OOHのニューノーマルNo.11
交通広告は、コロナ禍の中で進化する!
2022/06/13
さまざまな角度から、OOH(Out Of Home:屋外広告・交通広告)業界の新しいスタンダード、ニューノーマルを伝えてきた本連載。最終回は、最近の交通広告について、メトロアドエージェンシーの成瀬 光氏に伺います。
──最初に伺いたいテーマは、「車内広告」です。電車内では多くの人がスマートフォンを見ています。しかも、コロナ禍で乗客が減っていて、車内広告の意義が問われているように思います。実際のところ、車内広告は見られているのでしょうか?また、どんな価値がありますか?
スマートフォン利用者にも広告は届いています。当社では、2020年に車内や駅構内におけるお客さまの行動調査を行いました。調査結果を見ると、93.4%の方がスマートフォンを利用していますが、そのうち半数以上の方に車内広告を見ていただいていることがわかりました。
車内広告(交通広告)の特性は、その広告や掲出場所が生活者との「リアルな接点」になっていることです。ウェブ広告と違い、乗車している間に、そこにあるクリエイティブを実際に見られるのはオフラインのメディアならではの展開だと思います。
また、生活者の通勤や通学といった必須の移動において繰り返し訴求する「反復訴求」や、乗車している間、掲示し続ける「視認性の良さ」が、強みとしてあげられます。さらに、電車や駅といった空間への掲出は、ただの視認性の良さだけではなく、美術館やイベントのように現実で「体験できる」という魅力があります。
他にも、交通機関という「公共性」の高いところに掲出されるため、ブランド毀損のリスクが少ないことや、モバイルとの親和性が高く、SNSによる「情報拡散」が期待できることも強みといえます。当社の調査では、手元にあるスマートフォンを使って5割強の乗客は商品・サービスを検索し、約3割はSNSに書き込み、約4割はその後、購買へつながっていることがわかりました。
──特に2020年と2021年は、新型コロナウイルスの感染拡大で商業施設へ行く機会は減りましたが、通勤・通学などの移動手段として電車を利用される方は多くいらっしゃいます。コロナ禍における特徴的な広告事例はありますか。
車内空間と広告で、リアルな空間体験をつくりだした事例があります。2021年に実施されたNetflix映画の「浅草キッド」の事例では、東京メトロ銀座線(渋谷─浅草を走行)のレトロライナー車両内を広告ジャックしました。レトロライナーは、昭和の車両デザインを再現しています。「浅草キッド」は、ちょうど昭和40年代の浅草を舞台にした作品で、広告クリエイティブの展開が車両内装とマッチしていました。乗客が初見で作品の世界観をダイレクトに体験することができることは、集客が難しいコロナ禍においても貴重だと思います。
──車内広告では、2021年に週刊誌が中づり広告をやめたことが、一つの文化の終焉(しゅうえん)として話題になりました。車内広告にはどのような変化が生まれていますか?
リーチ数だけでなく、クリエイティブの幅を持たせて強いインパクトを残すものへと変化しています。車内広告では、新しい使い方が今も模索されており、見た方が驚くような展開もできるようになっています。昨年、携帯キャリアのプロモーションで初めて「中づり広告」の全車両の片面ジャックをご活用いただきました。メトロ全線の車両内で、片側から見るとすべて同じ広告主の中づりポスターが掲出される展開は印象的でした。商品と生活者とのエンゲージメントも高まったと考えられます。
SNS×駅広告=バズが生まれる
最近はSNSと交通広告を連動させ、ターゲットが参加できる話題創出型の取り組みが増えています。例えば、Netflixの韓国シリーズ「ヴィンチェンツォ」「わかっていても」「賢い医師生活」「海街チャチャチャ」など人気作品の広告が新宿駅に掲出されたのもその一例です。
「#どうして私は韓ドラにハマるのか」というハッシュタグを起点に、韓国ドラマファンの作品への感想やキャストへのメッセージがオンライン上で募集され、それを実際の付箋として広告に貼る、というクリエイティブ表現でした。オンライン上で集められた多くのファンの熱量が、オフラインの交通広告を通して実際に可視化されSNSでの話題化につながっていく取り組みになりました。
このように、交通広告はSNSとの相性が良く、キャンペーンの起点として活用されることも多いです。コロナ禍で特定の場所への集客を狙うことは難しい状況ですが、駅は常に人の往来がある場所なので、こういったファンとのコミュニケーションには適しています。
──生活者を巻き込んだ広告、ということでいうと、生活者が主体となって広告を出す「応援広告」もまさに今の時代に合った広告だと思います。メトロアドエージェンシーでは、「応援広告」を取り扱っていますね。どのような経緯で始められたのでしょうか?
応援広告は元々韓国で始まった文化で、アイドルを応援するために一般のお客さまがお金を出し合って広告を出稿するところから始まっています。東京メトロでは乃木坂46のグループ設立当初から、ファンたちがメンバーの誕生日を乃木坂駅のポスター掲出でお祝いする文化がありました。乃木坂46のファンにとって乃木坂駅は「聖地」の一つであり、ファンと作品との接点になっていると思います。
最近は「推し活」という言葉が多く使われているように、個人やコミュニティで「好きな人を応援する」という活動が増えていると感じています。実際にお問い合わせも増えてきていたことから、東京メトロでも2021年度からルールや掲出可能媒体などを明確化して、応援広告を申し込めるようにしました。交通広告では、これまでの「企業から生活者へ」というBtoCのものだけでなく、「生活者から企業、人へ」というCtoB、CtoCの動きも生まれてきていると感じています。
●応援広告については、下記の記事もおすすめです。
広告は誰のもの?「クラウドファンディング × 広告」の可能性
──最後に、今後挑戦したいことについて教えてください。
国土交通省の調査によると、首都圏の主なターミナル駅の利用者は、2022年のGW後にはコロナ前の87%まで回復してきました。リーチという価値に加えて、今回紹介させていただいたような、リアルな場所で展開できるといった交通広告ならではの魅力をより強化していきたいと思っています。
また、広告交通の効果がわかりにくいこともかねてからの課題でした。2022年は交通広告の価値を「見える化」することに挑戦します。2022年5月には、駅メディアのレポートを発表しました。レポートでは「媒体接触可能人数」や「性別、年代などの属性割合」を紹介しています。
取得しづらいといわれる交通広告のデータについてですが、当社は関東地区における交通広告を販売・管理する鉄道事業者やハウスエージェンシーなど11社局で取り組んでいる「交通広告メジャメント標準化」の取り組みに参加しておりますので、Wi-Fiやビーコンを活用した効果計測の標準化に取り組み、広告主さまに広告効果を説明できるようにしていきます。
インタビューを終えて……
メトロアドエージェンシーの調査によると、東京メトロ車内では実に9割以上の乗客がスマートフォンを使用しています。しかし、乗客は車内広告を見ていないわけではなく半数以上の乗客は広告も見て、記憶にも残っているとのことです。この結果は、生活動線に組み込まれた交通広告の強みを感じさせるものです。もちろん、広告効果は商材の特性やメディアプラン、クリエイティブといった変数によって、変動すると考えられます。
インタビューを通して、車内広告の効果を最大化するためには、次の3つが鍵になると思いました。
1つ目は、イベント会場まで誘導しない簡易的なブランド体験です。コロナ禍によって、街の人流予測は難しくなりましたが、電車はインフラのため商業施設より影響を受けにくいことはメリットです。大きなグラフィックの掲出や車内ジャック、AR展開などをリアル空間で展開することで、ブランド体験をもたらすことができるでしょう。
2つ目は、SNSの利活用です。今回もSNSを活用したキャンペーンの紹介がありましたが、より多くの人にリーチさせるにはSNSでの話題化は欠かせません。電通OOH局では複数のキャンペーン事例の分析を通して、バズの法則化を試みています。
3つ目は、解禁されたQRコードによる購買促進・計測です。盗撮行為を防止する目的で広告内のQRコード掲載は禁止されていましたが、掲出場所を考慮し、解禁されました。QRコードを読み取った人に商品のクーポンを配ったり、オリジナルコンテンツが見られる広告の実施、さらに、QRコードの読み取りによるサイト閲覧・購買の計測もできるようになりました。新しい購買導線・計測手法を活用した広告展開も、今後は増えるでしょう。
ウィズコロナの生活も、3年目になりました。今年のお花見やGWは、久しぶりに集まる人々がとてもうれしそうにしている様子がうかがえて印象的でした。新型コロナウイルスの感染拡大は、多くの方々にとって今までのライフスタイルを見直し、考え方を変えるきっかけになりました。新しい生活習慣の中で生まれた商品やサービス、消費がある一方で、それ以外の商品との出合い方はどうなったでしょうか。友人だけでなく年齢の離れた職場の人や親戚、お会いしたことがない方とリアルに集まる機会、商業施設に行く機会、旅行回数が減ると、未知のすてきなものに偶然出合う機会も減ったのではないでしょうか。
ウェブサービスを中心に、使えば使うほど利用者の嗜好(しこう)性を理解し、高い精度で商品をリコメンドされるのは感動を覚えます。しかし、自分がまだ知らない、予想外に好きになるものを見つける能力、つまりセレンディピティを得ることは難しくなっているように思います。
交通広告を含む屋外広告は公共空間に掲出されるものであり、テレビ広告の次に多くの生活者へ訴求することができるリーチ力の高い媒体です。「へぇ、今こんな商品あるんだ。家族にプレゼントしようかな」「最近よく見るけどはやっているのかな、試してみよう」と、どこかに移動しているタイミングで偶然接触させることができるのが屋外広告です。おうち時間の充実とともに、外へ自由に移動できる楽しさも十分に理解した今だからこそ、屋外広告の新しい活用方法や魅力を見直したいです。新しく好きなものと出合うきっかけをつくるために。