おもちゃも服もランドセルも、子どもが自由に選べる未来へ
2022/09/13
電通グループ横断組織「電通ダイバーシティ・ラボ」のウェブメディアcococolor内の「こどもプロジェクト」と「あんふぁん」「ぎゅって」を発行する「こどもりびんぐ」は、共同で「子どもに対する『女の子らしさ』『男の子らしさ』意識調査」を実施しました(概要はこちら)。本連載では、その調査結果をひもときながら、子どもにまつわるジェンダー課題を考えていきます。
今回は、こどもプロジェクトリーダーの海東彩加氏と、こどもりびんぐが発行する保育園児の保護者向け情報誌「ぎゅって」の編集長を務める岡﨑奈穂子氏が、本調査実施の背景や結果から見えてきた保護者の本音、世代間ギャップなどへの考え方、これから企業に求められていく対応などについて意見を交わしました。
【こどもりびんぐ】
「ぎゅって」と幼稚園児の保護者向け情報誌「あんふぁん」の発行を中心に、幼稚園・保育園を舞台としたイベントやサンプリング、先生方に向けたセミナーなどを実施する企業。子育て世代のリアルに寄り添った情報を、日々発信している。また、「シルミル研究所」では読者を対象としたアンケート調査のほか、全国の子育てファミリーを対象にしたマーケティングリサーチを実施。今どきの保護者の意識調査を継続的に行っている。
【こどもプロジェクト】
「電通ダイバーシティ・ラボ」の中のプロジェクトの一つ。DE&I(ダイバーシティ・エクイティ&インクルージョン)という大きな傘の下、あらゆる視点から社会課題を捉え、その実態やソリューションを紹介するウェブメディア「cococolor」で、子どもにとってのDE&Iを考えるプロジェクトとして、記事での情報発信やソリューション提供を行っている。
cococolor関連記事:https://cococolor.jp/genderbiasofchildren_220517
実はそれも「ジェンダーバイアス」?子どもの「女の子らしさ」「男の子らしさ」にまつわる、保護者の意識を調査
海東:今回、共同で調査することになったのは、お互い子どもにまつわる活動をしている組織ということで、「一緒に何かできないか」という話になったのが始まりでした。
こどもりびんぐさんは保護者や園の先生方など、さまざまな方に向けた視点をお持ちですが、話をしてみたら、中でも子どもを起点に考えられていると強く感じました。実際に保護者の方、子どもとの距離感が近く、保育園・幼稚園とのつながりもあって、そこをうまく生かした企画ができるのではないかと思いました。
岡﨑:当社としては、ちょうど「ぎゅって」の2022年11月号で子どもの“好き”を尊重できるような、ジェンダーに関する巻頭特集を予定していました。きっかけは、私自身、保育園児と小学生の息子がいるのですが、生活の中でジェンダーバイアスを強く感じていたこと。保育園で、男の子が女の子に対して「〇〇ちゃん髪の毛短いから男だよね」といった発言をしていたり、持ち物のキャラクターや色が男女で分かれていたりするのを見て、気になっていた時に共同調査の機会をいただきました。
海東:調査の狙いは、SDGsの目標にもジェンダーに関わる課題が掲げられる中で、子どもに対する影響はどうなっているのか、実情を知ることでした。調査概要としては、子どもに対する「ジェンダーバイアス」、つまり「女の子らしさ」や「男の子らしさ」の意識を保護者の方々がどのように考えられているかのリサーチです。ジェンダーバイアスの認知度などもお聞きしました。
岡﨑:電通ダイバーシティ・ラボさんとご一緒したことで、質問の選択肢や結論の導き方が広がったと感じています。当社内には女性が多いため、つい女性目線の質問や選択肢を提示してしまうのですが、途中で男性にもチェックをしてもらおうとご提案いただくなど、学ぶことがたくさんありました。
海東:お互いに聞いてみたいことを提案したうえで、「こういう視点もあるのでは」といった点を議論し合って決めていきましたね。ジェンダーバイアスは「環境によって刷り込まれるため誰もが持っていても仕方ないもの」という前提で考えていますが、そのバイアスが形成され始めるのは就学前の小さな子どもの時ではないでしょうか。子どもにまつわるジェンダーバイアスをひもとくことは、大人にとってのジェンダーバイアスとの向き合い方にもつながっていくと考えています。
保護者の7割が「自分の発言にバイアスを感じる」。“身近な入り口”から親子で学ぶ機会をつくりたい
岡﨑:調査結果では、自身の考え方や発言にジェンダーバイアスを感じたことのある人が約7割もいます。一方で、子どもにはそうなってほしくないという結果が出ていることから、平等に向けた動きが求められていると感じます。保護者の皆さんは普段の会話で、ジェンダーのことが話題になることはほとんどないと思いますが、今回の調査で意識されている方が多いことに驚きました。
海東:広告に対するリアルな声を見ると、皆さん性別でおもちゃや色が分けられることなどを結構気にされているようです。そうした結果からも子どもたちの生活に密接した部分で取り組みが求められつつあるように思いますね。ただ、現状では「ジェンダーバイアス」という言葉自体、わかるようでわかっていない人も多いのではないでしょうか。
岡﨑:先日実施したイベントで、「cococolor」編集長の半澤さんが、「ジェンダー」「ジェンダーバイアス」「ジェンダーギャップ」「ジェンダー平等」それぞれの意味を説明してくださいました。現状では、「言葉はよく聞くけれど、それが何かは知らない」という方は多そうですね。メディアとしては、今はジェンダーについて基本的な情報を発信したり、学ぶ機会を設けることが必要なタイミングだと考えています。
海東:学びの「入り口」は、やわらかい方がいいと考えているので、大人と子どもが一緒に学べる場があるといいかもしれませんね。例えばこの調査でも、最初に「ジェンダーバイアス」という言葉を使った質問を入れようとしたところ、こどもりびんぐさんに、「最初に専門用語が出てきてしまうと、解答者も身構えてしまうのでは」とご意見をいただき、調査名もかみ砕きました。
小学生の親子を対象に、ジェンダーをテーマにしたセミナーを開催する場合でもいきなり「ジェンダーとはこういうことです!」と伝えるのではなく、「ランドセルはどうして女の子が赤、男の子が黒なのか」といった、本当に身近なテーマから入り、難しい言葉を使わずに実感してもらえることが大切なのかなと。
岡﨑:身近なシーンに落とし込むことは重要ですよね。一番わかりやすいのはトイレのマークだと最近よくいわれます。どうして男子は青、女子は赤なのか。保護者が一緒に考えるにあたり、生活に寄り添いながら学ぶ機会があるのは本当に大事だと思います。
世代間ギャップはあって当然。重要なのは、自分の意見を押し付けないこと
岡﨑:「他人から女の子(男の子)なのに〇〇」と言われた経験があるかを聞いた調査では、世代間による意識の差も見えてきました。子育て世代と大きくギャップがあったのは、断トツで祖父母の皆さんでした。私たちも、10年前と今とでは全然意識が違います。それを、50~70代で考えてみると、もっと男の子らしさ、女の子らしさが求められる中で生きてきたと思うので、当然ですよね。
海東:私は祖父母がこんなに断トツで1位になるとは思っていなくて、驚きました。やはり環境自体が異なる中で育ってきたので、ギャップがあるのは仕方ないことだとは思います。ただ、自分がジェンダーに関する強い意見を持つこと自体はよくても、それを周りの人に押し付けないこと、また時代に合わせて考え方を更新していくことが重要になってくるように思います。
岡﨑:世代の異なる方たちで座談会を実施するのも面白そうだと思いました。また、配偶者の何気ない一言というのも回答にあるので、多様な考えを持つ人たちで議論をより深めていけるといいですね。
海東:具体的なコメントを見ると「男の子なのに人形遊びをするのは、心配だね」という回答があり、自分が言われたらグサッと来るだろうなと思いました。モヤモヤの声からはいろいろと発見がありましたね。
岡﨑:そうですね。コメントを見て思いあたったのですが、私の家は男の子が2人なため、女の子がいる家庭に対して「女の子はかわいいね」と何気なく言ってしまうことがあります。それは意識して言わないようにしていくというより、今後、社会全体が変わることによって、「女の子はかわいいね」ではなく、(それぞれの子が)かわいいね、といった会話へ自然と進んでいけるといいと思います。
“らしさの排除”ではなく、「幅広い選択肢から選べるといい」という提案を
海東:性別を理由に子どもが欲しがった商品を買わなかった人が4人に1人いるという結果を見ると、性別に関係なく選べるような売り場や環境が求められているように思います。購入しなかったカテゴリーとして多かったのが、「おもちゃ」「洋服」といった、まさに男女で売り場が分かれている物というのは、その表れではないでしょうか。
「女の子らしさ」「男の子らしさ」に関して周りからの目が気になってしまうのは、子どものことを考えるからこそだと感じます。男の子が人形遊びをしていたり、女の子が恐竜の服を着ていると周りから心配されないか、いじめられないかとか、心配になってしまう。それを解消するには、女の子でも男の子用とされているもの、男の子でも女の子用とされているものを選びやすくなるような環境づくりが大事だと思います。
岡﨑:「よその親御さんから変に思われないかな」といった心配はたくさんあるでしょうね。今のお話でいうと、洋服は男の子、女の子で分かれている他に、ユニセックスなデザインというのも出てきています。ただ、ユニセックスなデザインを選ぼうというよりは、スカートでもパンツ(ズボン)でも性別を問わず本人が「好きなもの」を選べることが大事。親のバイアスをかけずに、子どもが自由に選べるようにする、それが当たり前だと感じさせる情報を発信していけるといいのかなと。
海東:カリフォルニア州では2024年から性別を区別しない売り場を設けることを義務付ける法律が施行されます。こうした動きは日本以外でも、どんどん進んでいる。一方で、先日参加したセミナーの質疑応答で「男女分けは便利」という意見がありました。選びやすさにつながってもいるので、売り場は男女分けのままでもいいのではないかという意図のご指摘です。選びやすくするという意味では、アイテムごとに分ける、モチーフや色ごとに分けるなど、男女分け以外の方法もあると思います。ただ現状を否定するだけでなく、改善策も一緒に考えていきたいと思いました。
岡﨑:わかります。別のセミナーでも「女の子らしさ、男の子らしさを大切にしたい人もいる。そういう人にはどうしたらいいのか?」との質問がありました。私たち側の考えも押し付けてはいけないと思うので、「売り場を一緒にすることで選択肢が広がり楽しみが増える、といういい面もあるよね」といった“提案”をしていけるといいのではないかと思います。
海東:その通りですね。「もしかしたら性別で分かれている売り場に悩んでいる人もいるかもしれない」といった“提案”の仕方ができると、少しわかり合えるきっかけになると思います。いろんな考えがあるので、自分の選択……例えば女の子にピンクを選ぶことを、逆に否定されてしまっているように感じてしまう方もいるのかもしれません。今のお話のような、「子どもが好きなものを、何の疑問もなく選べたらいいよね!」という考え方が一つの解決策につながるのではないでしょうか。
ジェンダーバイアスを引き継がないことが、子どもの可能性を広げる
岡﨑:今後は、保護者の方や、園の先生方に対して学ぶ機会をお届けしたり、各世代を集めた座談会などで他の世代の方の考え方・背景を共有してギャップを埋めていく取り組みをしたいですね。また、今話しているのは小学生までの子の保護者についてですが、中高生、大学生がこの話題に触れる機会も増えてきています。園児より少し上の世代の保護者に対しても、子どもと一緒に学べる機会がつくれるといいと考えています。
海東:親子や世代間で話をする機会は、広い層にとって非常に大事なことですよね。「こどもプロジェクト」としては、やはりおもちゃやランドセル、洋服など、子ども自身が意思を持って選ぶ商品を、自分の好みで選択できるような取り組みをしていきたい。保護者からも否定されず、周りからも変な目で見られないという意味で、選びやすくなるような商品自体の工夫、売り場の工夫を進めていけたらいいと考えています。
「cococolor」編集長の半澤が「日常の中に違和感を持つことが大事」ということを言っていて、とても共感しました。街中で男女に分かれた子ども服売り場を見ても特に違和感はありませんよね。けれど、そこで「どうして花やハート柄の服は女の子用としてまとめられているのだろう」と気づくことが本当の第一歩。当たり前として受け入れているものに少し疑問を持ったり、違和感を覚えるようなセンサーを磨いていくことから始められるといいと思います。
岡﨑:保護者の方に対しては、「その“普通”って“親の普通”では」というところを伝えたいですね。子どもの選択に違和感を覚えた時、この“普通”は自分だけの“普通”?と考えてみるのもいいと思います。また、企業にはやはり多くの選択肢から選べる環境を考えてもらえたらうれしいです。ジェンダーバイアスを次世代に引き継がないことは、子どもの可能性を広げることにつながりますから。
グラフ等イラスト監修:Nao Hirano
【調査概要】
タイトル:子どもに対する「女の子らしさ」「男の子らしさ」意識調査
調査方法:インターネット調査
調査対象:子育て情報サイト「あんふぁんWeb」「ぎゅってWeb」メール会員(全国)のうち、小学生以下の子どもをもつ保護者681人
調査時期:2022年2月16日~3月6日
調査主体:株式会社こどもりびんぐ(シルミル研究所)
出典:こどもりびんぐ「シルミル研究所」、電通ダイバーシティ・ラボ
この記事を読んだ人は、こちらの記事もおすすめです
・ジェンダーバイアスをアンインストールするために、教育にできること
・話そうよ、ジェンダーのこと
・“かくれた思い込み”に気付き、向き合おう~アンバス・ダイアログ