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なぜか元気な会社のヒミツseason2No.17

企業とは、「公器」(こうき)である

2022/04/08

「オリジナリティ」を持つ“元気な会社”のヒミツを、電通「カンパニーデザイン」チームが探りにゆく本連載。第17回は、福岡を拠点にIT技術を駆使しつつ、「花業界」いうビジネスの革新に挑むスタートアップ企業CAVIN(キャビン)。そのチャレンジの根底にある思いや願いに迫ります。


小学校、中学校と、バスケットボールのキャプテンを務めてきたという代表取締役社長CEO のYuya Roy Komatsu氏(取材時に、ロイさん、ロイさん、と呼ばせていただいていたので、以下、Royさんと記述させていただきます)。
「5人で戦うバスケって、試合中、チームメイトが一人でも退場になってしまうと、もう無理。残りの4人でどんなに頑張っても勝てるわけがない。でもそこに、チームプレイの面白さがあると小学生のとき気づいたんです」

そんなRoyさんの言葉に、ふと自身の記憶がよみがえった。種目はちがうものの、僕も学生時代、ハンドボール部のキャプテンを務めていた。当時の監督から言われたことで、今でも印象に残っている言葉がある。「キミはキャプテンとして、勝つチームにしたいのか?それとも楽しむチームにしたいのか?」というものだ。花とは、まったく結びつかない話である(やれやれ…)。

でも、インタビューを進めていくにしたがって、そのあたりが、心地よくつながっていった。花という、なんだかメルヘンチックなテーマであるものの、Royさんの深い指摘には、都度、ため息が漏れた。

文責:三浦僚(電通九州)

CAVIN Inc. “素直な「気持ち」を伝えられる世界をつくる” 株式会社CAVINは「生産者 - 花屋 - 生活者」という花の流れ全てをプロデュースする企業です。 生産者 & 花屋 の直接取引プラットフォーム “CAVIN” を提供。サービス提供エリア拡大中。 
CAVIN Inc.
“素直な「気持ち」を伝えられる世界をつくる”
株式会社CAVINは「生産者 - 花屋 - 生活者」という花の流れ全てをプロデュースする企業です。
生産者 & 花屋 の直接取引プラットフォーム “CAVIN” を提供。サービス提供エリア拡大中。

幸福とは、数字では表せないもの。だからこそ、価値がある。

花は、人を幸福にするもの。そして、その幸福というものは、おカネや数字では測れないものだ。と、インタビューの冒頭、Royさんは切り出した。世界第3位のGDPをたたき出している経済大国・日本であるものの、幸福度という指標でみると、世界で40位くらいとされている。あまり話題にしたいことではないが、自殺者の数では世界でワースト10にランクされている。

津波や地震などの被害にもたびたび見舞われる。そうした状況をテレビなどで目の当たりにするたび、自分になにかできないものだろうか、とRoy少年、Roy青年は、苦悶(くもん)していたのだという。「カリフォルニア大学に在籍していたころ、僕は親友を1人亡くしています。大切な人を、大切にできなかったその体験、後悔の気持ちが、今の自分を突き動かしている理由の一つです」

人の心は、たとえばおカネ、時間といったものだけでは、決して豊かにはできない。切ない気持ちを、一輪の花に託すこと。その価値と意味を、Royさんは語ってくれた。「人は、言えたのに言えなかった『ありがとう』や『ごめんね』の一言に、後悔すると思うので」

CAVIN Inc. 代表取締役社長 CEO Yuya Roy Komatsu(小松祐也)氏 大阪府出身。20歳のとき、フィリピンのスラム地区でNGOのボランティア活動に参加後、渡米。カリフォルニア大学在学時に、米最古の名門アクセラレーター Techstarsが米最大手ファンドBlackstoneと設立したアクセラレーター、Blackstone LaunchPadでインターン。スタートアップのメタ原則や立ち上げ方を学ぶ。帰国後は、独立系経営戦略コンサルファームに勤務。国内スタートアップで取締役 /最高国際責任者、海外企業のJapan Manager等を歴任。海外向けMC、モデレーターなど領域や国を問わないスタイルで活動。2018年、花業界に対応するプラットフォームを提供するCAVINを創業。ビジョン、チームビルド、ブランディングをテーマとした経営を進めている。
CAVIN Inc. 代表取締役社長 CEO Yuya Roy Komatsu(小松祐也)氏
大阪府出身。20歳のとき、フィリピンのスラム地区でNGOのボランティア活動に参加後、渡米。カリフォルニア大学在学時に、米最古の名門アクセラレーター Techstarsが米最大手ファンドBlackstoneと設立したアクセラレーター、Blackstone LaunchPadでインターン。スタートアップのメタ原則や立ち上げ方を学ぶ。帰国後は、独立系経営戦略コンサルファームに勤務。国内スタートアップで取締役 /最高国際責任者、海外企業のJapan Manager等を歴任。海外向けMC、モデレーターなど領域や国を問わないスタイルで活動。2018年、花業界に対応するプラットフォームを提供するCAVINを創業。ビジョン、チームビルド、ブランディングをテーマとした経営を進めている。

コロナ禍で、花の魅力に改めて気づかされた、という人は多いのではないか。花そのものだけでなく、お花屋さんの魅力も含めて。外出もままならない。人ともなかなか会えない。そんなとき、生花店の前を通り過ぎるだけで、不思議と心が癒やされる。

「不思議なもので、経済発展とともに、いままで持っていたものを失った気がします」。そう、Royさんは指摘する。「一言でいうなら、『人とのつながり』が豊かさの正体なのだと僕は思います。近代日本が見誤ったこと、それは『コスパ』という概念を、『人とのつながり』に対してまで持ち込んでしまったことです。それによって人々は、コミュニケーションの『量』にこだわり、『質』を捨てた。あるとき気づいたんです。その『質』を取り持ってくれるのが、花なのだと」

花のイメージ1

想像力と、創造力

Royさんにこんな質問をしてみた。「スマホやパソコンなど、コミュニケーションのデジタル化が進めば進むほど、人は『話し下手』『文章下手』になっていくように思うのですが、これはどうしてなんでしょうか?」

その答えは明快だった。「『コミュニケーションがうまい』ということの定義を間違えたのでしょうね。『自分の思いを表現してやった』『世の中や相手にぶつけてやった』、これでは意思疎通などできません。相手がどう思うだろう、という想像力が大事なのだと思います。そうした想像力が、創造力を生む」

Royさんによれば、人類最古のギフト(贈り物)は、花なのだという。「1万年以上前のことだと思うのですが、死者の墓に花をたむけた、その瞬間に、人は動物から人間になったのだと思います」

女の子と花

「旗」をどこに置くか、が大事

コミュニケーションの「質」について、Royさんはこんな説明をしてくれた。「旗をどこに置くか、つまり、目標設定をどこに置くかが大事だと思います。僕のイメージでは、奥へ、奥へと思考を進める感じです」たとえば、「おカネを稼ぐ」という行為の奥に「クルマを買う」という旗(目的)がある。その奥には、購入したクルマを使って「大切な人と、星を見に行く」という旗がある。さらにその奥には「豊かな時間を共有する」という旗がある、といった具合だ。

Royさんは言う。「我慢して、我慢して働いて、その対価としておカネを稼いだ。あるいは地位を獲得した。いやあ、満足だ、もはや目的達成だ。そういう発想に人はなりがちですよね?でも、それではもったいないと思いませんか?」先ほどの説明にのっとれば、そのおカネも地位も、奥へ奥へと進むための入り口にすぎないわけだから。「そう考えると、花を買う、花を贈るという行為は、人の心のかなり奥のほうに位置するものだと思うんです」

心の奥底にぱっと花が咲いたようだ、といった表現があるが、それは単なる比喩ではないのだと思った。

花のイメージ

しなくてもいいことを、あえてする。それが、大事。

「花というものは、生活必需品ではありません。あってもなくてもいい。いわば、不要不急の嗜好(しこう)品です。でも、そこに価値がある」とRoyさんは指摘する。言われてみれば、確かにそうだ。たとえばアップルパイを焼く、キャンプに行ってたき火をする、家に風呂があるというのにわざわざ温泉地へ赴く。いずれも、しなくてもいいことをあえてしている。でも、その時間は、たまらなくぜいたくで、心の底からにんまり、ほっこり、できる豊かなものだ。

社員との関係についても同じことが言える、とRoyさんは言う。「僕がもっとも心がけているのは『余白』を残してあげる、ということです。なにをしようが、しまいが、自由だよという『余白』。やりがいとか、自主性とか、独自性とか、といったものは『余白』がないと生まれませんから」

同じことが、リーダーシップについても言えるのだという。「腕のいいリーダーは、部下の1次情報を取りに行くんです。つまり、この人はなになに県の出身なんだとか、学生時代はラグビーをしていたとか、そういったその人の人となりを形成したであろう情報です。これも、仕事を命じるという意味では『余白』の部分ですよね?一見すると、なんの価値もない情報のように思える。でも、それを大事にすることが、リーダーシップを発揮する上でとても大切なことだと僕は思っています」

「スタートアップ」とは、なにか?

スタートアップとは、どういうものですか?という質問に対して、Royさんから興味深い指摘があった。「スタートアップというと、誰も発想できなかったアイデアで会社を起こす、みたいなイメージですよね。僕の解釈は違っていて、スタートアップ=スタート+アップなんです」

アップとは、「事業がハネる」ということ。ハネるとは、生活者や得意先、仕事仲間の心が一つになって、爆発的に上昇する瞬間のことだ。「そのためのスタートなんです。スタートアップのJカーブの最初は、マーケティング活動の時間だといわれますが、僕は『啓蒙(けいもう)の時間』だと考えています」。「これ、良くないですか?」と根気よく相手に説明して、納得してもらう、ファンになってもらう。

CAVINというユニークな社名の由来は、「花瓶」なのだという。「企業とは、公器(こうき)。公の器、という意味もそこには込めました」。花というものは、すぐに枯れてしまう弱いもの。でも、その弱さこそが最大の魅力なのだということを、全てのステークホルダーに対して根気強く説明してまわったのだ、とRoyさんは言う。「赤ちゃんのように弱いものを、大切に育てて、大切に運んであげる。だからこそ、花を買うとき、贈るときに、人は何ともいえない幸福感に包まれるのだと思います」

CAVIN Logo
手押し車は、最先端のITの真逆のツール。でも、押している人の顔が見えるという良いところがある。花は、便利なものではなく、ぜいたくなもの。ゆっくりと味わうもの。この「ぜいたくさ」こそが、真の豊かさではないか、とCAVINは考える。現代人が手放してしまった豊かさを取り戻したい。そのためには、言語によるコミュニケーションだけでなく、花のたどる全ての道筋を整え、プロデュースしていくことが必要なのではないか。そうしたコミュニケーションの出発点となるのは、もちろん生産者さんと花屋さん。この「手押し車」のロゴには、“生産者の思い(花)を花屋さんに運びたい”という意味が込められているのだという。

CAVINのホームページは、こちら


なぜか元気な会社のヒミツロゴ

「オリジナリティ」を持つ“元気な会社”のヒミツを、電通「カンパニーデザイン」チームが探りにゆく連載のシーズン2。第17回は、福岡を拠点に「花業界」の革新に挑むスタートアップ企業CAVIN(キャビン)をご紹介しました。

season1の連載は、こちら
「カンパニーデザイン」プロジェクトサイトは、こちら


【編集後記】

花というものは、不思議なものだと思う。口を糊(のり)する、という意味ではなんの価値もない。小野小町が歌ったように、宝石や黄金とちがって未来永劫(えいごう)その価値を保てるものでもない。でも、人はなぜか花に心を奪われる。コロナ禍で、そうした花の価値というものに改めて気づかされた人も、多いのではないだろうか。筆者も、その一人だ。ステイホームが続く中、狭いベランダで、どういうわけだか花を育て始めた。

インタビューの最後に、この先の事業展望は?Roy社長のお考えになるグローバル戦略とは?という質問を投げかけてみた。花業界には、まだまだ発展の余地がある、といったような答えが返ってくるのかと思いきや、答えは「花をもらえない子どもたちに、花を贈ってあげたい」というものだった。本文にもあるが、心に小さな花が咲いたような、そんな瞬間だった。

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