半径ワンクリックNo.1
栗田洋介×土屋泰洋:前編「自分の感覚で街歩きするように、インターネットを歩きたい」
2014/02/24
インターネットというテーマに関し、電通報ではビジネス寄りの話題がほとんどでしたが、当コーナー「半径ワンクリック」ではカルチャー寄りの情報を紹介していきます。といっても、全てのインターネットカルチャーを紹介するのは、もちろん不可能です。そこで、neurowearなどのプロジェクトで活躍するプランナーの土屋泰洋さんが、インターネットでの活動を通じ身近な交流のある方、つまり「半径ワンクリック」の方へインタビューし、今インターネットで起きているカルチャーの断面図を描いていきます。
初回は、アート、デザイン、テクノロジーとそれを取り巻くカルチャー関連の情報を発信するウェブサイトCBCNET(http://www.cbc-net.com/)を運営する、株式会社グランドベースの栗田洋介さんにお話を伺いました。
最近はFacebookがタイムズスクエアみたいな感じ
土屋:CBCNETって、どういうふうにスタートしたんですか?
栗田:大学の頃に自分でウェブサイトを作り始めて、作っているうちに、自分のウェブサイトよりデザインポータルサイトを作った方が面白いと思ったんです。ちょうどFlashが流行り始めた頃で、海外にはかっこいいデザイナーの作品を紹介するポータルサイトが多かったんですけど、日本には無かったので、CBCNETを作りました。取材して原稿を書いて、ウェブサイトも自分で作っていました。
土屋:全部一人で?
栗田:はい、一人でしたね。まだブログとかの前だったので、一人で作って発信できる楽しさがありました。最初は大学のサークルとか、それこそ半径ワンクリックの人たちにインタビューしていたんですけど、だんだん広がって、ネットで見つけたエッジなデザインの人たちの紹介をしていました。まだコミュニティが小さかったので、どんどん繋がっていく感じでしたね。
その後に世界中でデザインカンファレンスのブームがあったんです、世界中のデザイナーやアーティストが集まるオフ会みたいな感じで。そういうカンファレンスを海外に見に行くようになり、これは面白いなと思って、2005年にAPMT(http://www.apmt.jp/)というカンファレンスを始めました。イベント運営の経験も無かったのですが、幸いにも多くの人に来てもらえてすごい嬉しかったですね。また、お客さんとして家入(一真)さんが普通に来てくれて、なんか一緒にやろうと出資いただいてグランドベースという会社をつくったんです。
土屋:そうすると、CBCNETって歴史がありますね。
栗田:CBCNETを始めたのが2002年なんで、今年で13年目。老舗とか言われます(笑)。ただ最近はウェブの情報が島宇宙化というかメタ化している感じがあって、例えば新しいテクノロジーでARとかDRONEとかっていうような話題は他の媒体に任せておこうと。そこをCBCNETでやっても消耗戦にしかならない。今は書きたいことがあったら書くみたいな状態で、ストイックになってきています。だから続いているという部分もあるんですけど。
土屋:今現在、栗田さんはインターネットのどういうところに面白さを感じていますか?
栗田:実は最近、インターネットは使ってますけど、以前ほどSNSを見なくなりましたね。もちろん気になる情報を掘ったりはしますが、SNSで話題になるネタは、もういいやって思うことが多い。周りにすごく詳しい人たちがいるから「えっ、これ知らないんですか?」って言われることもありますけど、その場で教えてもらえばいい。リアルRSSリーダーですよね(笑)。逆に、一歩引くことで今のインターネットの面白さを見つけようと思っているのかもしれない。
土屋:その感じわかります。実は僕も、今年はインフォメーション・ファスティング(断食)に挑戦しようと思っていて。なんだかんだでまだ実行できてないんですけど(笑)。今もうアホみたいにネット見てブックマークして、情報を摂取し過ぎで…でもそれに見合うようなアウトプットができてない。だから情報を絞って、例えば1週間SNSを見ず、フィードも全部解除したらどうなるのかなと。
栗田:去年位から「情報が多過ぎる」と感じる人も多くなってるんじゃないですかね。自分の感覚で街歩きするように、インターネットを歩きたい、みたいな。
土屋:街歩きと、インターネット歩き。
栗田:インターネットを街メタファーで考えると、共通することがあるかなと。例えば、大きなショッピングサイトは巨大な複合ビルみたいじゃないですか。広告キャンペーンはお祭りをしかけることっていう例え話がよくありますけど、その感覚もしっくりくる。
ただ実際はガイドブックを見て観光名所に行くより、路地裏のお店やクラブカルチャーも面白かったりしますよね。たとえば、ニューヨークならタイムズスクエアは一度行ったら十分で、ブルックリンの路地裏にある観光客が来ないようなクラブが面白かったり。じゃあインターネットだと、その裏路地はどこなんだろう? というのは気になります。最近のFacebookやTwitterはタイムズスクエアのようなところなのかもしれません。
土屋: MASSAGE(http://www.themassage.jp/)っていう雑誌が出たじゃないですか。その序文に『インターネットは僕らの街角になった』という言葉があって、それはすごく面白いなと思った。かつては街角から文化が生まれていたわけだけど、今はインターネットが街角になっていて、そこから文化が生まれる。その感じって、すごくしっくりくる。今回の連載でも、その街角を少しずつ覗いていく観光ツアーみたいなことができたらいいなと思うんです。
栗田:そういう感じですよね、ワンクリック範囲でちょっと行ってみる。全然違う街角もあるかもしれませんしね、良いですね。
今はつくる人と消費する人が一緒の時代になった
土屋:最近のニュースサイトって、転載されてバズるネタを狙う感じがするけど、栗田さんは本当に自分が気になるところだけをピックアップして紹介するスタンスでやっているってことですか?
栗田:そうですね、バズることを演出するのは苦手ですね。前に知り合いが、プロシューマー時代って言っていて。プロデューサーとコンシューマーの造語なんだけど、今はつくる人と消費する人が一緒の時代になったと。コンテンツはみんなが作るし、みんなが消費するもので、もう何がバズるかなんて分からない。
そういう意味で、トレンドに引っ張られるというよりは、普通に淡々とやっていく。ちょっとおじさんっぽくなっているっていうのもあるかもしれないですけど(笑)、街を疾走するよりは、ゆっくり歩いて、街の人とのコミュニケーションを大事にしていこうって思います。
土屋:メディアを運営していて、プロシューマーの台頭で変わってきたことはありますか?
栗田:今って、ウェブサイトのトップページに行って、ナビゲーションから2ページ目を見る人なんてほとんどいなくて、基本はSNSからきて1ページ見て帰る。アクセス数を稼ぐんだったら、Twitterで有名な人にRTされたらPVは跳ね上がるわけで。それこそ何万フォロワーいる人にRTされたら、SNS上での記事の価値が変わってしまう。
でもCBCNETの読者は、SNSを常時やってない人がおそらく3割くらいいて、運営側からするとその人たちも大切なんです。なので、ネタっぽいとかバズりそうとかは、あまり意識しないでやっています。ネタを提供して、それがRTされまくって広告収入を得ているウェブサイトは、もちろん健全な理論だとは思うんですけど、そのモデルに乗って続けていくのは僕らには難しいなと。
土屋:今はバズった記事だけ見て、そこで直帰しちゃう感じなんですね。そこを考えて作りを変えたりはしないんですか?
栗田:いろんな方に書いて頂いているCBCNET BLOG(http://www.cbc-net.com/blog/)を含めて、たまにバズることもありますけど、何を基準に「バズ」なのかもコミュニティーそれぞれで一定の評価が出来ないですし、今後も変化がありますよね。僕らのサイトはそこまで大規模なサービスではないので、仕組みの改良をしていくというのは、今のところ無いですね。
次の世代に伝えるために残すことって必要だと思う
土屋:以前面白いブログを書いてた人たちが、最近全然更新しなくなって、それが気になってるんですよ。TwitterやFacebookに情報を細かく出しているから、わざわざブログに書かなくなったのかなって思う。
栗田: Twitterは、基本的にどんどん流れていくっていう前提ですよね。すごい興奮して書いた一言でも、基本的にどうでもいいと思われて流れていく。逆にどうでもいい一言が何千もRTされたり、炎上してしまうこともある。またブログの場合は、それこそ紙に残すみたいな感覚があるかもしれないですね。
土屋:確かに、Twitterよりブログに書かれた記事の方が存在感ありますよね。CBCNETでは、どういう基準で記事を載せるんですか?
栗田:まず自分たちの見識を深めていきたくて、いま興味深いと思うテーマを皆さんにもちょっと共有したい、というスタンスはありますね。売れるものや話題になるものより、知っておいてほしいなと思う情報を編集して出していきたい。それによって、さらに自分たちの見識も広げていければ新しい興味も増えて、続けていける。そう考えると、いわゆるウェブマガジン的な媒体ではないかもしれませんね(笑)。
土屋:その時に気になっていることを積み重ねているわけですね。将来的にはどうなっていくんですか?
栗田:自分が面白いと思うものを探っていく欲も、10年以上続けていると変化があって…、続けていくことってわりと大変なところもあります。ただ、新しいメディアの登場で価値観がどんどん変わっていく時代で、たとえば「ネット・アート」などのあり方は90年台とSNS時代以降では大きな変化がありました。その価値観の変容をリアルタイムで見られるのは楽しいですし、そういった視点を持ちつつ、イベントや他媒体での展開もやっていきたいですね。
土屋:さっきTwitterだと流れてしまうけど、ブログだと残るみたいな話がありましたが、ブログもいつか流れていくじゃないですか。イベントや他媒体への展開ということは、残していきたいという欲が出てきたってことですか?
栗田:紙にしても、いつかはなくなっちゃいますけどね。年末年始に実家の自分の部屋を片付けていたら、ポケベルとかゲームボーイとか懐かしいものが沢山出てきてどれを捨てるか、どれを取っておくかでいろいろ悩みました。現代の生活では大量のデジタルのゴミもあって、「いるもの」「いらないもの」もしくは「所有」などの概念が変わってきましたよね。
また、次の世代に伝えるためにどう残すかというのは難しい問題ですよ。技術が変わってインターネットの設計も変わって、情報の流通のされ方も変わって、次の世代が出てくる。例えば「昔はポケベルっていうのがあったんだよ」ってどう伝えられるだろうかと。
ポケベル時代は、電話ボックスで打ってたわけですよね。自分の名前を速く打てるとか、なぜかモテるやつは打つのが速かったり(笑)、そういうヒエラルキーがあったわけです。ひとつのメディアが登場すると、新しいコミュニケーションとヒエラルキーが誕生するのは、ポケベルもTwitterも同じなのかもしれません。
土屋:伝えるために残したいと。
栗田:表現者やアーティストであれば自身の活動をアーカイブして、公開することはもう必須事項になっていますよね。以前日本に招待したGraffiti Research Lab(http://www.graffitiresearchlab.com/)のメンバーなどは、そういった面が非常に優れていました。SNSの使い方もアーティストは上手い人が多い。
また一方でアーカイブの仕方や方法がなかなか難しいですよね。現実問題としてフォーマットや機種依存などはよく言われることで。結局、大事なのは口頭伝承だったり、直接伝えることだな思うこともあります(笑)。
(次回に続く)
取材場所:グランドベース