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麻雀はスポーツだ!その熱狂とビジネス価値を探るNo.2

「麻雀×企業」のビジネス価値とは?

2022/04/21

頭脳スポーツとしての麻雀の可能性とビジネス価値を探る本連載。前回は、ギャンブルだと思われていた麻雀がスポーツとして発展した理由と、「Mリーグ」の熱狂について、「見る雀(みるじゃん)」という現象を中心に考察しました。

今回は麻雀のビジネス価値について、Mリーグと企業のコラボレーション事例を交えて考察します。

<目次>
麻雀と選手の魅力を踏まえた企業のコラボレーション
Mリーグの3つのビジネス価値

Mリーグとは……
2018年に発足した、麻雀のチーム対抗ナショナルプロリーグ。誰もが知る大企業8社がオーナーとなり、それぞれ麻雀のトッププロ選手を集めてチームを結成。半年間のリーグ戦の末に優勝を争う。全試合がABEMAで無料で放送されており、2021年には154万視聴(※1)を記録するほどの人気番組になっている。
Mリーグ

※1 ABEMA 「2021年10月4日の人気テレビ番組ランキング(視聴数)」2022年2月16日時点。

 

麻雀と選手の魅力を踏まえた企業のコラボレーション

まず、Mリーグと企業がコラボレーションした3つのコンテンツを紹介します。

番組と一体となり定番コンテンツとなったソニー損保「大好きシリーズ」

Mリーグ(画像をクリックすると、コンテンツをご覧いただけます)

ソニー損害保険(以下、ソニー損保)のインフォマーシャルは、Mリーグの番組の間に放送されています。2022年3月までに20人の選手を起用し、29バージョンが制作されました。

選手の異名や、麻雀のプレイスタイル、名場面などにソニー損保の自動車保険の特徴をうまく融合させるクリエイティブで、CMとしてだけでなく、Mリーグファンが楽しめるコンテンツになっています。

CMの最後に、選手が少し照れながら「大好き!」というセリフが入るのがポイント。「選手の貴重なセリフが聞けるのもソニー損保のおかげ」とファンから好意度が高まっています。さらにソニー損保の公式Twitterで選手のオフショットを紹介したり、グッズプレゼントを展開したりすることで、MリーグのTwitter文化にもうまく浸透しています。

その結果、これまでのTwitter上での「ソニー損保の大好きCM」に関する投稿数は2.1万Tweet(※2)、YouTubeにアップされている直近の動画シリーズの総再生回数は41万回(※3)にものぼります。「Mリーグで『大好き』と言えばソニー損保」というイメージが確立され、Mリーグの主な視聴者層である若年男性を中心にブランド認知が進み、好意度アップにつながっています。

※2 集計ツール Meltwater 期間20/11/1-22/3/21 キーワード:#ソニー損保の大好きCM など表記ゆれを考慮し集計。
※3 2022年3月21日現在。

 

MリーグのTwitter文化をうまく活用した日清食品「メンカウント動画」

Mリーグ(画像をクリックすると、コンテンツをご覧いただけます)

日清食品は、「すべてのメンにありがとう」メンカウント動画を展開しました。Twitter上で展開される面白い企画で有名な日清食品が、Mリーグの盛り上がりにも目を付けてコラボレーションをしたものです。

麻雀用語には「メンゼン」「メンツ」など「メン」と付く言葉が多いことに注目し、Mリーグの名物実況者である日吉辰哉さんが放送中に「メン」と言った回数を全てカウント。そのシーンを編集して作ったこの動画。癖が強く中毒性があり、「面白い!」と拡散され、Twitter上で40万回以上再生されました。

日吉さんが放送中に「メン」と言った回数は3000回を超え、それを全て数え上げるという途方もなくくだらない行為に、「ここまでする日清食品にリスペクト」と賞賛のコメントも寄せられました。

日清食品はMリーグの副賞企画も展開しています。例えば、出現率10万分の1と言われる麻雀のレアな役「地和(チーホー)」を出した選手に日清焼そばU.F.O.を一生分プレゼントする「チーホー出たら、ユーホーあげる。」企画。他にも、選手を「麻雀星人」に認定してオリジナルのU.F.O.をプレゼントする企画など、麻雀ファンも思わず笑ってしまう企画を打ち出してきました。この結果、日清食品流に麻雀を盛り上げようとしていることが伝わり、ブランドの好意度アップにつながりました。

名シーンを活用してインパクトを残す大和証券CONNECT「まいにち投信CM」

Mリーグ(画像をクリックすると、コンテンツをご覧いただけます)

CONNECTは、Mリーグで実際にあった名対局シーンを活用したCMを制作しました。同社はMリーグの冠スポンサーを務める大和証券グループの一翼を担うスマホ証券会社であり、少額から投資を始められるサービスを提供しています。

CMに使われたのは、YouTubeで440万回も再生されている名対局シーン。何回も見てしまう内容で、ファンにも好意的に受け入れられています。CMに登場する「まいにちコツコツ」というフレーズも麻雀に通じる部分があり、たびたび選手やファンが口にするフレーズとして浸透しています。

堅実なイメージがあり、CMで商品の特徴を伝えるのが難しい証券会社ですが、実際の対局シーンと選手を起用することでファンの記憶に残るCMとなり、Mリーグの主な視聴者層である若年男性を中心にブランド認知、好意度アップにつながっています。


 

Mリーグの3つのビジネス価値

ここからは、Mリーグのビジネス価値について考察します。Mリーグの特徴は、次の3つに集約できます。

Mリーグ

特徴①:SNSとの親和性が高い

Mリーグ発足前から、麻雀業界ではTwitterでの情報発信が主流でした。事務所や団体のマネジメントを受けるプロ雀士はわずかで、ほとんどは自身の出場する試合や雀荘へのゲスト出演などの情報を、個人のTwitterアカウントで発信しています。

Mリーグの選手たちも、試合の感想や選手同士のやり取り、プライベートな情報もTwitterで発信しており、それがファンを増やすコンテンツになっています。

さらに注目したいのが、Mリーグを放送するABEMAが、視聴者にTwitterとの「コメント連携」を推奨している点です。コメント連携とはABEMAの機能で、視聴者が放送中の番組のコメント欄に書き込みをすると、12秒の番組映像とともにコメントがTwitterに投稿されるというものです。これにより「番組が盛り上がった瞬間」が動画付きで拡散されるため、視聴者以外の目にも触れやすくなっているのです。

そして各チームの先発選手発表や、リーグ公式による試合の実況などもTwitterで実施するなど、Mリーグに関する情報は全てTwitterに集まり、拡散されます。

Twitter以外では、YouTubeの活用も目立ちます。Mリーグ公式アカウントや各チームが名場面や舞台裏の動画を投稿することはもちろん、麻雀プロやYouTuberが番組放送をファンと同時に視聴しながら解説・応援をする”同時視聴配信”も盛んに行われています。

Mリーグ
集計ツール:kamui tracker、キーワード:麻雀/マージャン/Mリーグ、調査期間:2016年1月~2022年3月

コロナ禍でスタジアムなどでのリアルな観戦ができず、多くのスポーツコンテンツが苦戦を強いられています。そんな中でMリーグは、ネット配信とSNSを中心としたコンテンツビジネスのモデルをつくり上げており、大きく成長しているのです。

特徴②:選手全員がインフルエンサー

Mリーグ選手のTwitterフォロワー数は合計181万人、Instagramを含めると216万人に上ります。選手全員がインフルエンサーと言えるでしょう。

また、Mリーグの選手はそれぞれが麻雀業界全体を背負うプロとして、広報活動にも力を入れています。他業種と兼務している萩原聖人プロ(俳優)、岡田紗佳プロ(モデル)、伊達朱里紗プロ(声優)は、それぞれの活躍の場でも、麻雀やMリーグについて発信しています。

YouTube活動もその一つです。選手の多くは自分のYouTubeチャンネルを持っており、対局中の自身の思考を解説したり、麻雀のプレー以外の一面を見せる動画を投稿・配信しています。

なかでも多井隆晴プロは、チャンネル登録者数16.5万人を誇るゲーム実況者として活躍。VTuber(バーチャルユーチューバー)とコラボするなど、YouTubeを活用してMリーグ発展に貢献しています。

Mリーグで活躍する瀬戸熊直樹プロは「私自身もそうなのですが、麻雀をする人はオタク気質の人が多いため、自分が納得したものや好きなことにはお金を惜しまない傾向にあります」と語っており、Mリーグの番組やTwitterなどで、いわゆる企業タイアップを行うと、そのようなアクティブで感度の高い購買層にリーチできることが分かります。

選手全員がインフルエンサーであることが企業にとっての価値となり、ファンも楽しめるコラボレーションが実現しているのです。

特徴③:視聴者が1つの試合に集中する

プロ野球やJリーグのようなプロスポーツリーグでは、同日に複数の試合が行われるため、ファンの視聴が分散します。しかし4人が争う競技である麻雀では、4チームで1試合を戦うことになり、ファンの視聴がABEMAの1つの試合に集中します。そのため、番組と連動して行うコミュニケーションは、全てのMリーグファンにとって共通の話題となり、盛り上がります。

しかも麻雀はスタジアムなどリアルな場所での観戦がないため、コアファンもライトファンも、同じABEMAのコメント欄やSNSを使って応援しています。その結果、熱狂的なファンのコメントが最近見始めたライトファンの熱量も上げていく好循環が生まれています。

Mリーグ

ご紹介したように麻雀には、SNSが全盛の今の時代に熱量高く情報がリーチしていくための番組コンテンツ、タレント、メディアがそろっているという価値があることが分かりました。そして、その価値に企業が注目してコラボレーションする事例が出てきています。

麻雀ファンは、一流企業が麻雀と次はどんなコラボレーションを見せてくれるのか楽しみにしています。 そして、自分たちが好きな麻雀を一緒に応援してくれる企業のファンにもなっていくのです。

選手や麻雀自体の特徴を生かし、文脈に合わせた企画を生み出していくことで、麻雀と企業のコラボレーションは増えていき、進化していくことでしょう。 

今回はMリーグを例にお話をしましたが、今後は麻雀だけに限らず頭脳スポーツ全体として、このようなムーブメントが加速していくに違いありません。

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