スポーツ化する「麻雀」と「見る雀」の魅力とは?
2022/03/09
突然ですが、みなさんは「麻雀」にどのようなイメージを持っていますか?
近年、麻雀は「ギャンブル」という立ち位置から、互いの知性を競い合う「頭脳スポーツ」へと進化し、「eスポーツ」のような熱狂を生み出しています。
2018年には、麻雀のチーム対抗ナショナルプロリーグ「Mリーグ」が開幕。2021年には154万視聴(※1)を記録するほど、多くの人々が麻雀のスポーツとしての奥深さに魅了されています。通常のスポーツリーグとは違い、”観戦しながらSNS上で応援をする文化”が醸成されていることも特徴で、そのSNS上の熱狂に企業が注目し、麻雀コンテンツを通じてさまざまな形でシナジーを生み出す事例が出てきています。
「なぜ麻雀が盛り上がっているのか?」
「麻雀を見て何が面白いのか?」
本連載では、Mリーグを初年度から見続けている猿渡輝也氏が、Mリーグに参画するチーム・TEAM RAIDEN/雷電の高柳寛哉監督をアドバイザーに迎え、麻雀の頭脳スポーツとしての可能性とビジネス価値についてひもといていきます。
初回は、頭脳スポーツの中でも「ギャンブル」と思われていた麻雀が発展した理由とコンテンツとしての魅力について、「見る雀(みるじゃん)」という現象を軸に解説していきます。
クリーンなブランド戦略とネット配信で、麻雀ファンが増加
「eスポーツ」という言葉が広く認知されるようになり、「子どもの遊び」だと思われていたゲームが技術・戦略・瞬発力・チームワークなどを競い、見る人を熱狂させる「スポーツ」へと進化しました。
そしてeスポーツの登場以前から存在していた頭脳スポーツ(マインドスポーツとも呼ばれ、将棋や囲碁、チェスなど脳の身体能力を競うスポーツのこと)も、競技自体がオンラインで気軽に楽しめるようになったことや高齢化が進む社会における認知症予防、ダイバーシティの観点などから再び注目されるようになっています。
頭脳スポーツは、「記憶能力や判断能力など脳の身体能力を使うスポーツ」と定義され、サッカーや野球などのフィジカルスポーツと比較される概念です。
2005年には、国際チェス連盟や国際囲碁連盟など4つの国際団体が結集し、国際マインドスポーツ協会(IMSA)を創設。その後、ポーカーなどトランプ全般の競技を代表するカードゲーム連盟や国際麻雀連盟も加盟し、マインドスポーツのオリンピック種目化を目指す動きが活発化しています。
その中で、麻雀はMリーグの発足をきっかけに、頭脳スポーツの中でも他にない進化を遂げています。
Mリーグとは、「麻雀からビジネスの多くを学んだ」と語るサイバーエージェントの藤田晋氏が発起人・チェアマンとなり2018年に立ち上げた、麻雀のチーム対抗ナショナルプロリーグ。誰もが知る大企業8社がオーナーとなり、それぞれ麻雀のトッププロ選手を集めてチームを結成。半年間のリーグ戦の末に優勝を争う、まさにプロ野球さながらのトップリーグです。
Mリーグは発足当初から「麻雀の負のイメージ(=ギャンブル)の払拭」と「頭脳スポーツとしての認知拡大」を掲げており、選手の賭博行為への関わりを一切禁止する「ゼロギャンブル宣言」を行っています。また、プロスポーツとして広めていくために選手は全員ユニフォームを着用して対局を行う今までにない試みがされています。こうした理念を掲げて最終的にはオリンピックの正式競技化を目指しているのです。
Mリーグ開幕戦が150万視聴。熱狂は右肩上がり
2018年10月の開幕以降、Mリーグの視聴数は右肩上がりに伸び続けています。2021年10月から始まった2021シーズンでは開幕戦で150万視聴を記録。その後も常時100万視聴を超え、ABEMA全番組の中でも常に上位を争う人気番組となっています。
また、視聴数だけでなくTwitterでの話題量のデータを見ても、藤井聡太棋士や羽生善治棋士も出場している将棋の竜王戦や、水谷準選手や張本智和選手も出場している卓球のTリーグと比べて、MリーグはSNSでの話題が圧倒的に多いことが分かります。
Mリーグの熱狂はすでに既存の麻雀ファン以外にも波及し、20代~30代の男性では麻雀をやってみたいと思う人(体験意向者)の割合が右肩上がりに上昇しており、確実にその裾野を広げていることが分かります。
このような熱狂以前から麻雀界の第一線で活躍しており、MリーグではTEAM RAIDEN/雷電に所属している瀬戸熊直樹プロは、現在の麻雀の盛り上がりについて、次のように語っています。
「Mリーグが発足してから、街中や駅で声をかけられることが多くなりました。麻雀プロが多くの人に認知されるようになったと実感します。以前は麻雀をする人の9割以上は、大学生やビジネスパーソンの男性でした。しかし、最近は雀荘のお客さんにも女性がものすごく増えてきました。本当に多くの人が麻雀を楽しむようになってきたと感じます。私たち麻雀プロは、麻雀をより幅広い方に認知してもらうためにタレント性を磨き、麻雀の奥深さを伝えるために技術力を磨いていくことがより必要であると考えています。そして脱ギャンブルを進め、いつか麻雀を国民に愛される娯楽にしていきたいです」
瀬戸熊プロの発言からも、Mリーグ発足以降、麻雀が頭脳スポーツとして定着しつつあることが分かります。
ゲームとしての面白さと数々のドラマがある「見る雀」の魅力
映像コンテンツが成立するためには視聴者の存在は欠かせないものです。特にMリーグでは毎試合数十万人といった多くの視聴者に支えられています。麻雀対局を映像で見て楽しむ人は増え続けており、その行為は「見る雀(みるじゃん)」と呼ばれています。ギャンブルのイメージの強かった麻雀が、なぜ多くの人を魅了するコンテンツとなったのか。「見る雀」の魅力を3つに整理して紹介します。
①番組の視聴体験の魅力
MリーグはABEMAにて全試合が無料で放送されており、スマホやPCから気軽に視聴することができます。また、Twitterで試合の感想やリアクションを投稿し、Mリーグのファン同士で交流しながら応援することや、YouTubeで麻雀プロの解説配信を聞きながら視聴できることも、Mリーグならではの魅力です。
②麻雀のゲームとしての魅力
「麻雀を打つとその人の性格が分かる」とよく言われますが、「配牌(最初に配られる牌=手札)とツモ(毎順引いてくる牌)が全く同じでも打つ人によって結果が変わる」面白さを麻雀は持っています。だからこそ視聴者は「この選手は何を選択するのか」とワクワクし、その先にある結末にドキドキしながら試合を見るのです。
また、麻雀は最後まで逆転の可能性があるゲームです。Mリーグのある試合では約3万点の大きな差を最後に逆転する名場面も生まれました。このシーンはYouTubeで440万回以上再生されており、最後までどうなるか分からない麻雀の魅力の詰まった試合として語り継がれています。
一見すると麻雀は、牌を引いてきて、いらないものを捨てるだけのシンプルな動作で成り立っているように見えます。そのためトッププロのスーパープレーであっても「自分にもできそう」と思わせてくれるのです。しかし、実際にやってみると不思議とそううまくはいきません。麻雀はあらゆる可能性を想像できる深い思考力、瞬発的な状況判断力、相手の動作から情報を引き出すための洞察力や記憶力、劣勢や苦境に立たされた時に勝負に立ち向かっていく精神力と、勝利に向かうにはいろいろな能力が必要とされ、その積み重ねの上に成り立っている奥深さがあるからです。
瀬戸熊プロは、「麻雀は結果が分かっている試合でも、見ていて楽しめるコンテンツ」であると言います。試合の勝ち負けだけでなく、そこに至るまでの過程を楽しめるゲームとしての魅力が、多くの視聴者を惹きつけているのです。
③Mリーグのチーム戦としての魅力
麻雀は本来1 vs 1 vs 1 vs 1の個人戦です。それをMリーグではチーム戦にしたことによって数々のドラマと熱狂を生み出しています。特にチーム編成に関しては、麻雀界を代表する姉妹や名コンビを同じチームにしたり、特徴的なプレースタイルの選手で固めたチームがあったりと、視聴者それぞれの推しを持って応援しやすいチームが多いのです。また現在、Mリーグの選手は全部で32人しかおらず、選手の顔と名前、キャラクターまで視聴者が覚えやすいことも人気の理由です。
一方で見方を変えると、Mリーグはチーム戦ですが、毎回試合に出場するのは選手1人です。そのため試合中はチームの成績を左右するのは選手本人以外ありません。Mリーグの舞台でチームとファンの思いを背負って戦う瀬戸熊プロは、「人のために打つ麻雀がどれだけ責任が重く辛いものか。あの場に立つ選手は全員それを自覚しています」と、言います。
共に戦うチームメイトや、応援するファン、背負っている企業の運命が自分の選択によって決まってしまう。そのプレッシャーの中での究極の精神のしのぎ合いが、視聴者を魅了するのです。
そして何よりもチーム戦ならではのストーリー性があります。新人選手の初勝利に控室が湧きたつ瞬間。ずっと不調に苦しんでいた選手がチームの危機を救う勝利をした瞬間。優勝まであと一歩のところで、チームのエースが勝ちを拾うことができず涙を流す瞬間。こうした人間ドラマの数々が生まれるのも、麻雀がスポーツとして受け入れられている理由の一つです。
麻雀の熱狂が企業課題解決のソリューションになる?
昨今では多くの視聴者が熱狂するコンテンツへと成長している麻雀。その熱狂に企業が注目して新しいシナジーが生まれてきています。Mリーグには以下のような特徴があり、既存のスポーツタイアップとは違った価値が企業にはあるからです。
①SNSとの親和性が高いこと
②ファンの視聴が1つの番組に集中すること
③選手全員がインフルエンサーであること
詳細は次回に譲りますが、麻雀を活用したコミュニケーションによるSNSでの盛り上がりをキッカケにブランド認知、ブランド好意度を高める事例が生まれてきています。また通常の広告接触では態度変容しにくい層にアプローチできることも企業にとって魅力です。
麻雀の魅力と選手のキャラクターを踏まえたコラボレーションをすることで、番組コンテンツと一体となり、ファンは企業と麻雀がコラボすることを楽しみにする世界が広がっています。このように麻雀をブランドコミュニケーションに活用することで、ブランドと生活者のそれぞれにメリットのある好循環が生まれているのです。既存のスポーツタイアップとは違い、麻雀にはSNS時代ならではの熱狂があり、唯一無二のソリューションとなっています。