なぜか元気な会社のヒミツseason2No.19
愛ある事業で、人を、世の中を、元気にすること
2022/06/09
「オリジナリティ」を持つ“元気な会社”のヒミツを、電通「カンパニーデザイン」チームが探りにゆく本連載。第19回は、「作り手」と「生活者」をつなぐプラットフォームを創造しつづける「クリーマ」。さまざまなジャンルのクリエイターの作品と出会い、感性でつながっていく場を、オンライン・オフラインを問わず提供することでビジネスを広げている。その根底にある情熱に迫った。
この連載の#01で鐘ヶ江という古美術商を取材させてもらった。とても、刺激的な内容だった。僕自身、コピーライターという、なんだかクリエイティブな肩書きで仕事をさせてもらっている。が、「クリエイティブ」という肩書きの人間だけで仕事が成り立っているわけではない。ビジネスプロデューサーというクライアントワークはもちろん、その先のクライアントもひとつのチームとなってクリエイティブワークは成立している(と、思っている)。
そして、クリエイティブの仕事をしていてもっともうれしいのは、作り手の思いが視聴者や読者に届いた瞬間だ。おカネを稼ぐことも、賞をとることも、もちろん価値はある。でも、そこに真の目的はない。ラブとかリスペクトが生まれたというダイナミズムこそが、ああ、この仕事をやっていてよかったな、と心から思える瞬間だ。
でも、クリエイティブって、結局どんなチカラのことなんだろう。長いこと自問しているこのテーマのヒントを求めて、クリーマの丸林耕太郎社長に話を聞いた。
文責:柴田修志(電通BXCC)
価値観が多様化するなかで、より楽しくハッピーな世界をつくりたい
「才能あるクリエイターが正しく評価される、フェアな経済圏を確立したい」。個人クリエイターによるオリジナル作品のCtoC取引という流通構造を日本に創造し、カルチャーとして根付かせたハンドメイドマーケットプレイス「Creema」。現在では登録クリエイター24万人、年間の流通総額は160億円を超える、日本最大級のハンドメイドマーケットプレイスに成長した。
Creemaの出品者の多くはプロやプロを目指している人たちだ。つまり、作品のクオリティレベルが高い。Creemaの登場により、既存の流通を介さず直接取引することで、きちんと評価されるべき才能や努力など“個”の可能性に光が当たるようになった。「才能が正当に評価され、実際にCreemaで生計が立てられるようになったという話はよく聞きます。価値観が多様化しているなか、自己実現の形も変化しています。クリエイターと生活者に新たな価値を示すことで、より楽しいハッピーな世界をつくりたいですね」
最大多数の人をハッピーにできることに取り組みたい
丸林社長の思いのバックグラウンドには、テニスがあるのだという。「コーチの指導や親のバックアップもあって、小学生から始めたテニスではそこそこの成績を収めたんです。中学時代は関東大会で2冠を獲得しました。でも、中学3年生のときに、テニスの魅力ってなんだろう?と、ふと疑問に思ったんです。トロフィが欲しいからテニスをしているのではない。相手を打ち負かすことが目的でもない。観客やチームメート、コーチや家族に喜んでもらうために僕はテニスをしているんだ、ということに気づいたんです」
そこからの発想の飛躍がすごい。テニスで日本一になれば、確かに多くの人を喜ばせることができる。でも、人に喜んでもらうための手段は他にもいろいろあって、自分自身がテニスの遠征でも心の支えにしていた“音楽”もその一つではないか?実は音楽の方が、より多くの人に届けられるんじゃないか?と。
「しばらくは、音楽に没頭しました。でも、ここでもふと疑問が湧いてきたんです。仮に、一流のアーティストになれたとしても、数百万人くらいのひとをハッピーにすることが限界かもしれない。数百万人でもすごいことですが、僕のテーマは世の中の最大多数の人をハッピーにすることなんだ、と。大学時代、そんなとんでもない話を、縁あって知り合った大企業の経営者の方に話してみたところ、意外なアドバイスをいただきました」。そのアドバイスとは「それが本心であるなら、キミは経営者か政治家の方が向いていると思うよ」というものだったのだという。
原体験にはパワーがある。それは、なぜか?
丸林社長は、世の中でいう「勝ち組」だ。強い人、といってもいい。テニスをやらせればトップをとってしまう。音楽の腕も一流。一流大学を出て、一流会社に就職。そんな丸林社長が、名もなきアーティストたちを応援するために起業しようと思ったのはなぜなのか?
そうした疑問に対して、丸林社長はこう答えた。「テニスは、強いものが必ずといっていいほど勝つんです。でも、音楽の世界はそうではない。いろいろな事情が重なり合って、そのアーティストの能力とは別の評価が下されることも少なくない。才能を持っていても日の目を見ない人がいる一方で、そこまでセンスや努力が感じられなくても多くの仕事に恵まれる人もいる。なんだそれ、おかしくないか?という怒りに似た違和感が、ビジネスを始めたきっかけになっています」
ベースにテニスがあったからこそ抱いた、音楽の世界に飛び込んだ際の違和感、あるいは憤り。そうしたものが丸林社長のエネルギーになっているのだという。
「テニスは、とにかくフェアなんですよ。ズルをして世界ナンバーワンになど絶対になれないし、昨日までナンバーワンだった選手でも、若手に負けてしまう。その気持ちよさ、すがすがしさはなんだろう……と考えたときに、フェアにいこうぜ!ということなんだ、と思ったんです」。多くの経営者と同じように、事業に直結する原体験が、丸林社長にもあった。
「愛ある事業」とは?
丸林社長の事業理念は、一貫している。より多くのひとをハッピーにしたい、ということだ。「テニス、音楽、そして現在の事業。その根底にあるのは、愛ですね」。スポーツや勉強とは異なり、創作の世界においては能力や努力が結果や評価に直結しないことを身をもって感じた、と丸林社長は言う。才能ある人が希望を持って努力でき、ちゃんと公平に評価される環境がつくれないものか、と。そうしたライフワークのような思考が、新規事業を考えるときに線でつながった。
「ハンドメイドのECサイトを始めたかったわけではなく、作りたかったのは、インディーズで活動するクリエイターのプラットフォームであり、クリエイターと生活者を直接つなぐオルタナティブな仕組み。クリエイターが才能を解放できる、正当に評価を受けることができるフェアな仕組みをつくりたいと腹の底から思った。それが、事業スタートの原点です」
ネット販売、店舗販売、イベント、アライアンスプログラム、クラウドファンディング……丸林社長が「広げて」いるビジネスの根底に一貫しているのは、愛あるビジネスということなのだ。
クリエイティブの特徴は「ふわっとしている」こと
丸林社長に「いい買い物ができたという気持ちを、売り手目線ではなく、買い手目線でぜひ解説していただきたい」と投げかけてみた。ただちに答えが返ってきた。「いい買い物には、2種類あると思います。一つは、価値があることが分かっていて、その価値を買うという行為。もう一つは、なんだか分からないけど体験してみたら、あれ?いいじゃん、と、その価値に気づいて購入するというもの。ブランド論といったものがとかく取り沙汰されがちですが、僕は後者の方に未来の可能性を感じますね」
アート作品にたとえるなら、ゴッホの絵を買う、というのが前者だ。数億円の価値があると誰もが分かっていて、その価値を購入する。そうではなく、名もない作家が手がけた作品にふとひかれてリビングに置いてみたら、予想外にワクワクした、毎日の暮らしに会話や彩りが加わった、みたいな体験が後者だ。
「そのハンドメイドという言葉に、そもそも僕は、違和感があるんですよね」と丸林社長は言う。ゴッホの絵だろうと、ハンドメイドだろう?世界的な服のデザイナーズブランドだって、元は1人のデザイナーによるハンドメイドだろう?ということだ。ゴッホのイメージをゴッホの手で形にした。そこに、世界中の人の心を揺さぶるなにかが生まれた。「そのなにかが何なのか、だれも定義できない。クリエイティブというものは、常にふわっとしたものだからです」。そうしたふわっとしたものを慈しみたい、という丸林社長の情熱には、クリエイティブを生業とする仲間の一人として、なんだか「ありがとうございます!」という気持ちになった。
ハンドメイドマーケットプレイス「Creema」のサービスサイトは、こちら。
日本最大級・クリエイターの祭典「ハンドメイドインジャパンフェス」の公式HPは、こちら。
音楽とクラフトの野外フェスティバル「Creema YAMABIKO FES」の公式HPは、こちら。
レッスン動画販売プラットフォーム「FANTIST」のサービスサイトは、こちら。
クリーマのコーポレートサイトは、こちら。
「オリジナリティ」を持つ“元気な会社”のヒミツを、電通「カンパニーデザイン」チームが探りにゆく連載のシーズン2。第19回は、「クリエイター」と「ファン」とをつなぐプラットフォームを創造しつづける「クリーマ」をご紹介しました。
【編集後記】
インタビューの最後に、丸林社長にこんな意地悪な質問をしてみた。「クリエイティブの日本語訳を教えてください」と。先日放送が終了した朝ドラでは「木漏れ日にあたる英語はないのだ」という話が紹介されていた。その逆で、クリエイティブにあたる日本語は実はない。アートを「芸術」と訳した。エコノミクスを「経済」と訳した。実に、しっくりとくる。でも、クリエイティブというものを真っ芯で捉えた日本語は、いまだに生み出されていない。クリエイティブをビジネスの力に、といった表現が物語るようにピュアアートでないことは明らかだ。
若干、とまどいながらも丸林社長はこう答えた。「創造性と訳すことは簡単です。でも、それでは本質をついているとは言えない。0から1を生み出す力がクリエイティブなのだと僕は思いますね」
そして、その力は、なにもクリエイターという肩書が名刺に刷り込まれている人間だけが持っているのではない、と丸林社長はつづける。いわゆる営業職であっても、教育者であっても、農業従事者であっても、政治家であっても、だれも想像もしていなかったものから「1」を生み出す全ての行為がクリエイティブなものであり、それを実現できる全てのひとがクリエイター。紫色のミカン?ウソでしょう?みたいな。そんなとんでもない発想力を実現してしまう力に、人は心を揺さぶられるのだ、と。「だからこそ、クリエイティブ価値をフェアに評価してもらえる環境をつくりたいんです」という丸林社長の言葉は心に刺さった。