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為末大の「緩急自在」No.26

アスリートブレーンズ為末大の「緩急自在」vol.26

2022/08/17

為末大さんに「いま、気になっていること」について、フリーに語っていただく連載インタビューコラム。唯一、設定したテーマは「自律とは何か、寛容さとは何か」。謎の「聞き手」からのムチャ振りに為末さんが、あれこれ「気になること」を語ってくれます。さてさて。今回は、どんな話が飛び出すことやら……。乞う、ご期待。

為末大氏

──「アスリートが見ている世界」というテーマでのインタビューは、本編がラストとなります。よろしくお願いいたします。

為末:こちらこそ、よろしくお願いいたします。

──このテーマを設定したとき、編集者の私としましては「常人では想像もつかない研ぎ澄まされた世界」「まるでスナイパーがターゲットを狙うような、数ミリの狂いもないような冷酷冷徹な世界」のようなものを勝手に想像していたのですが、前回(#25)前々回(#24)のポイントは、意外にも「現象をぼんやりと見る」ということの大切さでした。

為末:僕も、意外でした。まさか、僕らアスリートの「ぼんやりと見る」ということにそこまでの関心を寄せていただくとは…(笑)。

──いやいや。「ぼんやりと見る」は、かなり深いお話です。どこかで聞いた話の受け売りなんですが、小学校で授業に集中している子どもほど、トローンとした目で先生や黒板を「ぼんやり」と見ているらしい。為末さんのお話を聞いていて、ふとそんなことを思い出しました。

為末:その子は、情報を「目で見ている」のではなく「脳で読み取って」いるのでしょうね。同時に、創造力(イメージ)の世界へ旅立っている。そうなると、これまでお話ししてきたように、黒目は動かなくなる。自然とトローンと、ほうけたような表情になる。でもそれは、物理的にモノを見ることをしばしやめて、見えないものを見よう、なんとかして見てみたい、と、ものすごく集中している状態なんだと思います。

──大人になってからも、怒られますものね。「おい、なにをぼーっとしてる!」みたいな。でも、経験からいって、いわゆるクリエイティブなこと、たとえばキャッチコピーを考えるとか、どんな商品を作ろうかとか、どんなイベントにしようか、といったことを考えているときって、デスクに置かれたマグカップを、見るともなしに見ていたりしますものね。

為末:そう。それは、マグカップそのものを「見て」いるわけじゃないんです。はたから見るとパソコンの画面をキッと目を据えて見つめていると、いかにも仕事をしているように見えますが……。

為末大氏

──アイデアがまとまらず、パソコンをただただ凝視しているだけかもしれない(笑)。それでいうと前回(#25)の最後に「世の中の動向を見るマーケティング」の話が出ましたが、マーケティングで重要なのは、「雰囲気」とか「空気感」とか「時代感」といった見えない気分を、数値化し、データ化することで「可視化」する、ということですよね?そこに「ぼんやり」の要素はありません。むしろ、そうした曖昧なものを、いかにそぎ落とせるか、が勝負という印象があります。

為末:データは、重要です。ただ、データはあくまである部分を切り取ったものであって、全部が見えているわけではないんです。アスリートでいうと、ケガをしたときの回復具合とか、ピーキング(編集部注:体調のピークをどこへ持っていくか、を調整すること)を「見る」ときに、それを感じます。データ上は問題ないという数字が出ていても、うまくいかないことがあるんです。データでは問題ないけれどもどうも体はそんな感じがしていない、と。どちらが正しい、というわけではないのですが、そのズレを上手に受け入れて、うまいバランスで取り入れることが大事なような気がします。

──企業経営とか、あるいは、子育てといったものも、そうなんでしょうね。黒目が捉えたものだけが、すべてではない、という。

為末:黒目が「見ている」情報と、脳が「見ている」情報には、質量ともに乖離(かいり)がある、ということでしょうね。

──なるほど、なるほど。いやあ、今回も深いお話、ありがとうございました。と、インタビューを終えようと思ったのですが、一つ思いついちゃった。

為末:なんでしょう?(笑)

──その「黒目」なんですが、日本人と外国の方とで、ちがいがあったりするのでしょうか?アスリートのパフォーマンスなどを見ていて、もちろん体格差とか身体能力の違いといったものはあるにしても、ものの「見方」が違うというか、見ている景色が違うような印象がすごくあるのですが。

為末:「木を見る西洋人 森を見る東洋人」という本で読んだのですが、東洋人は全体をバランスよく眺めようとし、西洋人は一点に注目するそうです。だから、黒目を一点に集中させる能力は、その精度もスピードも西洋人のほうが高く、一方で、日本人は全体を眺めたがる。

──ぼんやりと、ですね?

為末:だから西洋人は、とてもシャープなビジョンを、それも瞬時に立てられる。

──ビジョン、パーパス……最近のビジネスシーンで、よく聞く言葉です。東洋人の能力からみると苦手なことだったんですね。

為末:それが端的に表れるのが、絵画です。西洋画って、描きたいものにピントが当たっていて、パースがついて立体的で、対象物をまるで写真のように忠実に描こうとするでしょう?対して日本画は平面的で、全体を描こうとする。

──うわあ、おもしろいなあ。

為末:もちろん、どちらが正しくて、どちらに価値があるか、なんてことは決められないんですけど、そうした違いは現実としてある、ということだと思います。

──「アスリートが見ている世界」というテーマから、最後はダイバーシティにまで話が及ぶとは想像もしていませんでした。次回へ向けて、新たなテーマを探しておきますので、またぜひ、お付き合いください。本日は楽しいお話、ありがとうございました。

為末:こちらこそ。今回も、楽しかったです。

(聞き手:ウェブ電通報編集部)


アスリートブレーンズ プロデュースチーム 日比より

アスリートの視線の第3弾。世の中を可視化する「データ」についての言及がありました。アスリートのコンディション、数字としては、完璧。でも、自分の体の感覚・センサーとしては、完璧ではない。数字は結果であり、現実は、常に揺れ動いている。とすると、情報に対して、ぼんやり見る、直感的に判断するということも、トライしてもいいかもしれません。データから読み解けることもあると思いますし、データだけでは読み解けないとき、その際には、心身を磨き続けたことによるセンサーを持つ、「アスリートの目線」というのは、面白いかもしれません。

アスリートブレーンズプロデュースチーム 電通/日比昭道(3CRP)・荒堀源太(ラテ局)

為末大さんを中心に展開している「アスリートブレーンズ」。
アスリートが培ったナレッジで、世の中(企業・社会)の課題解決につなげるチームの詳細については、こちら

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