未来は「待つ」のではなく「創る」!未来思考で変える日本のキャリア教育No.2
14歳への「未来職学校」メンターを経験し、大人が得られた学びとは?
2022/10/03
日テレR&Dラボと電通グループ横断組織「未来事業創研」が実施したワークショップ「未来職学校」。
既存の職業ではなく、現代の課題を見ながら「あったら未来が良くなる職業」を中学2年生と考えていく取り組みを通して、前向きで新鮮なキャリア教育に挑戦しました。
前回の記事では、本ワークショップを中心となって進めた2人が、企画の背景にあったそれぞれの課題感やアイデアの源、今後の展開などについてお伝えしました。今回は、本プロジェクトに「メンター」として参加したメンバーのうち、7人にヒアリングを実施。同じくメンターを務めた電通の山田茜が代表して、各自が子どもたちと向き合う中で得た気づきや学びを7人の声を交えながらご紹介します。
「未来職学校」というアイデアに集った大人たち
今年、つくば市立みどりの学園義務教育学校で行った「未来職学校」。
メンターの役割は、参加者のアイデアを広げられるようセッションを進行し、話しやすい雰囲気づくりなどに努め、参加者からの意見の中でポジティブな要素を特に拡大して伝えて、アイデアの深化をサポートすることでした。
<メンターの心得>として事前に徹底されていたのは、下記4点です。
メンター自身の持論は語らず、アイデアを肯定するために意見を掘り下げたり、広げてみたり、よりよくするためのヒントを話すといった形で、子どもたちの発想を刺激すべく奮闘したメンターたち。14歳とい う絶妙な年齢の中学2年生にこちらから働きかけることで、大人たちの側も「こんな影響があったんだ!?」と驚くような学びを得られました。
ヒアリングでは、未来職学校という企画への感想や参加の理由、子どもたちと向き合って 感じたことや発見、大人として今後も未来に貢献していくために意識したいことなど、メンターを実際に務めたからこその言葉が集まりました。
「“憧れの職業”に出合えていなかったらと思うと、ぞっとする」「未来は自分たちでどうにでも作れると伝えたい」メンターに志願した理由
メンターとして参加を決めた理由はそれぞれですが、プロダクトデザイナーの根本崇史さんは、自身の職業との出合いを思い出した時に、企画への興味と共感が湧いたそうです。
私は3、4歳の頃に両親に連れて行ってもらったつくば万博でルイジ・コラーニというドイツ人のプロダクトデザイナーを知り、“物の形”を決める仕事があるのだと知ったことがきっかけでプロダクトデザイナーになりました。私の場合は運良く自分が目指したい職業に出合えましたが、もしその出合いがなければ、中学生・高校生の時に一体どうやって自分のやりたい仕事を探していたのだろうと思うとぞっとします。
14歳という子どもとも大人ともいえないアンバランスな年齢の時に、未来職学校のような機会を作ることで、その時は何も思わなくても高校生・大学生になった時にでもふと思い出して参考にしてもらえたらと参加を決めました。
近年、手堅く安定した職業が望まれる傾向がある中で、自分がなりたいと思う「まだ存在しない仕事」を考え、目指すきっかけを作るという点にもとても共感しました。
まさに「未来職学校」のアイデアと、もやもやと考えていた課題が合致していたんですね。
私自身もひたすら受験勉強をして、進学校に通うような思春期を過ごしていました。学生としてその時その時に与えられた課題を全うしてきたと思うけれど、社会に出てみたら成績という尺度はないし、正解は自分で作るもの。多様な価値観と触れて、思い思いに好奇心の向くことにいかに夢中で取り組んできたかが大事なのだと気づき、目からうろこが落ちました。
キャリアを考えて壁にぶつかったり思いっきり悩んだ経験から、育休中にキャリアコンサルタントの資格を取得。いずれはキャリア教育を変えたい、社会の荒波にもまれている大人から直接経験を伝える中で多様な選択肢を学生に知ってもらい、一人一人の学生が納得のいく形で自分のその時の過ごし方と将来の歩み方を決めていく手助けをしたい。そう考えるようになりました。「こんなに勉強がんばってたけど、こうだったよ」という反面教師的な形でも何か学生に言えることがあればいいなと考えて参加しました。
「小学生の子どもがいる親としての課題意識が大きいです」と教えてくれたのはリサーチャーの工藤陽子さんです。
自分が子どもだった頃に比べて、今の子どもには自由がありません。昔は新たな遊びをつくる流れがあったけど、その気配もなく、習い事が多いために公園で遊んでいる子も少ない。この状況では、自信や自己効力感が育ちにくいのではと課題意識がありました。
未来について自由に考えることは選択肢を広げますし、そこで何か創り出すことはクリエーションです。未来に対する希望をつくれる点が良いなと思いました。
中学生が未来に対してどんなことがあったらいいか自由に考えることで、自信や想像力にもつながるし、親としても「いいな」と感じました。子どもの自己肯定感や自己効力感の持ちにくさという課題に対して「親として」私生活でできることはあると思うのですが、「一人の社会人として」未来職学校のメンターとしてできることがあるのだとも気づかされました。
正解のない“今ない職業”を考える効果・効能
ワークショップでは、一回ラフに案を出すと、他の案を出さない(出せない)子どもが多く、柔軟に考えてもらうことに苦労しました。学校教育で正解が決まったことのみを教えるだけではなく、「一度出したアイデアを捨ててみる」という切り替えや、正解のない“今ないコト”を考えるトレーニングを行うことが、日本の開かれた未来に必要だと感じました。
そんな中で、中学生だからこその発想に良い意味での驚きを感じたとコピーライター/アソシエイト・プロデューサーの木村亜希さんは話します。
「今ない職業」でもいい、という前提があったため自由な、自分が生きている間には実現しないんだろうなぁ、なんて思ってしまうアイデアが出てきたところが面白かったです。
“ぶっ飛んだアイデア”を出せるのは、自由な発想力を持つ中学生ならでは。とはいえ、小学生ほど支離滅裂でもなくバックグラウンドについてはきちんとプレゼンできる絶妙な年齢だと感じました。「実現可能性」というフィルターでものを考えてしまう大人にとっては、子どもたちの自由な発想に驚かされました。
柔軟な発想を引き出す手腕が求められることで、大人も育つ
子どもたちへのアドバイス方法については各自が悩み・考えながら接することとなりました。プロデューサー/プランナーの千葉貴志さん、ビジネスプランナー/エンジニアの安崎郁生さんからは次のような気づきがあったとの声が上がりました。
子どものどこを褒めて、どんな要素を提供すると考えが深まるかは、一人一人違うと思うので、その子のツボにはまる部分を考えながら話すのは大変でした!
同じ14歳といっても、興味の矛先も違うし、大人と子どもの中間として考えたときどちらに寄っているかも違うため面白かったです。また、話していくと、さっきまで大人っぽかったのに急に子どもの表情になるなど、絶妙な年ごろだと感じました。
相談中もアイスブレイクをした方が良いかなと考え、雑談を意識的に入れたり、「こうした方が良いよ」という提案を、中学生が想像しやすい恋愛や部活の例に置き換えて伝えたりしました。
年が離れているので難しかったのですが、その方が納得感があったように見えました。自分が14歳だったらやりたかったことを話したら、距離が縮まった感覚もあり、メンターをして勉強になりました。
いつもとは違うコミュニティ、他の世代の方とコミュニケーションをとる機会からは学びがたくさんありました。ましてや未来職学校のメンターとして接するとなると、相手の思考を引き出し、手を出しすぎずにアイデアを膨らませるサポートを行うので、より深いコミュニケーションが必要となります。
子どもが「ダメ出しされた」と受け取らない言い方で伝えることの難しさを改めて感じたというメンターもいました。
「こうしたらもっとよくなるんじゃない?」というあくまで1つの提案。参考にしてもいいし、しっくり来なかったらスルーして結構。その感覚を子どもたちに伝えるには信頼関係が必要でした。そして、今回の「未来職学校」では、その信頼関係を限られた時間で、極端に言えばオンライン会議で接している1時間ほどで築かなければいけない。ここが腕の見せ所だと感じました。
大人でも子どもでもない「14歳」と接して学びを得る効果・効能
前回の記事でも言及されていたとおり、「未来職学校」では14歳という年齢が一つのポイントになっています。大人と子どもの狭間にいる彼らと接しての率直な思いをシニアプロデューサーの関島章江さんたちは次のように語っていました。
中学2年生「14歳」は、心と体のバランスが不安定な時期で、家庭と学校という狭い世界で悩む時期でもあります。そんな中、親や先生以外の全く関係ない大人たちに自分の考えを話し、褒めてもらうことを通じて自己肯定感を育むという機会はキャリア教育以上に良い影響があるかもしれません。
大人のように物事を理論的に考える方もいれば、純粋無垢にこんな仕事があったらいいなと考える方もいました。14歳は微妙な年齢ですので、もちろん子ども扱いは良くなく対等な立場でお互いが接することができるのがいいと思いました。同時に、こちらから説明をするときにどのくらい専門用語や言葉を選んで伝えられると良いかという点が難しかったです。
大人になって、子どもたちや学生たちに教えたいこと・伝えたいことがあっても、教員免許を持っていないと教える機会はなかなかありません。そういう意味でも良い機会でした。
褒めた側にも褒められた側にも!?「褒める」の効果・効能
冒頭でお伝えしたとおり、今回メンバーがメンターをする上でのテーマの一つは「褒める」でした。実際にそれを意識しながら参加者と接した結果、褒めた側にもさまざまな発見がありました。
振り返ると「褒める」というのは広告の基本である「良いところを見つけて、それを伝えること」だと思いました。これまで常にやっていたことだと発見しました。
商品の良いところ、今の状況の良いところ、アイデアの良いところを考える。広告業の日々は「良いところを見つける」ことの連続です。長年、広告をつくってきた電通だからこそ、世の中この「未来職学校」という企画、そしてその奥にある「褒める」ことの重要性を発信していけるし、手の届くところから地道に実際に取り組んでいくことで広めていけるのではないかと考えるきっかけになりました。
大人も同じですが自分のアイデアを褒められると、嬉しいと同時に自信につながります。また、同じテーマに対して、ほかの生徒たちのアイデアを知ることで新たな視点や、他者に対する理解にもつながるように思いました。チームで進めるので、人が褒められているのを見聞きするだけでもクラス全体が褒められているような効果がありましたね。
褒めることを通して褒める側のモチベーションも上がる。相手が嬉しそうにしてくれると、褒めた側の自分も嬉しく感じました。また、自分が褒められたときとは異なる、何か幸せを生み出したような充足感も得られました。
「意識して褒める」という行動そのものが脳を活性化させるといわれていますし、褒められて相手が喜んだり、やる気を出してくれている姿を見ると、ある種自分の行動の「成果」として実感でき、充足感・幸福感を得られるそうです。メンターを務める大人にも良い影響があるんですね。
また、工藤さんからは子どもたちに対する「メンター」という存在の立ち位置、関係性に対して興味深い意見が挙がりました。
子どもの人間関係を表す際に「タテ・ヨコ・ナナメの関係」という言葉がありますよね。子どもにとって親や担任の先生のようなタテの関係と,友達のようなヨコの関係がよく挙げられますが,親でも先生でも友達でもない大人との関係は「ナナメの関係」です。「未来職学校」は、まさにナナメの関係を作れる取り組みだと思います。
メンター側にも学びが多い、「未来職学校」。メンターを務める大人たちが多様であればあるほど知見も異なり、生徒にも良い刺激になると考えます。今後、より広くメンターを募る枠組みを模索したいと改めて考えています。
より良い未来を創る仲間募集中!未来職学校の「これから」
近年は、「GIGAスクール構想」で導入された1人1台端末とクラウド環境の活用によって時間や場所の制約がなくなり、社会と学校がつながりやすくなっています。
学校と企業が共同で実施する「未来職学校」も1回や2回で終わらせるのではなく、日本中の子どもたちに広がっていく取り組みにしたい。常設の「未来職」投稿サイトをつくっておき、「子ども電話相談室」のように、そこにアップされた問い合わせに対してメンターがお返事をしたり、内容によっては専門家につなぎ、本気で研究を深めたり事業化したり、実現までつなげて未来のために種をまく試みにしたい。最初のワークショップを終えて、私たちメンターはそんな今後の展開を考えています。
「作りたい未来は自分たちで作れる」と思えることは大事。自分たちのやり方で未来を作っていこうと思う方々や関係人口を増やしたいです。
現在、業務としては企業・クライアントに向けたワークショップで行っていますが、相手先は企業だけではないと思いました。企業相手のワークショップでも、自分たちの強みなどのアセットなどの地に足の着いた話やフォアキャスト構想ではなく、自分たちでありたい未来を構想するといったバックキャスト思考を行うと、企業の参加者の方が前向きに目が輝く瞬間に立ち会えます。
未来を考えるのって、やっぱりワクワクがあり、楽しいこと。「作りたい未来は自分たちで作れる」。企業だけでなく、そう考えて一緒に進める 仲間を増やせるといいと思いました。
高校生や大学生など、就職が近い学生に対する「未来職学校」はどんな化学反応を生むんだろう?という話し合いにもなり、中学校に限らず、さまざまな種類の学校へももっと展開したいと検討しています。
さらに、ソリューションプランナーの岩下絵美さんからは世代をドラスティックに変えた「未来職学校」のアイデアも挙がりました。
人生100年時代と言われる中で、年齢をシフトさせて、中間ミドル層、シニア層に対して、50代60代向けの未来職学校があっても面白いですよね。やりたい仕事が会社にない人に向けて、自分たちで新しい職種を考えてもらう「未来職学校」も良いと考えました。
参加生徒を増やすだけでなく、メンターの輪も広げていくことを検討しています。褒めることをはじめ、メンターを務めて得られる影響も多々発見しましたし、ビジネスパーソンに向けた研修などにも活用できる形を模索していきたいと考えています。
今後、幅広い企業の方々や多様な学校・機関も巻き込み「未来職学校」というプロジェクトを展開していきたいという思いが一層深まりました。
作りたい未来を自分で作る、そしてそれを、未来を担う世代と一緒に考えていく仲間を私たち未来事業創研は募集中です!