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性×クリエイティビティ Sexology Creative Labの挑戦No.1

グローバルな最新の性教育が、わたしたち大人に必要な理由。

2022/03/08

SEXOLOGY

「性教育」と聞いて、どんなイメージをお持ちでしょうか?
恥ずかしいもの、むかし学校で習ったもの、大人になったらもう関係ないもの、と思う人も多いかもしれません。実は、日本の性教育は世界のスタンダードに比べて非常に遅れています。そしてこの性教育の遅れこそが、性犯罪、ジェンダー差別、若者の自殺、などさまざまな社会問題に実は関連していることもあります。

そんな現状を変えるために、電通の社内横断組織「Sexology Creative Lab」はグローバルスタンダードな最新の性の情報を学べるコンテンツ、「SEXOLOGY(セクソロジー)」を作りました。これは「スマホで学べる性の教科書」として若者をメインターゲットに作ったコンテンツですが、実際には若者だけではなく、今の日本社会で暮らす大人の私たちこそが知っておくべき、大切なことがたくさん詰まっています。この連載では、「性×クリエイティビティ」で実現したコンテンツの紹介を通して、最新の性の情報を紹介していきたいと思います。

まず、第一回は、日本で避妊などのアクセス向上に向け活動する「#なんでないのプロジェクト」の代表を務める福田和子さんに、「日本の性教育の遅れ」について伺います。

今回、この「SEXOLOGY」の企画制作にも携わった福田さんは、現在ルワンダの国際機関で性の健康に関するプログラムアナリストとして勤務。スウェーデンで公衆衛生学を取得しており、スウェーデンのみならず、フィンランド、カナダ、インドなど世界各地の状況を目の当たりにしています。

【Sexology Creative Lab】
「性×クリエイティビティ」の枠組みでコンテンツ開発や情報波及の活動をする電通の社内横断組織。性の課題に関心があるクリエイティブメンバーにより、2019年に発足しました。医療分野や性教育分野の専門家とタッグを組み、性教育や妊活など、さまざまな性に関する課題をクリエイティビティによって解決の糸口をみつけることに取り組んでいます。


スウェーデンで気づいた、「日本の性教育、ここがおかしい。」

SEXOLOGY

「日本の若者、全然守られていなくない!?」
「自分を大切にって言われるけど、自分を大切にしたくても日本ではもはや無理なのでは!?」

これは今から5年前、大学在学中スウェーデンにはじめて長期留学していた際に、私が感じたことです。

例えば、緊急避妊薬へのアクセス。
通称アフターピルとも呼ばれるこの薬は、避妊の失敗や性暴力を含め、妊娠の可能性がある性行為から、女性が72時間以内に服用することで、高い確率で妊娠を防ぎます。スウェーデンでは、この薬には処方箋が必要なく、薬局で1500円もせず売られています。これは、スウェーデンが特別なわけではなく、72時間のタイムリミットを持つ性格から、世界約90カ国以上で処方箋の必要なしに薬局で入手できます。

一方、日本では、医師の診察と処方箋が必要です。そして価格は1万円前後と、スウェーデンやイギリスはもちろん、低中所得国を含む多くの国で、特に若者には無料で提供されていることも考慮すれば、その価格の高さは他に類を見ません。

また、男性用コンドームと比べ、より確実な避妊法である低用量ピルなども高額で、世界的にみてもその普及率は低いです。人工妊娠中絶も、最も負担の少ない方法としてごく当たり前に世界中で使用されている中絶薬の認可はなく、WHOが「時代遅れ」とする金属の器具で掻き出すタイプの中絶手術、「搔爬(そうは)法」を行っている病院が今もあります。金額も10-20万円と高額です。
  
こういったことをお伝えすると、「そもそも性行為をするのが悪い」というお言葉を頂くことがあります。しかし、商業的な性的情報は身の回りに溢れる一方で、実際にはそれぞれの行為にどのようなリスクがあり、どうすればそのリスクを避けられるのか、また全ての人には性と生殖に関する健康と権利があるといったことは十分には学べていないのが現状です。そのような中において、果たしてその行為に関わる全ての人の安全と幸福感、ウェルビーイングが守られる判断を下せるでしょうか?答えは否です。自分と他者のウェルビーイングを守る判断をできるようにするには、安心して頼れる情報がまずは必要なのです。    


「ジェンダーギャップ指数、156カ国中120位」の日本を変えるために。
 

SEXOLOGY
私が10代の頃、学校や社会には、「最近の若者は、自己肯定感が低い」という大人による若者理解のもと、「あなたはかけがえのない存在」「自分を大切に」そんな言葉があふれていました。だからこそ、スウェーデンでの生活を通じ、これほどまでに「自分を大切に」と言われながら、そのために必要な環境がそもそも十分には提供されていなかった事実、そして、その下でただただ傷つくより他ないのに、あたかも若者に自己肯定感がないことばかりが悪いかのようにして片付けられてきたことが、私はショックで仕方がありませんでした。

その衝撃が忘れられず、帰国後、大学在学中の2018年、私は「#なんでないのプロジェクト」を始めました。そこでは、「自分を大切に」するために当然必要となる包括的性教育の実現や、避妊具へのアクセス改善を訴えています。現在はプロジェクトも続けつつ、ルワンダの国際機関で難民キャンプにおけるSRHRやジェンダーに基づく健康と権利を専門とするプログラムアナリストとして勤務しています。そしてこれまで、スウェーデン、ルワンダ だけでなく、カナダ、ケニア、インド、フィンランドなども訪れ、世界各地の状況を学ぶ機会を頂きました。

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そこで切実に感じたのは、もはや低中所得国、高所得国に関係なく当たり前に知られ、提唱されている、「セクシュアルリプロダクティブヘルスライツ」が日本では全くと言っていいほど知られていないことへの危機感です。

この「セクシュアルリプロダクティブヘルスライツ」は、日本でも注目が高まるSDGsにおいてもいくつもの項目に大きく関わるため重要視されています。また、少し前には日本がジェンダーギャップ指数で156カ国中120位ということが話題になりましたが、この考え方、権利の浸透なしに大きな変化を望むことは難しいと感じています。今回は、世界では当たり前になりつつあるセクシュアルリプロダクティブヘルスライツと、それに大きく関連するセクソロジーとは何かについてお伝えします。

知らないとマズい「セクシュアルリプロダクティブヘルスライツ」って?

「セクシュアルリプロダクティブヘルスライツ(Sexual and Reproductive Health and Rights, SRHR)」は日本語に訳すと「性と生殖に関する健康と権利」です。

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 「性と生殖に関する健康」とは、「性と生殖に関わる身体面、精神面、社会面におけるすべてのウェルビーイングが満たされている(良好な)状態」のこと。この考え方は、1994年カイロで開かれた世界人口開発会議(ICPD)ですべての人にある権利として広く知られるようになり、その翌年、つまり今から25年以上も前、北京で開かれた世界女性会議でSRHRを含む行動綱領が採択され、世界が目指すべき指針が示されました。

これは世界的に見ても大変大きな変化で、その時から、生殖に関わる問題は、「国家の人口問題」から「個人の選択の権利の話」へと変わったのです。

ここで目指されているのは、ただ病気や暴力、差別がない、という状態ではありません。誰もがより満足で安全な性生活を送れること、その人のジェンダー・セクシュアリティにかかわらず、すべての人がその人らしく生きられること、子どもを産むか産まないか、産むとしたらいつ、何人、どんな間隔で産むかを自分で考え決められることなど、広い意味を持っています。

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性の健康世界学会が採択した「性の権利宣言」(2014年改訂版)

この「性と生殖に関する健康」を実現するには、性教育をはじめとした正しい情報の提供や、安全で効果的で入手可能な価格の避妊具、性感染症の検査と治療、より安全な中絶やお産といった医療環境の整備などが欠かせません。
それをかなえる土台のひとつとなっているのが、SEXOLOGY(セクソロジー)なのです。

今こそ、SEXOLOGY(セクソロジー)が日本に必要な理由。

SEXOLOGYとは、性科学、つまり人間の性に関わる科学のことを指します。私の知る限り日本にはSEXOLOGYに特化した学部などはありませんが、海外では学部としても存在するほど、長年取り組まれてきた学問分野のひとつです。

現在もそうですが、ちまたでささやかれる性に関するあれこれの多くは、信ぴょう性に欠ける内容だったり、間違った知識だったりすることが少なくありません。そんな中で、「性の健康」を実現するためにも、性行為そのものやセクシュアリティに関して、きちんとした研究、調査に基づいた知識を蓄積していこうというのが、SEXOLOGYの原点です。

世界的に見ると、1978年、SEXOLOGYを通して人々の性の健康を向上することを目的に、世界性科学会(現在は「世界性の健康学会」に名称変更)が発足しています。そして、SEXOLOGYの専門家は、「セクソロジスト(性科学者)」と呼ばれます。

SEXOLOGYは人間の体に関わることなので、生物学的な研究はもちろん、他にも、性教育に関する研究、心理学を中心に据えた研究も数多くあります。また、すべての人の性と生殖に関する健康の権利を実現するため、蓄積された知識を使い、各国の政策をより良いものにしようという機運も高まっているのが近年の潮流です。

しかし、先述の通り、日本におけるセクシュアルリプロダクティブヘルスライツはまだまだ守られているとは言えません。

包括的性教育の不足、より確実な避妊やより安全な人工妊娠中絶へのアクセスのなさ、性暴力に関する法律の不十分さ、同性婚ができないこと、経済、政治等さまざまな分野でいまだ解消されないジェンダー不平等、少子化を語る際の視点が個人の選択ではなくいまだ国家にあることなど、問題を上げればきりがありません。

そんな山積みの問題を解決するために、私たちにできることは何だろう?そんな課題からこのプロジェクトは始まりました。まず一番大切なことは、必要な情報が必要な人に届くこと。性にまつわるあらゆる「知らなかった」をなくすことが社会問題の解決につながるのではないだろうか?そんな思いから企画・制作をしたサイトがこの、スマホで読める性の教科書「SEXOLOGY〜性を学ぶ“セクソロジー”〜」なのです。

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次回は引き続き、スマホで学べる性の教科書「SEXOLOGY」を監修された、「#なんでないのプロジェクト」の代表を務める福田和子さんと、クリエーティブプランナー・コピーライター杉井すみれさんが対談。「SEXOLOGY」制作の裏側や、2022年の日本の性教育の課題について語ります。

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