょうよ、という極めてポジティブな発想だ。その発想は、これまでになかったビジネスも生み出していく。そんな日本環境設計に、クリエイティブやビジネスの本質を学びたい。

文責:天内駿士(電通東日本)

日本環境設計。「あらゆるものを 循環させる」をテーマとし、BRINGというブランドを立ち上げている。

日本環境設計。「あらゆるものを 循環させる」をテーマとし、BRINGというブランドを立ち上げている。

きっかけは、デロリアン

「このビジネスを始めるきっかけは、あの有名なハリウッド映画に登場するデロリアンだったんです」。インタビューの冒頭、岩元会長は不思議なことを言い始めた。「タイムマシンの燃料が、そこらへんに落ちているゴミなんですよ。ワクワクしませんか?」そんなところに注目してあの映画を見たことはなかった。言われてみれば、確かに印象に残っているシーンだ。サステナビリティなどという言葉が、近年、唐突に叫ばれ始めたが、そうか、デロリアンのシーンにそのヒントはもう描かれていたのだ。

「わが社が理想とするのは、みんなで参加できるリサイクル、ということなんです。中心は企業ではなく、あくまで生活者。ああ、私も参加したいな、という感情を持ってもらうにはどうしたらいいのかを、僕らは必死で考える。仕組みをつくりだす。あらゆる手段を使ってそれをアピールしていく。それが、大切だと思うんです。BRINGというブランドも、そうした思いで立ち上げました」

岩元会長いわく、燃えるものは「物体」と見られているという。そうではなく「資源」として見るべきだ、と。「そのためには、目の前にあるものを元素レベルで見ることが大事なんです。くたびれた物体として見ているかぎり、それは単なるゴミですよね?でも、元素のレベルで見れば、貴重な資源です」

岩元美智彦氏: 日本環境設計取締役執行役員会長。1964年鹿児島県生まれ。北九州市立大学卒業後、繊維商社に就職。営業マンとして勤務していた1995年、容器包装リサイクル法の制定を機に繊維リサイクルに深く携わる。2007年1月、日本環境設計を設立。資源が循環する社会づくりを目指し、リサイクルの技術開発だけではなく、メーカーや小売店など多業種の企業と共にリサイクルの統一化に取り組む。2015年アショカフェローに選出。
岩元美智彦氏:
日本環境設計取締役執行役員会長。1964年鹿児島県生まれ。北九州市立大学卒業後、繊維商社に就職。営業マンとして勤務していた1995年、容器包装リサイクル法の制定を機に繊維リサイクルに深く携わる。2007年1月、日本環境設計を設立。資源が循環する社会づくりを目指し、リサイクルの技術開発だけではなく、メーカーや小売店など多業種の企業と共にリサイクルの統一化に取り組む。2015年アショカフェローに選出。
 

「戦争やテロは、どうして起こると思います?原因の一つは、地下資源の奪い合いなんです。石炭、石油、次は水ともいわれている。二酸化炭素を削減しましょう、みたいな話もよく聞きますよね?要するに、資源をどう活用していくか、ということです。目の前にあるものをゴミだと認識しているかぎり、どうしてもそれは燃やさなければならない。でも、半永久的に使える資源だと考えてみたら、どうでしょう?遠くの国からわざわざ原材料をタンカーで運んでこなくたって、目の前には石油資源がごろごろ転がっている。それは、衣服にもなるし、メガネにも変わる。『地上資源』の価値にみんなが気づけば、経済にも環境にも平和にも必ずいい効果が表れると思います」

正しいは、楽しい。楽しいは、正しい

「地上資源経済圏」をつくりたい、と岩元社長は言う。デロリアンから始まった話が、なんだか大きくなってきた。「1メートルの高さの木であれば、根っこはその10倍くらいありますよね?ウソでしょう、というところまで伸びていたりする。リサイクルで1メートルの木を作りました、ハイ、おしまい。では意味がない。社会に深く根付いて、みんなが幸せになれる、そんな環境をまさに設計していきたいんです」

岩元会長によれば、「正しいことは、みんなにとって楽しいことだ」という。そして、楽しいからこそ、みんなで正しいことが続けられるのだ、と。エコとかリサイクルと言われると、どうしても規制や我慢といったイメージに縛られてしまう。「そうではなく、ゼロをイチにする。ウソでしょう?といったことを、ホントにしてしまう。ゴミ箱にある野菜クズやペットボトルで、今までにないことができるとしたら、すごいことだと思いませんか?つまり、正しいことは楽しいものだし、楽しいことにこそ正しさのヒントがあるんです」。話がデロリアンに戻った。

これが噂のデロリアン。そのフォルムだけでもう、大興奮だ。
これが噂のデロリアン。そのフォルムだけでもう、大興奮だ。

経営とは「方向性」を「決断」すること

経営とは進むべき道を決めることだ、と岩元会長は言う。「リサイクルに関する新たな法律が1995年にできました。今は2021年。世の中にリサイクルというものへの意識も、徐々に浸透しつつあります。つまり、人の気持ちや行動を変えるには、20年、30年という時間が必要なんです。あせって旗を振ったところで、人の気持ちなんて動かない。規制で縛りつけたところで窮屈なだけで、決してハッピーではない」

物理的なことにだけ頼っていたのでは物事は前に進まない、と岩元会長は言う。物理的なこととは、たとえば法律の整備であったり、流通の仕組みであったり、ということだ。「リサイクルというものは、長期的な視野のもとで化学的に行うべきなんです」。つまり、あのペットボトルがこんなにもふわふわなセーターになるの?といったことに、人は心をつかまれるのだ。

「わが社は、わずか100万円の資金からスタートしています。さあ、この100万を何に使ってやろうかと考えたとき、注視すべきは化学だと思いました」。数百億円といったような資金があれば、マネーゲームにも目が向く。でも、虎の子の100万を効果的に使うには、とにかく「化学的に意味のあること」に使いたい。つまらないダジャレで恐縮なのだが、そのお金を社会にとって意味のあるものに「化けさせる」ということだ。

創業時の記念写真
創業時の記念写真

リサイクルは、慈善事業ではない

リサイクルをすると利益が出る、ということが大事なのだと岩元会長は言う。「それは、企業にとっても、お客さんである生活者にとっても、です」。つまり、お客さんのリサイクルしたい、という声や気持ちを、ビジネスとして形にしていくということだ。

「いわゆるブランド論でいうと、ありがちなのが、日本一、世界一みたいなフレーズですよね?でも、そんなものは結果論であって、人の心を揺さぶるのは心に刺さる音楽であったり映画であったりするものだと思うんです。ああ、このペットボトルがこんな製品に生まれ変わるんだ、という感動は理屈では伝わりません。ウソでしょ、この肌触り、みたいなことがあって初めて、ああ、リサイクルって素敵だな。どうせならそこにお金を落としてみよう、手元にあるゴミとしか思っていなかったペットボトルの再利用に何ができるのか、自分も考えてみよう、という気持ちになる。その気持ちが、行動につながる」

実際、若い世代からのアプローチが年々、高まっているのだと岩元会長は言う。「一言でいうと、楽しいからなんだと思います。綿に近い着心地のポリエステルがあるんだ。しかも綿と違って型崩れしにくい、色落ちもしない。ああ、これはいいな、楽しいな、という感覚。そうしたことが、徐々に世の中に伝わっているのだとしたら、こんなにうれしいことはありません。言葉にするのは難しいのですが『なんともいえない心地のいい市場』のようなものを、僕らはつくっていきたいんです」

リサイクルのモデル図

大事なことは「プロセス設計」 

「製・販・リ」の三つがそろわないとダメだ、と岩元会長は言う。製造、販売、リサイクルのことだ。これらがぐるぐると回っていかないと、ビジネスモデルとはいえない。「そのためには製造の段階からリサイクルを考える、ということが大事。作るだけ作って、売るだけ売って、あとは罪滅ぼしのようにリサイクルする、では長続きしません」

「歴史価値」という聞き慣れないワードも、岩元会長は教えてくれた。「僕のアイデアですが10/50みたいな表現をよく使うんです。その意味は、リサイクル10回目で50年前の資源を再利用しているということです。『地上資源』というワードも、わが社から発信し始めました。手前味噌(みそ)ながら、わかりやすいですよね。わかりやすいということは、共感も得られやすいということです」

インタビューの最後に、岩元会長からとてもわかりやすいアドバイスをもらった。「ビジネスにとって大切なのは、結果の数字ではありません。プロセスを設計する、ということです。20年、30年先を見据えてプロセスを設計し、そのプロセスに多くの人を巻き込んでいく。みんなを、社会をハッピーにする。売り上げとか成果なんてものは、結果として後からついてくるものです」

広告会社であるわれわれに、御社のビジネスのお手伝いが何かできないでしょうか?というアプローチで始めたインタビューだったが、広告ビジネスやクリエイティブのノウハウをすべて解説されてしまい、ただただ参りましたという気持ちになった。

BRINGロゴ

日本環境設計のショールームは、こちら
リサイクルに関する動画は、こちら


なぜか元気な会社のヒミツロゴ

「オリジナリティ」を持つ“元気な会社”のヒミツを、電通「カンパニーデザイン」チームが探りにゆく連載のシーズン2。第15回は、リサイクルを通じて社会に変化と革新をもたらすことへ、あくなきチャレンジをつづける「日本環境設計」をご紹介しました。

season1の連載は、こちら
「カンパニーデザイン」プロジェクトサイトは、こちら


【編集後記】

インタビューの最後の最後に、岩元会長にどうしても聞いてみたいことがあった。「江戸時代の日本は、とてつもないレベルのエコ社会だった、ということが近年、注目されています。でも、当時は封建社会。そのような堅苦しい環境下で、どうしてエコなシステムが確立されたのでしょうか?」と。岩元会長の答えは、意外なものだった。「効率というものは、非効率なものなんです」

禅問答のような回答だが、説明を聞いて大いにうならされた。「人は、政治でも経営でも、どうしても効率を追求してしまう。単純にいうと、数字を上げよう、という発想です。数字を上げようと思うと、何をするか。無駄なものに投資をせず、石油でも石炭でも金でも、がんがん掘り尽くして、がんがん消費しろ、消費させろ、となる。そこに欠けているのは、なんだと思いますか?ケミカルな発想なんです。未来の価値創造に必要なことは科学的、あるいは化学的な視点だと僕は思いますね」

江戸時代の話から、まさかケミカルというワードが飛び出してくるとは想像もしていなかった。岩元会長が目指すエコ社会とは、ルールや道徳でしばる、というものではない。目の前に転がっているものに価値を与えるということだ。そして、その価値を与える手段はマネーゲームのようなものではない。あくまでケミカルな理屈と技術に立脚しているものなのだ。