なぜか元気な会社のヒミツseason2No.23
憧れを、つくる仕事
2022/09/15
「オリジナリティ」を持つ“元気な会社”のヒミツを、電通「カンパニーデザイン」チームが探りにゆく本連載。第23回は、月額5万5千円で日本各地の自然立地に建築された2nd Homeを提供する会社、SANUを紹介します。
「別荘」と言われると、ちょっと身構えてしまう。都心の邸宅に住む人が、軽井沢などの避暑地に白亜の豪邸を持つ、そんなイメージがある。しかし、福島弦社長が提案する「SANU 2nd Home」は、そういうことではないのだと言う。「自然の中にある、もうひとつのわが家」ということだ。
月額5万5千円で日本各地の自然立地に建築されたSANU CABINをサブスクリプションで利用できる。現在、サブスク登録待ちのウェイティングが殺到している、という。2022年7月時点で7拠点50棟。2024年には20拠点200棟を目指す。別荘を持つ、ということからすると格安の値段だが、高級フィットネスクラブでも、そこまでの値段はしない。三ツ星レストランだって、それだけのおカネがあれば行ける。では、なにがそこまで、人々を引き付けるのだろうか。
「働き方改革」というワードは、ある程度、社会に根付いた。でも、「暮らし方改革」はというと、そんなに進んでいない気がする。SANUは、ゴージャスなリゾートを提案しているわけではない。日々の暮らしを、ほんの少し、豊かにしてみませんか?そのヒントは、自然にあるのでは?という、投げかけだ。リゾートではなく、暮らし。非日常ではなく、そこにある日常。そのあたりの話を、ぜひ伺ってみたい。
文責:後藤一臣(電通BXCC)
生活者として、自然の中へ
2019年11月創業のSANU(サヌ)は一貫して「Live with nature./自然と共に生きる。」を社のミッションとして掲げている。社名であるSANUの由来は、サンスクリット語。山の頂、太陽、思慮深い人などさまざまな意味を持つ言葉だそうだが、そこに流れているのは、自然を敬う、自然に対する畏敬の念、の気持ちのように思う。
中心メンバーは、福島社長のほか、ファウンダーでブランドディレクターの本間貴裕氏、拠点の設計・施工を手掛ける建築家の安齋好太郎氏(ADX代表)の3名。「山好き」の福島、「海好き」の本間、「森と生きる」を掲げる安齋、とこの時点でサステナブルなチームだなあ、ということがよく分かる。
「僕らのミッションを、もう少しひもとくと『都市にいる人たちを、生活者として自然に連れ出す』ということなんです」と語る福島社長。ポイントは「生活者として」という部分だ。「提供したいのは、非日常でゴージャスなリゾートではないんです。あくまで暮らしの延長として、生活の一部として、自然と触れ合ってもらう。SANU 2nd Homeとうたっているのは、そんな思いからなんです。『自然の中にある、もうひとつの家』ということです」
軽やかに、建てる
SANUが提供する第2の家「SANU CABIN」には、一貫して「環境循環型」というテーマが掲げられている。環境循環型、エコ、サステナブル……最近よく聞くワードだ。
でも、福島社長の「それは、軽やかに建築する、ということなんです」という言葉で、なるほど、そういうことか、と早くも膝を打った。「軽やか」には、いろいろな意味が込められている。まずは、お財布にやさしい。30代でも、無理なく自然の中での暮らしが体験できる。「ふつうは、大きな穴を掘って、コンクリートを流し込んで土台をつくりますよね?でもそれだと生態系にも負荷をかけてしまいます。穴を掘るだけで、大切な樹木の根っこを壊してしまいますし、コンクリートを流し込むことで微生物のバランスとかも壊れてしまいますから」
驚いたのは、「50年後に解体することを前提に、キャビンを建てています」という福島社長の発言だ。そのために、コンクリートではなく鉄の杭でキャビンを支える構造を採用している。「要らなくなったら杭を引っこ抜いて、建材を再利用するなり、自然に返すなり、してあげればいい。50年後に、僕自身が生きているかどうかは分かりませんが、100年後、200年後のことを考えて、自然と共に軽やかに今を生きるというのが、サステナブルということではないでしょうか?」
自分はそこで住みたいか?が、唯一の指標
ロケーションの選定について、尋ねてみた。「自分たちがそこへ行きたいか、そこで住みたいか、が最も大事なことだと思っています。森って、人智をはるかに超えた存在なので、そこでの暮らしをイマジネーションすることはとても難しい。今でも試行錯誤の連続です。多様性が大事、ということがよく言われますが、森は多様性の宝庫ですから。ああ、こんなことが起こるんだ、という発見だらけです」
なるほど、そこで建築デザイナーの安齋氏なのだな、とすぐに話が結びついた。「求める暮らしそのものはお客さま一人ひとりちがう。僕らは生活空間をプロデュースしたいんです。この環境をお好きなように楽しんでください、という空間を。ホテルの居住空間は、基本的にベッドを中心に設計されるんですよね。僕らの場合は、ベッドに加えて、仕事する場所、自炊して食事するスペース、水回りの4つがベースです」。非日常のホテルと日常のセカンドホーム、どこが違うのでしょう?という質問の先手を取られた。
「地球に住む」という感覚が、大事
SANUが掲げる「Live with nature./自然と共に生きる。」には、2つの意味があると福島社長は言う。「ひとつは、自然に触れ、自然を好きな人を増やすということ。そして、もうひとつは豊かな自然を次世代につないでいくこと。前者の人と自然、特に都会に住む人と自然をつなげるという方法は、2つあります。ひとつは、都市に住む人を自然に連れ出すこと。もうひとつは、都市に自然を呼び戻すということ。後者は、とても大変なことですよね。うちのような会社だけでできることではない。なので、まずは前者の取り組みから始めているんです。最近、思うのですが、都市で育って自然に触れていない子どもは、都市のコンクリートを地球の表面だと思っているのではないかと。コンクリートを否定はしませんが、コンクリートは土ではありませんから。土の上に立ってみて、初めて『ああ、地球に住んでいるんだな』と人は実感できるのだと思います」
それを実感、共感してもらうためには、特定少数の「共犯者」、一緒にたくらむ人をつくることが大事、と福島社長は言う。「都会に住む人全員に、『自然と共に生きましょうよ。自然の中にもうひとつの家を持ちましょうよ』と呼び掛けてもはあ?という話ですよね?じゃあ、どうやってLive with nature. を広げていくか。まずは、SANU 2nd Home事業を通じて思いを共鳴してくれる小さい集団をつくる。そしてその人たちと深くかかわる。そして、その一人ひとりが次の人を呼んでくる。そうやって数珠つなぎに共鳴する人の輪が広がっていくと、おおげさに言えば、この国の暮らし方が変わっていくと思うんです」
「共犯者」というワードが、いかにも福島社長らしいと思った。「楽しいこと、正しいと思うことを、一緒に企んでやろうぜ」という感覚なのだろう。SANUという会社自体が、そうした経緯でできあがって、現在に至っている。
ワクワクする「日常」をつくりたい
共犯者をつくりたい、ということは、裏から言えば御社の仕事は「憧れをつくる仕事」ということになりますよね?という筆者の質問に、「ああっ、なんか SANU 2nd Homeのようなライフスタイルを送ってみたいと思う人をつくるという意味では、その通りです。最近よく、都市か田舎か、という議論が行われると思うんですが、僕は都市の未来は明るいと思っています。建築家ルイス・カーンが“都市は子どもが一生かけてなりたいと思うものに出会える場所である”と言っていますが、本当にその通りだと思っています。ただ、動物である人間には、都市ではなかなか得られない自然との触れあいが必要。SANU 2nd Homeを通じて提案したいと思っているライフスタイルが、ピボット生活、と僕は呼んでいるんですが……」。
ピボットとは、バスケットボールの選手が使う基本テクニックだ。「都市に軸足を固定しながら、片足は自由に動き回って海や山などいろんな自然に触れる、といったイメージです。都市生活者を肯定しながら、自然と共に生きる新しい暮らし方を提案していきたいと思っています」
そうした「ピボット生活」を支える上で重要になってくるのは、モビリティだ、と福島社長はインタビューを締めくくった。「第2のモータリゼーションとでもいいますか、軽い気持ちで都心から1.5時間~3時間くらいの自然の中へ移動できる、という。これは僕だけかもしれませんが、例えば都心から山梨方面へ向かって中央高速を走っている時って、なんだか分からない背徳感のようなものに襲われません?大都会を背に、今僕はクルマを飛ばしてるんだ、みたいな。でも、八ヶ岳が見えたところで、その背徳感は確実に吹き飛んでしまう。帰るべき場所に、帰ってきた。ただいま、という感覚です」
「背徳感」というワードに、「軽やかに、建てる」という福島社長の言葉のさらなる真意を見た気がした。
SANUのHPは、こちら。
「オリジナリティ」を持つ“元気な会社”のヒミツを、電通「カンパニーデザイン」チームが探りにゆく連載のシーズン2。第23回は、月額5万5千円で、セカンドホーム&セカンドライフを提供するという「暮らし方革命」で注目を集めるスタートアップ企業SANUを紹介しました。
season1の連載は、こちら。
「カンパニーデザイン」プロジェクトサイトは、こちら。
【編集後記】
日本の国土の67%は森林、ということは、小学生も知っていることだ。でも、その森と、木々と、鳥や動物たちとどう付き合っていけばいいのか、ということは習った記憶がない。そんなことを勉強しても、いい大学に受からないし、いい会社にも就職できないからだ。ああ、そこがそもそもの問題なのだな、と福島社長の話を聞いていて思った。
農林水産業のうち、「農」と「水産」に関しては、自らが関わらなくても、なんとなくイメージができる。でも、「林」にはイメージが湧かない。国土の67%が「林」なのに、だ。山があって、森があって、豊かな水が田んぼに流れて、その水が海へ流れて魚を育てる。すべてはつながっている話だ。
震災や洪水、コロナを経験することで、「人はなんのために生きてるんだろう?」「どう生きれば幸せになれるのだろう?」ということを、全国民が考えたと思う。まだまだ考えている途中といってもいい。そうした中、SANUの取り組みは、大いなるヒントになると思う。セカンドハウスを持つことだけが、正解ではない。でも、日々の暮らしそのものを楽しまなくちゃ、人生、もったいないじゃないですか。という福島社長の指摘には、ハッとさせられた。