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クリエーティブ・ディレクターの存在意義と可能性を考える〈前編〉
~古川裕也事務所 古川 裕也×博報堂/SIX 藤平 達之対談〜

2022/06/20

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古川 裕也氏、藤平 達之氏

ブランドのパーパス(存在意義)が当たり前になり、クリエイターが広告を超えたさまざまなアクションを創り出すことが求められる時代。

そんな時代のクリエーティブ・ディレクターの存在意義と可能性を読み解くために、元電通で現・古川裕也事務所の古川 裕也氏と、博報堂/SIXの藤平 達之氏という2人のクリエーティブ・ディレクターによる対談がウェブ電通報と博報堂センタードットマガジンの特別企画で実現しました。

パーパスをアクションに昇華させるためのアプローチである「PJMメソッド」を提唱・実践する藤平氏と、パーパスが叫ばれるよりはるか前から「存在意義」を定義することの重要性に着目し、自らのクリエイティブで体現してきた古川氏。

ともにパーパス/存在意義を大切に考えてきた2人は、これからのクリエイティブ産業やクリエーティブ・ディレクターについて、どのように考えているのでしょうか?


誰もが言う「クリエイティブの拡張」、それって何のため?

藤平:DX(デジタルトランスフォーメーション)などの大きな潮流の中で、クリエーティブ・ディレクターの役割も大きく変わってきていると思います。今日は古川さんとそのあたりをディスカッションできればと思っています。まず「クリエイティブの拡張」というテーマからお話しさせてください。

古川:歴史的に言うと、クリエイティビティの拡張は2010年代のトピックスです。これはクリエイティブにとって、100%ポジティブな変化でした。クリエイティブ・ワークの目的は実は変わってなくて、企業であれ、国であれ、大きな団体であれ、要は、クライアントの社会的価値を上げることです。知名度上げる、たくさん売るもこれに含まれます。

同じ目的なら手段は多様に用意されている方がいいに決まっている。さらに、拡張した新しい方法論を駆使して今までやってこなかった目的にもクリエイティビティを広げようということですね。経営戦略、事業開発、ソーシャル、新しいテクノロジーを駆使した何かなどなど。要は、「クリエイティビティが肝になる仕事はすべて自分たちの仕事であり、それこそが、自分たちがよって立つ本質的存在価値なのである」というのが、今の、あるいはこれからのクリエイティブの立ち位置です。

ただ、拡張自体は目的でもなんでもなくて。本来は「ブランドの社会的価値を高める。そのために課題を発見し解決する」という目的がまずあり、そのために「今までは使ったことがない手段を使うことも可」という順番のはずなんですが、クリエイティブの拡張自体が目的化してしまって、結果クオリティが上がらないという本末転倒のケースもありますね。

領域や種目自体に意味はなくて、どれだけ多くの人から支持され、動かせたか、つまりクオリティとそれによってもたらされる結果がすべてだと思います。それがないと何も変えられないです。重要なのは、ブランドがtrustとrespectを獲得できる仕事になっているかどうかだと思います。

藤平:手段と目的が入れ替わってしまいがちというのは、まさにその通りだと思います。最近、新しいとされる領域や種目にトライしただけで、結果はさておき「よく拡張できました!」と敢闘賞的に評価されている気がします。確かに広告が効きにくい環境ではあるので、新しい領域や種目に挑むことはもちろん大切ですが、クリエイティビティをはじめとする “変わらない強み”が陳腐化していく危険を感じるんですよね。

目的という観点だと、僕は、「課題の解決」に加え、何のために、なぜこのブランドがここに取り組むのかという「意義の発見」も重要だと考えています。拡張するにしても、その両方を起点にしないと、意味あるものにならないと考えています。

その上で、一つ課題意識があって、新しい種目に挑む仕事で、古川さんがよくお話しされている色気やフェロモンがあまり漂わないことが増えている気がします。

古川:よく言ってるのは、職業クリエイティブには、正しさと美しさと両方必要ということ。この美しさとは、楽しさとか興奮しちゃいましたとか、非論理的ヤバい方面全般含みます。古代ギリシャで言えば、アポロン的とディオニュソス的と両方必要ということですね。

実際のクリエイティブ・ディレクションでは、概念仕事(アポロン的)と表現仕事(ディオニュソス的)と、僕の中ではいったん分けて考えます。時系列とファンクションが違うので。ただ、重要なのは、それが混ざったときに、どれくらいのチカラを持つんだろうという視点だと思います。絶対に両方必要。その連結の仕方が肝で、結果としてフェロモンが発生するんです。ただそこは、非論理領域なので100%は保証されてませんが。

ブランドは、love→trust→respectという順に人々との関係を進化させていきます。それは、スペックじゃないんです。パーツ的、述語的、形容詞的なのは、まだほんとに顧客を捕まえてない。全体として、しかも理由もわからず恋におちました。というのが、ブランド価値を高めることに貢献できるクリエイティブ独自の能力です。

さらに僕たちの仕事では、その作用から、ブランドの意義に連結させないとだめで、意味はないけどフェロモンはあるというのは、ファインアートではあり得ますが、僕たちのやっている商業クリエイティブでは無意味なんです。概念自体と概念の表出のさせ方、つまりいわゆるクリエイティブ的なことがチャーミーじゃないと不適格なので。

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藤平:僕は新しい種目において、アポロン的な経験は多少積めてきているのですが、ディオニュソス的な経験が足りておらず、それゆえ最後に表出するものに色気がないということなのかなと反省しました。どうしても、事業やサービスといった種目では、便利さで、つまりスペック的に評価されて満足してしまいがちなので、気をつけねばと思います。

一方、ここは難しいところだとも思っていて、新しい種目は担う範囲が広がり、関係者も多く、異分野の専門知識も必要で、全領域の表現に同じクオリティでコミットできないこともある。そんな葛藤の中で、いまの広告会社の立場で、新しくていい仕事をするのって、この先どんどん難しくなるのでは?みたいなムードがあるような気がします。

古川:逆だと思います。むしろチャンスかと。まず、新種目で成功例があまり多くない。ガラガラですよね。原因はおそらく、ほんとに自分がやりたいと思ってやってないからだと思います。

いい仕事になってるものは、首謀者が自分の課題意識から出発して、どこかで会社仕事を超えたひとりの人間としての使命感のようなところからやってますよね。広告はやらなければいけないことを明確化しやすいけれど、新領域の仕事こそ、自分の使命感や直観ややりたいことに忠実だったり、さっきの比喩で言うとディオニュソス的なことが決定的になるんじゃないでしょうか。これは、新しいカテゴリー開拓にとって必須条件だと思います。

あと単純に自分がやったことない仕事は楽しいということがあるはず。僕も店舗開発、事業開発、アーティストのプロデュースなどやるようになりましたが、まず、自分がシロートだと決めてかかること。ほんとにそうだし。でも、広告の仕事で身についてしまうのは、自分の考えと他者が顕在的潜在的に思っていることを合致させること。要は、クリエイティブ・ディレクションの技術ということですが、これは、クリエイティビティが必要な仕事には、ずいぶん応用が利きます。その技術を持った上で、やりたいこと側から考えるのがいいと思います。クリエーティブ・ディレクターの定義の一つは、自分のやりたいことをみんなの力を借りて実現することです。企画という行為とは、その企画を好きになることなので。

藤平:いい仕事にしようと考えるとき、振り返ると、「社会にとっての“善い”(必要とされる)こと→自分にとっての“いい!”(やりたいと思える)こと」の順序で掛け算していたのですが、これからは個人の“いい!”という欲望から考えてみるようにしたいと思います。他律と内発のバランスって難しいのですが。

「企む」「営む」のはじまりにクリエーティブ・ディレクターを

藤平:続いては「クリエイティビティの解放」というテーマです。どうやったらクリエイティビティは解放されて、産業がより楽しい方向に変革されていくんだろう?ということですね。

変革ってつらくて苦しい側面もあると思うので、いまはこれでいいのかなとも思うんですが、正直、あまりいい場所に向かっている感じがしないんです。ともすると「クリエイティブ・ファクトリー」みたいなところにたどり着くんじゃないかとおびえていて。

古川: 職業としてどうなっていくんだろうという問題ですよね。仕事のコモディティ化とモチベーションの問題に尽きると思います。いわゆるコモディティ・ワークに、能力のある人たちがどこまで我慢できるんだろうかと。それは、誰がやっても変わらない仕事と、誰がやるかによってだいぶ違う仕事の対立でもある。いわゆる働き方問題の本質は、モチベーションの設計にあると思います。インダストリーとして、これからどういう職業にしていくかという問題でもありますね。

藤平:入社当時と比べて、広告フェーズから声がかかる短期の仕事はどんどん減ってきています。戦略フェーズへの参画はもちろんですが、その後も広告の手前に、番組を作ったり、アーティストをプロデュースしたり、サービスを作ったりしています。それっぽくまとめると「川上」領域ということなのかもしれませんが、僕は、「何かを企み始めるフワッとしたタイミングで声がかかった」という感覚が近いです。そして、こういった長いプロセスをクライアントやパートナーとともにすればするほど、コモディティ・ワークから離れていける感覚もあって。

古川:当然そうなっていくと思います。クリエイティビティの拡張と解放こそ、いわゆるダイヴァーシティの本質だと思います。要は、地球上に新しいプレーヤーを増やすということです。女性、少数民族、障がい者などのマイノリティはプレーヤーとして、世界で行われているゲームに今までちゃんと参加できていませんでした。アメリカで女性の選挙権が認められたのがほんの100年前ですからね。

今までプレーヤー足りえなかった人たちには、現プレーヤーたちが持っていない視点や能力や考え方やアイデア、つまりクリエイティビティがあります。地球全体なかなかむずかしくなっているので、もっと多様な視座が必要です。それは人類全体の知力を拡張することになります。これはとても2020年代的な拡張ですね。

藤平:経営や事業領域に拡張するぞ!という言い方をすると、ちょっと意気込みすぎなのですが、ひとりのプレーヤーとして「昨日まで世の中になかった何かを生み出したいと思ったときに最初に呼ばれる人になろう」って捉え直すと、この先も仕事を楽しめるのかな、と。

古川:アウトプットよりもだいぶ手前のフェーズにおけるクリエイティブの需要は劇的に増えていますね。というか、もともとそこから考えないと、ディレクションできないし、適切なアウトプットもできないと思います。

特にここ最近、パーパスや非財務価値の重要性に焦点が当たるようになってから、クリエイティビティを大切にする経営者が増えましたからね。クリエイティビティが主要な能力になる場面が増えてきたということで、冒頭話したクリエイティブの拡張も、この文脈で捉えた方が正確だと思います。

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後編につづく

【PJMメソッドとは?】
企業やブランドを、パーパス・ジョブ・モーメントの視点から捉え直して、ブランドが提供するべき顧客体験を開発する、実践型のプランニングの手法。
・P=パーパス(社会におけるそのブランドの存在意義)
・J=ジョブ(生活者がそのブランドにお金を払う本当の理由と競合)
・M=モーメント(生活者がそのブランドを欲するリアルな一瞬)
詳しくは藤平氏の著書「クリエイティブな マーケティング ―パーパスを起点に新しい顧客体験をつくるPJMメソッド―」(現代書林)を参照。
 

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