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性×クリエイティビティ Sexology Creative Labの挑戦No.2

大人のための性教育。スマホで読める性の教科書「SEXOLOGY(セクソロジー)」とは?

2022/04/07

SEXOLOGY

電通の社内横断組織Sexology Creative Lab(SCL)が「性×クリエイティビティ」の枠組みで実現したコンテンツの紹介を通して、最新の情報を紹介していく本連載。日本の性を取り巻くさまざまな問題を解決するためにできることはなんだろう。その第一歩として開発されたのが、スマホで読める性の教科書「SEXOLOGY〜性を学ぶ”セクソロジー”〜」です。

第2回となる今回は、この「新しい性の教科書」の特徴と、そこから見える最新の性教育の課題についてご紹介します。日本で避妊などのアクセス向上に向け活動する#なんでないのプロジェクトの代表であり、「SEXOLOGY」の監修を務めた福田和子氏と、SCLのメンバーであり、クリエーティブプランナー・コピーライター杉井すみれ氏が対談。大人であるあなたにこそ、知ってほしい「今の性教育」をお話しします。

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スマホで読める性の教科書「SEXOLOGY〜性を学ぶ”セクソロジー”〜」は、性に関する20の項目について学ぶことができるウェブサイト。誰でも無料でアクセスすることができ、子どもから大人まで世界基準の科学的根拠に基づく性の情報を取得することができる。
 

「正しい性の知識手に入れるのめっちゃ難しい」問題

杉井:「SEXOLOGY」の開発にとりかかる前の2019年当時、性にまつわるプロジェクトやコンテンツは世に少しずつ増えてきていました。しかし、必要な人のもとに届くというのがなかなか難しかった。とっても読み応えのある内容なのに、デザインが若者に親しみが持てないものであったり、肝心のターゲットに届いてなかったり…もったいないものが多かったんです。性教育の専門性はないけれど、デザインしたり、広げることが得意な私たちが何かできないか、と考えていました。

福田:私たちは逆に、性教育などをフィールドとしているので、伝える中身についてリソースやコネクションを持っていました。一方で、立ち上げたプロジェクトが一部の興味ある層だけにしか届いていないという実感があって、なんとかしたいと思っていました。
     
杉井:そこで、医療分野や性教育分野の先生方と、「デザイン・企画力・制作力」が売りの私たちSCLのクリエイターが手を組んで、性の問題を解決するコンテンツを作っていくことになりました。ちなみに、私と福田さんは大学の同級生なんです。頻繁に海外の性教育事情を聞いたりしていて、日頃から何か一緒にできたらなぁ…と思っていました。

私たちが最初に目をつけたのが、「正しい性の知識手に入れるのめっちゃ難しい」問題です。

福田:これは私も以前から問題視していました。日本では、義務教育中の保健の授業を終えると、それ以降正しい性の知識に触れる機会がほぼありません。ネットを調べても、ソースが怪しいまとめサイトがトップに出てきたり、結局アダルトビデオが教科書がわりにならざるを得ない、という現状。

一方、カナダやイギリス、スウェーデンでは、行政が主導となってわかりやすくまとめた教科書のようなサイトが整備されています。「避妊がうまくいかなかった」「恋人から     DVを受けている」など、不安があるとすぐアクセスして一つのサイトから信頼できる     情報が一気に読める、というのが自分は大事にされていると感じられていいなと思っていました。

杉井:海外のネットで読める性の教科書のサイトの話を聞いたとき、これの日本版を作りたい!と思いました。かしこまったやつじゃなくて、電車でもトイレでも読めるカジュアルだけど、ソースがしっかりしてる、私が使いたいもの。

本当は国や教育機関と一緒に作るのが理想ではあったのですが、国や教育が変わるのを待っていたら今困っている人を救えない。そう思い、性教育などに関心を持ってくださりそうなクライアントに自主提案に行きました。「スマホで読める性の教科書を作りませんか」と伝えたら興味を持ってくださって、とんとん拍子で制作まで進みました。今でも継続してサイトを運営してくださっているクライアントには感謝しかありません。

SEXOLOGYとは性科学のこと。名前に込めた想い
     

杉井:教科書となるサイト制作が始まり、最初にサイトの名前を考えました。
「SEXOLOGY」。セクソロジーと読みます。これ、福田さんから教えてもらった言葉なんです。     

福田:そうだったね。SEXOLOGYとは、性科学、つまり人間の性に関わる科学のこと。日本ではまだ聞きなれない言葉ですが、海外では大学の学部としても存在するほど、長年取り組まれてきた学問分野のひとつです。     

杉井:これから立ち上げるサイトを教科書のように、信頼できるものとして使ってほしい、そんな願いを込めて名付けました。感情論やうわさ話とは正反対のところにいる、アカデミックで、科学的根拠がある知識を伝える場所。そんな場所を目指そうと。

また、「SEX」という耳にすると誰もが手に留めてしまうような、どきっとするワードにしたかった、そんな狙いもあります。

「SEXOLOGY」の3つの特徴とそこから見える性教育の課題

杉井:近年、性の知識を伝えるサイトも増えてきましたが、私たちのサイトには特徴的な要素が3つあります。

1つ目は、「UNESCO等の国連諸機関発行の国際セクシュアリティ教育ガイダンスに準拠している」ということ。世界基準の性教育を届けようと思いました。

福田:日本で性教育というと、小学校高学年から始まり、男性と女性の体の変化、などを扱いますよね。国際セクシュアリティ教育ガイダンスでは5歳から性教育が始まります。内容は性のことから、ジェンダーの理解、友達や家族との関係性、価値観や文化、権利について、暴力と安全確保、インターネットの使い方など、人権とジェンダーの平等を大切にしながら、ポジティブかつオープンに、年齢にあった形で幅広い内容をカバーしています。

杉井:「SEXOLOGY」のサイトでは、国際セクシュアリティ教育ガイダンスに沿って、からだ、月経、ジェンダー、セックス、マスターベーション、妊娠、妊活、出産、避妊、中絶、性感染症、検査、性暴力、ポルノ、人権、人間関係、ボディイメージ、インターネット、家族、世界の性教育など20の項目に分けて読み物が用意されています。

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SEXOLOGYの項目例

杉井:そして、「SEXOLOGY」の特徴2つ目は、「さまざまなバックグラウンドを持つ専門家による監修」です。誰かの命や人生に関わることなので、きちんと信頼できるものにしたく、6人の専門家にご協力いただいています。福田さんもその1人。

福田:はい。私以外に、産婦人科医師、泌尿器科医師、教育学の教授など性別や年齢にとらわれず多様な専門家が全ての記事・デザインを監修しています。     

杉井:記事やイラストのドラフトが、先生方の監修を経てどんどんブラッシュアップされていくのが毎回とても勉強になっていて。

福田:それはよかった!「性教育」というトピックだけれど、医療関係者だけではなく、教育や人権について世界のトレンドもよく知る     専門家、世界の性教育を知る研究者などが多角的な視点で見つめながら企画をよくしていくというのが重要だと思います。性の健康、権利は身体的、心理的、社会的な側面をカバーして初めて達成できるので!     

杉井:デザイナーが「女性のからだ」のトピックの挿絵を描いていたときに、すらっとした女性を描いていたんですが、ボディイメージを押し付けていないかと指摘を受けて、はっとしました。女性のからだはこうあるべき、みたいなものを自分が勝手にイメージしていたことを反省しました。記事やイラストは監修の先生のチェックを何度も受けて、どんどんよくなっていく。ここで学んだ知識は別の広告業務でもすごく生きていて、自分のステレオタイプな価値観が、日々アップデートされています。


杉井:そして「SEXOLOGY」の特徴3つ目、「異性愛を前提としない・ルッキズムからの脱却」です。     

これまでの性教育を伝える書籍・サイトの多くはセックス・恋愛の話をするとき、どうしても男・女の異性愛を前提とした記述が当たり前になりがちでした。SEXOLOGYのサイトでは、異性愛、同性愛、両性愛、そして肉体的関係は持たない、恋愛はしないなど、さまざまなセクシュアリティの人たちを想定して執筆・デザインしています。

福田:ネットで恋愛の悩みを調べても駆け引きの話とか、まるでデートDVを助長するような内容が肯定されていたりとか、見ていて心配になるものが多かったけど、「SEXOLOGY」の「恋愛」に関するページは新鮮だよね。
     
杉井:そう、「私たちの基本はカップルではなく、個人です」と言い切るところ、「恋愛に興味があってもいいし、なくてもいい。好きな人がいてもいいし、いなくてもいい。片思いでも両思いでもいい。恋をしていなければおかしい年齢などもありません」とやさしく語る文章は、学生時代に読みたかった。「SEXOLOGY」はセックスや妊娠について学べる動画も制作しているのですが、その動画でもいろんなカップルを描いています。


人の描き方も細心の注意を払い、自分たちが作り発信するものが、ルッキズムを生み出さないように、いろんなスタイルの美しさを描くようにしました。これまでの保健の教科書だったら、男らしい体、女らしい体と描かれていましたが、そこを刷新したいと思いました。

ひろがる「SEXOLOGY」 

杉井:「SEXOLOGY」が出来上がって、このコンテンツを広げていくためにいくつか施策を実施しました。1つ目はWEBバナー。

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杉井:18歳以上の性的コンテンツとみなされて、SNSでは出稿できず、バナー広告を使ってサイトの認知拡大を図りました。ほかにも、性知識をチェックする「SEXOLOGY QUIZ」というコンテンツをサイト内に設置し、診断結果をSNS上に拡散したくなる仕組みを作りました。

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その結果、サイトは多くの人に訪れてもらえるようになり、高校や大学の授業で使われるようになったりと、じわじわ広がってるみたいです。最近では、厚生労働省の高校生向けのパンフレットにもご紹介いただけたり、いろんなチャネルで紹介されるようになりすごくうれしいです。

「性教育」は恥ずかしいものじゃない。大人から意識を変えていく

杉井:「SEXOLOGY」のサイトは2020年9月1日に立ち上がりましたが、現在も定期的に記事を更新中。日々生まれ変わりながら、世界基準の性教育を届けています。誰もが、いつでも、どこでも読める性の教科書として、これからも更新を続けていこうと思います。

福田:最後に…「性教育」と聞いて、恥ずかしいもの、むかし学校で習ったもの、大人にはもう関係ないもの、と思わないでもらえたら、と思います。生涯を通じてあなたらしく生きるための知識とパワーになるコンテンツとして、10代の皆さんはもちろん大人まで全ての年代の方々にもSEXOLOGYを読んでいただきたいです。

性を学ぶSEXOLOGY
性を学べるアニメーション【SEXOLOGY LESSSON】 #1 セックス
性を学べるアニメーション【SEXOLOGY LESSON】#2 妊娠 

【Sexology Creative Lab】
「性×クリエイティビティ」の枠組みでコンテンツ開発や情報波及の活動をする電通の社内横断組織。性の課題に関心があるクリエイティブメンバーにより、2019年に発足しました。医療分野や性教育分野の専門家とタッグを組み、性教育や妊活など、さまざまな性に関する課題をクリエイティビティによって解決の糸口をみつけることに取り組んでいます。本連載を通して、性・性教育の課題解決に向けて何か作りたいと思ってくださった方は、ぜひお問い合わせください。

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