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為末大の「緩急自在」No.22

アスリートブレーンズ為末大の「緩急自在」vol.22

2022/07/06

為末大さんに「いま、気になっていること」について、フリーに語っていただく連載インタビューコラム。唯一、設定したテーマは「自律とは何か、寛容さとは何か」。謎の「聞き手」からのムチャ振りに為末さんが、あれこれ「気になること」を語ってくれます。さてさて。今回は、どんな話が飛び出すことやら……。乞う、ご期待。

為末大氏

──前回に引き続き、今回も「透明感とは、何だ?」という、編集部が設定したへんてこなテーマにお付き合いいただきます。

為末:よろしくお願いいたします。

──前回の最後に、アスリートが求める「透明感」というのは、端的にいうと「カクカクした動きではなく、なめらかな動きをするということ」というご指摘がありました。今回は、そのあたりからお話を伺おうと思います。

為末:アスリートが求める「透明感」というのは、心と体の二つだと思うんです。心に関していえば、いわゆる無心ということですね。僕の場合でいうなら、邪念を捨てて、目の前に迫ってくるハードルのみに全神経を集中する、みたいな。

──分かります、というのは、いかにもおこがましいですが、想像はできます。

為末:難しいのは、体の「透明感」なんです。すーっと流れて、収まるところに収まるという感じ、というんでしょうか。この感覚を、アスリートはずっと追い続けているんです。ポインターを用いたコンピューターによる動きの解析みたいなものって、ありますよね?

──ああ、体のあちこちにポイントをつけて、その動きを調べるみたいな?

為末:そうです。現役時代、いろいろやってみたのですが、つまるところ、ポイントとして重要なのは、手足、肘、アタマ 、腰、胸郭といった、人体のほんの10カ所くらいなのだということ。このポイントを再現するだけで、「ああ、為末の走りだなとか、あのバッターの打撃フォームだな」といったことが、どういうわけだか分かるんです。動きの洗練度といったことまでも。

──体感としてはまったく分からないのですが、テレビを見ている一視聴者としては、よく分かります。あのピッチャーらしいスライダーだな、とか。あの人らしいバットコントロールで、ライトスタンドへボールを運んだな、とか。美しいトリプルアクセルだな、とか。専門的なことは何も分からないのですが、そこに「透明感」のようなものを感じる。

為末:一流のアスリートは、どんな競技でもその域に達するのだと思います。動きに無理がなく、カクカクせず、常になめらかだ、という。

──体操やフィギュアスケートといった競技の場合は、まさにその「なめらかさ」を競うものだと思うのですが、コンマ何秒を競うものであったり、とにかく相手をねじ伏せることを目的としたものでも、一流を極めた競技者、あるいはチームには「なめらかさ」や「優美さ」のようなものを感じます。

為末:心の面でいうと、座禅ってありますよね?なにかの本で読んだのですが、修行を始めて間もない僧侶とベテランの僧侶、2人に脳波計をつけて、座禅をしてもらった。で、いきなり背後から鐘のような大きな音を流す。すると、2人の脳波は同じように、びっくりする。でも、ここからが面白いのですが、新米の僧侶に比べて、ベテランの僧侶の脳波は、みるみる平常に戻っていく、というのです。

──まさに「透明な心境」ですね。「無の境地」とも言える。

為末:人は、突発的なアクシデントには、どうしても反射的に反応してしまう。そのとき、冷静な自分をいち早く取り戻せることが大事なんだと思います。「透明感」の説明になっているのかは分かりませんが、揺れないのではなく、揺れ続けない、みたいな。

──なるほど。「透明感」というものの定量的な分析を、はじめて伺った気がします。

為末大氏

為末:アスリート、あるいは政治家や企業経営者も同じだと思うのですが、一般的に「定性的」と捉えられているものを、いかに「定量的」に分析できるか、がポイントだと思うんです。でないと、みんなが「これは大事だな」と思っていることが、つまるところ、精神論で片付けられてしまう。

──為末さんのご専門の、陸上ハードル競技なんかは、そうした緻密な追求がコンマ何秒というところに表れるわけですものね。

為末:アスリートが追求する「なめらかさ」というのは、体の上下動がなくなり、手足の動きが小さくなることなんです。

──えっ?それは意外ですね。陸上選手のイメージからすると、いかに歩幅を稼ぐか、とか、いかにダイナミックに腕を振るか、みたいな感じですが。

為末:もちろん、トレーニングを始めた当初は、これでもかというくらい腕を振りますし、足も前に出す。でも激しい動きは、切り返しも激しいんですよ。たとえるなら、猛スピードで走っていた車が、急ブレーキをかけて、猛スピードでバックする、みたいな。なので、動きは洗練されるほど、この切り返しの要素が小さくなり、なめらかになっていくんです。手足も、円を描くようなことになってくる。                          

──分かった、というか、分かったような気がします(笑)。その「なめらか」で「しなやか」で、まるで空気を操っているかのような所作に、僕ら素人は、ある種の「透明感」を覚えるんですね?陸上競技も、柔道でも、相撲でも、サッカーでも、なんでもそうです。一流の選手であればあるほど、ふわっと敵をかわしたり、ふわっと相手を投げ飛ばしたり、ふわっとゴールを決めたりしますものね。

為末:政治や企業経営といったことも、原理としては同じだと思います。そこに、日本人特有の「精神性」のようなものが掛け算されていくと、透明感、透明性、透明度、といった印象が生まれるのだと思います。

──深い。この話、まだまだ伺いたいことばかりです。(#23へつづく)

(聞き手:ウェブ電通報編集部)


アスリートブレーンズ プロデュースチーム( 日比)より

「透明感」の第2弾。アスリートが求める「透明感」には、「心の透明感」と「体の透明感」の二つの側面がある、というお話。心の透明感とは、無心であること。競技のこと以外に何も考えていない状態。一方、体の透明感とは、動きの小ささ、なめらかさ、しなやかさ。聞き手の編集部の方が「深い」と発言されているが、この対談「深い」。近いうち、「深い議論とは何か?なぜ、深いのか?」を考える機会も、ぜひ欲しいと感じた。為末さんとの定期的なディスカッションのたびに、新しい気づき、面白い気づきをいただく。高い視座と、深い思慮。それらを支えているもののひとつが「透明感」なのだ。

アスリートブレーンズ プロデュースチーム 電通/日比昭道(3CRP)・荒堀源太(ラテ局)

為末大さんを中心に展開している「アスリートブレーンズ」。
アスリートが培ったナレッジで、世の中(企業・社会)の課題解決につなげるチームの詳細については、こちら

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