人懐っこい人ほど、健康行動に効率を求める!?
~「性格」と「健康」の意外な関係。電通オリジナルのウェルネス1万人調査データから解明~
2022/08/24
健康的な「食」に興味があるのに、実践できないA子さん
32歳のA子さんは明るい性格で友人が多く、友人たちとキャンプに出掛けたり、行きつけのお店に集まったりするのが趣味。
30代に入ってからは体によい「食」も心がけたいと思い始めました。せっかく取り組むなら効率よく食事バランスをチェックしたいと健康管理アプリの有料会員になったところ、毎日のように体によい「食材」や「レシピ」がメールで紹介されます。
「自炊をしなきゃなぁ」と分かってはいますが、外食が多いライフスタイルに合わないし、もっと分かりやすく効果が出ることに取り組みたい気持ちもあり、なかなか実践ができません。
だんだん、できないことを推奨し続けられることが嫌になり、アプリの利用自体をやめてしまいました。
このように、せっかく体や健康に向き合う気になっていたA子さんのやる気をそいでしまう現象が起きるのはなぜでしょうか。
A子さんが健康管理アプリを使い続けられない理由
私たちは、「目的のために正解とされる行動(A子さんの場合は自炊)」がA子さん(=ターゲット)のライフスタイルや性格に合わないことが理由の一つであると考えました。
健康領域は特に、教科書的な“正しい行動”が明確になりやすい分野ではあります。しかし、それを真面目に提案しただけでは、A子さんのように医学的には問題のない人が健康のため「だけ」に何かに取り組むのは案外難しいのです。
多くの人は根源的な欲求として、「好きなものを好きな時に食べたい!」「趣味のゲームを夜遅くまでやるのがストレス解消だ!」など、あるべき論だけでは突破できない「スタイル」や「感情」を持っているからです。
また、一般的に、既存のパーソナライズ提案は、閲覧/購買履歴に基づく類似サービスの提案が多いという現状があります。そのため、ターゲットが意外性や面白さを見いだしにくく、「やる気」や「興味」を喚起しづらいという課題もありそうです。
そこで、健康領域において「その人の性格・価値観」によって健康意識・行動の「好み」が予測できるなら、その人の嗜好(しこう)やスタイルに寄り添った提案ができるのではないか、と考えました。
それができれば、健康面でのメリット(効能効果)だけを目的とせず、提案されるモノやコト自体も面白い・楽しそうと感じられ、結果、行動変容やその継続に自然につながります。さらには、人々の健康度・幸福度が上がっていく世界を実現できるのでは、と構想したのです。
生活者個々の性格・価値観から、健康意識・行動の嗜好を予測するアルゴリズムを開発
このような課題意識を背景に、電通、ISID、ISIDビジネスコンサルティングの3社は、個々人の健康意識・行動の嗜好を予測できるプロトタイプを開発しました。
電通が15年にわたり毎年実施している「ウェルネス1万人調査」と電通独自の性格・価値観データを活用。ターゲットのデモグラ情報(年齢・性別・居住地など)と性格・価値観(20種類の基本的欲求の有無)が把握できれば、その人の健康意識・行動の嗜好を予測することができます。
今回のプロトタイプでは、具体的には下記の「Ⅰ. 健康行動の嗜好(食中心)」と「Ⅱ. 健康価値観」の予測が可能であることが検証できました。(※予測項目詳細は一部のみ抜粋)
例えば、「いい人間関係を築きたい」「気持ちを共有したい」という性格・価値観を持つ人は、「健康のために何かするなら効率を重視する」傾向がある、ということがプロトタイプ構築を通して検証できました。
冒頭のA子さんのエピソードで当てはめると、A子さんの人懐っこさなどの性格・価値観が把握できていると、実はA子さんは「健康行動に効率を求める」と予測できたり、「自炊はしない」と予測できたりします。
そうすると、「食材」や「レシピ」よりも「完全栄養食のパン」や「専門家の解説がついたピラティス」を優先的に推奨するパーソナライズ提案の仕組みを設計できるのです。
上記以外にも、
- 購入を後押しする「ナッジの一言」が添えられる
- 検索/購入履歴だけでは提案の根拠が持ちづらい「意外性のあるコンテンツ」を予測し、推奨できる
- 商品やサービスを購入した理由が推測できるため、購入後の「買って/使ってよかった・使い続けたい」に向けたサポートにも活用できる
などの視点で、ヘルスケアビジネスをより深化させることが可能になります。
健康も自分らしく。それぞれが理想とする健康にポジティブに向き合える世界へ
このように、電通が保有するオリジナルデータの活用により、性格・価値観が健康意識・行動の嗜好に影響することが検証できました。現在の予測モデルは、事業/商品開発からコミュニケーション施策まで、幅広い業務でのビジネス活用に対応できると考えています。
ただし、まだ予測項目や予測性能が限られている点もあり、開発途上です。今後は、健康意識・行動の嗜好性・習慣と、さまざまなコンテンツとの関係性、ひもづけロジックの検討をヘルスケア事業者の方々との協業により行い、予測範囲の拡大、予測性能の向上を行っていきたいと考えています。
私たちが目指すのは、健康領域においても個々人の価値観やスタイルに合った選択を自然にできる環境をつくること。健康のための我慢や義務感で窮屈な思いをすることなく、その人に合った健康行動をすることにより、目指す健康状態の獲得・維持も、生活の充実も実現でき、より幸せを感じる。そんな世界を築いていきたいです。
この予測モデルを活用することで、実際にどれだけ健康行動の変容につながったか、どれだけターゲットの健康度・幸福度に貢献できたかの効果検証も計画していく予定です。