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“メディア×広告” 新コミュニケーション論No.2

ウィズコロナに考えるコミュニティ論

2022/07/26

ここ数年、コミュニティを起点としたビジネスが注目を集めています。

しかし、コロナ禍でコミュニティを取り巻く環境は一変。強制的にオンラインに移行し、リアルのウェイトを減らさざるを得なかった企業も少なくありません。そこにはどのような困難や変化があり、ソーシャルディスタンス時代に企業と顧客をつなぐコミュニティはどう進化したのでしょうか。

今回は、コロナ禍に学び×コミュニティの事業であるNewsPicks NewSchoolを立ち上げた上田裕氏と、電通若者研究部に所属する小島雄一郎氏との対談を実施。

上田氏にはビジネス×コミュニティの変化と展望を、小島氏には若い世代のコミュニティの変化や価値観を聞きました。

newspicks studios
左から、小島雄一郎氏、上田裕氏

コミュニティは「やりたいことファースト」に

──ビジネスにおける「コミュニティ」の価値が、コロナ禍を経てますます高まっているように感じます。

小島:マーケティングにおいて、コミュニティの観点はなくてはならないものになっていると思います。

コミュニティマーケティングの盛り上がりを語る上で、若い世代を対象とした2つの面白い調査があります。「自分のことをオタクだと思うか」と「いくつのコミュニティに所属しているか」というものです。

定点観測するとどちらも増加していて、前者は過半数を超えているんです。オタクというのはつまり「好き」を起点としたマイコミュニティがあるということ。そして所属するコミュニティの数は、調査開始段階で平均3つだったのが最大で7つに増加しました。

上田:若い世代は、何かしらのコミュニティに参加していることが当たり前になっているんですね。

小島:はい。それまではサークルの友達だったりバイト先の友達だったり、生活の延長にあるいくつかのコミュニティに所属していたのが、今はゲームでつながったり、好きなアイドルでつながるオンラインのコミュニティがあるわけです。

こういった背景があり、マーケティングを考える上で世代論やデモグラではなく、コミュニティとして捉えた方がいいという考え方が広がっていきました。

これが大体5年前までの出来事です。

上田:5年前というと、オンラインサロンが流行った時期と重なりますね。

小島:そうですね。サードプレイスを求める形で生活者の方々が自らコミュニティを作っていったのと同時に、コミュニティ作りをビジネスとして展開する企業が出てきた流れです。

NewsPicksもコミュニティをビジネスに生かしている企業の一つだと思いますが、実際に運営されて感じた価値はどんなものがありますか。

上田:コミュニティの価値は、参加者と運営者どちらにもあると思っています。

参加者にとっては、自己実現やサードプレイスとしての価値があり、運営者にとっては顧客の声を聞き、サービスの改善に役立てることができる。

コミュニティは「ファンの集合体」の側面もあるので、宣伝っぽくなく付き合っていくことができます。運営の立場では、心地よい距離感でプロダクトについてご意見をいただけるのは非常にありがたいなと常々思っています。

また、想像もしないアウトプットが生まれるのは、コミュニティの良さだと感じました。

具体的にお話すると、NewsPicks NewSchool(※)で佐々木紀彦さんが担当していた『コンテンツプロデュース』の講座をきっかけに、NewsPicksのレギュラー番組(「New Door」)のホストを務めるローランドさんとのつながりができました。

newspicks newschool
※=「学ぶ、創る、稼ぐ」をテーマに約1年半で延べ2300人が受講した、NewsPicks発の実践型のスクール

『コンテンツプロデュース』は、コンテンツ作りのノウハウを教える過程で、実際に企画出しから制作まで行う講座でした。

その中でホストのローランドさんを出演者に据えた企画が提案されたんですが、たまたま受講生にローランドさんと間接的につながりのある方がいて、ローランドさんのアサインが実現しました。

https://newspicks.com/news/5291666

情報や場を提供するだけの関係ではなく、コミュニティ発でコンテンツを生み出せたのは可能性を感じる出来事でしたね。

──コロナ以降、多くのコミュニケーションがオンラインに移行しました。コミュニティのあり方はどのように変化したのでしょうか。

小島:若者研究の観点から見ると、まず多くの「自然発生的にできるたまり場としてのコミュニティ」が失われました。

従来のコミュニティは、大学生が授業と授業の休み時間にサークルの集まりに行ったり、ここに行けば気の知れたみんながいる、というたまり場から生まれていきました。

NewsPicksの始まりも近いものがありますよね。

上田:そうですね。NewsPicksのコミュニティも、初めは自然発生的なものでした。

NewsPicksにとっての最初のコミュニティは「コメント欄」でした。各分野のニュースに興味関心がある方々が集まって、コメントをする。その文字情報からそれぞれが学びを得る空間をコミュニティと呼んでいました。

小島:コメント欄のコミュニティを起点に事業を拡大していったんですね。

上田:はい。複数のコミュニティに派生して広がっていきましたが、初めはサークルのようなたまり場が自然発生的にできる、というのは非常に納得できます。

小島:そういったたまり場が、今失われているんです。

特に若者世代は、学校や部活などのデフォルトのコミュニティをオンライン移行という形で実質的に失ってしまいました。当然サークルなどの派生コミュニティもなくなったので、喪失感は非常に大きいと思います。

加えて、直近のコミュニティのあり方の変化として、「友達ファースト」から「やりたいことファースト」に変わってきていることも分かっています。

コロナ禍の影響というよりは直近の若者研究で分かったことなのですが、これまでは、まず友達がいて、いつも集まるメンバーで「今日は何をする?」とショッピングやカラオケなどで遊ぶ「友達ファースト、やることセカンド」でした。

それが今は「ボウリングをやります。来れる人いますか?」みたいな。やりたいこと起点で人を募集して、集まった人で行う。友達とやることの関係性が逆転しているんです。

小島雄一郎

オンラインで「心理的安全性」を作るためにできること

──ビジネスパーソンにとってのコミュニティには、オンラインの移行でどのような変化が起きたのでしょうか。

上田:「コミュニティ作り」という観点では、もちろん、オンラインのメリット、オフラインのメリットそれぞれあるとは思います。

NewSchoolでの経験を軸にお話しますが、参加者層に多様性が生まれたことはオンライン移行によるポジティブな変化だと思います。

例えば地方在住の方や、小さなお子さんがいる主婦の方など、時間や場所の制約でこれまで参加できなかった方々が参加してくださいました。

オンラインであれば、何時間もかけて移動する必要もありませんし、家事をしながら講義を受けたり、隙間時間に議論ができるようになったんです。

上田裕

──オンラインに移行する難しさはどんなものがありましたか。

上田:NewSchoolは、元々オフラインで学びのコミュニティを作ることを目的に銀座の東急プラザに場所を借りて始めた事業でした。

そのため、立ち上げ直後にコロナショックが起き、ほとんどの講座をオンラインに切り替えた時はかなり難しい意思決定でした。

ただ、講座をオンラインでやってみると、Zoomなどのツールも揃っていたのでオンラインへの移行自体はスムーズに進みました。

最も苦労したのは、オンラインを中心に学び合いを生み出す熱量を高めたり、受講生同士のコミュニケーション量を増やす土台となる「心理的安全性」を作るのは、非常に難易度が高かったことを今でもよく覚えています。

小島:オフラインで良かったことの一つに「半強制的なコミュニケーションが生まれる」ことがあります。

オンラインだと、ミュートや画面オフでZoomの画面を付けてさえいれば良い場面が多い。一方でオフラインだと、沈黙していたら辛い、半強制的に話さなければいけない場面があるじゃないですか。それによって、偶発的なコミュニケーションや出会いが生まれていたんです。

そういった「半強制的なコミュニケーション」が、コミュニティの心理的安全性を高めるためには必要だったんだと思います。

手元

上田:NewSchoolでも「半強制的なコミュニケーション」の価値はかなり意識していて、オンライン講座でも、可能なものは例えば初日にはオフラインでのミートアップなどを入れるようにしていました。

初日に会って顔を見て会話した後だと、オンラインでも「この人だよね」と分かるから心理的安全性が生まれるんです。

最終日もオフラインにして、達成感を分かち合ったり、その後の関係性を築いたり。

オンラインの方がコストが低く効率が良い側面はありますが、良いコミュニティを作るために要所要所でオフラインを活用していました。

カフェ好きとカメラ好きのコミュニティを、混ぜてみる

──今後企業がコミュニティを起点とした施策を行う上で、何を意識すべきでしょうか。

小島:自分たちがどんなコミュニティを持っているのかを認識できていない企業が多いので、まずはそこに気づく必要があると思います。

例えばテレビ番組って、毎週同じ曜日の同じ時間に流れているじゃないですか。その時間に集まる人たちがコミュニケーションを取れる場所を作れば、すぐにコミュニティとして動き出すと思うんです。

読書会のコミュニティが流行っていますが、もっと出版社が前面に出て運営を担ってもいいですよね。コンテンツを持つ企業は、まだまだコミュニティを開拓する余地があると思います。

上田:これはコミュニティに限らない話かもしれませんが、旗を立てることも重要だなと感じています。

昨年末に、NewsPicksははたらく女性をエンパワーメントする「NewsPicks for WE」というコミュニティを立ち上げたのですが、セグメントを切って、「なぜこのコミュニティが必要なのか」というwhyの部分からしっかりコンセプトを発信したことで、企業から「コミュニティとタイアップをしたい」という問い合わせが多く寄せられるようになりました。

for WEの場合は、経団連が提唱する「役員に占める女性役員比率を2030年までに30%にする」を実現するために、女性活躍の事例を豊富に持つ日本IBMと一緒にコミュニティを作ったことをプレスリリースや記事コンテンツで丁寧に発信しました。

旗が立っていると、さまざまなコラボレーションが生まれ、連続的に物事が動いていく。

これは女性エンパワーメントに限らず、若者だったり地方だったり、さまざまなセグメントに転用可能だと思います。

──例えば今からコミュニティを作るとして、どんな作り方を選びますか。

小島:「実は相性がいい別ジャンルのもの」をつないでコミュニティを作れたら面白いんじゃないかと思います。

あらゆる商品やコンテンツには、提供したいペルソナがいますよね。ペルソナが近い商品を集めて、コミュニティを作ってしまおう、という話です。

マッチングアプリを作っている企業の方がおっしゃっていたのですが、登録者のデータを分析すると「A.P.C.が好きな人はイソップを使っている」「カフェ好きな人はカメラ好き」などの傾向が見えるらしいんです。

逆に言えば、「A.P.C.が好きだけどまだイソップを使ったことがない人」にイソップを届けることには価値がありそうですよね。

nps

上田:とても同意します。同じペルソナを持つ商品やコンテンツをつなげる役割を、メディアであったりコミュニティが担っていけたら良いですよね。NewsPicksは特にコミュニティとの紐付きの強いメディアだと思っているので、そういった事例を作りたいですね。

この7月から、われわれのオフィスが丸の内に移転して新しくなりました。NewsPicks Studiosとしては、番組観覧を復活させたいと思っています。

観覧で新スタジオに来てくださった方々とコミュニケーションをとりながら、これからのコミュニティの可能性をみなさまと一緒に探っていければと思います。

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