“DX先進国”中国で日系企業はいかにDXを進めるべきか?No.1
中国版「DX診断」が登場!日系企業の強みと課題とは?
2022/03/08
日本のみならず、中国においても、企業のDX(デジタルトランスフォーメーション)の重要性が増しています。
中国マーケットに参入している日系企業は、「中国ならではのDX」に対応する必要があります。
そんな中、電通グループは、もともと日本国内向けに開発した「DX診断」の中国版を、日系企業向けに展開しています。
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日系企業のDXを支援している電通マクギャリーボウエン・チャイナ、上海オフィスの田中大稔氏に、中国版DX診断の狙いと、現地の状況を聞きました。
“DX先進国”の中国で日系企業が直面する課題
山本:上海電通がクライアントに提供しているサービスについて教えてください。
田中:主に上海に拠点を置く日系企業に対して、広告や販促キャンペーンを中心に、マーケティング課題を解決するソリューションを提供しています。ご存じの通り、中国は独自のデジタルエコシステムの普及が目覚ましく、それに対応したマーケティング手法の進化も著しいものがあります。このような市場環境の中で、さらにコロナ禍を経験している今、クライアントから、DXに関するご相談をとても多くいただいています。
山本:「中国版DX診断」の開発に着手した経緯をうかがえますか?
DX診断とは?
顧客接点に関する領域を「マーケティングDX」と捉え、電通が独自に行った調査結果を元に、DX進捗度を偏差値によって測る診断ソリューション(リリースはこちら)。
日本、中国それぞれの調査条件は記事末尾に記載。
田中:DX先進国である中国のマーケットで、日系企業の中国拠点経営者の方々から「生き残りをかけてDXに取り組みたい」「中国マーケットを先行事例としてDXにチャレンジし、自社のビジネスモデルを変革したい」といった声を数多くいただくようになりました。背景には、コロナ禍で一気にDXが加速したこと、売り上げ構成比における中国のシェアと重要度がより高まったことがあります。
伝統的に、日系企業の中国拠点経営は、「サプライチェーンマネジメント」と「日本本社モデルの現地化」に比重を置く傾向がありました。しかしここ数年で、「中国現地の顧客視点での事業モデルづくり」と「DX推進」がアジェンダとして上位に上がるようになりました。
電通グループとしても、日系企業が事業改革やDX推進にあたって直面する課題をしっかりと捉え、取り組むべき方向性を明らかにする必要性を痛感していました。そこで、日本で先行して実績のあるDX診断の導入を考えたのです。ただ、中国と日本では、特にデジタル分野で環境が大きく違うので、東京と中国のチームで検討を重ね、中国市場に合わせてカスタマイズしました。
中国市場 “4つの特徴”を踏まえた「中国版DX診断」
山本:DX診断では通常、
- 顧客体験
- システム
- データ・人材
- 組織・業務
の4領域に関するヒアリングを行い、
- ビジョン
- 顧客志向性
- DX進捗度
といった3つの戦略視点で企業のDXへの取り組み度合いを偏差値化します。そこから課題を抽出し、生活者インサイトを踏まえて、マーケティングDXにおけるソリューションを提案していきますね。中国版DX診断には、どのような特徴がありますか。
田中:中国市場には、日本市場とは異なる特徴があります。とりわけ、以下の4点に着目し、5つ目の診断項目として「チャイナファクター」という独自の要素を加えました。
- 中国市場に適応したCX(顧客体験)提供
- スピードの速いマーケット変化に対応するCX変革
- 中国独自のプラットフォーマーとの関係性
- アフターコロナに対する独自アクション
山本:調査結果から見えてきた日系企業の強みは何でしょう?
田中:「顧客第一の考え方」が浸透していることです。一人一人にパーソナライズしたCXを提供し、さまざまなコンタクトポイントからデータを取得したり、顧客満足度評価を活用したり。顧客を第一に考え、新たな試みに積極的に取り組んでいるところが、日系企業の強みだといえると思います。
しかしその一方で、組織間の縦割り構造や、目指すべき姿が明確化できていないという課題があり、せっかくの顧客第一の姿勢が成果につながっていないこともわかってきました。
ただし私は、現在成果につながっていないこと自体は悲観的には捉えていません。「強み」と「課題」を把握することから、打ち手の糸口が見つかると考えています。
山本:日系企業に足りないものについて、もう少し詳しく教えてください。
田中:先ほどお話ししたように、目指すべき姿やカスタマージャーニーの定義が未整備です。「最適なCXを実現するために必要な組織体系と業務プロセス」、つまりゴール像が明確でないからこそ、組織としてのDX推進が十分に進んでいない現状が浮かび上がってきました。
先行する中国企業やグローバル企業では、最新のテクノロジーを用いた新しいCX設計をいち早く導入し、さらにトライ&エラーを繰り返して顧客体験をどんどんアップデートする傾向が見られます。
山本:先ほど挙がっていた“チャイナファクター”について、日系企業の対応状況はいかがでしょう?
田中:残念ながら、依然として軒並み低いのが現状です。中でも、中国市場でカスタマージャーニーを考える上で、外すことのできない「プラットフォーマーとの連携」が十分にできていないことが、そこを起点とする独自アクションの推進やジャーニーの提供の妨げになっています。
山本:課題が山積みですね。
田中:確かに、日系企業が乗り越えなければならない課題は、数多くあります。しかし、中国市場のポテンシャルを考えると、大きな果実を手に入れられるチャレンジしがいのあるマーケットだと考えています。
また、今回ピックアップした日系企業の強みと課題は、中国市場に限ったものではありません。プラットフォーマー環境や、デジタル化のスピードに違いはあっても、世界のどのマーケットで戦おうとも、取り組まなければならない課題ばかりだと感じています。そういう意味では、“DX先進国の中国はグローバル市場攻略の虎の穴”と考えても、あながち外れていないと思います。
山本:すでに一部の日系企業に中国版DX診断の提供を開始したそうですが、反応はいかがでしょうか?
田中:「業界他社や中国企業とのベンチマークで自社の現在地を改めて見つめることができた」「現在進行のERP(※1)導入だけではなく、これまでやれてこなかった新しいCXやCRM(※2)について考え直せた」などの反響をいただいています。どの企業でも、顧客視点・マーケティング視点のDXの重要性を相対的かつ客観的に理解して、DXを推進するサポートツールとして活用いただけそうな手応えを感じています。
※1 ERP=Enterprise Resource Planning、企業資源計画
※2 CRM=Customer Relationship Management、顧客関係管理
中国市場は、BXやDXの実験場になり得る
山本:最後に改めて、日系企業が中国でDXに取り組む意義について、ご意見をうかがえますか?
田中:中国市場は日本と比べてデジタルインフラの整備が進んでおり、先行マーケットとしての「DX実験場」になり得ると考えています。今回のDX診断から見えてきた日系企業の強み、そして課題に留意しながらDXにチャレンジすることが、グローバルに展開する日系企業のビジネス変革のキーになると確信しています。
中国市場の変化のスピードは本当に目覚ましいものがあります。例えば直近だと、これまでの中国ECはAlibabaやJD.comなどのプラットフォームへの出店が主流でしたが、そこからの脱却が起きています。一つはD2Cです。昨今のメディア・コンテンツ環境の変化とコスト意識の高まり、そしてデータテクノロジーの発達から、プラットフォームECに依存しすぎないビジネスモデルとして注目を集めています。もう一つは「プライベートトラフィック」です。自社顧客データを取り込んでコミュニティーで育成し、コンバージョンさせるというモデルで、今の中国市場で非常に注目を集めています。
D2Cやプライベートトラフィックのように新たなマーケティング手法にチャレンジする場としても、中国市場は魅力的な場所です。電通がそんな日系企業をサポートし、一緒に成功事例をつくるお手伝いができればと考えています。
山本:ありがとうございました。
中国版DX診断結果のお問い合わせ、DX関連のご相談は、電通グローバル・ビジネス・センターまで、お気軽にお問い合わせください。