為末大の「緩急自在」No.27
アスリートブレーンズ為末大の「緩急自在」vol.27
2022/10/12
為末大さんに「いま、気になっていること」について、フリーに語っていただく連載インタビューコラム。唯一、設定したテーマは「自律とは何か、寛容さとは何か」。謎の「聞き手」からのムチャ振りに為末さんが、あれこれ「気になること」を語ってくれます。さてさて。今回は、どんな話が飛び出すことやら……。乞う、ご期待。
──今回も、どうぞよろしくお願いいたします。
為末:よろしくお願いします。
──今日もまた、風変わりなテーマでインタビューさせていただこうと思っていまして、それは「センスとは、何か ?」という話なんです。中学や高校の部活で「おい、そこのおまえ。菓子パン買ってこい。おまえのセンスで」とか、言われたご経験、ありません?そのセンスって、なんなんだ?という。
為末:毎回、不思議なテーマを設定されますね。ちょうど今、「熟達論」という本を書いているところなのですが、その中のテーマで「ファスト・アンド・スロー」ということを取り上げているんです。人の能力には二つあって、一つは「荒いけど、速い」、もう一つは「遅いけど、正確」というものなんです。どちらも大事な能力です。センスというのは、前者の能力のことなんだと思います。
──直感力、みたいなことですね。以前にもお話を伺いましたが、アスリートにとってとても大事な能力、という。
為末:「菓子パン」の話に戻りますが、センスというのは「その人らしさ」をつかむことのような気がします。「その人らしさ」にも二つの意味があって、一つは「自分らしさ」。この菓子パンを選んだか、為末らしいな、という。
為末:もう一つは「相手の好みを察知する能力」。つまり、菓子パンを買ってこい、と命じた先輩の好みに合ったものを買ってくると、為末、おまえ、センスあるじゃねえか、ということになる。
──それ、すごく分かります。広告の、特に表現に関わる仕事をしていて思うのは、その二つですから。どちらに偏っても、ダメなんですよね。自分のセンスだけを押し付けても相手のセンスのことを忖度(そんたく)しすぎても。そういう企画を提案すると「なんか、センスが感じられないんですよね。お引き取りください」ということに、必ずなる。
為末:確かにそうですね。「似顔絵」ってあるじゃないですか。あれって、必ずしもその人そのものを描いているわけではないんですよね。僕の場合だったら、眉毛の感じとか、ほお骨がでっぱってるところとか、そういう部分をデフォルメすると、ああ、為末っぽい、となるんです。「その人たらしめる部分、特徴を拾う」ということがセンスなのではないかと。
──分かります。クルマ会社でも、ビール会社でも、「その表現って、競合のどこそこの会社っぽいですよね?うちは、そういう会社じゃないんです」とか言われちゃうと、もうぐうの音も出ない。失礼いたしましたー、という感じです。
為末:前にも話したと思うのですが、陸上選手のフォームをチェックする際に、体のあちこちに点を打って、それをコンピューターで解析するということをするんです。肘とか、膝とか、首とか。その点を、極限まで少なくしていく。すると、ああ、これが為末の走りなのか、といった本質が見えてくる。「余計なものを排除する」というのも、センスの一つだと思いますね。
──「菓子パン」から、そこまで話が広がりますか。確かにそうですね。クリームパンにジャムパン、あんぱんにドーナツ、どれが正解なんだろう?センス、センス、と悩みますものね。
為末:直感は、ただの思い付きじゃない。過去の経験とか、データとかが、必ずそこにあるのだと思います。で、瞬時に、ここはジャムパンだ、と決断するみたいな。
──それって、恋愛術でも、経営術でも、なんでも当てはまることですよね。「なになにさーん、今日は何が食べたい?」とか言ってるような人は、たいてい冴えないものですから 。
為末:かもしれません(笑)。
(聞き手:ウェブ電通報編集部)
アスリートブレーンズ プロデュースチーム 日比より
今回のテーマは、「センス」。スポーツの世界とは、切り離せないキーワードでした。と同時に、電通がビジネスをさせていただいている「クリエイティブ領域」でも、とても重要なキーワードだと感じます。センスとは、「余計なものを排除する」というものでもある。普通、センスとは何か?と問われれば、「身についている天性的なもの」のように定義をしがちだと思います。そんな中で、為末さんは、陸上を通して解釈をすることで、 「余計なものを排除する」という定義にたどり着いています。アスリートの実際の体験を通すことで、ありきたりではない定義・解釈が導ける、一つの好例だと感じました。
アスリートブレーンズプロデュースチーム 電通/日比昭道(3CRP)・荒堀源太(ラテ局)
為末大さんを中心に展開している「アスリートブレーンズ」。
アスリートが培ったナレッジで、世の中(企業・社会)の課題解決につなげるチームの詳細については、こちら。