第1回:OOHには秘めたる価値「世の中ゴト効果」がある!
2021/12/16
街の屋外看板や電車内の広告など、家の外での広告接触を担うOOH(Out Of Home)広告。
OOHは効果検証が困難なため、今まではリーチやサーキュレーションなど「どれだけの人が接触しうるか」が重要指標でした。しかし実際にOOHを出稿する目的は、「世の中の話題にしたい」「話題化によって生活者の態度変容を効果的に起こしたい」など、リーチやサーキュレーションでは説明できない効果を狙う場合が多く見受けられるようになってきました。
電通は、OOHにはこのような「世の中ゴト効果」があるのでは?との仮説から、効果検証プロジェクトを発足。実際に「世の中ゴト効果」を可視化しました。そこから効果的なプランニングを態度変容起点で行えるツール(β版)を開発。今後、利活用できるソリューションに向けて始動していきたいと思っています。
そこで今回、3回シリーズで、OOHのプランニングに携わるさまざまな電通プランナーが集い、OOHの「世の中ゴト効果」について語り、効果検証からOOHメディアのこれからのプランニングを考えていく特集を展開することにしました。
第1回は、生活者/マーケティングプランナーの両立場からOOHの役割や価値、効果を可視化することの意義について語ってもらいました。
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【参加メンバー】
福田博史:第3統合ソリューション局 シニア・ソリューション・ディレクター。さまざまなメディアのソリューション開発立案を担当し、今回のOOHの「世の中ゴト効果」プロジェクトの推進メンバーも務める。
長尾慶太郎:第1ビジネスプロデュース局。入社以来ビジネスプロデューサーとして国内外でOOHを含めたメディア・キャンペーンに携わる。海外赴任を経て、現在はクライアントのグローバルブランド戦略を担当。
寺村俊:第3統合ソリューション局 マーケティングプランナー。戦略立案・メディアプランニング・PDCAを一手に担い、スタートアップ企業からナショナルクライアントまで幅広いステージ・業種で事業成長に伴走していくPDCAの実績を持つ。
倉石藍:第3統合ソリューション局 ソリューションプランナー。徹底したターゲットインサイトからコミュニケーション戦略を立案、メディアプラン&PDCAも一気通貫して実行するのが得意なプランナー。
古池茜:OOH局プランナーを経て、現在はデータ・テクノロジーセンターで「テレビ×デジタル×OOH」のトリプルメディアを活用したオンオフ統合プランニング~効果検証スキームの開発に携わる。
OOH「ならでは」の価値ってなんだろう?
福田:コロナ以前からOOHは多くの企業で活用されてきたものの、肝心の効果に関してはリーチ・サーキュレーション(広告に接触する機会のある人数とボリューム)という指標で測るしかなく、「もっと違った視点で効果を可視化することはできないのか?」ということを常々考えていました。
個人的に、OOHには特有のメディアの「圧」のようなものがあると感じています。不特定多数の目に、同時に触れる広告だからこそ、その「圧」がある一定の量を超えると一気に話題化する。単純にリーチやサーキュレーションという言葉では表現できない人を動かす効果を感じるのです。
倉石:OOHはテレビやデジタルと同列に評価されることが多いと思うのですが、テレビCMやデジタル広告が生活者にとっては「受動メディア」であるのに対し、OOHは生活者が気になったら積極的に見る「能動メディア」的な側面を持っていると感じています。ビジュアルも大きく、パワーも強力で話題性もあるので、従来のメディアと同列に捉えるのではなく、テレビ/デジタルと掛け合わせるような発想が必要ではないかと思います。
福田:イチ生活者としてOOHならではの効果を感じることはありますか?
倉石:やはり特定空間を独占するジャック広告はインパクトが大きいと感じます。加えて、街に出た時の自分の気持ちと行動にマッチした広告だとより印象に残ります。例えば、コロナ禍でどうしても出社しないといけない時の憂鬱な気持ちに寄り添ってくれた広告は今でも鮮明に覚えています(笑)。
古池:私は普段、忙しくてテレビを見られない時は、情報入手する手段としてデジタルやOOHを見ています。週刊誌の中づり広告で最近の話題を知ったりということもありましたし、今は、駅ばり広告で今期の新ドラマを確認したりすることが習慣になっていますね。
OOHに出稿する目的はさまざまありますが、クライアントから一番オーダーを頂くのは「露出感」です。まさしくジャック広告のように、大きな存在感を発揮できるのはOOHの価値の一つだと思います。
寺村:存在感といえば、緊急事態宣言で人がいなくなった渋谷の様子が連日テレビのニュースで放送されていました。あの時、映っていたOOH広告はものすごく印象に残っています。実際にそこにいなくても、一瞬テレビに映っただけでも分かる「リアルな存在感・露出感」というのは、OOHの大きな価値だなと感じました。
長尾:僕がブラジルにいた時に感銘を受けたのは、スニーカーブランドのキャンペーンです。当時、ブラジルでは街の落書きが社会問題化していたのですが、そのブランドは落書きをスニーカーのイラストで塗り潰し、その場所に訪れた人だけが、そこに描かれているスニーカーをECで購入できる施策を行いました。OOHは話題化と社会課題の解決を同時に実現する力があると私は思っています。
福田:アイデア次第で、単なる露出だけではない存在感や社会性を生み出すことができる。まさにこうした「世の中ゴト」への働きかけができるのがOOHならではのメディア価値ですよね。
20年以上前に「世の中ゴト効果」は証明されていた!
福田:皆さんも生活者/プランナーの立場から、リーチ・サーキュレーションにとどまらないOOHの「世の中ゴト効果」を肌で感じてはいるものの、やはり「実際にどう可視化するのか?」という点に課題があるように思いますが、皆さんいかがでしょうか?
長尾:リーチといった従来の指標だと、特定のエリアやターゲットへの訴求を補完するような「補足メディア」的な位置付けになってしまう。それだけでは、提案する立場としてはもどかしい部分ではあります。
寺村:同感です。エリアやターゲットを絞り込んだ施策や、クリエイティブ重視の施策など、OOHを提案しやすいシーンは限定的になってしまうのが現状ですよね。一方で、コロナ禍でパーソナルな空間が増えたからこそ、世の中ゴトとして捉えやすいOOHに価値を見いだすクライアントも増えてきているように感じます。
福田:そうですよね。「世の中ゴト効果」を感覚的にご理解いただけるクライアントも少なくないのですが、その効果を定量的に証明できないと、採用しにくいですよね。
ただ、20年以上前になる調査結果ですが、日経広告研究所(※1)が発表した調査でも、マス広告を通した話題感や商品普及感といった「世の中ゴト効果(集団効果)」が本人の態度変容に影響を及ぼすという結果が報告されています。
※1=出典:望月 裕、仁科貞文(2000)「マスメディア広告の『集団効果』の検証と展開」日経広告研究所34(4), 16-22, 2000-08
これを2021年の生活者の実態やメディア環境にアップデートする形で再調査すれば、「世の中ゴト効果」を立証できるかもしれないと考えました。さらにNTTドコモと電通によるLIVE BOARD(※2)のデータ基盤を活用することでよりクリアに効果検証していくことができるのではないか、そう思って、「世の中ゴト効果」の検証プロジェクトがスタートしていくことになりました。
※2=LIVE BOARD
NTTドコモと電通が設立したデジタルOOH広告の配信プラットフォーム運営および広告枠の販売事業を行う新会社。インプレッション(=広告視認者数)やユーザー属性に基づくOOH広告配信を実現し、OOHの広告効果・投資対効果も検証可能に。ネットワークされたデジタルサイネージ「LIVE BOARD」を全国各地に所有している。
OOHの「世の中ゴト効果」は本当に可視化できるのか?
古池:私たちが実施した事例調査でも、人はテレビ/デジタル/OOHなどコンタクトポイントが増えるほど「話題化している」と感じやすいことが分かっています。例えば会社で同僚がいつも同じ服を着ているのを見るのと、街中でいろんな人が同じ服を着ているのを見るのでは、後者の方が「はやっている感」がありますよね、それと同じだと思っています。
接触回数と接触箇所数が増えるほど「この商品はいま世の中で話題なんだ」という気持ちを醸成することができるのだと思います。
寺村:そう考えると、複数のOOHの枠の中から最適な場所・タイミングを選んで広告配信ができるLIVE BOARDは、さまざまな場所で目にする機会があるので、より「世の中ゴト化」が期待できるOOH媒体ですよね。
福田:最近は、テレビやデジタルでリーチが取れているのに認知が上がらないケースも増えています。その要因の一つに、「情報がパーソナライズされ過ぎている」という問題があるのではないでしょうか。その点、OOHは不特定多数が見ていることを実感できるメディアなので、世の中ゴト効果を生みやすい特性があるのかもしれません。
倉石:世の中ゴトという意味では、ブランドメッセージを発信できる点も大きいと思っています。生活者が持つ街のイメージにメッセージを掛け合わせることで、よりパワーのあるコンテンツが生まれます。これはテレビやデジタルだけではなかなかできないOOHならではのメディア価値ですよね。
福田:確かにそうですね。渋谷という街が持つ特有の記号のようなものとOOHの広告表現が掛け合わされると、OOHはよりパワフルな印象になりますよね。
これまでの議論を受けて、改めて「世の中ゴト効果」を可視化/立証できればOOHの意義は大きく変わると思いました。効果の可視化ができれば、クライアントの目標から逆算したメディアプランニングも提案できるようになっていくと思います。
寺村:実際にLIVE BOARDを活用したクライアント事例では、「認知」や「第一想起」などブランド戦略に関わる重要指標の可視化に成功しています。サブスクリプションサービスでは、新規層を獲得したいという課題に対して、テレビCMと同じクリエイティブ素材をLIVE BOARDで放映したことにより、認知の定着や興味喚起を促せた、という結果が出ています。
古池:特にリアル店舗への送客では、従来は計測することが難しかった、来店後の購買までを個人情報保護がされた上で計測できるようになりました。ある飲食チェーンでは、新商品の訴求をLIVE BOARDで行い、LIVE BOARDに接触したからこそ購買してくれたお客さまの特徴を、デモグラ、購買頻度や単価など、さまざまな切り口で検証したことで、次回施策への打ち手が考えやすくなりました。
福田:既にOOHの「世の中ゴト効果」をある程度、可視化できている実績もあるということですね。次回はLIVE BOARDの検証基盤を活用した調査結果について詳しく紹介したいと思います。