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為末大の「緩急自在」No.28

アスリートブレーンズ為末大の「緩急自在」vol.28

2022/10/17

為末大さんに「いま、気になっていること」について、フリーに語っていただく連載インタビューコラム。唯一、設定したテーマは「自律とは何か、寛容さとは何か」。謎の「聞き手」からのムチャ振りに為末さんが、あれこれ「気になること」を語ってくれます。さてさて。今回は、どんな話が飛び出すことやら……。乞う、ご期待。

為末大氏

──前回(#27)に引き続き、今回も「センスとは、何か?」というテーマにお付き合いいただきます。

為末:よろしくお願いいたします。

──前回のお話を総括すると、センスとは「他人から自分はどう見えているのか、を想像する力」「その人は自分に、何を求めているのか、を想像する力」の二つのような気がしました。

為末:そんな感じかもしれません。

──そこで、さらに難しい質問なのですが……

為末:来ましたね。

──その「センス」を磨くためには、何をすればいいのでしょうか?「技術」を磨くために何をすればいいのか?という話は、比較的イメージしやすいですよね。でも「センス」を磨け、といわれても何をしたらいいのか分からない。

為末:たぶん、体験をためる、ということなんだと思います。僕のまわりには、いわゆる「二代目」「三代目」みたいな人が多くいるんですが、経験値が圧倒的に高い。いいものを見て、いいものを食べてきてるんですよ、二代目や三代目の人っていうのは。だから、直感的にこれはいい、これはダメだ、という判断ができる。ブランドネームとか値段とかには惑わされない。

──そういうの、かっこいいですよね。憧れます。直感で、この豆腐は本物だね、みたいなことを言われると、それだけで参ってしまう。

為末:センスって、知識じゃないんですよね。実践知といいますか。ああ、この場面、いつか体験したぞ、みたいな。陸上競技とかも、そうなんです。同じようなトラックで、同じ間隔で設置されたハードルを越えるだけ、のように思われるかもしれませんが、あれ、この感覚、いつか経験したぞ、みたいなことで体が自然と動いていたりする。     

──実況のアナウンサーとかは「為末のハードルセンス」みたいなワードで簡単にまとめますけどね(笑)。

為末:「鼻が利く」という言葉がありますよね?「目が利く」というのは、知識があるということなんです。目の前のテーブルの上にあるものが、どれだけ価値があるものなのか、ということを知識で判断している。対して「鼻が利く」というのは、カオスの中でいいものを見つけられる直感のことなんだと思います

──そしてその直感は、単なる思い付きではなく、経験から来るものだ、と。

為末:おっしゃる通りです。ここで、こういう足の動きをしたら、こう腕をふったら、いいことが起こった気がするぞ、ということを瞬時に判断してる。

為末大氏

──つまりセンスとは、先天的な才能ではなく、後天的なものである、と。知識ではない。体に染みついた体験がベースなのだ、と。

為末:たぶん、そういうことなのだと思います。政治でも、経営でも、ファッションでも、グルメでも、センスのいい人ってそうですよね。生まれ持ったセンスを発揮している人なんて、いない。大事な体験を、きちんと体の中にためておいて、いざ、というときに直感的に行動できる、というのが「センス」ということなんでしょう。

──前回の菓子パンの話に戻りますが、部活の先輩に「おまえのセンスで、菓子パンを買ってこい」と言われるのも、そういうことですものね。

為末:大事なことは、「その人でなければできないこと」だと周囲の人に認めてもらうことだと思います。ああ、あの人らしいな、みたいに 思ってもらえたらそれは、センスがあるということではないかと。かっこいい必要なんかないんです。ポイントは、かっこいいか 悪いかではなく、「その人らしさ」を「どのタイミング」で「どう使うか」ということではないでしょうか。

──その「センス」は、使い回しがきくのか?ということを、次回はお尋ねしたいと思います。昔の上司にとても話術に長(た)けた人がいて、あるとき、どうやったらあんなに面白い話ができるんですか?と質問したところ、「まあ、落語と同じだね。同じ話を、繰り返ししてるだけなんだ」と言われました。

為末:それは、面白い話ですね。 

──でしょう?酒の席で、毎回、同じ話ばかりしている人はたいてい嫌われますが、その上司の話は、何度聞いても面白いんです。センスとは、こういうことなのかなー、と若い頃に思いました。

為末:人を喜ばせたい、みたいな気持ちが伝わるんでしょうね。俺の話を聞け、みたいなことではなく。

──だと思います(笑)。(#29へつづく)

(聞き手:ウェブ電通報編集部)


アスリートブレーンズ プロデュースチーム(日比より)

センスの第2回目。大事な体験を、きちんと体の中にためておいて、いざ、というときに直感的に行動できる、というのが「センス」。頭ではなく、身体の感覚がセンス。アスリートとは、身体の感覚を研ぎ澄ましてきた人々であり、センサーが発達している人々。だからこそ、広義のセンスを持ち合わせているのかもしれません。センスを磨くには、もしかすると、センスあふれる人との共創が、一つの近道かもしれません。

アスリートブレーンズプロデュースチーム 電通/日比昭道(3CRP)・荒堀源太(ラテ局)

為末大さんを中心に展開している「アスリートブレーンズ」。
アスリートが培ったナレッジで、世の中(企業・社会)の課題解決につなげるチームの詳細については、こちら

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