十人十色の思考のお伴No.12
──電通九州 三浦僚さん、プロデューサーの喜びって何ですか?
2025/02/04
思考に耽(ふけ)りたいとき、アイデアをひねり出そうとするとき、ひとには、そのひとならではの「お伴」(=なくてはならないアイテム)が必要だ。名探偵シャーロック・ホームズの場合でいうなら、愛用の「パイプ」と「バイオリン」ということになるだろう。
この連載は、そうした「私だけの(=十人十色の)思考のお伴」をさまざまな方にご紹介いただくものだ。あのひとの“意外な素顔”を楽しみつつ、「思考することへの思考」を巡らせていただけたら、と願っている。
(ウェブ電通報 編集部)
三浦さんのお仕事は、プロデューサー「の、ような」こと?
──昨日は、「なぜか元気な会社のヒミツ#41」の取材、お疲れさまでした。先方からステキなお話をたくさん引き出していただいて、担当編集者としてはもう、大満足です。インタビュアーとしての三浦さんは、気さくで、話題が豊富で、質問の組み立てがとても立体的で、編集者として大いに学ばせてもらいました。
三浦:いえいえ、そんな……。でも、そう言っていただけると、うれしいです。本日もよろしくお願いします。
──さっそくですが、三浦さんのご経歴をざっくりと教えていただけますか?
三浦:電通九州に入社して最初の配属は、プロモーション。そこからマーケ(ストプラ)、6年目に東京へ出向しましてクリエイティブを経験。九州へ戻ってからは、あまり領域を限定せず、コミュニケーションプランニング全般を担当しています。
──20年ほどの間に、さまざまな職種を経験されたんですね?
三浦:その間の仕事を一言でまとめるなら、プロデューサー「の、ような」ことをしてきましたし、今もしている、という感じでしょうか。
──「の、ような」とは?
三浦:ご存じのように、プロデューサーという仕事は、「これをする人」という定義がとても難しいんです。テレビ局のプロデューサー、音楽プロデューサー、CMの制作会社のプロデューサーでは、仕事の内容がかなり違いますからね。
──確かに。
三浦:僕がイメージする、といいますか、憧れるプロデューサーは、スタジオジブリの鈴木敏夫さんなんです。広報担当も兼ねた編集者、のような。ちょっと先を見据えて、クリエイターと読者の間に立ち、マーケティングにも精通している、といったような。もちろん、憧れの存在というだけで、鈴木敏夫さんのような仕事をしています、なんてことはおこがましくてとても言えないのですが……。
──鈴木敏夫さん、ですか。
三浦:20代で最初に東京のクリエイティブ部門に出向したときは、周りじゅう、宮崎駿さんだらけ、のような環境の中に、僕一人だけぽつんと所在なくいる……みたいな心境でしたが、そうしたことを含め、いろいろな肩書きで、いろいろな環境で、さまざまな職種の方と仕事をさせてもらえた経験は、僕の財産だと思っています。
──プロデューサー「の、ような」者として?
三浦:そうです。くどいので、以降はプロデューサーと言いますが(笑)、パートナーのため、チームのために、いかに「スペース」をつくれるか?ということがプロデューサーの役割だと、僕は思っています。
──スペース?
三浦:目的地に光をあてて、そこに至る道筋を整備し、道そのものもキレイに掃いておく、といったような。
──水先案内人であり、道路整備士であり、レレレのおじさんでもある、と。
三浦:カーリングで、ブラシを持っている人みたいな感じです。ちょっと、メタファーが過ぎますね(笑)。でも、メタファーついでに言うなら「摩擦係数をコントロールする」という能力が、プロデューサーには求められるような気がします。僕たちの仕事って、秩序も大事だし、不連続で非合理なことも時には大事。だれもが日々、そうしたカオスの中で、奮闘しているわけですから。
“地域”のプロデューサー、そのダイナミズムとは?
──大分で開催された「進撃の巨人展WALLOITA」に関する三浦さんのウェブ電通報でのバックナンバーを改めて読み返してみて、気づいたことがあるんです。
三浦:なつかしいな。もう10年ほど前になるでしょうか?
──「地域ブランディング」ということが大きなテーマだったと思うのですが、記事の中から4つのキーワードが浮かびあがってきたんです。<①大きな(メジャーな)コンテンツ ➁街全体で ③(観客の)回遊誘導 ④官民まきこんで>というものなんですが……。
三浦:おっしゃるとおりです。その4つは、僕ら「現場」で働いている人間にとっても大きなテーマでした。
──その4つのテーマを手帳に書き写して眺めていたところ、あれ?これって東京マラソンと一緒じゃん!と、思ったんです。もっと言えば、東京オリンピックとも。
三浦:なるほど。
──なにが言いたいのかというと、スケールの違いこそあれ、「フィールドプロモーション」のメソッドは「地域ブランディング」にはっきりと表れている、ということなんです。
三浦:確かにそうですね。もちろん、地域の場合はスタッフ数が少ない分、運営サイドにいる一人一人のやることは多いのですが、ご指摘のように「都市の機能を地域に」とか「都市のトレンドを地域に」といったように、「都市から、地方へ」となりがちな固定観念はすでに崩れ始めているような気がします。
──肌実感として、ですか?
三浦:フィールドプロモーションの醍醐味は、なんといっても「喜んでいる誰かの表情を目の当たりにできる」とか「共に汗を流したスタッフとハグしあう」といったことにありますからね。これはあらゆる業界のプロデューサーに言えることだと思うのですが、そうした肌感覚を磨くことが、プロデューサーという仕事には大切なことだと思います。
三浦僚さんの「思考のお伴」とは?
──いよいよ本題なのですが、そんな三浦さんにとっての「思考のお伴」とは何ですか?
三浦:ずばり、「片づけ」です。これまでの話とかぶるのですが、「キレイにする」「スペース(余白や遊び)をつくる」「整理整頓する」「道筋を立てる」……。仕事だけでなく、家庭での実生活でも、掃除、洗濯、アイロンがけ、冷蔵庫の整理、いずれも大好きです。こういうことをうかつに口にすると「それじゃ私が、まるでなにもしてないみたいじゃないの!」と、妻に怒られてしまいますが(笑)。
──「片づけ」ですかあ。分かります、分かります。僕も、そっち側の人間ですから。あれですよね?決して「潔癖症」というわけではないんですよね?
三浦:そうなんです。むしろ、その逆といいますか。整っていない状態が目の前にあると、なんだかワクワクしちゃうんです。うわあ、これは片づけがいがあるぞー、とね。
──片づけたことで得られるスッキリ感が欲しい、というよりも、片づけている行為そのものが楽しい、みたいな。片づけ終えたときは、どんな気持ちになりますか?
三浦:いったん、ホッとしますね。
──それも、分かるわー。そらみろ、片づけてやったぜ!この達成感、たまんねえなー。ガッツポーズ!みたいなことじゃないんですよね?
三浦:たぶん、片づけを楽しみながら、いろいろなことを考えているんだと思うんです。僕の「片づけ=思考のお伴」ということに、どれだけの方が共感いただけるか分かりませんが……。
──いやいや。片づけ終わったときの「ホッ」は、思考疲れだと思いますよ。肉体的なことであれば「ハァ、ハァ……」みたいなことになるはずだもの。
三浦:僕の趣味はキャンプなのですが、これなんかは「究極の片づけ」と言えますね。
──と言いますと?
三浦:だって、そうでしょう?前日あれこれ準備をして、当日のこのこと出かけて、テントを張って、火をおこして、料理をして、飲み食いして……さあ、ここからですよ。使った食器や鍋を洗って、持ち帰るゴミをゴミ袋にしまって、炭や灰の始末をして、テントを折りたたんで、クルマに格納して、帰り着いた家で洗濯機を回して、と。「片づけ」がしたくて、わざわざ出かけているようなものじゃないですか?
──わははははははっ!
三浦:調子に乗って、しゃべり過ぎました。大丈夫かなあ……、読者の方に変な人だと思われてないかなあ……。
──いやいや。少なくとも僕は、大共感です。それに、大なり小なり、人ってそういうところ、あると思いますよ。
三浦:そっかー。そうですよね?
──それに、本日はお仕事のことも、いろいろと伺わせていただきましたが、プロデューサーの才覚って、そういうところに表れるのだろうな、と。さまざまな分野のスペシャリストが集うチーム。ともすれば、修復不可能なカオスへとなだれ込んでしまうところを、都度都度「最大公約数」を見定めて「片づけ」をしてくれるのが、優れたプロデューサーだと思うもの。
三浦:それでいうと、敬愛する鈴木敏夫プロデューサーも「めちゃめちゃ掃除が好き」というようなことを、なにかの番組でおっしゃっていました。
──それは、プロデューサー冥利に尽きるお話ですね。