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日本の広告費No.9

「2021年 日本の広告費」解説-広告市場は大きく回復。インターネット広告費がマスコミ四媒体の総計を初めて上回る

2022/02/24

2月24日、「2021年 日本の広告費」が発表されました。マスコミ四媒体、インターネット、プロモーションメディアの各広告市場の変化について、電通メディアイノベーションラボの北原利行が解説します。

北原利行

「2021年 日本の広告費」の概要──人流や経済の回復とともに、広告市場全体に明るい兆し

2021年(1~12月)における日本の総広告費は、6兆7998億円でした。新型コロナウイルス感染症(以下、新型コロナ)の影響を受け大幅に落ち込んだ2020年比で、110.4%。広告市場全体が大きく回復しました。

日本の総広告費推移
※2019年からは、日本の広告費に「物販系ECプラットフォーム広告費」と「イベント領域」を追加し、広告市場の推定を行っていますが、2018年以前の遡及(そきゅう)修正は行っていません。

中でも例年好調のインターネット広告費の総計は、前年比121.4%の2兆7052億円に到達。マスコミ四媒体広告費の総計2兆4538億円を上回りました。

インターネット広告費がマスコミ四媒体広告費を上回ったのは、1996年の実績について1997年に推定を開始して以来 、初となります。

なお、マスコミ四媒体広告費とは、「新聞」「雑誌」「ラジオ」「テレビメディア(地上波テレビ+衛星メディア関連)」の媒体費と制作費の合算です。インターネット広告費は、媒体費、「日本の広告費」における物販系ECプラットフォーム広告費、制作費の合算です。

インターネット広告費推移

日本の広告費は大きく

  • 「マスコミ四媒体広告費」
  • 「インターネット広告費」
  • 「プロモーションメディア広告費」

に分類しています。

媒体別「日本の広告費」(2019~21年)

総広告費におけるそれぞれの構成比は、マスコミ四媒体が36.1%、インターネットが39.8%、プロモーションメディアが24.1%です。

前年まで減少が続いていたマスコミ四媒体は、前年比108.9%と回復。インターネットは前年比121.4%と大きく増加しました。

2021年 媒体別構成比

●マスコミ四媒体広告費──前年のマイナスから回復

新聞、雑誌、テレビ、ラジオのマスコミ四媒体広告費は、前年比108.9%の2兆4538億円でした。これらの広告費には制作費も含まれます。

新聞が前年比103.4%、雑誌が同100.1%、ラジオが同103.8%と増加。地上波と衛星メディア関連を合わせたテレビメディアは、在宅需要が増加した影響もあり、同111.1%と二桁増となりました。

●インターネット広告費──社会の急速なデジタル化がさらに追い風に

インターネット広告費(媒体費+「物販系ECプラットフォーム広告費」+制作費)は、社会全体の急速なデジタル化を受けて、大きく成長しています。

1997年の推定開始以来、初めてマスコミ四媒体広告費を上回りました。また、インターネット広告費のうち、後述する「マスコミ四媒体由来のデジタル広告費」は二桁成長で、初めて1000億円を超えました。

●プロモーションメディア広告費──新型コロナの影響続く

前年比97.9%と、引き続き減少傾向です。人との接触を伴う各種リアルイベントや従来型の集客をメインとした広告販促キャンペーンは、徐々に実施されつつありますが、新型コロナ感染拡大防止の観点から未だ厳しい状況が続いています。

一方で、大型で目立つインパクトのあるOOH(例:繁華街や単駅での大型サイネージ、大型ボード)や、巣ごもり・在宅需要を取り込んだ「折込」「DM(ダイレクト・メール)」は増加しました。

媒体別詳細解説:加速するDX。コロナ禍の中で見えた潮流

2021年は新しい生活様式の定着に伴い、徐々に人流・経済が復活し、多くの広告媒体が回復傾向となり、明るい兆しが見えた1年だったと言えるでしょう。

コロナ禍以前から始まっていた社会のDX(デジタルトランスフォーメーション)は大きく加速。屋外広告、店頭POP、DMに至るまで、あらゆる広告にもデジタルありきの構造が浸透し始めました。

巣ごもり・在宅が定着したことに伴い、テレビメディア広告費、インターネット広告費は増加。特に動画広告の需要は高まり、映像系の市場が拡大しました。

また、東京2020オリンピック・パラリンピックをはじめとするさまざまな大型イベントが、従来とは異なる形で開催されました。

ここからはカテゴリー別に解説します。

マスコミ四媒体広告費:前年から大きく回復

●マスコミ四媒体広告費<新聞広告費>

新聞広告費は、東京2020オリンピック・パラリンピックの開催や第49回衆議院議員選挙の影響もあり、通年で増加しました。

巣ごもり・在宅需要で「化粧品・トイレタリー」は前年比112.0%で伸長。「情報・通信」は前年の大幅な出稿増加からの反動減で同96.3%となりましたが、ウェビナー、リモートワーク関連、ECサイト関連の需要は拡大傾向が続いています。

●マスコミ四媒体広告費<雑誌広告費>

雑誌広告費を業種別に見ると、「家電・AV」「案内・その他(企業グループ広告など)」が前年より増加しました。東京2020オリンピック・パラリンピックの影響もあると考えられます。

なお、2021年の紙の出版物推定販売金額は前年比98.7%と17年連続のマイナスでした。一方、電子出版市場は同118.6%と大きく伸長。縦スクロールコミック(※)の浸透も大きな要因とみられます。(数字出典:出版月報2022年1月号)

※縦スクロールコミック=スマートフォンでの閲覧に特化した「縦スクロール」「オールカラー」のウェブコミック。
 

●マスコミ四媒体広告費<ラジオ広告費>

ラジオ広告費も東京2020オリンピック・パラリンピックに関連した番組への出稿が増えたこともあり、前年比103.8%と増加。

業種別では、巣ごもり需要により「飲料・嗜好品」が同126.9%、SNSや動画サブスクリプションサービスが含まれる「情報・通信」も同112.9%でした。

●マスコミ四媒体広告費<テレビメディア広告費>

テレビメディア広告費(地上波テレビ+衛星メディア関連)は二桁増。開催を見送られていた各種大型スポーツイベントが実施され、タイム広告費の大幅増につながりました。

そしてスポット広告では、春以降、携帯キャリアの出稿が堅調な「情報・通信」に加え、スタートアップ、ヒューマンリソース領域の出稿がけん引し、好調に推移。さらに、巣ごもり・在宅需要による「飲料・嗜好品」業種の出稿も好調でした。映画広告なども含まれる「交通・レジャー」も少しずつ復調しています。また、年末にかけて「外食・各種サービス」の出稿も大きく増加しました。通期で基幹8地区全てが前年を大きく上回りました。

プロモーションメディア広告費:新たな試みが増加

●プロモーションメディア広告費<屋外広告、交通広告>

緊急事態宣言の解除などに伴い人流が戻ったことで、「ファッション」「医療」「エンターテインメント」といった業種を中心に広告需要は回復しました。

屋外広告でいうと、長期看板は、繁華街など一部で需要があったものの、全体的には回復の動きが鈍く苦戦が続いています。短期看板や短期ネットワーク看板、屋外ビジョン、デジタル屋外広告(DOOH)は繁華街における大型で目立つインパクトのあるOOHが好調で、特に繁華街での巨大な3Dコンテンツ放映は大きな話題となりました。

交通広告は、全体でみると新型コロナの影響もあり、減少傾向です。鉄道においては中づり、駅サイネージ、駅貼りといったネットワーク系媒体よりも、大型で目立つインパクトのあるOOHに需要が集中する傾向がみられました。空港は新型コロナで入国制限が続き、国際線は前年より減少。公共交通機関の中でもターゲットを絞りやすいタクシー広告は、車内のサイネージ広告が増加し、成長しています。

交通広告における業種別では、ゲーム系、美容系、SNS動画配信系、クラウドサービス系、デリバリー系が多く、前年に引き続き飲料系が減少しています。

●プロモーションメディア広告費<折込、DM(ダイレクト・メール)>

折込広告、DM(ダイレクト・メール)は、巣ごもり・在宅需要を後押しする媒体として、主要都市圏を中心に増加しました。スーパーやホームセンター、家電量販店を含む流通・小売の販促利用が回復したことも大きな要因です。

外出自粛や移動制限が影響して飲食・旅行関連の減少が続く一方、出前や食材配達サービス、買い取り事業などが好調です。

また、デジタル広告が届きにくいターゲットに向けて「無宛名便DM」の市場が拡大。新型コロナの影響により対面での営業が難しい状況において、主に保険営業などを中心に活用が広がりました。

●プロモーションメディア広告費<フリーペーパー>

フリーペーパーは、タブロイド判タイプ、雑誌タイプ(フリーマガジン)、電話帳の総称です。新型コロナによる外出自粛を受け、前年に引き続き減少傾向です。一部の発行紙の休刊やエリア統合、発行号の削減などが進んだことが要因の一つです。

リモートワーク増加等で途絶えた人流が完全には戻っておらず、駅に設置されるタイプのフリーペーパーなどは減少しました。

一方、地域紙誌などは、各々の地域ごとの取材力、記事力を活かした編集、さらにデジタルプロモーションも取り入れるなど積極的な営業活動ときめ細かい配布を背景に、堅調な動きがみられます。

●プロモーションメディア広告費

新型コロナ感染拡大防止のため、店頭での集客イベントや販促プロモーションは引き続き自粛、減少傾向でした。

一方で、従来は見られなかった施策として、店頭でのDX施策(※)をはじめ、デジタルサイネージの導入やAR・VRといった新たな手法が活用され、POPに新たな可能性が広がりつつあります。

※店頭でのDX施策=タッチ&トライデータ、購買導線データ、AIカメラ等による視聴者数・属性調査など、データ取得や分析についての試み。

●プロモーションメディア広告費<イベント・展示・映像ほか>

東京2020オリンピック・パラリンピックの開催もあり、イベント領域においては、1372億円(前年比126.0%)と増加となりました。

展示領域では、文化施設や百貨店、オフィスの改装需要が増加。一方で複合型商業施設やテーマパークといった「人が集まる場所」では、新型コロナによる経済活動の停滞関連の設備投資抑制を受けて大きく減少しました。

また、オンライン展示会やウェブ講演会、セミナーに付随する配信動画や商品紹介の映像制作需要が増大しました。

インターネット広告費:リッチな動画広告の需要が高まる

新型コロナの影響で広告出稿が全体的に大きく減少した前年においては、インターネット広告費は唯一成長を遂げた領域でした。この勢いは変わらず、2021年は前年比121.4%と大幅に伸び、マスコミ四媒体を超える市場規模にまで成長しました。

インターネット広告媒体費──マスコミ四媒体由来のデジタル広告が初の1000億円超え

インターネット広告媒体費は、2兆1571億円(前年比122.8%)で大きく伸長しています。巣ごもり需要で広く定着した、動画配信サービスの利用者は増加傾向にあります。東京2020オリンピック・パラリンピックの無観客開催も相乗して、動画広告が大きく伸びました。

ここ数年注目しているマスコミ四媒体由来のデジタル広告(媒体費に含まれる)は、初めて1000億円を超え、前年に続く二桁成長となりました。

2021年 マスコミ4媒体由来のデジタル広告費

●新聞デジタル──新聞の信頼性を生かし、予約型広告も増加

上半期は、「新聞の信頼性」という強みを生かしたタイアップ記事など、予約型広告が増加しました。また、東京2020オリンピック・パラリンピックや新型コロナ関連ニュースでPV数が増え、その時期は、運用型広告も増加しました。通年では、新聞社主催のオンラインイベントも盛んでした。

●雑誌デジタル──出版編集のコンテンツ制作力と集客力による広告企画 

雑誌コンテンツをデジタル化することで、前年に続き高い伸びを示しました。ウェビナー企画やオンラインイベント、広告主のコンテンツ制作、動画作成・配信といった、出版編集ならではのコンテンツ制作力や、コミュニティ的な集客力を生かした広告企画が定着したのも成長の要因です。

また、雑誌とECやSNSの連携がよく活用され、ファン・コミュニティの事業化、コミック事業の拡大、XR(※)、およびメタバース領域、NFT(非代替性トークン)を活用した価値の高いコンテンツの取引など、「出版IP(知的財産)」を駆使したさまざまな研究開発が進んでいます。

※XR=クロスリアリティ。現実世界と仮想世界を融合することで、現実にはないものを知覚できる技術の総称。ARやVRを含む。

 

●ラジオデジタル──音声メディアの需要が高まる

radiko(ラジコ)への新規出稿、継続出稿は増加傾向にあり、前年比127.3%となりました。Podcastをはじめとする音声メディアへの需要が高まった背景には、外出自粛やリモートワークの普及もあります。Spotifyユーザーに接触するradikoのプレミアムオーディオ広告も好調です。

●テレビメディアデジタル──コネクテッドTVでの視聴も拡大

テレビメディア関連動画広告は、前年比146.5%と前年に続いて急成長をみせています。中でも「TVer(ティーバー)」は再生数・ユーザー数ともに順調に成長しています。

近年のトレンドとしては、コネクテッドTVが広く普及。テレビ受信機の大画面での視聴に堪えるデジタルコンテンツが当たり前になりつつあります。

物販系ECプラットフォーム──巣ごもり・在宅で誰もが使うようになった

物を購入する場がインターネットに移行している状況もあり、物販系ECプラットフォーム広告費は前年に引き続き高い成長率になりました。新型コロナによる外出制限を受けて、日用品や生活家電だけでなく、衣類や書籍、おもちゃといった生活必需品以外の流通も増えています。

インターネット広告制作費──コンテンツのリッチ化はますます進む

消費スタイルの変化や企業のDXが進み、広告制作需要は増加しています。特に動画広告の成長が著しく、ブランドムービーからSNS上のバズ動画まで幅広い動画広告が増える中、制作コストの高いリッチコンテンツが特に伸びました。

5Gをはじめとするインフラ整備の普及で高いクオリティが求められるようになったことも要因の一つです。

ますます融合していくインターネットと他媒体をどう活用するのか?

2021年は経済活動が徐々に回復し、ほとんどの媒体がプラスに転じました。ただし、巣ごもり・在宅が定着したことで、人流は完全に戻りきらず、リアルでのプロモーションや屋外広告、旅行に関する広告などは伸び悩みました。

インターネット広告の伸びは好調を維持していますが、多方面でDXが進んだことで、オンラインだけではリーチできない部分でも紙などの他媒体を活用する方法が増えてきています。例えば紙のDMでも、ユーザーデータに基づいて個人個人にメッセージを最適化し出し分けるなど、一見デジタルとは関係のなさそうな領域にも新しい取り組みが多く見られました。

また、前年以上に、スポーツや音楽など既存の領域でリアルとオンラインを掛け合わせたハイブリッドイベントも多く開催されました。ARやVRを絡めた施策も徐々に増えています。

前年と比べてもDXがさらに拡大した2021年は、リーチが広く同報性の高いマスコミ四媒体やプロモーションメディア広告など既存メディアとの連携が一層深まり、インターネットと他媒体の関係性が新たなフェーズに入ったと考えられるでしょう。

「2021年 日本の広告費」詳細はこちら(電通ニュースリリース)。

日本の広告費推計範囲