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それ、勝手な決めつけかもよ?だれかの正解にしばられない「解釈」の練習No.7

自分を守るために「積極的な受け身」で心を整えよう。

2022/08/12

こんにちは、コピーライターの阿部広太郎です。

「解釈」をテーマに連載をしているこの連載。僕から一つ、キーワードの提案をさせてください。

僕たちが生きている「今」という時代に対して、「積極的な受け身」を取るのはどうでしょうか? 

まずはこの「積極的な受け身」という言葉について説明させてください。
 

「阿部くんの働き方って積極的な受け身だね」


「東京コピーライターズクラブ」の先輩から何の気なしに言われたこの言葉は、ぽつんと一滴のしずくが大きな波紋を水面に広げていくように、僕自身の心の中で反響していった一言でした。

東京コピーライターズクラブは、東京を中心に日本全国で活動するコピーライターやCMプランナーが名を連ねる団体です。クラブが運営する、コピーや仕事について会員が語る「コピーライターに訊け!」というポッドキャストの番組があり、そのゲストに呼んでもらえたのが2015年のことでした。

2012年にクラブに加入した新参者の僕にとっては、声をかけてもらったことが光栄で、前のめり気味に収録に参加したことを覚えています。

テーマは「社会人になってからどんな働き方をして今に至るのか?」。約10分ずつのポッドキャストを6本録り。いよいよ最後の1本の録音をする前の短い休憩で「ふう」と、ひと息ついている時にさりげなく言われたのが先ほどの言葉でした。

「積極的な受け身」というキーワードをひも解いていくためにも、その時話したことをダイジェストとしてまとめていきます。

そっち側に行けたら行けたで、「待つ自分」に気付いてしまった。

著者プロフィールにあるように、僕のキャリアは人事局配属からはじまりました。新入社員として学生インターンシップの運営を手伝うことになり、年齢もあまり変わらない学生たちが目を輝かせてプレゼンテーションしている姿を見て抱いたジェラシー。胸騒ぎがしました。

「そっち側に行きたい!」という自分の心の叫びを自覚したのです。

そこから4カ月後にあるクリエーティブ試験に受かれば異動することができます。その試験で、キャッチコピーを書く課題が出ることは間違いありませんでした。照れや恥ずかしさを超えるだけでも一歩リードできると考えた僕は、いいコピーを書こうと「質」を追い求めるより、審査員にやる気とガッツを感じてもらえる「量」に挑むことに勝算を見いだし、なんとか試験を突破します。

そして翌年、コピーライターになることができたものの、コピーはなかなか採用されないし、打合せの端っこにいても議論についていくのがやっとの状況が続きました(いやあ、大変でした……)。

修行に出向くような気持ちで週末はコピーライター養成講座の門を叩きます。

「いい考え」を言葉にするために、泥にまみれるような3年間を経て、コピーライターの登竜門でもある東京コピーライターズクラブの新人賞を受賞したのが2012年でした。

必要とされたくて、結果を出したくて、猛烈に働く。制作に携わったCMが世に出るのは純粋にうれしい。けれど次第に、「待つ自分」に気付いてしまいました。うわさを呼ぶような仕事の案件が来てほしいと願いながら、上司から一人のスタッフとして選ばれるのを待つ。賞に応募して名だたる審査員から選ばれるのを待つ。

常に「だれかから選ばれるのを待っている」そんな自分に違和感を覚えました。こうやってずっと働いていくのだろうか?

心が反応する方向に、一歩を踏み出してみる働き方。

僕は何のために広告の仕事に就いたんだっけ?

それは……言葉を通じて、世の中に人の気持ちがつながる「一体感」をつくりたかったからでした。考える力を身に付けたのだから、もしも思うところがあるのならば、ただそこに佇んでいるのをやめて、本当は自ら提案しに行けばいい。

「仕事がくるのを待て!」なんてだれからも言われてない。
自分から一体感をつくりに行けばいいじゃないか!
「やっぱりそうだ!」そう確信する出来事がありました。

たまたまFacebookを眺めていたら発見してしまった。居酒屋「甘太郎」の「名前に太郎と付く人を割引にします」というニュース。直感でした。

「これを広めるのは広太郎という名を背負う僕の仕事なんだ!」

一瞬でも思ってしまったらもう止まりませんでした。じわじわと「これは運命だ」という決意へと変わっていきます。

直接の知り合いがいなくても、Facebookで連絡することができます。「こうしたらもっとたくさんの人にこの割引のニュースを知ってもらえます!」ラブレターのような企画書を書き上げてPDFデータを添付し、送信。

企画書は一人歩きして遂にその仕事は実現しました。「待っていても、はじまらない」を信念に、心が反応する方向に一歩を踏み出してみる。積極的に人に会いに行き、そこで感じたことをもとに何かできないかと考え「これは!」と思ったことを仕事にしていく働き方をしているんです、とポッドキャストで語りました―――
 
このエピソードからどんな印象を受けたでしょうか?

この人ガンガンに動いているじゃないか、と思わなかったでしょうか?
恥ずかしながら僕自身、「攻めてるぜ!」と、そう思っていました。そこで先輩から言われた冒頭の「積極的な受け身」という言葉に面食らいました。

「う、受け身……!?」と一瞬頭が真っ白になりました。

そうか、リアクションからアクションが生まれるのか。

「積極的な受け身」という言葉をどう解釈するか、自分の中での落とし所を考えつづけてきました。

人は、環境に適応する天才だと思います。学校のクラスでも、部活でも、バイト先でも、サークルでも、職場でも、はじめて足を踏み入れる時の緊張感は特別です。ワクワクする人もいると思いますが、だれでも緊張を胸に抱えているはず。

けれど、次第に慣れてきます。環境に、順応してくる。その場の当たり前を飲み込む過程を経て、ある意味、人は染まっていく。

その後、どうするか?ドラマ『半沢直樹』の名ゼリフ「やられたらやり返す、倍返しだ」は行き過ぎだとしても、「こうしたらいいんじゃないかな?」と少しずつ提案をしていくのではないでしょうか?

そうか……リアクションからアクションが生まれるのか!

そこまで考えた時にはたと気付きました。
インターンシップに参加する学生たちの姿を見て「そっち側に行きたい」と思う。目の前の仕事に喜びを感じつつも「待つ自分」に疑問を抱く。Facebookで「見かけた」ニュースに運命を感じる。

僕がしてきたことは、先輩の言う通り「受け身」で、まさにリアクションでした。

「思う」「感じる」だけではいられなくて、心の動く方につられてみる。「感動」の語源は、論語の「感即動(感じるから動ける)」から来ているという説があるけれど、まずは「感じる」からはじめればいい。

「いやいや、行動しているのがすごいんですよ!」

そんな風に言ってもらえるかもしれません。ダイジェストで書くと内容が凝縮されてしまいますが、正直なところ行間にはたくさんの「くよくよ」や「うじうじ」があります。

いてもたってもいられなくなった時だけ動いているのが正直なところです。自ら新しいことを見つけてどんどん動ける人もいると思うし、心からリスペクトです。でも、人から与えられたことに懸命に取り組みながら、積極的にリアクションの機会をうかがう、こういうスタイルも大いにアリだと思います。

そのまま「今」を受け止めない。解釈しながらさばいて心を整える。

 

今年、想像を超えていくニュースが次々と舞い込んできます。日々状況が変わる様子に、本音を言うとあっけにとられていますし、心が消耗していく感覚もあります。

僕たちの手元にあるスマートフォンには、時々刻々と新しい情報が降り注いできます。そのまますべてを受け止めていたら、気持ちが乱れてしんどくもなってしまいます。

時には情報からちゃんと離れる。触れると決めた時には「積極的な受け身」を思い出したいです。目の前に迫ってくる事態を、ただそのまま受け止めることはしない。解釈をしながらさばいていくことで、自分の心の環境を整えてけたらと思います。

自分が流されていくのでも、自分を塗り替えられていくのでもなく、自分を守るためにも、解釈をして働きかけていけたらと思います。

阿部広太郎
『それ、勝手な決めつけかもよ?だれかの正解にしばられない「解釈」の練習』
ディスカヴァー・トゥエンティワン、288ページ、1650円(税込)ISBN 978-4799327371

昭和・平成を経て令和になり、あらゆる価値観がアップデートされていく今において、一人一人の感じ方はさまざまで、尊重されるべきです。

こんなにも時代が変わっていってくれるのだから、この環境に身を委ねながらも、リアクションという名の「解釈」をすればいいと思うんです。解釈する方法については、僕の著書『それ、勝手な決めつけかもよ?』に書き上げました。心を整えるヒントがきっと見つかると信じています。ご覧いただけたらうれしいです。

https://twitter.com/dentsuho