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すべてはPRから始まる。ファミマの“40のいいこと!?” からひもとく、「ニュースなCX」のつくり方No.1

ファミマ40周年企画に学ぶ、「PR起点のCXデザイン」とは?

2022/04/11

マーケティングのセオリーが刻々と変化する中で、従来の広告頼みの施策では人やモノは動かなくなりつつあります。加えて、広告宣伝費が限られている中で、どのように客数や売り上げを伸ばせばいいのか、企業のマーケティング担当者の悩みは尽きません。

本連載では、「ファミリーマート40周年プロジェクト」を企画・運営し、成功に導いた、ファミリーマートCMO・足立光氏と、電通のPRプランナー・加藤倫子氏が対談。施策内容を紹介しながら、「PR起点のCX(顧客体験)デザイン」について語り合います。

足立氏と加藤氏

「顧客体験価値コンビニ1位」につながった、ファミマ40周年企画

──ファミリーマートは、2021年3月から2022年2月までの1年間、「ファミマる。(さまざまなきっかけでファミリーマート店舗に足を運んでもらう)」を合言葉に40周年プロジェクトを実施。大きな反響があり、2021年度はほぼすべての月で売り上げの前年比が100%を超えました。また、「顧客体験価値ランキング2021」では、コンビニ業界でトップを獲得しました。まずは、お二人がどのようにキャンペーンに関わったのか教えてください。

足立:全体の責任者という立場です。本キャンペーンに限らず、私はファミリーマートのCMOとしてマーケティングを統括しています。僕の主な役割は三つあります。一つ目は、広告や広報、SNSのツイート、商品パッケージなどお客さまの目に触れる、ほぼすべてについて、お客さま目線で一貫性があり、かつ強いコミュニケーションにしていくこと。二つ目はお客さまの来店数を増やすこと。三つ目は、そのためにプロモーションだけでなく、製品開発、価格、チャネルも含めて“マーケティングの4P”全体に関わっていくこと、です。

加藤:私はクリエイティブディレクターという立場で本キャンペーンに携わりました。広告表現やキービジュアルの考案にとどまらず、どうすればファミリーマートのいろいろな活動が話題になってお客さまに来店いただけるか、幅広い視点を持ってそのアクションづくりから関わりました。

──キャンペーンの概要について教えてください。

足立:ファミリーマートがお客さまに持っていただきたいイメージを、五つのキーワードで打ち出し、各キーワードに基づくさまざまな施策を「40のいいこと!?」という形で発信していきました。

40のいいこと!?

5つのキーワード

加藤:例えば、「もっと美味しく」というキーワードでは、「ファミチキ」と並ぶ看板商品を目指し、新商品「クリスピーチキン」を発売。「たのしいおトク」というキーワードでは、サンドイッチなどの人気商品の40%増量を実施しました。

このようなニュースをプレスリリースやSNS、店頭ボードやPOPなどを通じて継続的に発信。結果的に、2022年2月末のキャンペーン終了時までに発信した“いいこと!? ”は、40を大幅に超えて100に到達しました。

──「40のいいこと!?」と題して、どんどんファクトをつくって発信した狙いを教えてください。

足立:私はいろいろな周年プロジェクトを見てきましたが、売り上げにダイレクトに結びついたものはあまりないんです。ファミリーマートは40周年を機に、ちゃんと客数や売り上げ増を実現する施策を行わなければ、と思いました。40周年というのは、お客さまやメディアに対する「きっかけ」でしかありません。ですので、40周年を掲げながらも、その傘の中でお客さまにとって意味がある施策をたくさん行っていくことが大事でした。

加藤:最終的に100の施策を実行できたわけですが、本キャンペーンは電通を含めて7社のエージェンシーが参加し、さまざまな施策を考えました。電通は施策提案の他、全体を監修する役割を担いました。ファミリーマートの広報やマーケティング部などのメンバーと毎週会議をしてどんなニュースを発信したらいいか意見を交わし、実施していきました。

──取り組みの中で大切にしていたことは何でしょうか?

足立:一つは、五つのキーワードに沿ったニュースをずっと発信し続けるということ。もう一つは、週や月によって売り上げが大きく落ち込むことがないように、五つのキーワードのバランスも考えながら、できるだけ毎週、ニュースを発信するようにしたことです。

加藤:大変でしたが、特に「一つ一つの施策がお客さまにとって価値があるものとして世の中に伝わるためにはどうしたらいいか?」というのが悩みどころでした。

足立:提案いただいた施策を選ぶポイントは、「お客さまに喜んでいただけるか」「ファミリーマートとしての特徴が出せるか」「競合がやりにくいことをやっているか」です。この三つを満たしているものをできる限り打ち出していきました。

一瞬だけ話題になるようなニュース(施策)なんていらない! 

──「40のいいこと!?」の中でも、「ファミチキ」や「クリスピーチキン」は大きな話題になりました。施策の狙いを教えてください。

クリスピーチキン

足立:1年間で100のいいことを発表した中で、チキンのニュースはかなり多くあったように思います。これだけチキンを打ち出したのは、チキンはわれわれの看板商品であり、かつ優先順位が高い戦略カテゴリだからです。

加藤:チキンの施策は、「おいしいこと」を驚きをもって伝えることが私たちのミッションでした。広告の力で一瞬だけ話題になるのではなく、ニュースとして継続的に発信しながら、屋台骨を支える商品の売り上げにつながることが大事。ちょっとメディアに取り上げられて話題になるだけではダメなんですよね。足立さんは「話題・来店・売り上げ」の三つがそろっていなければいけない、と最初からずっとお話しされていました。

足立:話題性がない商品は売れないのですが、話題性があれば必ず売れるのかというとそうではありません。大事なのは話題のポイントです。チキンに関しては、おいしさがきちんと伝わるか、食べたいと思うか、ということだけ。それ以外の話題はいりません。話題をつくることは簡単ですが、ちゃんと客数や売り上げにつながらなければ全く意味がないんです。

加藤:でも、おいしいことの話題化って難しいんですよね。食品を扱う企業が、自分の商品を「おいしい」っていうのは当たり前なので。そこで、チキンの施策では、「おうちでファミチキセット」も提案しました。これは、「冷凍のファミチキ」と「ファミチキの揚げ油」をセット販売するもの。家庭で作っていただくことで、驚く形でファミチキがおいしいことが伝わると思いましたし、ファミリーマートの五つの方針の一つ「安全・安心」の証しにもなると思いました。この施策もPRとソーシャルメディアのみですが、ECで1位を獲得し、人気ユーチューバーが取り上げるなど話題になりました。結果的にチキンユーザーの底上げができたと思います。

おうちでファミチキ

足立:チキンに関する施策のポイントは二つありました。一つは、最初に打ち出した「クリスピーチキン」以外は既存品です。それをいかに話題化するかを加藤さんたちに考えてもらいました。もう一つは、チキンは食べる人はたくさん食べますが、食べない人は全く食べません。ですから、普段から食べていただいている方にもっと食べていただく企画、食べていない方にはトライしていただく企画、と両方の視点から考えるようにしました。

例えば、「ファミチキ生誕15周年」のキャンペーン時には、ファミチキを買った数をお客さま同士で競いプレゼントがもらえるキャンペーン「ファミチキ王決定戦」も行いました。このときは、「(ファミチキを)食べたことがないって、人生損してるよ」というコピーで商品を訴求しました。クリスマスには、「ファミマは日本で2番目に人気のチキンのお店!」というコピーとともに、既製品を改良した「プレミアムチキン」を販売しました。どちらも、引っ掛かりのあるコピーでおいしさをきちんと伝えながら、話題化を試みました。

加藤:チキン一つとっても、「おいしい」「食べたくなる」を伝えることを念頭に、あの手この手でニュースづくりをしました。実際に大きく話題になって売り上げにつながり、とてもうれしかったですね。

すべての施策はPR起点で生まれた

──「40のいいこと!?」の中には、「国際女性デー」にちなんで、生理用品を2%割引するというような、社会課題を起点とした施策もありました。施策の背景を教えてください。

加藤:ファミリーマートは全国に店舗があり、多くの方に毎日のようにご利用いただいています。この影響力は大きいと感じていました。そこで、社会的な話題とリンクした施策を提案しました。その一つが、3月8日の「国際女性デー」の翌日から実施した、「生理用品を2%引きするキャンペーン」で、大きな話題を集めました。この施策と前述の「クリスピーチキン」の施策は、40周年プロジェクトのスタート期に行ったのですが、この二つが良い意味でファミリーマートの40周年キャンペーンの方向性を決めてくれたと感じています。

「生理用品を2%引きするキャンペーン」は、単なる商品割引と言ってしまえばそうなんですが、社会課題について店舗で触れられるアクションをつくってニュースにするという、PR起点の新しい方向性が打ち出せました。

生理用品2%オフ

足立:私たちが行った40周年プロジェクトの施策のほとんどはPR起点です。PR起点でどう伝えたらちゃんと話題にしていただけるか、ということから考えていきました。というのも、ほとんどの施策は広告で告知しないからです。PRとソーシャルメディアで話題にして、認知を取っていく方法を取りました。

加藤:生理用品の施策も、広告は打たず店内POPとSNSで発信しました。「国際女性デー」にちなんだ活動そのものが話題になり、PRの効果という意味では大成功でした。

足立:マーケティングでは、 店舗なども含めたオウンドメディアと、PRやSNSなどのアーンドメディアを補完するものが、いわゆるマス広告のようなペイドメディアだと考えています。なので常にオウンドとアーンドを最初に考え、ペイド(広告)はそれを補完・強化するように工夫しました。キャンペーンは店頭の看板やポスター(オウンド)で何を伝えるのかをまず決め、そこで一番響く表現を全部決めてから、SNSなどの発信を考え、施策によっては広告展開していく、という流れです。

加藤:40周年記念プロジェクトでは、最初に足立さんから「CM(ペイドメディア)から提案しないでください」と言われました。すべてはお店の看板とリリースがスタートでした。お店にあるいろいろなものをメディアとして上手に使えば、発信できることや伝えられることがたくさんあり、そこに知恵を使う企画は楽しかったですね。40周年の施策を取り上げた記事を見ると、お店をうまく使った記事トップのビジュアルやサムネイルになっていることが多いと思います。それが狙いではあったのですが、このことからも、お店が最大のメディアで、人の目に触れるところなんだと実感しました。

次回に続く。

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