広告は誰のもの?「クラウドファンディング × 広告」の可能性
2022/04/22
<目次>
▼届けたい、すべての想いに広告を。個人での広告出稿を可能にする「AD MISSION」
▼最近、広告がますます嫌われている?
▼広告は誰のものなのか?「広告」のアップデートと自由化
▼クラウドファンディング × 広告に、電通が取り組むワケ
届けたい、すべての想いに広告を。個人での広告出稿を可能にする「AD MISSION」
皆さんは「クラウドファンディング」をご存じでしょうか?聞いたことがある、もしくは、何となく仕組みを知ってはいるものの具体的にはよくわからない、という方が多いかもしれません。クラウドファンディング=クラファンは、不特定多数の人に比較的少額の資金提供を呼びかけ、一定額が集まった時点でプロジェクトを実行するというリスクの低い資金調達の仕組みで、文字通りcrowd(群衆)とfunding(資金調達)を組み合わせてできた言葉です。
社会の価値観や人々のライフスタイルが加速度的にシフトチェンジしたこの2年、経済的な打撃を受けた業界や企業は数しれず、それらを救済すべく声を上げた有志の人たちによって、数多くのクラファン・プロジェクトが起案されてきました。そしてなかには、億単位の資金を集めるなど、かなり大規模なファンディングに成功したプロジェクトも。
長引くコロナ禍で以前よりも注目を集めるようになったせいか、クラファンでは救済や支援を目的としたプロジェクトが目に留まりがちですが、本来は資金調達の1つの手段であり、その目的や目標設定は基本的に起案者の自由です。逆にいえば、クラファン・プロジェクトにはすべて起案者が目標に掲げるさまざまなゴールが設定されていて、そのアクションがユニークだったり、共感を集めるものであるほど、多くの資金を調達できてプロジェクトを実行に移せるケースが多いのです。
そして意外なことに、最終的に実行したいアクションが「広告」に設定されているプロジェクトも少なくありません。自分が応援したい誰かへメッセージを届けるために、同じ想いを持つ人たちに呼びかけていく推し活的な応援広告のプロジェクトだったり、自分たちで何かをつくり上げていくために、同じ目的を共有できる人たちを探す共創型のプロジェクトだったり、救済のための支援を募るプロジェクトでも、その告知手段として「広告」の資金が必要とされるケースだったり。
届けたい、すべての想いに広告を。そんなビジョンを掲げてスタートさせた「AD MISSION」は、クラファンを活用することで個人でも誰でも、マスメディアを媒体とした広告コミュニケーションを行うことができる、広告活動のための新しいサービスプラットフォームです。プロジェクトの起案から資金調達までをMOTION GALLERYが、メディアバイイングや広告素材の審査・納品、また必要に応じてクリエイティブワークまでの広告作業を電通が請け負う、両社の共同事業としてローンチしました。
https://www.dentsu.co.jp/news/release/2021/1020-010451.html
「AD MISSION」を活用すれば、広告に必要な予算を持ち合わせていなくても、共感を得られるアクションやアイデア、それを実現したい想いを多くの人へ届けることで、誰でも広告出稿が可能になります。そして、クリエイティブやメディアバイイングのプロセスでも、さまざまなサポートを受けることができます。もし起案したプロジェクトが思うように支援を集められず、目標を達成できなくても、ファンディングが不成立となるだけで元手がかかるようなことはありません。
「AD MISSION」のビジョンは、経済のモノサシでは測りきれない社会的意義を持つ活動を支えていきたいというクラファンの理念を実現する手段として、またそうした個々の想いを世の中へ届ける声として、広告を機能させたいという意思を示しています。そして、そこには広告へのさまざまな自戒を込めてもいます。
では、広告に対するどんな自戒を込めたのか?ここからは、このサービスがローンチに至った背景と経緯について、私自身の個人的な想いも交えながら伝えていきたいと思います。
最近、広告がますます嫌われている?
広告業界に身を置く方も、そうではない方も、最近の広告はおもしろくないとか、品がないとか、何をみていても広告が入ってきてジャマだとか、「いま、広告が嫌われている」と感じたことがある人は多いのではないでしょうか?広告を日々つくり続けている私たちにとっては、かなり耳の痛い話ですが、たしかにここ数年、効果効率や指標の細分化、コンプライアンスやレピュテーションリスク(評価が下がること)への注意など、広告を取り巻く環境は厳しさや制限が増していると実感することも少なくありません。さらに直面したコロナ禍で、広告業界も決して小さくない打撃を受けました。
効率も指標もコンプライアンスも、もちろんとても大事なことではあるのですが、あらゆるハードルをクリアしつつ、どうにか世に出た広告を「おもしろくない」と片づけられてしまっては、そもそも意味がありません。せめて一瞬でも、目に留まるようなものを。そんな課題に日々葛藤しながら、かつて「自由」で「おもしろいもの」だったはずの時代の広告をインプットしたいという想いで、2021年10月に開催されていた岡康道展に、私も足を運びました。とてもなつかしく、いまも眩(まばゆ)いテレビCMや多くの人の心を揺さぶったであろう岡さんの名言の数々と触れあうなか、ある言葉にふと目が留まりました。
「今の広告はつまらない」とずっと言われている気がします。
「今年の風邪はすごいらしいよ」っていうのと同じようなもので、いつも誰かが言っている。
ご本人にとってはもしかすると、愚痴をかねて何げなくつぶやいた言葉なのかもしれません。でもたしかに、「今年の暑さは尋常じゃない」とか「今年の風邪はタチが悪い」って毎年誰かがいっている気がして、笑ってしまいました。そう、決して「いま広告が嫌われている」のではなく、広告って元々嫌われがちで、つまらないとも思われたりしがちなものですよね。無理やり人々の日常に割り込んでくる、その性質自体は昔から何も変わっていないはずなのです。
そうはならないよう手を尽くすのが私たちの仕事であり、その壁を越えられるよう試行錯誤して、これまで素晴らしいアウトプットが生み出されてきたのだということ。時代とともに広告のメディアや手法が多少かわったとしても、嫌われるどころか、愛されたり共感を得られるアイデアを生み出すことこそが、クリエイティビティなのだということ。ある種の行き詰まりを感じていたとき、岡さんの言葉にそんな当たり前のことをあらためて思い出させてもらいました。
広告は誰のものなのか?広告業界のアップデートと自由化
私がいまさら指摘するまでもなく、「広告」の在り方の変革やクリエイティビティの拡張は、もう何年も前から業界内外で叫ばれ続けていることで、世の中の潮流の変化やメディアの多様化や新たな社会課題などに合わせて、既にさまざまな取り組みが進められています。一方、そこに身を置くものの肌感覚としては、「広告」はまだ既成概念に囚われているのでは?と考えさせられることも少なくありません。
そのひとつとして、「広告、特にマスメディアを活用するような広告を実施できるのは、ごく一部の企業や発信者のみに限られている」という点があります。マスメディアで広告を実施するには、それなりの予算も必要なワケですから、当然といえば当然なのですが。ただ、この業界で働きはじめたころには何とも感じていなかった、そうした実情に対して、それでいいんだっけ?…と、漠然とした疑問を抱くようになりました。
いまはそれこそ、誰もが発信者になれる時代です。たとえ先立つ資金がなくても、YouTuberやTikTokerなどのようにアイデアや努力次第で誰もが、既存のメディアとも互角に渡り合えるほど大きな影響力を持つことができるようになってきています。それに比べると、「広告」ってどうなんだろう?この時代において、マスメディアの広告コミュニケーションだけが閉ざされたものになっているのではないか?そもそも広告とは、誰のものなのか?
コロナ禍で考えることが多くなった日々、そんな「広告の自由化」について想いを馳せるようになりました。広告はもっと自由で、やろうと思えば誰もがやれる、オープンなものになっているべき。そして広告業界を取り巻く環境の変化が激しくなるにつれ、逆にそこにこそ広告をアップデートしていくひとつのヒントがあるのではないか?そんな気すらしてきたのです。
クラウドファンディング × 広告に、電通が取り組むワケ
そんな折、クラファンで立ち上げられたプロジェクトのクリエイティブを担当する機会があり、その仕組みや成り立ちについて学ぶとともに、多くの人が支援したクラファン・プロジェクトの意義や成功のポイントなどを調べてみるようになりました。コロナ禍にありながら、クラファンによって危機をしのいできた劇場、これを機に新境地を開拓したい企業の斬新なサービス、支援の輪を社会へ広げていくためのIQと熱量の高いオピニオン……。
そこにはいくつもの、いまの社会に対する問題提起が、見本市のように並んでいました。本当によく考えられているなと感心するアイデアや、どうにかして世の中へ届けようという熱量にあふれた想いなどが添えられつつ。思わず応援したくなるプロジェクトも多々あり、クラファンっておもしろいなとあらためて感じるとともに、私たちがふだん生業としている広告コミュニケーションのプランニングと共通する部分、そして私たちのスキルやナレッジがクラファンの役に立つことも多いように思えてきました。
多くの人を振り向かせるアイデアが重要なのはいわずもがな、いまの広告は、常に社会との向き合い方が厳しい目で問われ続けます。コミュニケーションとしての立ち位置も、社会課題のソリューションなどに立脚していることが求められるケースが少なくありません。課題の発見とそれを解決するアイデア、そして社会へ届けるための声の強さが大事なクラファンの世界でも、私たちが広告で培ってきたスキルやナレッジは必要とされているのではないか、と。
また、もし実施したいアクションが「広告」だった場合、資金を集めることに成功したとしても、そこから広告を世に出していく作業はそう簡単ではないはずです。どうやってメディアの広告枠を買うのか、スケジュールの調整や媒体審査はどうすればいいのか、そもそも広告の制作も誰かにお願いしなければ……などなど。やるべきことは山のようにあり、ことマスメディアに関していえば、その特殊なプロセスに対応するためのサポートでも、私たちにできることはあるのでは?と。
プロジェクト起案時の「課題発見」や「アイデア出し」、そしての「実行のサポート」を、私たちから提供すれば、多くのクラファン起案者の役に立つことができるだけでなく、誰もが自由に「広告」を発信することができる「広告の自由化」にもつながるのではないかと考え、Motion Galleryの大高健志社長に相談を持ちかけました。大高さんはそんなムチャぶりに快く応えてくれて、クラファンと広告を一体化したサービスの構想を一緒に練り上げていきました。
そうして、電通とMOTION GALLERY の共同事業「AD MISSION」が誕生しました。2021年10月のローンチ以降、おかげさまで多くのお問い合わせをいただき、現在もいくつかのプロジェクトが進行しています。「AD MISSION」は法人や企業が主体となって起案することももちろんできますが、いまのところはやはり、圧倒的な熱量と明確なビジョンを持った個人起案者からのオファーがほとんどです。既に資金調達に成功して、新聞広告などへの掲載が完了しているプロジェクトもあります。
一部をご紹介すると…
- スポーツチームやタレントへ向けてメッセージを贈るための応援広告
- アイドルやアーティストに対する推し活の証しとしての広告
- 喫緊の社会課題や身近な問題を解決するために声を上げるPRアクション
- 伝統文化や地域コミュニティを活性化させていくための啓発活動
など、起案されるプロジェクトの目的とゴールは本当にさまざまです。
「AD MISSION」では起案者=広告のクライアントであり、クリエイティブの依頼があれば、私がその一人ひとりと打ち合わせして、制作オリエンを受けることになります。既に何人かの起案者とオンラインでお話ししましたが、こちらからさまざまなサポートを提供させていただく一方で、起案者自身に対応をお願いせざるを得ないことも少なくありません。慣れない作業でなかなか大変だと思うのですが、皆さんが本当にモチベーションも高く取り組まれていることに敬服します。
そんなパッションを受け止めつつ、クリエイティブのアイデアや、クラファンと広告出稿に関する実務的な部分では、私たちの培ってきたスキルやナレッジが、それぞれのプロジェクトの成功に寄与できるということを日々実感しつつあります。一人でも多くの方の熱い想いが、さまざまな人たちの共感と賛同を得て実現していくことを。また「広告」が、その想いを社会へ届ける「声」となっていくことを。この事業を立ち上げた者のひとりとして、強く願っています。