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為末大の「緩急自在」No.20

アスリートブレーンズ為末大の「緩急自在」vol.20

2022/03/29

為末大さんに「いま、気になっていること」について、フリーに語っていただく連載インタビューコラム。唯一、設定したテーマは「自律とは何か、寛容さとは何か」。謎の「聞き手」からのムチャ振りに為末さんが、あれこれ「気になること」を語ってくれます。さてさて。今回は、どんな話が飛び出すことやら……。乞う、ご期待。

為末大さん

──「人は老いと、どう向き合えばいいのか?」というテーマで、いろいろお話を伺ってきましたが、今回が最終回です。最終回は、人というより、企業や社会は「老い」とどう向き合っていけばいいのか、という大きなお話を伺おうと思います。

為末:企業でいうと、創業100年を超えている会社の多さは、世界でも日本が圧倒しているんです。あと、僕が注目しているのは、神宮の「遷宮」という制度。これも、すごいなーと思いますね。

──あのう、お話がまったくつながらないのですが……(笑)。

為末:つまり、日本人というのは「外見はそのまま維持しつつ、中身を都度、入れ替えている」ということなんです。西洋の建物とかは、200年、300年、当たり前のようにそのまま維持されてますよね?日本人は、ちがう。すぐに壊して、新しい家を建てる。

──それは、聞いたことがあります。日本の家屋の平均寿命は60年くらいだと。

為末:江戸時代なんかは、もっと短かったでしょうね。なにせ、しょっちゅう火災や天災に襲われるのだから。それでも町並みは維持される。それは現代にまでつながっています。どの町も、町の区画は江戸時代のままですから。

──なるほど。

為末:つまり、外見は維持しつつも、中身をどんどん変えていく。これが、日本人の特徴なんだと思うんです。アメーバみたいに。

──だからこそ、戦後復興とか、震災復興とか、コロナ対策といったようなことができるんですね?

為末:悪く言えば、その場しのぎ。よく言えば、柔軟。日本人のこの特徴は、もっともっといろんな分野で生かしていくべきだと思います。スポーツでも、ビジネスでも、政治の世界でも。

──確かにそうですね。欧米、とりわけアメリカに追いつけ、追い越せ、みたいなことでやってきたものの、その欧米がどういうわけだか行き詰まってる。コロナ対策ひとつをとっても、うまくいっていない。対して日本は、どうにか対応しているようにも見える。専門家もどうしてなのだろう?という反応です。

為末:そうなんです。 スポーツの世界でも「日本人ばなれ」という言葉が最大の褒め言葉だった。僕なんかもその世代なんですが、ジャマイカの選手のような跳躍をみせたい、と躍起になってたんです。外国の選手に対するコンプレックスをなんとか振り払ってやろう、みたいな。でも、大谷翔平選手の活躍なんかを見てると、違うんですよね。日本人のいいところを世界に示そうとしている。礼儀作法ひとつをとっても、です。

──そうか。彼のすごいところは、そういうところなんですね。これまでのスーパースターは、アメリカナイズされた、あるいは西洋っぽい感じで、なんだか遠い存在でしたが、彼のプレーには、僕のような53歳のおじさんもなんだか勇気をもらえます。

為末大さん

為末:日本は「型」の文化です。そこに美しさもあるし、安心感もある。でも、惰性や甘えも生まれる。その「型」を壊さずに、中身を変えていく。だからこそ、彼のプレーには世界が魅了されるし、小学生からご高齢の方まで、勇気と自信がもらえるんだと思います。 

──話が見事に「老い」に戻りましたね(笑)。

為末:老いを、心身の衰えと捉えてしまっては、希望もなにもありません。日本の文化に育まれたこの体をつかって、なにか新しいことをしてやろう、と考えればポジティブな気持ちになれる。

──インタビューの最後に、「欲」についてお伺いしたいと思います。年を重ねるごとに、ひとは「欲」がなくなりますよね。「食欲」「性欲」「仕事欲」……自身のことを考えてもあれあれ、こんなにも淡泊になってるぞ。情けないなー、老いたなー、みたいな気持ちにどうしてもなってしまう。このあたりとは、どう向き合っていけばいいのでしょうか?

為末:難しい質問ですが、僕は「欲をコントロールできるようになってきた」と考えるのがいいと思っています。若い頃は「欲に支配されて」きましたよね?仕事でも、恋愛でもそうです。湧き上がる欲に操られるように、すべてを手に入れてやろう、としてきた。でも、年を重ねていくと「欲の投資先」を冷静に選べるようになるんです。

──「欲の投資先」ですか?マーケ用語でいうところの「選択と集中」みたいな?

為末:そう。人間、生きているかぎり、欲はある。アスリートもそうです。でも、年を重ねるほどに、あれもこれも欲しい、みたいな欲は捨てて、ここに力を注ごうという気持ちになってくる。そしてその欲は、「自分をアピールしたい」みたいなことから徐々に「人や社会に対して、自分にはなにができるんだろう?なにか役に立ちたい」といったようなものに変わっていく。

──それこそが「老い」の素晴らしさ、だと。

為末:僕は、そう思いますね。

──人も、企業も、若返ろう、若くありたい、と必死ですが、そればかりに気をとられていてはいけない、ということですね。今回も、すてきなお話を聞かせていただきました。ありがとうございます。

為末:こちらこそ、ありがとうございました。次回の取材も、楽しみにしています。

(聞き手:ウェブ電通報編集部)


アスリートブレーンズ プロデュースチーム 日比より

「老い」の第3弾。企業・社会の老いから、結びには「欲のコントロール」という話になりました。トップアスリートは、己の心身に徹底的に向き合ってきたからこそ、人間が抱える「あらゆる感情(前回のテーマ:美しさ、今回のテーマ:老い)」に対して、実践知があるのではないでしょうか。そういったことを感じさせるインタビューでした。

「老い」の一側面だけ見ると、心身の衰えとなってしまうものの、「老い」がもたらす素晴らしさについて言及がありました。人間の「感情」を本質的に捉え直すときに、アスリートブレーンズがお役に立てる機会があるかもしれないと感じております。

アスリートブレーンズプロデュースチーム 電通/日比昭道(3CRP)・白石幸平(事業共創局)

為末大さんを中心に展開している「アスリートブレーンズ」。
アスリートが培ったナレッジで、世の中(企業・社会)の課題解決につなげるチームの詳細については、こちら

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